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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第3章 冒険者篇

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第123話 旅は道連れ

 旅路は続く。

 王都に向けた私達の旅はまるで砂漠を行く旅団(キャラバン)のように遅々として進まなかった。

 その原因とも言えるのは大きく分けて三つ。


「た、太陽なんて……消えてしまえばいいんだ……」


「そんなにキツいのか? まだ春にも入ってないってのに」


 手を翳し、上空の太陽へと視線を向けるウィスパー。

 まだ冬の肌寒さが残る季節。太陽光はそれほど強くない。だが、私の苦しみは私と同じ体質にならなければ絶対に分からない。


「服で隠しても反射光までは防げないみたいだからね……体力がガリガリ削られてるのが分かるよ」


 まるでターバンのように布をぐるぐる巻きにして、僅かな視界だけを確保する私はそれでも太陽光に侵食を受けていた。進行速度が上がらない原因の一つは間違いなく私だ。今は普通の女の子並みの体力しか維持できていない。それでももう一人の原因……シアに比べればいくらか動けている方ではあるが。


「あ、あとどれくらいで着くの?」


「……王都までは直線距離でも500キロ以上ある。どう見積もっても後一ヶ月は必要」


「そ、そんなぁ……」


 まだ旅は始まったばかりだというのに、シアはすでに音を上げ始めていた。

 小さい子にとっては辛い旅路だ。一度背負うと決めた以上、私はシアの負担を出来るだけ軽くしてあげるべきなんだろうけど、今はその役目をリンに任せるしかない現状だ。

 ただ、このパーティでは一番体力があるリンはひょいとシアの体を肩車すると、


「……歩くのに飽きたなら景色を楽しむと良い」


「わ、わわ……わあっ!」


 シアも最初は驚いた様子だったが、僅かに高くなった視点にきゃあきゃあと喜んでいる様子。どうやら彼女のことはリンに任せて問題なさそうだ。

 それとは別に問題なのが……


「マフィ、そろそろ休憩しましょうよ。私疲れたわ」


「てめえ、つい20分前にも同じこと言ったばっかりだろうが。もう少し頑張れ」


「それこそ20分前と同じ台詞じゃない! 結局休憩してないんだから、そろそろいいでしょう!?」


「この旅はお前のわがままで始まったようなもんだろうが。文句言わず歩け」


「……マフィに聞いた私が馬鹿だったわ」


 結局、いくら言っても暖簾に腕押しだと気付いたのだろう。

 アリスは諦めた様子で私の隣にとぼとぼと近寄ってきた。


「ねえ、ルナ。あなたもそろそろ疲れた頃でしょ?」


「確かに体は重いけど……休憩はまだいいかな」


 今は一分一秒でも早く王都に戻りたい。

 アリスには悪いけど、もう少し付き合ってもらうことにした。


「はあ……純粋で素直だったあの頃のルナはもういないのね」


「昔からこんな感じだったと思うけどなあ」


 出会ったばかりの頃は遠慮もあったが、一ヶ月も一緒に暮らせばいい加減悟るものがある。どっちがイジられる側か、とかね。


「まったくいつの間に妹は反抗期になっていたのかしら」


「大体二年前くらいからかな。あと、妹になった覚えはないよ」


「私の方が年上なんだからルナが妹でしょ?」


「そういうのは身長で私に勝ってから言いなよ」


 目測で私の方がアリスより身長が5センチばかり高い。

 別に私も身長が高い方ではないのだが、アリスが群を抜いて低いのだ。エルフってすらっとした長身のイメージがあったから少し意外ではある。まあ、アリスはハーフエルフだからエルフとはまた違うんだけど。


「ふふん。バストなら私の方が大きいじゃない」


「誰もそんなところで勝負してないでしょ」


「あれ? もしかして悔しいの? ルナったら、ひんにゅーなの気にしてるんだ?」


「あぁん?」


 別に貧乳であることは気にしているどころかむしろ望むところなのだが、アリスの態度がムカついたのでとりあえずこめかみをぐりぐりしておいた。「家庭内暴力反対ぃぃぃ!」というアリスの声が聞こえたが無視して続けた。


 これであんなふざけたことは二度と言わないだろう。

 私からしたらあんまり話題にはしたくないことだからね。

 別に胸なんて小さくて問題はないが、少し気にはしている。私ぐらいの年齢から男女の差が顕著に現れるようになるから、そういった体の変化は少し……いや、かなり気が重い。

 出来るだけ中性的でスレンダーな体つきになることを切に望む。


(これから成長すればするほど『色欲』のデメリットが表面化してくるんだろうなあ……嫌だなあ……)


 思うのは色欲のスキルにある、異性に好かれやすくなるというデメリット効果だ。まだ幼い私に直接愛を囁いてくる変態は今のところお目にかかっていないが、これからはそれも増えてくることだろう。

 だって私はあの両親の容姿を受け継いでいるのだから。

 とんでもない美人に育つことは最早疑いようがない。


(とはいえ当分はまだ関係ないだろうけどね)


 いまだぺったんこな胸に胸を撫で下ろす私だった。

 しかし……この時の私はまだ知らなかったのだ。

 二週間後、私はこの暢気な考えを粉々に打ち砕かれることになる。

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