序章【こんにちは、my darling(事実上)】
pixvで以前投稿した「隣のイケイケガールがさっきからハッキングしているのだが」みたいな名前の小説が途中で挫折してしまったので、それの改変的な奴です。
入間人間さんのうそみーこわまーに作風とかいろいろ似てるのは仕様です。
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ぼくのうでの中には、かわいくて小さい女の子がいた。
ハムスターみたいにガクガクふるえて、うわめづかいでぼくを見つめてくる。
ドアのむこうから、リズムよくとんとんと足音が聞こえてくる。ゆっくり近づきながら。
「ねえ、わたしたち、どうなるのかな」
「しっ。声を出したらおかあさんが走ってくるよ」
「……きみは、こわくないの?」
「こわい?こわい…」
こわいってなんだろう。ものごころついたころから、そんなかんじょうを感じたことは多分、ない。
「…」「…」
やがて、ぼくたちは会話もなくなって、しずかになった。
そして。
「そこに居るのは、誰」
きれいなおかあさんの声と、生ぐさいちのにおい。あと、にぶく光るバット。
「…おとうさんといっしょにいた女の人がつれてきた」
「あらそう」
心がこもっていない、ロボットみたいな声。
こんな時なのに、この前行った遠足のロボットこうじょうを思い出して。
ごっつん。ぼくは、いしきとバイバイせざるをえなくなった。
頭が、いたかった。
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頭が、痛い。
どうにもこうにもだからこの授業は嫌いなんだ何故なら声が高い教師が担当するからだこんな声で毎回毎回授業受けたら頭痛がしても仕方ないじゃ「おい、三上!聞いてるのか?」
苗字を呼ばれてしまった。鳥肌立った。まあ僕が受け入れられる苗字なんて今の所無い。母親が再婚でもしない限り。そもそも母親は消息不明だから再婚したって簡単に変わる訳じゃないけど。
「…?」
「ハァ…聞いてないのな。はい、じゃあこの問題解いて」
「…?」
「早く」
「…はい」
のそり。窓際の席から離れて、黒板へ向かう…筈だった。あくまで予定。
「…!」「…!?」
無言の衝撃。物理的にも、表現としても。
中身を分解して説明すると、足から崩れ落ちて、教室の床に倒れ伏した。
あーいったい痛い。
「だ、大丈夫か!?」
「だいじ…」最後まで言えなかった。唇が床に張り付いたのと、あといろいろ。
ファーストキスは教室の床サ!とか自慢できそう。んなわけねーっす!ファーストキスはもう愛する人と済ませましたよーっと。
それはそうと、あといろいろな理由。頭の血が頭以外のどこかへ逃げてしまったり、足がガックンガクンと酷い痙攣を起こしていたり、朝食が喉元まで上がってきたりしたから。
「おい!おい…」
音と意識が遠のいた。
「おはようございますっ❤^^」「あぁ…おはよう」
くそぅ、今日こそ『目を開けると白い天井があった。消毒の匂いが鼻を掠めた』とかやりたかったのに。
毎回目を開けたところであるのは美少女の顔だけだし。
「しかーし毎回毎回darlingは物理の授業で倒れるねっ!発作のこんとろーるでもできるのかい?」
「できてもしないし、永遠に発作が起こらないように願うだけだよ」
「むぅ…」
おや、ご機嫌を損ねてしまったようだね。
「どうしたかい、キャワイイキャワイイうさうさみみたん」
顔が熱暴走しそうになった。代わりに彼女はあっという間に笑顔に逆戻り。これが代償とかきつすぎる。
「ん~?あのねー、だってー、毎日倒れたら私が介抱してア・ゲ・ル☆のにぃー…」
「…そだね」愛想笑い中である。
だって、毎日って…。体力が相当ないとそれは無理だよねっ☆
「でもー…私はー…こうやってdarlingと一緒にいるだけで幸せー…」
うとうと微睡始めたため、頭を一撫で。それだけであっという間に眠りに落ちていく。安上がりぃ~。
…さて、だいぶ遅れましたが、他己紹介。
彼女の名前は宇佐 水美。冗談みたいな名前だなーと、何時も思う。ファーストネームは僕の父親らしき人物が後付けしたから、あながち間違ってもいない。
ろーにゃくなんにょ関係なく人気が集まる成績優秀、文武両道、容姿端麗な完璧少女である…表向きは。
無論、水美は僕の前ではデレデレでダラダラでベッタベタなとろけるチーズ系女子。尽くすタイプで、僕の為なら何でもできるらしい。得意技はハッキング。
そして僕と水美は、バカップルだったりする。ドヤ顔だってできるバカですけん。
あー、あと、僕の妹ね。異両親兄弟。いわゆる連れ子。
…まぁ、こんな感じですな。僕の紹介は百億光年後ぐらい後にするさ。もちろん時間の単位じゃないのも承知。なんだか日曜日の朝にやってる変身時間中だけ敵が攻撃してこない多少不条理展開なアニメのかつてのエンディング曲みたいになったのは気の所為。回りくど過ぎる言い方になってしまった。
よっこらしょと上半身を起こす。
「ぐあぁ…」眩暈がした。
ある程度悶絶してから、枕に擦れていた後頭部のハネを直す。
