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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第3章 冒険者篇

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第100話 不用意な発言には気をつけろ

「金がない」


 今後の方針を決めるためのその席で、深刻な表情でウィスパーがそう言った。


「そんなことは言われなくても分かってるわよ。酒場に来てまで水を飲んでる現状を見てみれば誰でもね」


 ここはホルンの街にある宿屋と併設された酒屋。

 宿泊費は何とか捻出することが出来たけど、今夜はまともな料理を頼めそうにない。

 これも全て私達の懐事情が原因だった。


「ファウストのギルドに行けば俺の預けている金が引き出せるんだがな。この街にはどうやら支部がないらしい」


 ウィスパーの言う『ファウスト』とは商業ギルド、ファウストのことだ。

 この世界には銀行と言う概念がない。代わりに人々は企業に金を預けて、自分の資産を確保している。

 要は株式みたいな扱い方をするわけだ。

 金を預ける企業は慎重にならなければ大損を被る可能性もある。その点、ファウストはこの国でも最大手に挙げられる商業ギルドの一つ。倒産などの危険はかなり低いアンパイといえる。

 とはいえ、この場においては引き出せない金に意味なんてない。


「他の街に行くまでは手持ちの金でなんとかするしかないか」


「だが旅費にしたってただじゃない。食料、道具、武器防具の確保。今の手持ちの金じゃ到底賄えない」


「……つまり?」


「つまり俺たちはかなりヤバイ状況にいるってことだ」


 がやがやとうるさい酒場の中で、私達の席だけまるでお通夜のような静けさだった。


「……それで、どうするのよ。まさかこのまま飢え死にするのを待つわけないわよね」


「無論、方法はある」


「それってどんな?」


「単純だ。稼げば良い」


「稼げばって……簡単に言うけどそんなすぐに仕事なんて見つからないでしょ」


 私達以外にも仕事を探す人間は大勢いる。

 そんな中で二日三日でまともな職に就けるわけもない。


「そうでもないさ。選びさえしなければ仕事なんてすぐに見つかる」


「選びさえしなければって……まさか!?」


「ああ、そうだ」


 私の反応ににやりと笑みを浮かべるウィスパー。

 つまり彼は……


「私達を娼館に売り飛ばしてめちゃくちゃにするつもりね! エ○同人みたいに!」


「はあっ!?」


 娼館というワードに引かれてか、周囲の客の視線が一斉に私達に集まる。そして私とウィスパーを見比べて、ゴミを見るような視線を送る。もちろんウィスパーに。


「なんでそうなんだよ!」


「だって、選びさえしなければって……」


「俺は普通に冒険者になろうって言ってんだ! お前、どんだけ俺を信用していないんだよ!」


 必死になって弁明するウィスパー。

 彼が大声を出すなんて相当だ。それだけ焦ったってことなんだろう。


「あはは、ごめんごめん。冗談だって」


「冗談にしてもタチが悪すぎるぞ」


 だって……ねえ?

 元々強面のウィスパーが笑ったりすると何か企んでいるみたいに見えるんだもん。


「……言っておくがこの国では未成年者にそういった仕事をさせるのは重罪なんだ。仲介人だと思われるだけで司法局の人間に連行されかねん」


「え? そうなの?」


「ああ。特にこういう酒場での不用意な発言は控えるべきだ。どこで誰が聞いているか分からん」


 周囲にちらちらと視線を送りながらウィスパーが小声でそう言う。

 ふむ……私としたことが不注意だったようだ。元の世界でなら冗談だけど、この世界ではまさしく冗談にならないらしい。

 こういう認識の違いってのはたびたび思うことだけど、もっと注意しないと。


「まあ、冒険者になるっていうのは賛成だよ。どの道何かしらの稼ぐ手段が必要だしね」


「ルナは冒険者としての活動実績はあるか?」


「皆無」


「ならまずは登録からだな。明日、どっかのギルドで免許を取ろう」


 冒険者になるには免許がいる。免許と言っても、特に試験や面接があるわけじゃないけどね。その人の身元が特定できるよう、身分証の代わりにするものだ。

 それがないと、依頼報酬の際に色々不都合が生じるのだとか。


「ねえ、今更だけど一つ聞いて良い? 冒険者ってどんなことをするの? やっぱり魔物を退治したりとか?」


「それもある。どんな依頼があるかはその地域によって大きく違うから、確認してみないとなんとも言えない。だが基本的には割りに合わない仕事ばかりだ。それだけは覚悟しておいてくれ」


 すでに冒険者として活動しているウィスパーがそう言うのだから間違いないだろう。

 イメージでは煌びやかなものをイメージしていたけど、実際の冒険者はもっと地味な活動をしているらしい。


「冒険者ってのはそもそも職にあぶれた人間がなるもんだからな。待遇が良いわけがない」


「それもそうか」


 命を賭けて魔物を討伐した成果がたった数日分の食費なんてこともざらにあるらしい。流石に割りに合わないにもほどがある。

 だけど現状、他に手段がないこともまた事実。

 娼館だけは私もごめんだし。

 相手が女の子なら……ちょっとだけ考えるけど。


「良し、方針はそれでいきましょう。早速明日から行動開始でいい?」


「ああ」


「……うん」


 二人の承諾も得たところで今後の目標が決まった。

 私は……冒険者になる!


「……ところでエ○同人ってなんなの、ルナ?」


「リンは知らなくて良いことです!」

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