表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/4

2章【どんな修羅場でも敬語を使えば穏やかになる筈(不可能)】

センスないから改行の仕方が壊滅的なワタクシ、鏡野 猫であります。

「只今帰りました」

いつもの通り誰もいない部屋にごあいさつ。あ、今日は木曜日だったな。

自室に入って、いつもなら鞄から宿題を取り出すとこなんだけど、毎週恒例!な感じにスマートフォンを取り出す。

人気チャットサイトへリンク。検索。履歴。一件。『secret the watergirl&boy room』。タップ。『貴方の朝は?』訊かれた。『弱い』入力。ピンポーン。正解?っぽいな。入室。1人。

「やほー❤だりだりだーりん」「やぁ★えーと…かのかのかのじょ?」「ちがうのー!そこは『おひおひおひめさま』なの!」「以後気を使うよ」

なんかこのルーム、僕と水美以外入れないらしい。だから、べったべた会話もできちゃう。別にドヤァとかしてない。

ちなみに、使用できるのは木曜限定。水美は外面がいいから、叔母と叔父に勧められて塾とか水泳とかダンスとかピアノとか色々やってる所為で空いてる曜日がめったにないかららしい。

「習い事なんかよりー、こうやって毎日一緒ーがいいのに」「そだね」「大好き」「僕も」「らぶらぶぅ~」「らっぶらぶ」「にゃー」「にゅいー」『SETOさんが入室しました』「にゅー」「にゅえー」「にょー」「「…何方?」」

いや、この表示出てくんのおかしいだろ。だって、ここ僕たち専用ルームで、え?だからつまり…

「瀬戸です」「いやうんえはいえ?」「えー…っと。同じクラスに転校してきた瀬戸さん、だよね?」

「はい」「え、え?」水美の外面モードが怖いわ。

そもそも!僕たち2人以外入れないんじゃないの?

「私の愛する水緒さんがいたので、入ってみました」

純粋無垢なのは認めるがな。だって…ねぇ?僕にどうしろと?

「…貴女、darlingを名前で呼ぶほどの親しい仲なんですか?(威圧)」「いえ、でもこれは運命ですし(妄想)」「ウンメイなどとテツガクテキかつアイマイな言葉ではぐらかそうとしてませんか?(尋問)」「哲学ではありません、運命と愛は世界最強で世界共通のキーワードなんです(自信)」「ふざけるのもほどほどしないと殺しますよ?(笑顔)」「貴女様は刑務所をサバイバル&親しみやすさを売りにした新たな観光地でも作るつもりでしょうか?(疑問)」「…(無言)」「それぐらい味噌汁になった貴女の脳味噌でも考えられる筈なのに、考えないのね?なんて怠惰な野郎ですこと!(高慢)」「考えられるほどの余裕と馬鹿は持ち合わせてなくってよ!(便乗)」「あの…(介入)」「オホホホホ」「オホホホホ」

これ以上に無いってくらい敬語で丁寧な修羅場見た事無い。つか僕の日本語おかしいし。

「…あーねーもーねー…」何だかそんな感じの植物があった気がする。

「じゃあdarling、どこかの誰かの瀬戸ちゃんが乱入してきたから、落ちよ」「ん」だんだん会話の主導権が逃げていく。あとヘタレ化が進んでる気がする。『気がする』ってあたりヘタレっぽい。