昼下がりの光をうけて、髪の毛がきらきらー。うーん、寝ている間に髪色がまともになった訳でもないなぁ。せめて茶髪になってくれよ。
うん、ここまで話題と課題がぶら下がってきたからベッドの上からパン食い競争的な感じで喰らいつくついで、話してしまおうか。
僕は、病弱なの…オエッ、治まった吐き気が再び胃に雪崩れ込んできた。事実なのは変わりないんですけどねー、えぇ。
そういうわけですから、しょっちゅう保健室にお世話になっています。ペコリ。
何の前触れも無く失神してしまう持病も適当に持ってて、さっきのバッターンも発作の影響だったりする。
あと、誰から受け継いだわけでもないけど、色素が生まれつき薄い。アルビノってやつですか、でもそこまでは酷くないな。
髪の毛がわずかに透明で灰色を帯びているのと、目の色が青みがかった銀色、それと色白ってぐらい。ファンタジックな容姿ですなあ、ラノベでいきなり異世界に飛ばされた時の主人公みたいだ。
「んう…」あ、起きた。こいつも珍しい髪色と瞳の色してるんだよなー。たしか、髪の毛がスプリングアッシュブラウンで、目の色がオーロラ色…なんじゃそりゃ。
「おはょ…水緒」「……darlingって、呼ばないのかい?」「水緒ってとってもいい名前」「全然」
噎せた。や、やめろ、その名前は水美と漢字が一文字一緒ってことぐらいしか利点が無い…。
「水緒水緒水緒みぃーーおぉぉぉーーー」「やめやめやめやぁぁぁぁめろぉぉぉ」
めんどくさい、この際もう自己紹介してしまえ。前言撤回ね。
名前:三上 水緒…嫌だわ、この名前。マジで女みたいだし、家族ですべて漢字を統一してるのがホント、反吐が出る。言葉がヤンキーになっちゃう。
はい、家族構成はトラウマだらけなので言わないってことで。
「…水緒以外ならなんと呼んでも構わないから」「じゃあ三上」「んが」
何だ、確信犯か?いやまだ、こっちの苗字なら鳥肌だけで済むから良いけどさ。親権は父親が持っているので本当は苗字も父親のを使わないといけないんだけど、あんな2股ヒモ親父の苗字なんか使いたくないよーだ。ベー。
「本名は全部禁止。僕と水美の前の苗字も使っちゃダメ」「望月のこと?」「…口に、だ、出すな」「もっちづっきもっちづっきもっちづっきづっきづっき♪」
うわっはぁ、呼吸が肺に酸素を入れる作業をサボタージュしてやがる。と思ったら労働基準法バリバリ破った呼吸が再開する。
視界くらくら、心臓ばくばく、脳髄がんがん、指先ぴりぴり、身体びくびく。
「あれ、思った以上の反応。そーゆーのも可愛いぞーぉ」
「…っはあ…ちょ、ごめ…トイレ…行ってくる」「行ってらっしゃいっ^^」
ふらつく足どりで保健室のトイレに駆け込む。
「……っえ…」
聞き苦しい喘ぎ声とともに、げろげろっと吐瀉物が溢れ出る。
「っげっほげっほ…」
5分ぐらいで波は治まったけども、体力の消耗が著しすぎる。
「…ただいま」「おきゃえり」
ふらっとベッドにダーイブ。ぼふっ。埃が立った。
「darlingはいつでも何しても綺麗ですなー」「惚気だよね」「ううん」
てゆか呼び名が戻ってる。よかったよかった。めでたしかもしれない。
「まつ毛長いしー、目の色きれいだしー、えーとあとはー、あ、色白だしー、うーん、えーとあとはー…」「うん、もういいよ」
こうして、僕たちは今日も日常を難なくこなしていく。
バカップルな会話が保健室で炸裂した3日後。教室に机が1つ増えていた。別に妖怪の所為ではない、多分。
HR待ちの教室はそんな些細な異変を気に留めることもなく、他愛無いおしゃべりに専念する人で溢れている。
じゃあなんで僕が机の増加に気付いたかっていうと簡単で、ほとんどの机に人が座っていたから誰も座っていない机が目についたってだけで、つまり僕は登校が遅くて、結論を言うと朝が弱いのである。
特別親しい友達もいないため、誰かに挨拶されることもなく、席に着く。あ、制服に引っ付いた水美を剥がしながらね。
やがて先生の気配を察知して、声が静まる。
「はーい、HR始めっぞ…」
おや?ドアの向こうにおさげ髪の少女が見えた。登校際にナンパでもしてきたのか?
「えー、今日は、転校生がいる」
明日はいないのか。
「入っていいぞ」
例のおさげさん(今考えた)が入ってくる。
「あの、えと、瀬戸 真八子といいます…よろしくお願いします…」
典型的なアガリ症のようだ。眼鏡をかけた顔が赤い。青森の名産品になれそうですねー、などと感想を持った。
そそくさと指された席に向かう途中、僕の席の隣を通った時。
「……うわ」
三つ編みにされている髪の色に、拒絶反応を起こしてしまった。
母親と、同じ色じゃないか。
ゆらっと揺れる視界に耐えながら、授業の準備を始める。
結局今日僕は、瀬戸の頭髪をできる限り見ないようにするのに精一杯だった。
「はーぁい☆今日も無事終わったし、帰ろかーえろっ!」「はいはい」
水美の白い指が腕に食い込む。これでキモチイイとか言ったらさぞかし変態扱いされるだろーなーと思いながら靴箱の戸をガチャ。バサッ。
「…?」「…なーに?それ」
白い封筒に貼られたハートシールが、僕の脳裏でサイレンを鳴らしていた。