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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第3章 冒険者篇

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第102話 初任務

 冒険者として正式に登録してもらった私は今後、冒険者・シロとして活動することになった。

 冒険者になってみていくつか分かったことは、思ったよりこの職業は人数が多いということ。まあ、職業と言っても無職に近い扱いだけどね。

 たまに短期バイトをするニートみたいな感じ?


 この国でニートなんてしてたらあっという間に餓死してしまうから誰もしないけどね。

 親の保護があった前世が懐かしい。何もしなくても出てくるご飯がどれだけ凄いことなのか改めて認識させられるよ。

 今は自分の食い扶持を稼ぐため。そして……ティナがどうなったのかを知るためにも私はアインズに帰らなくてはいけない。

 アインズの街に帰るために必要な2万コル。速攻で貯めてみせる!


「というわけで逃亡犯の探索任務を開始します!」


「ああ」


「……うん」


 ……最近忘れてたけど、この二人は基本的にテンション低過ぎない?

 もっとアゲアゲで行こうぜ!


「まずは情報収集からだな。リンに探してもらうにしても、元の匂いを知らなくちゃ捜索もくそもない。依頼人のところに行ってみよう」


 ウィスパーの言葉に頷き、依頼書を元に依頼人を探す私達。

 依頼書を読む限りでは、探しているのはどうやら小さな女の子らしい。

 一体どんな犯罪をやらかしたのかは書かれていないから分からないけど、出きるだけ早くという注意書きを読むに依頼人は結構焦っているみたいだ。

 何か大切な物でも盗まれたのかもしれない。


「えーと、探し人の身長は130センチ程度。茶髪に灰色のワンピースを着ている、と。結構アバウトだね。写真があればもっと分かりやすいんだけどなあ」


「あんな高価なものを依頼書なんかに使えるか。写真が使われるのはそれこそ国が発行する手配書ぐらいだ。それでも犯罪者の顔が丁度良く写真に取れてることなんて滅多にないがな」


「そりゃじっとしてハイチーズなんてしてくれるはずがないもんね」


「出来ても横顔とかそんなのが関の山だろうな。そういう手配書がないわけじゃないが賞金首ってのは危険な連中だ。いくら金になるからって近寄るようなもんじゃない」


「でも確か、そういうの専門のギルドもなかったっけ?」


「ああ、神の矢(サジタリウス)の連中か。あれは例外中の例外だ。仲間内で賞金首の出没情報を回しているからな。効率的かつ組織的に潰して回っているんだよ。個人でやるには荷が重い仕事だからな」


 そうそう、確かそんな名前だった。

 やってることがなかなか刺激的だったから印象的なんだよね。


「あれは分類では何ギルドになるんだろうね」


「さあな。一応は民間の冒険者ギルドって扱いになるんじゃないか?」


「ふーん」


 この国には冒険者を集めて高難易度の依頼を組織的に回していくギルドも存在する。イメージ的には派遣会社だね。

 自分で依頼を探す必要がないから楽といえば楽。

 その分、報酬は会社に入るから一発当てるってのが難しくなるんだけどね。

 とはいえ安定を求めるならそういうギルドに入るのが一番ではある。

 賞金首とはいっても土蜘蛛より強いなんてことはないだろうし、そういうギルドに入ってみるのも面白いかもしれない。


「……今、サジタリウスに入ってみるのも面白いかもとか思っただろ」


「ふぇっ!? お、お、お、思ってないけど?」


「一応の親切心から言っておく。やめとけ。お前は特に隠さなくちゃいけないことが多すぎる。バレたら一発で周囲が敵だらけになるんだぞ」


「そ、そんなこと分かってるし!」


 手配書に載せられるのは何も犯罪者ばかりではない。

 危険な他種族であろうとも手配書には載せられる。吸血鬼とかはその最たるものだね。

 つまり吸血鬼だとバレたら他の冒険者から一気に狙われるわけだ。


 罪人を射抜く神の矢(サジタリウス)とは良く言ったものだよ。

 本当の神を知っている身からすれば少し滑稽にも(うつ)るけどね。


 神は罪人を断罪しない。

 むしろ罪の印を与えて、野に放るのだ。

 それこそが一番の罰なのかもしれないけどね。

 私にしてみればもう一度人生をやり直す機会を与えられただけでも儲けものだ。出来れば性別ももう一度やり直して欲しいところだけど。


「依頼書に書かれている住所はこの辺だな」


 周囲を歩く人に何度か道を尋ねて、私達はようやく依頼人の元まで辿りついていた。この辺は周囲に森林が多いからか、木造建築の家が目立つ。

 私達が探していたのもその例に漏れず、二階建てとなるお洒落な外観を持つ一軒家だった。これはなかなかのお金持ちが住んでいそうだ。まあ、そうでなかったら人探しに1万も出せないか。


「……誰が行く?」


「ここは普通にウィスパーでしょ。リンには任せられないし。私だと舐められそう」


「まあ、それが妥当だろうな。二人はここで待ってろ」


 私達は待機。ウィスパーが情報収集に向かうことになった。

 あの強面で相手に引かれなかったら良いけど。


「……ルナ、お腹空いた」


「ごめんね。もうちょっとだけ待ってて。ウィスパーが帰ってきたらすぐにお店探してあげるから」


 しゅんと獣耳を垂れさせたリンが寂しそうにお腹を押さえる。

 この子は限界までこういうことを言わないから、相当にお腹が空いているんだろう。早いところ終わらせてくれ、ウィスパー。


「それと街中ではシロって呼ぶようにしてね。今は二人っきりだから別にいいけど」


「……そうだった」


 今思い出したといった様子のリン。

 正直心配だ。

 人前でうっかり私の本名を漏らさないと良いんだけど。

 まあ、人に聞かれたところですぐにどうこうなるものでもないんだけどね。一応、念のために。


「待たせたな。戻ったぞ」


 それからリンと雑談しながら待つこと10分程度。

 ウィスパーが一枚の服を持って戻ってきた。


「何それ?」


「探し人の着ていた服だそうだ。私物があったのは助かった。これでリンが追える」


「……任せて」


 逃亡犯の着ていた服?

 ということは身内とかだったのかな。

 まあこのご時勢、どの家にもそれぞれの事情があるからね。私達はただ言われたことだけをしていよう。面倒事に巻き込まれるのは御免だ。


「それじゃあ、本格的に捜索を開始しますかね。ご飯を食べてから」


「……ご飯大事」


「時々思うけどお前らって本当に女らしくないよな」


「え? ほんと?」


「何でちょっと嬉しそうなんだよ」


 こうしてウィスパーの情報収集により、私達の初任務は動き出した。

 だけど思ったよりも早くにカタがつきそうで良かった。リンがいればすぐにでも見つけられるだろうし。

 こうしてみると今のところ私が要らない子になってるな。

 どこかで活躍しなければ。

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