「じゃあ次の次に会うときは60年後にあの世で」

退室。現在ルームには1人。更新、誰もいません。


文明の利器ことスマートフォンをベッドに叩きつけて、そのまま自分もダイブ。屋上とかだったら致命傷になりかねないよなーなどと考えながらうつ伏せになる。

「ぐはぁ」枕で窒息するとこだった。あわてて仰向けに転がる。

そういや、投身自殺はしたことないな。…投身。脳裏に、外人めいた髪色がちらつく。それも一瞬で、すぐ泡沫のように消えたから多分、大したことじゃない。

それより気に掛けるべきことがあるし。


明日の命は保障されていない。


明日死ぬかもしれない。いやガチで。


だから、今できることをしていかないとねってこと。

具体的には、こういうこと。


『瀬戸 真八子』で検索。名前占い?しらねーよ。は?神に選ばれた名前と言えるでしょう?スゲーなそれ。探してるのそれじゃないから。スクローーールっと。あった。

『S岡学園裏サイト!高等部の2年Ⅲ組S戸M子がウザ過ぎる件について語るスレ』

おぉ、今回は大収穫っぽいな。いちいちハッキングアプリ使わずとも前の学校の名前まで出てきた。

これなら簡単っぽい。

というわけでして。僕がするのは『瀬戸 真八子』の人格。噂。情報。すべては、命を守る盾となる可能性もある。


同  時  に  。


この履歴を水美に見られたら、その時はもう、覚悟するしかないんだけど。


さてさて、閑話休題(したか?)。スレの内容を確認してみようではないか。

『M子のどこがキモイか語ろうぜ』

『親が過保護』

『自己中の極みw』

『≫3それなwwwこの前M子の友人(仮)と喋ってたらなんか「私の○○ちゃんなのに触らないでください」っつってきたwバカかww』

『自分がいつも一番!みたいな』

『そのくせ弱いいじめられっこ演じちゃってる感じ?wwマジ反吐が出るわ~』

『≫7「私って頬赤いじゃないですか、それでみんなに変な目で見られちゃうんです…きっと私が馬鹿だからですよね」「私、勉強は得意な方なんです!中間の順位も150位以内は常連で…」←矛盾乙』

『日本語解んないんじゃないの』

『ヘーイ!セトサーン!ニホンゴ、イッショベンキョウシマショウ!』

『笑わせるなwwww腹筋千切れるwwww』

『有耶無耶になってるけど親の過保護はどこ行ったしww』

『過保護ねー、ちょっとぶつかって擦り傷できただけで「ウチの愛娘に何すんですか!!」だとよ、噂だけど』

『≫13それ俺見たー、マジキモイ』 

すっげー荒れようだな。いや、むしろ一致団結か?

…どうやら瀬戸さんは、水美と同じ気質らしい。しかも隠そうともしてないからタチが悪い。

それなら、水美に対抗するあの口調も頷けるし。

「ひょひひゃへひゅひゃんひょひゃんにゃひにひおう…」取り敢えず晩御飯何にしようって言おうとしたのに欠伸が邪魔しやがった。コンニャロー。





『校舎裏来て』


机の中に放り込んであったメモに目を通す。水美の字なのはすぐに分かった。わー、校舎裏に何があるのかなー?

そんなわけでして、昨日杞憂してた通り、校舎裏に呼び出されました。

爽やかに間延びした色合いで広がる5月下旬の空と、浮かぶ太陽が放つ生ぬるい日差しを浴びながら、急ぎ足で目的地へ向かう昼休み。

校舎の角を曲がったそこに居たのは髪を奇抜に染めたヤンキーたち…ではなく、僕のバカノジョ水美。

「ごめん…待った?」「うん」「ご、ごめんね」「3時間ぐらい待った」授業の時いなかったもんな。それしか考えられない。

「で…話って?」「…瀬戸さんの事」「だろうな…」「なんで、名前で呼ばれてるの」「知らない、あっちが勝手に」「瀬戸さんは良いのに私はダメなの?」「いや、瀬戸さんにも許可してない」「私も呼ぶよ?水緒、水緒、水緒」「ダメ、絶対に呼ばないで」

今まで一貫して何も考えて無さそうな表情だったのが、



刹那



狂気に染まって。

そして、ほわほわにんまり最高に恐ろしげな笑顔を浮かべて、ポケットから光る刃を取り出す。


「きっと、瀬戸菌が脳味噌までいきわたっちゃったのね、可哀想」

僕の腰に華奢な白い腕を回して。

「今、消毒してあげるからね」



音が消えた。

ついで、視界が消えた。

その分、痛覚が目覚ましく働く。


「…っ」

密着した僕と水美の隙間から、赤いのが滴る。

「痛い?」

左手に握られたナイフにも、同じ物質が付着している。

「痛いよね」

腹が、熱を持った外部的な痛みに握られる。

「代償。名前を呼ばれたこと、ルームに入られたこと、愛されたこと、目があったこと、喋ったこと、触れ合ったこと、すべて許してあげる代償」


水美は、怒りんぼさんだね。


許してくれるのはきっと奇跡で。


これも、愛情表現になるって、わかってるよ。


僕の事が


大好きで 大好きで 

大好きで 大好きで 

大好きで 大好きで

大好きで 大好きで

大好きで 大好きで

大好きで 大好きで

大好きで 大好きで 

大好きで 大好きで 

大好きで 大好きで

大好きで 大好きで

大好きで 大好きで

大好きで 大好きで

大好きな水美のやることだから。



きっとそれが、最高の愛の形なんだろう。


「大好き」


僕もだよ。


「永遠に、私のものに、成れるよね」


うん。


意識がぐらぐらと音をたてて崩れていく。

喉が乾ききって声が出ないけど、心拍数が太鼓の達人の達人が叩く太鼓の如く異様なスピードで加速していくけど、それでも。


僕は君の愛情に答えられたかな。



            さ よ な ら ?




「…水緒さん」


とうとう第一話?も次作で最終章になります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