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1章【始まりはいつだって靴箱から(嘘)】



「…わぁお」





足元に、パサリと音を立てて落ちる。

このハートマークが、「水美の前で開けてはいけない」という隠語になるのか(隠語じゃない)。

「…なぁに、これ」

「あー…っと」

今までにもラブレターなるものを渡されたり置かれたりしたことは何度かある。でも、最近渡されたのは…うん。2回目の自殺未遂の数週間前だったから、中2の頃が最後か。

「何?」

角度によって色が変わって煌めく筈の瞳には、光の欠片すら入らずすべてを飲み込みそうな雰囲気が覆っていた。

「ねぇ、聞いてるの」

「う…ん」

「じゃあ答えてよ」

困った。素直に「ラブレターです」なんて答えたら「あらそう❤今からdarlingを封筒に入るぐらいぺらっとさせるから待っててね❤」とか言われかねない。

…苦肉の策を。

「…母さんは、僕に用事があると、靴箱の中に手紙を入れる癖があるんだ。しかもハートマークが好きだから、閉じるのにハートのシールを使っちゃうんだよ。全く、困ったものだ…その所為で今までにも誤解されてきたんだ」げっほげほげほげほ。噎せ返った。

母親を『母さん』なんて呼んだこと、1度も無い。お互い必要最低限な事しか言わなかったし。

それにしても、どんな言い訳だよ。ハート好きな母親って…。少なくとも家は該当しないな。

「…ホントに?」「ホントだよ。水美に嘘を吐いて得することなんて何もないじゃないか」

「…そっか!ならいいや~いーいやーいいやー…♬」

良かった。中身見せろとか言われたらガチで命終わってたな。

「じゃ、帰ろ」「うん」

しかし水美も成長したものだ。高校入って再会した時なんか、教師と話しただけで僕の体に傷をつけたからなー。darlingくん、感心したゾ!

「何見つめてるの?はっ、まさか…私に祝福のファーストキスを!?」「ファーストキスはもうしたでしょ」なでなで。スプリングなんちゃらな髪を撫でる。「!?」

「むふふふ」「どした」「嬉しーー☆水緒きゅんになでなでされちゃったー☆」「マジで名前はやめて」

「みおりんちゅー」「名前の変形はもっとダメ」「ちゅーちゅちゅちゅー!」「はいはい」

柔らかで優しいピンク色の小さな唇と僕の唇を合わせる。レモンの味は一切しなかった。潤いに溢れる瑞々しい透明な味がした。…瑞々しいが「水々しい」だったらその唇は僕の胃液で酸っぱく味付けされてそれこそレモンの味になるんじゃないか。

「きゃっ、駅前で甘いキス❤」「あ、そういや駅前まで来てたのか」

僕たちを見る人々の目線が9年程前に母親につけられた傷に染みて痛い。

「じゃ、また明日」「…うん」「そんな顔しないの」「だって…本当はdarlingの部屋まで送りたい」

僕は駅前のマンション。水美はこの駅から3駅離れたところに建った立派な一軒家に住んでいる。

前は家から一緒に行っていたんだけど僕が朝弱くて起きるのに時間がかかる所為で、水美まで遅刻しそうになるから、僕の25回連続キスで納得させて、帰りだけ、そして駅までと決めたのだった。

「よしよし」「…ん」

名残惜しそうにしながらも無事改札へ向かった水美を見送って、マンションのエントランスへ入る。

ぴぽぱぽぴっと暗証番号を押して、うぃーんと開く透明なドア。エレベーターに乗り込んで、5階に向かう。ぽーん。ゴカイデス。アナウンスを聞き流しながら開く扉から外に出る。

鞄から取り出した鍵でがちゃ。開けゴマする必要もなく鍵が開く音がした。

「只今帰りました…」

誰もいない部屋に向かって、声を投げる。この癖は物心ついた時から行っている。母親が家から逃げても、父親|(多分)が水美の母と付き合っても、僕が施設に入っても、独り暮らしを始めても、これだけは変わらない。

手を洗って、うがいして、制服を脱いで部屋着に変えて、自室(僕の場合全部の部屋がそうなるけど)に

入る。そして、鞄に潜んでいた例の封筒を開ける。



『こんにちは。転校してきた瀬戸です。

いきなりごめんなさい。なれなれしいっていうか…迷惑ですよね?

