第9話 魔法使いに、私はなる!
私のステータスの中で馬鹿みたいに高い魔力。
これは他の人と比べても異常に高い。なので私はこの魔力とやらの使い道について考えることにした。
と言っても魔力の使い方なんて、一つしかないよね。
という訳で……魔法使いに、私はなる!
「お父様、魔法教えてください」
「馬鹿言ってないで、お前もたまには外で遊んできなさい」
ひょいっ、ぽいっ!
あっつ! 外に投げ出すのはいいけど、太陽の下はやめて! マジで死ぬから!
というか……この私を片手であしらう、だと!?
どうやらお父様はなかなか鉄の精神力を持ってるらしい。
ネトゲで鍛えた私のおねだり攻撃が全く通用しないとは。
お父様、マジラスボス。
しかし、どうしようか。
とりあえず日陰に移動して……ふう。暑い。季節は真夏。吸血鬼には厳しい季節です。
というか久々に外に出た気がする。ずっと引きこもり生活してたからなー。
うん。たまには見聞を広める意味でも街を歩いてみよう。
流れで方針を決めた私は石畳の道路を歩いていく。勿論日陰から日陰に移動しながら。
「へいらっしゃい! おっ、お嬢ちゃん。レストンとこの娘じゃねえか。お遣いか? 偉いねえ!」
八百屋のおっさんが話しかけてくる。
でも御免なさい。私、貴方に見覚えないしお遣いでもないんです。
「バウバウバウバウっ」
「こらっ、ポチ! 暴れないで! ……ふう、御免なさいね? 怪我はない?」
犬の散歩中の奥様が、私に向け突然吠え出した犬を必死で止めている。
というか犬、こんなにでかかったっけ? 普通に怖い……。
「うう……家に帰りたい」
外の世界には危険がいっぱいなのです。
というかお父様も三歳の娘を一人で外に行かせるなよ。普通に誘拐とかされたらどうするんだ。
外に出てもすることないし、本当に帰ろうかな。
街の風景は見てて楽しいんだけどね。レンガ造りの建物に、行き交う馬車は日本にはなかった光景だ。わくわくしないこともない。
ただなー、私って結構飽き性なんだよね。
風景なんてすぐに見慣れちゃうだろうし。
……ん? なんだあれ?
視線の先で何人かの子供達が走り回っているのが見える。ほとんど私と同じくらいの年齢。いいな、楽しそう。追いかけっことか懐かしい。
なんとなしに眺めていると、子供達も私に気付いたのかひそひそと何か話し始めた。そして……
「おーい、そこのお前! 一緒に遊びたいのかー?」
その内の一人、ガキ大将みたいな体格の良い男の子が私に手を振ってきた。
おおう、これが優しい世界ってやつか。うう……こんな二重の意味で日陰にいる私にまで声をかけてくれるとは……。良い奴らだね、君達。
でもなー、私ももう(精神的に)成人してるし今更追いかけっことか、ねえ?
「やるぅぅーーーっ!」
でも肉体的には3歳だ!
たまにははっちゃけても良いよね!
え? いつもはっちゃけてるって? うるせえ、黙ってろ!
「よし新入り! 次はお前が鬼だ! タッチしたら鬼交代だかんな!」
ほほう。私に鬼をやらせるって?
こちとら三年前から吸血鬼よ。鬼としての年季が違うわ。
と、言う訳で。
「あちゃー捕まったかー!」
速攻捕まえてやったぜ。
狙ったのは一番足の遅いちょっと太めの男の子。
というか何で、君そんなに嬉しそうなの? 言っちゃ悪いけど君が鬼になったらもう、誰も捕まらないんじゃない?
あーあー、案の定ずっと鬼だし。
流石に可哀想だ。ちょっと捕まってあげるかな。
と、思ったんだけど。
「……あれ?」
足に力が入らなくなってきた。
ん? んん? 何か目の前も白くなってきたけど……あれ?
「タッチ!」
ふらついていると、普通に捕まった。
そんなに強くない力だったんだけど、今の私はそれだけで大きくバランスを崩し……バタッ、と派手に転倒してしまう。あれだ。ちょうど貧血で倒れるみたいな感じ。
「お、おい! お前大丈夫かよ!?」
「倒れた! 白い子が倒れたー!」
「誰か先生呼んで来いっ!」
ああ、私のせいで皆慌ててる……というかこれ、もしかして。
【ルナ・レストン 吸血鬼
女 3歳
LV1
体力:12/27
魔力:5012/5036
筋力:9
敏捷:16
物防:22
魔耐:16
犯罪値:127
スキル:『鑑定(65)』『システムアシスト』『陽光』『柔肌』『苦痛耐性(67)』】
うわっ、やっぱりだ。ステータスが軒並み下がってきてる。
体力もやばいし……これ、間違いなく太陽が原因ですわ。
「ひ、日陰に……」
「日陰? わ、分かった!」
何とか搾り出した声で緊急事態を告げる。
ガキ大将君、結構力もち。私の体を一人で支えると、日陰まで運んでくれた。
ふう……とりあえずこれで助かった。
はしゃぎ過ぎて太陽のことすっかり忘れてましたわ。危ない危ない。
今まではずっとじっとした状態で太陽に耐えていたから分からなかったけど、ステータスの下がり方が結構えぐいですわ、コレ。下手したらそのまま動けなくなって干乾びた蛙みたいになるとこだったよ。
思った以上に太陽は私の天敵みたい。これからは痛みが来る前、動ける内に日陰に避難するようにしないと。
「だ、大丈夫か?」
「う、うん……もう大丈夫」
まだ動けそうにないけど、ひとまず命の危険はなくなった。
「まだじっとしとけよ。すぐに先生が来て診てくれるからな」
うん? 先生?
一体誰のことだろう。
ガキ大将君の言うとおり、じっとしていると数分で子供に連れられ、その女性が現れた。病院の先生が来ているみたいな白い服を纏ったその人は私を見ると、駆け寄ってきて「もう、大丈夫よ」と優しい声音でそう言った。
とりあえずこの人が誰なのか、鑑定してみよう。
【マリン・イーガー 人族
女 26歳
LV1
体力:67/67
魔力:110/110
筋力:87
敏捷:56
物防:63
魔耐:79
犯罪値:26
スキル:『知能』『器用』『睡眠耐性(45)』『速読(21)』『医学の心得(76)』『教育の心得(34)』】
何っ!? 私よりスキルが多いだとっ!?
こいつ……只者じゃない!?




