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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第3章 冒険者篇

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第108話 たまには休憩も必要

 夜空に満点の星が輝く夜に、私とリンは一緒に借りた宿の一室で今後の方針について語り合っていた。


「さて、それで具体的にどうやって女の子を助けるかなんだけど……やっぱり屋敷に忍び込むのが一番だと思う」


 私の提案にリンが同意を示すようにこくりと頷く。

 あれから何があったのかを説明した私はリンに奴隷の女の子を助けたいという旨を伝え、協力を頼んだ。

 結果から言うとリンは迷う様子もなく了承してくれた。

 正直、もう少し悩んでくれても良かったんだけどね。

 私の頼みならそれこそ何でも聞き入れてくれるんじゃなかろうかと言う従順っぷりだ。それならもっと耳とか尻尾とか好きに触らせてくれたらいいのに。どうもくすぐったいらしく、リンは滅多に触らせてくれないからなあ。


「……助け出した後はどうするの?」


「ひとまずは身を隠すことになるかな。夜中にこっそり、この辺の宿に連れ込んでほとぼりが冷めるのを待つつもり」


「……なかなか難しそう」


「確かに人目を避けていかないといけないから難易度は高いかな。でも、私達なら出来ないこともないと思うよ。実行するのは夜中だから、他の人たちよりは俊敏に動けるだろうしね」


 何せ、私達は闇に愛された吸血鬼と獣人種だ。

 夜間の隠密活動には自信がある。


「……私は具体的に何をすればいい?」


「リンには女の子の誘導を頼むよ。私は陽動と実行を担当するから」


 陽動と実行。

 つまりは"奴隷商人を殺す役"だ。

 こればっかりはリンにさせるわけにはいかない。

 言ってしまえばこれは私のわがままなのだから。

 最も危険で最も難易度の高い役割は当然私が引き受けるべきだ。


「聞いた話では数日後に出品されるらしいからそれまでには決着をつけないといけない。出来ることなら明日の夜にでも動きたいんだけど……大丈夫?」


「大丈夫。いつでもいける」


 私の確認に間髪入れず答えるリンちゃん。

 本当に頼りになる子だよ、全く。


「よし、それなら今日はもう休もう。色々あって少し疲れちゃったし」


 正直、迷宮にいた頃に比べれば肉体的な疲れはないも同然ではあったけど精神的な面で気疲れしてしまっていた。

 いくら魔力があってもこればっかりは仕方がない。

 当分感じたことのなかった"眠気"が私の瞼を重くしていた。


「……分かった」


「ん。それじゃおやすみ、リン」


 いつもならそれが別れの合図だった。

 狭い宿部屋には基本的に寝るためのベッドしか用意されていない。

 話が終わった後は、もう何もすることがないので自室へと引き上げていくのが常だったのだが……


「……リン?」


 何を考えているのかじっと私を見つめるリン。


「どうかしたの?」


「今日は……少し寒い」


「? まあ、確かにそうかもね」


 個人的にはあまりそう感じなかったけどとりあえず話を合わせてみる。

 なんだ? リンは何を伝えようとしている?

 結構口下手なところのあるリンの本心を見極めるのはなかなか難しい。

 リンちゃん検定3級程度の私ではまだまだ理解には程遠いらしい。

 煮え切らない態度の私にリンは珍しくそわそわした様子でその提案を口にする。


「だから……今夜は一緒に寝てあげても良い」


 視線を逸らし、僅かに頬を染めその台詞を口にするリンちゃん。

 その様子はまるで告白の返事を待つ乙女のように可憐で、初々しく、いじらしかった。

 一言で言うなら……リンちゃんマジかわ!


「ぐっ……!?」


 だ、駄目だ……っ!

 耐えろ! 耐えるんだ私!

 こんな密室で暴走してみろ! 間違いなく大変なことになる!


「ルナ!? だ、大丈夫!?」


 突然胸を押さえて、苦しそうに呻き始めた私にリンが近寄ってくる。

 ぐっ……人が折角、必死に理性で本能を押さえつけているというのに何てことを……っ!

 や、やめろ! そんな心配そうな顔で私に触れるなー!

 惚れてまうやろーーーっ!


「り、リン……」


「え、な、何?」


「……子供は男の子と女の子、どっちが良い?」


「…………え?」


 まさしく「何を言っているのか分からないよ」って表情で私を見るリン。

 ああ、駄目だ。そんな表情もまた可愛らしい。


「リンちゃぁぁぁん! 好きだぁぁぁぁぁっ!」


 そしてついに私の理性は崩壊した。

 というか誰も見てないんだし、この気持ちを我慢する必要もなくね?

 たとえ体が女の子同士だろうと愛があれば……うん。イケる!


「ま、待ってルナ。今のルナ、なんだか……怖い」


「大丈夫。安心して私に身を任せて。すぐに気持ちよくしてみせるから」


 待ってと言いながらも私の腕を振りほどこうとはしないリン。

 これは……OKってことですかね!?


「ちょ、ちょっと本当に待っ……」


「待てんっ!」


 鼻息荒く私は近くのベッドにリンを強引に横たわらせた。

 全く抵抗する様子のないリンはまさしくされるがまま。


「る、ルナぁ……」


 弱々しい声で抗議してくるが、むしろ私の嗜虐心をそそるだけ。

 もしかしたら私はSなのかもしれない。

 というかリンちゃん可愛すぎ……ああ、駄目だ。心なしか視界までクラクラしてきた気がする。


「……あ、あれ……?」


 というか……これ、本当に歪んでない?

 なんだかリンちゃんが三人くらいに分身して見えるような……


「……ルナ?」


 駄目だ。思考がまとまらない。

 体が……重い……?


「ルナっ!?」


 リンが叫ぶ直前、私の視界はぐるりと縦に半回転した。

 自分がその場に倒れこんだのだと気付くのには数秒の時間が必要だった。


「ルナっ、な、何これ……凄い熱……」


 私の額に手を当てたリンが強張った声で呟く。

 熱……ああ、そうか。それでなんだかぼんやりするのか。


「水を持ってくる!」


 いつになく慌てた様子でリンが駆けていく。

 ああ……折角のチャンスだったのに……こんな時に私の体は何て体たらくなんだ。熱ぐらいで倒れるとは情けない。

 とはいえ、これまでの無茶を考えれば仕方がないか。

 恐らく街に下りたことで緊張の糸が切れてしまったのだろう。

 これまでの無茶を考えればそう不思議な話でもない。

 だけど……


(私にはまだ……やることがあるってのに……)


 このタイミングだけは勘弁して欲しかった。

 私には、いや、"あの女の子"には時間がないのだから。

 先ほどまでの甘い雰囲気はどこへやら。

 私は重い瞼を閉じ、久々に感じる眠気に身を任せ……意識を闇へと落とすのだった。

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