でも、最後まで読んでほしいです。

私が、皆の前に立った時、私は顔が真っ赤になってたと思います。

そんな私を、皆クスクスと笑っていました。でも…。

貴方は違いました。透明な瞳で、ただ私をじっと見て、笑うことも軽蔑することもなく、ただただ見つめていました。

私は、転校初日で、貴方に一目惚れしてしまったのです。

すぐに答えを出さなくてもいいです。答えが見つかったら、私の靴箱に手紙を入れてください。

待ってます。三上 水緒さん。』



…あらあらあらあら…。ずいぶんと先入観がすごいこと。フルネームはおやめいただきたい!

てゆか、僕は瀬戸さんの髪色によって嘔吐を引き起こす可能性が500%ほどあるから無理なんだけどね。

…『笑うことなく』か。瀬戸さんにとっては、素晴らしいことなのかな。

僕は、君の頬の色だけじゃなく、他愛無い会話や、お笑いでも口角が重くて上がらないんだけどさ。笑うのは、水美と一緒に居る時だけ。それも、1週間に一回あるかないか。

あと僕、KYだから。空気読めない。というより、僕空気だから。

断る以外の選択肢がない。


僕は、いちいち手紙を書くのも面倒だし環境の為、ゴミ箱ポイして宿題に手を付けた…その時だった!(ここでSE挿入ね)

ポン。

スマートホンが、メッセージを受けた音。

一応、緊急連絡用で全員のメッセアカウントは知ってるんだけど、この音が鳴ることはそうそうない。

メッセ画面を開く。着信、1件。名前は…「・・・?」

瀬戸 真八子。例のオサゲンジャーだった。嫌な予感しかしないけど即刻開いた。

『やっぱり、手紙じゃ落ち着かないので、メッセで言います。

好きです、水緒さん』

ぐああ、名前やめて。

『返信、待ってます』

僕が変身してお前を倒しに行くぞ。その前に体力尽きてこっちが倒れるけど。



「・・・というか」


これ、ヤバいんじゃね?手紙ならごまかし利くけど、メッセって…ねぇ。水美の得意分野じゃないの。

「…あははっ」

そう、ヤバいヤバいヤバいである。

むむむ…まさか貴様、僕とは別種のKY(警備員誘拐)なのか!?いやいや、意味解らん。

…取り敢えず、明日の生存予報は「豪雨のち雪と一円玉と雷が降り注ぐでしょう」だな。わーいちえんがいっぱいだー!だけどりょうがえがめんどくさーい!

「宿題しーようっと」

そうだそうだ、たとえ明日の僕の命が風前の灯火でも、先生からの信用はいつだって大切だ。



「おはよう、水美」「おはよう、darling」

あれ?怒りが感じられないぞ。うむうむ、まだ確認してないのかな。ならよかった僕の命は一円玉によって野心丸出しにならず「…うわっはぁ」

目が怖いってゆーか、うん、昨日問い詰められたときみたいなあの目。

「どしたの」とぼけてみる。「馬鹿」「うん」「ばーーーか」「そらぁ、小2の頃からサボり癖がついてるからね」「ド馬鹿」

罵倒された。

「知らない」

…取り敢えず、HR始まる。席に着かないと。

「昼休み」「…うん」

要するに昼休みあんなことやこんなことヤろうって意味だね!いや違うだろ。



「…見たよ」「うん」相槌下手って思われるかな。「瀬戸さんからのメッセ」「うん」「何して口説いたの」「何もしてないよ」つか、何して口説いたのってそれ口説いたしか回答ないし。

そして今日も水美ちゃんのスマイルはぜっこーちょー!怒ってる感じしないから実感わかない。

「嘘つき」「そんなことないよ」「嘘ばっかり」「そんなことない」「瀬戸さんのウイルスがうつる」

ひでぇ扱いだな。おい聞いてないふりしてるそこの瀬戸くん、何とか言「…?」


パン、って大きな音。頬に、鋭い痛みが走る。

「汚い。こんなの、水緒じゃない」出来る事なら水緒じゃなくて『緒』と呼んでほしい所だ。

「ねぇ、これで、瀬戸菌は死んだよ」菌とウイルスの違いわかるかい?

「私はdarlingが大好き。だから、darlingを認めて愛して抱いて抱かれるには、不純物を取り除かないといけないの。解る?解るよね?」「うん」

これが、水美の愛の形。罪を自覚しないなら、それは『表現』に等しい。だから。

「…解る。これからも僕は水美を愛するし、愛される。抱くし、抱かれるし、認めるし、認められるし、この思いは変わらない」

「うん!水緒なら絶対解るって、信じてたもん」

「おーよしよしー」

「へへへ」

後ろから突き刺さる目線は、スルーって方向性で。

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