Episode 002
俺は泣き疲れていつの間にか寝てしまった。
そして起きたら馬車に揺られていた。
(ん? 馬車?)
状況が掴めない。御者席には父親と思われる男が手綱を握って座っている。
母親は俺の寝ている籠を抱え、荷台にいる。
とりあえず捨てられてしまう、置いて行かれてしまうという事態はなさそうだ。
不意に甘えてみたくなり両手を挙げて母親に抱っこをせがんだ。
『はいはい、よしよし』
母親は俺を抱き上げ頭を撫でてくれた。
(一体、何処へ行くというのだ?)
馬の尻に生えている長い尻尾が歩く度に揺れて気になったが、荷台から見える僅かな景色を注意して見た。
道路はアスファルト舗装されておらず、轍だらけの凸凹道だ。道の両脇には田畑が見える。田んぼじゃなくて麦畑なのか? よく判らない。
『城まではもうすぐだ。ニッキー、お前は強い男なんだから少し揺れるけど我慢しろよ』
父親と思われる男が俺に何か話しかけているが、言葉が解らない。
(早く言葉を覚えないと意思の疎通が出来ないな)
ひとつ判ったことは、母親も父親と思われる男も俺に話しかけるときに『ニッキー』と言う。
きっと俺の名前は『ニッキー』なんだろう。