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「好きだ」と言えなくて  作者: 水城
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2、一樹【ブラコンなだけ?】

 「おっはよ!」

 私立の学校だけど、幸いなことに家から近く、自転車通学の俺はのんびりと学校へ向かう。決められた場所へ自転車を停め、上機嫌で教室へ向かう。教室に入ると何の因果か中学の時からの親友、中山雅之なかやままさゆきに向かって満面の笑顔を振りまく俺。三年生になり、内部進学、外部進学にクラスが分かれたが、もちろん俺らは内部進学。学部は異なるけど、同じ理系ということで内部理系クラスになったことで、中一の時以来の同じクラスとなった。

 「……朝からうぜぇ」

 いつもなら雅之のこの失礼極まりない発言を聞いたら一発蹴り飛ばしてやってるところだが、今日の俺は生憎機嫌が良い。よって雅之は命拾いをしたことになる。

 「あら!やだ、雅之くんってばひどいっ!」

 泣き真似をすると、本気で哀れそうに見られ、かなり虚しい。雅之が何かを言いかけたところで横から一人の女が割り込んできた。

 「一樹くん? 昨日は何ですっぽかしたのかしら?」

 毎朝何時間かけてるんだかわからないけどキレイに巻いた髪にまったく隙のないメイク。ギャル通り越して水商売風の女の言葉に俺はみるみるうちに青ざめた。

 だって!! 極上の笑顔だけどぜったい怒ってる!!! 逆に笑顔がこえーよ!

 「まぁいいわ。その代わり、今日一樹くんの家に泊めて? 明日休みだし」

 急な展開に思考回路停止。遊びでつき合ってる女のいきなりの発言。これは健全な男子高生にとっては絶好のチャンス! なハズなんだけど……。

 「あぁ……弟が風邪ひいててさ、俺が看病しなきゃいけないんだよね」

 なぜかわかんないけど嘘をついた。彼女は「まぁいいわ」とあっさりと諦めた。所詮はその程度のつき合い。お互いの欲求を満たすためのつき合い。彼氏とか彼女の関係ではない。その女が立ち去ったのを見送り、席に着くと盛大な溜息が聞こえた。

 「お前さ……バカ?」

 一部始終を見ていた雅之から発せられた本日二度目の失礼な言葉。俺は怒ることもなく『自分は本当にバカでヤバいのかもしれない』と考えていた。だって、健全な男子なのに女より弟って、確実にヤバいよね? 自然と出るため息。

 「弟好きにも程があるだろうが」

 雅之には俺がブラコンだとバレている。もしかしたら雅之だけじゃないかもしれないけど。俺はところ構わず陽人の話しているからね。

 「で? その弟くんは風邪平気なわけ?」

 雅之が目を細めて怪しげに見てくる。その仕草を嘘がバレているときによくする。うちの学校は校風はかなりゆるく、金髪で長髪の不良っぽい見た目だけど成績はそこそこ優秀な雅之についた嘘が通ったことは一度もない。

 「いや……それはそのぉ……」

 「やっぱり……」

 雅之の呆れた声と同時にまた、ため息をつかれた。俺たちは暗黙の了解で一限をサボることに決定した。強制的に雅之に勝手に決められたんだよ? 俺、いたって真面目だからちゃんと授業受けてるよ? もしかして疑ってる?

 一年の頃からサボるときは必ず来ている屋上。いつもの場所へ腰を下ろし、ズボンのポケットからタバコを取り出す雅之。ライターで火をつけ、吸って吐く。そう、雅之は見た目が不良っぽいだけじゃなく素行もどちらかというとよろしくない。喫煙、飲酒は経験済み。女遊びも派手。喧嘩も強いけど、理不尽に手を出すことはない。

 「お前が女をふってまで弟選ぶのってただのブラコンなだけか?」

 雅之の言っている意味がいまいち理解できない。俺は雅之に比べたら正真正銘のおバカだったりするからたまに本気で雅之の言葉が理解できないときがある。頭に?マークを浮かべながら雅之の言葉を考えてみる。

 「お前マジでバカすぎだろ。だから、弟のことを本当はどう思ってるんだよってこと」

 だから! いくらバカだからって憐れそうに見るのはやめろ!!!

 「うーん……?」

 雅之の手に持っていたタバコの灰が落ちる。俺の意外な反応に相当驚いたらしい。

 「お前……マジ?」

 気のせいでなければひきつった顔で見ている雅之と返答に困る俺。

 雅之から視線を逸らし、空を見上げる。雲一つない空は俺の心とは別に澄んでいて、それを直視できずにフェンス越しに見えるグランドへと視線をうつす。

 「正直、わかんねえ。最近変なんだよ」

 俺は行き場のない想いをどうしようか迷っている。


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