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吸血少女は男に戻りたい!  作者: 秋野 錦
第1章 吸血幼女篇
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第0話 プロローグ

 駄目だ……血が足りない。

 血、血、血、血、血。

 血が欲しい。


 足に力が入らないし、体力の消耗も激しい。

 このままだと……死んでしまう。


「はあ……はあ……はあ……はあ……」


 欠損した左腕から血がダラダラと流れ出る。

 貴重な血だ。

 だけど今の私にはそれを止める術が一つしかない。

 でも……それだけはやりたくない。

 でも……やらないと死ぬ。

 どちらかしか選べないというのなら……素直に死を選んだ方がいいのかもしれない。こんな世界で生きてたって、きっと辛いだけだ。


「…………がはっ!」


 グチャグチャに掻き乱された内臓が悲鳴を上げる。

 口から吐き出された血の塊は私の限界を示していた。


 ああ……なんで私はこんなところにいるんだっけ?


 ファウスト大陸南西部に位置するフェリアル大迷宮。その最深部に私はいた。

 ボロボロの体を引き摺り、あるはずのない助けを求めて歩き回りながら。

 半年前までは良かった。

 何不自由のない生活。友人に囲まれ、幸せな毎日を送っていた。


 どこで間違えたのかははっきりしている。

 でも過去をやり直すことなんて出来ないし、出来たとしても私はまた同じことをすると思う。

 自分自身好き勝手をしてきた自覚はあるし、後悔しない道を常に選んできたつもりだからだ。


 つまり私はまたここでも選択を強いられているということ。これまでと同じように。

 人生とは選択の連続だ、なんて本当に良く言ったものだと思う。

 私の場合、どちらに進んでも待っているのは地獄というのが辛いところだけどね。


 はあ……本当に。この世界は狂ってる。

 狂っている世界で生きていくには一体どうしたらいいんだろう?

 誰か教えてくれないかな?

 私は今、とても困っているんだ。

 ……なんて、本当は分かってるんだけどね。


「……常識を捨てろ。後悔を捨てろ。矜持を捨てろ。過去を捨てろ。葛藤を捨てろ。そして何より人間性を捨てろ。何かを得るにはそれ相応のモノを捨てなければならない」


 かつて言われた言葉を思い出す。

 もし私がこの大迷宮から生きて出られるという奇跡を願うなら……全て捨てなくてはならないのだろう。

 生を選ぶのなら。まだ生きていたいのなら。

 掴め、進め、そして……喰らえ!

 結局はそうすることでしか私達は生きられない。

 誰だってそうだ。

 何かを食べなければヒトは生きてはいけない。

 だとするならば……何も迷うことなんてない。

 これは当たり前のことなんだ。

 ただのありふれた悲劇の一つ。


「……あはっ」


 そう考えると不思議と納得できた。

 何もおかしなことじゃない。

 そして、何も難しいことじゃない。


 ──ズブリ、と私の犬歯がその死体の首元に突き刺さる。


 まだ温かい。死んで間もない血なら……うん大丈夫そうだ。

 私は本能の赴くまま、ごくごくと新鮮な血を嚥下する。

 ああ……それにしても何て甘美な味なのだろう。

 体に力が宿るのを感じる。

 これが……血を得るということか。

 もっと早くにやっていればよかった。

 今となってはなぜ、こんな当たり前のことを拒絶していたのか不思議でならない。血を吸わない吸血鬼なんて、そっちのほうがよほど不自然だろうに。


「はあ……美味しい……」


 思わず恍惚とした声が漏れる。

 もっと……もっと欲しい。

 もっと、もっと、もっと、もっと!


 気付けば目の前の死体はからからの干物みたいに干乾びていた。これ以上は吸えない。一滴たりとも血が残っていない。

 なら、どうする?

 決まっている。

 探しに行けばいい。

 次の獲物を。

 私が生きるために。

 殺して奪えばいいのだ。

 "奴ら"が私にそうしたように。


「あははっ、あははははっ!」


 哄笑と共に、私は歩き始める。

 この日、私は……

 ──本物の吸血鬼になった。


 どこで間違えたのかなんて分かりきっている。

 私はきっと、この世界に生まれ変わる以前から失敗していた。

 今はもう遠い記憶の欠片。

 私は私を見失わないために、ゆっくりとかつての記憶を思い出す。

 この地獄に墜ちた日のことを。

御高覧いただき誠にありがとうございます!


作者趣味全開の本作ですが、飽きるまでお付き合いいただけると幸いです(謙虚)

また、ブクマ、評価、感想いつでもお待ちしております(強欲)


最後に……TSジャンルもっと流行れ!!!

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