4、一樹【気付いた気持ち】
陽人が好きなの?
雅之に言われたこと。俺は少しだけ考えた。
いつの頃かだったか、手近な女と寝ていてもついつい陽人を意識するようになった。まだ小学生だった陽人を俺は妄想の中で色んなことをさせていた。目の前の女の仕草が目を閉じると陽人の姿で変換されるようになっていた。家に帰って陽人と顔を合わせづらくて中学の時は避けていた気がする。一度知ってしまった欲を抑える術を知らなかったから、いつか本当に陽人を犯してしまうんじゃないかという恐怖。実の兄がこんな最低なことを考えていることを知られたくなかった。高校に入り、それと同時に喜んでいいのか陽人との二人暮らし。そんな精神状態では手放しで喜べなかった。女と行為を重なれば重ねるほど陽人への欲が増すばかりで、罪悪感にかられながら一人のときは陽人を想っていた。このままでは身の危険を感じたから、女との行為は控えることにした。その反動で俺の妄想の中で陽人はかなり、エロいんだけどね。陽人でしかイケない俺は、血がつながっていようが陽人へ想いを寄せているんだと思う。
「……好き、だと思う」
考え抜いて出した答え。
雅之は「ふーん」としか言わなかったけど突然のカミングアウトに軽蔑した様子なくて俺にとってはすごくありがたい。同性で近親相姦って……ありえねえだろ、普通。俺なら友人にこんなこと打ち明けられたら、こんなに冷静でいられないよ。
「まぁいいんじゃね? このまま女遊び続けてたらいつかは刺されるんじゃないかって思ってたところだし」
「お前に好きな奴ができて一安心」
そう言って笑う雅之は本当に男前で俺は心の中で「ありがとう」と言い続けた。俺が女ならきっと惚れてると思う。
一限終了の鐘が鳴り教室へ戻ろうと立ち上がる。さすがに続けてサボるわけにもいかないし、教室へ戻ることにした。すると突然、目の前を歩く雅之が急に立ち止まった。そのおかげで俺は雅之に激突!
「ってぇ―……」
「弟には言わねえの?」
「……言えねえよ」
こんなこと 言えるわけがない。男だっていうだけでも困るのに、それが実の兄からならなおさら、対応できないだろう。言って嫌われるくらいなら言わないほうがマシ。このまま一生隠し続けてやる!! という覚悟くらいはできている。