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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第1章 吸血幼女篇

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第11話 その点教師って凄いよね。最後まで説明たっぷりだもん

「あー、うー、あー……」


 駄目だ……頭が痛い。マリン先生のお話はそれほど難しいものじゃなかったんだけど、いかんせん3歳児の脳みそでは付いていくのに精一杯だ。


「ねえ、白い子大丈夫?」


 私は授業終わりにうんうん唸っていると、ジミー……じゃなかったニコラが心配して話しかけてきた。純粋に心配そうな顔だけど、こいつ。あれだけハイペースな授業を受けてよく平気でいられるな。普通に尊敬しちゃう。


「あー! 今日も疲れたー! なあ、どっか遊びに行こうぜ!」


 そしてガキ大将ことイーサン。

 お前は疲れたんなら休めや。

 後、太っちょのデヴィット。お前も何ついていこうとしてんの? そんな体型なのにアグレッシブすぎるでしょ。


「おい、白い子も来るだろ?」


「いや、さっき倒れたんだし無理はさせちゃ駄目だよ。きっとお腹空いていたんだね。また元気な時に遊ぼうよ」


「んー、そっか? ならまた今度な。おいニコラ、行くぞ!」


「あ、うん。ちょっと先言ってて」


 イーサン達に手を振りこの場に残るニコラ。

 何? 私に何か用?


「先生の授業は大変だったでしょ。何か分からないことあったら言ってね」


「……えっと、ニコラは内容全部理解してるの?」


「うん。地学、史学、算術、文学、経営、政治……一通りは勉強したかな。僕はこの孤児院でも古参だから、色々知ってるよ」


 おおう、地味な顔してニコラはインテリさんのようだ。

 日本の教育を受けた私が数学や物理で負けるとは思わないけど、地理や歴史となると流石に勝てない。ここは素直に助けを求めよう。


「それなら……なんで人族はこんなにいっぱいの国があるのに、他の種族とは交流しようとしないの? 他の国……他の種族の国に行けばそこの技術とか、文化とか真似できるのに」


「え、えっと……これはまた本格的な問いが来たね。君、何歳だっけ?」


「3歳だけど」


「……本当に?」


 やばい。流石に3歳児にしては質問が鋭すぎた。

 ニコラが引きつった笑みを浮かべてる。

 気にするな、スルーしろニコラ!


「……う、うん。まあ、そうだね。他の国と交流しないのはずっと昔にあった大戦の影響が大きいんだと思うよ」


 やった! 念が通じた!


「そっか。戦争……それで仲が悪いんだね」


「後は他の種族は人族に比べ知能が低いってのもあると思う。建築物や、社会形態が人族に比べ他は古い。学べるところも少ないからわざわざ取り入れるまでもないってこと。そんなことしなくても僕らの国には立派な文化がありますよってことだね」


 ふむ……なるほど。

 自分達の生活水準に誇りを持っているというわけか。

 日本から来た私にすれば、笑ってしまいそうな意識の低さだけどこの世界の水準で考えたらそれも当然なのかも。

 特に日本は昔から他国の技術を盗んで成長してきた側面があるから、私もこういう考え方をしちゃってるのかもしれない。鎖国に対してマイナスイメージがあるというか、何と言うか。


「でも白い子は本当に頭良いんだね。その歳でそれだけ考えられるって凄いと思う」


 紳士的なスマイルを浮かべるニコラ。こいつもなかなか良い奴じゃないか。

 頭も良いし、頼りになりそう。

 ただ……


「ねえ、何で私のこと白い子って呼ぶの?」


「あ、ごめん。もしかして気にしてた?」


「そうじゃないんだけど……」


 ちょっと前に自己紹介はしたのに、未だ彼らは私を白い子と呼ぶ。

 それがちょっとだけ引っかかった。


「単にルナの髪が綺麗だと思ってさ。そっちの印象強くて……まあ、あだ名みたいな感じかな」


 え? 何これ。もしかして私口説かれてる? まだ3歳なのに?

 しかもすでに呼び捨てですか。これならまだ白い子呼びのほうがいいかも。

 私、ガードの固い女ですから!


 ……はっ!? 違う、違う! 私は男! 男だから! ガードの固い男だから!


「私は男、私は男、私は男……(ブツブツ)」


「え……る、ルナ?」


「はっ、な、なんでもない。白い子でいいよ。あだ名とか貰ったことないから嬉しい」


 にこっ、と精一杯の笑顔で場を誤魔化す。


「…………っ!」


 なんだかニコラが硬直し、ついでに紅潮しているけど……やばい。男の子相手にあんまり愛想良くしないほうが良かったかも。下手に恋心とか持たれても困るし……ってこの考え方もなんだか尊大だな。

 謙虚な日本人としてはもう少し一歩引いた美意識を持たなければ。


「ごめん、ルナちゃん。待たせちゃったね。そろそろ帰りましょうか」


 そして、妙な空気になったところでナイスタイミングだ。マリン先生。

 今はあなたが救世主のように見えます。


「それじゃ、またね?」


「う、うん! またね!」


 真っ赤な顔で手をぶんぶん振るニコラ。

 あー……男の子が異性に興味を持つのって何歳くらいからだっけ。

 ニコラは私より4つ上の7歳だ。そういう感情が芽生え始めてもおかしくない時期かも。

 だとしたら……困る。

 やっぱり次からはもう少し淡白な態度を心がけるべきかな。


「ルナちゃん。私の授業はどうだった? ルナちゃんには退屈だったかな?」


「そんなことない。面白かった」


「そっか。それなら良かった」


 実際ためになる部分は多かった。

 特に地学。私はこの世界の地理にはさっぱりだから、いくつかの国の名前を覚えられたのは良かった。でも……魔法に関しては何も言ってなかったんだよなあ。


「ねえ、先生」


「あら、ルナちゃんも私を先生って呼んでくれるのね。嬉しい。それで、何? 授業で分からないことでもあった?」


「魔法って何?」


 ちょっと唐突過ぎるかもと思ったけど、気になったものは仕方ない。

 マリン先生は少しだけ迷った後、


「魔法は……そうね。あんまり詳しくないの。私には才能がなかったから」


「魔法を使うには才能がいるの?」


「そうね。少なくとも努力だけだと厳しいわ。魔術なら分からないけど、魔法となるとね。才能はどうしても必要になると思う」


 うん? 魔術なら?

 どういうことだろう。魔術と魔法は一緒じゃないの?


「人族は長耳族ほど魔力親和性が高くないからね。魔法の才能がある人なんてそれこそ一万人に一人とかそれぐらいって言われてるわ。もしかしてルナちゃん、魔法に興味があるの?」


「……うん」


「やっぱり憧れちゃうよね。うん。分かるわ。私も子供の頃は魔法使いになるのが夢だったもの。ルナちゃんには魔法の才能があると良いわね」


 そう言ったマリン先生はどことなく寂しそうで、辛そうだった。

 ……どうも話を聞く限り魔法を使うのは凄く難しいことのようだ。

 一万人に一人なんて、そんな確率普通当たらない。

 そして、マリン先生も当然の如く当たらなかった方なのだろう。


「治癒魔法士。私が目指してたのはそれだったの。魔法の適性がないって分かっても捨て切れなくて医学にも手を伸ばしてみたけど、結局は全部中途半端。今時医者なんて儲からないからね。結局、孤児院の経営を手伝って何とか生活してるってわけ」


「お医者さんって儲からないの?」


「ええ。貴族専門の資格医師ならともかく、平民の私がいくら勉強したところで本職にはなれないわ。病院を開くのに技術なんていらないから、結局数ある診察所に埋もれちゃうの」


 マリン先生の話ではこの世界の医者はどうやら何の技術がなくても医者を名乗れるらしいのだ。何かを始める資本金のない国民は自営業の病院を開き、患者を待つのだという。

 その際、当然知識がないので適切な治療もできない。

 要はヤブだ。適当な薬草を効くと偽って処方し、金銭を得る。最早そこまで行くと悪徳宗教と変わらない気がする。


「本格的な医学を学ぶには王都の王立学院に通わないといけないんだけど、学費どころか旅費もない私には独学するしかないのよ。世知辛い世の中だけどね……って、こんな話、子供のルナちゃんにすることでもなかったわね。ごめんなさい、どうも話を聞いてくれる人がいると話過ぎちゃって。それにルナちゃん、きちんと私の話を理解してくれてるみたいだから」


 ……謝る必要なんてないよ、マリン先生。

 確かに平民と貴族の差とか、世間の診療所の実態とか聞いてがっかりするような話ばっかりだったけど、ちゃんと為になってる。


「私は……」


 上手く言えないけど……マリン先生には落ち込んで欲しくなかった。

 こんな初対面の私に優しくしてくれたマリン先生には、そんな寂しそうな笑顔、浮かべて欲しくなかった。だから……


「……マリン先生のやってること、尊敬します」


 私は慣れない会話の中、精一杯言葉を探してこの気持ちを何とか伝えようと努力する。


「先生が教えてくれて、私、嬉しかったです。だから……その……また来てもいいですか? 授業料が必要ならまた用意しますから」


「…………」


 マリン先生は私の言葉に少しだけ沈黙して、


「……うん。お金なんていいからいつでもおいで。私でよければいくらでも教えてあげるから」


 私の頭を撫で付けながら鼻声でそう言った。

 ……うん。やっぱり認めてもらえるって嬉しいことだよね。

 それが努力している人ならなおさらそうだと思う。そして、先生がどれだけ努力しているのかなんて、スキルを見れば分かる。

 あれだけの数、あれだけの熟練度。

 他の誰にも見えなくても、私には見える。

 先生の努力が。


 だから……貴方は頑張っていますよ。マリン先生。

 たとえ結果が出なかったのだとしても、私だけは分かってるから。


 きゅっと僅かに強く、先生の手を握ってみる。

 先生もまた強く握り返してくれる。

 それだけのことがなんだかとても嬉しかった。

 こうして、この日。

 私の尊敬する人がまた一人増えた。


 そして……

 家に帰ってステータスを確認すると犯罪値が3ほど減っていた。

 まだこの数値が何を意味するのかは分からない。

 けど少しだけ温かい気持ちになれたことだけは確かだった。

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