第八話
書けないときほど、書く時間がない時ほどネタが浮かびます。
ああ、なんという不合理TT
後に、ふれんず訴訟一号と呼ばれる訴訟の基礎は、名誉毀損である。
個人の尊厳を無用に傷つけた、という形で進められた内容は、現状のネット社会が虚構現実ではなくリアルであることを浮き彫りにした。
確かに口げんか的な内容であるが、語調や表情の読めないメディアにおいて、その表現方法は選ばれるべきであるという方針が第一審で示されたあとは、もう対抗訴訟だ反攻訴訟だと泥合戦になり、メディアの興味も薄れていった。
さて、その話題の中心であるはずの「ふれんず」であるが、これが全く運営は何もしないまま続いている。
訴訟だ何だと騒いでいる人間を放置したままで、である。
あまりのことに運営に問い合わせをした人間も多いが、一様に「個人のプライバシーを重視しているため、特定個人や人間関係に関する干渉はいたしません」ときたものだった。
これにしらけた人間がログオンしなくなったり離れたりもしたようだが、それでもSNSやコミニティーメディアは切り離せないらしく、そのままユーザーでいる。
なんとも緩い感覚であるが、ゲームの中も弛緩しつつあった。
まず起こったのは「女神の鉄槌」エルダーの辞任、であった。
ゲームのアプローチを変えようと奮戦してメッセージもすべてOFFにして、さぁがんばろう、と舵を切り直したらこの騒ぎ。自分はエルダー足る資格はないと辞任を発表した。
驚いたのは子筋。
何の相談もなしにと怒り心頭で抗議に現れたが、「私の行動に反対しかしない方々に相談しても、我が意が曲がるだけですわ」とニコヤカに断罪するタカネに押され、最終的には直下の子筋が合同で合議して「女神の鉄槌」を運営することとなった。
くわえ、タカネを女神の鉄槌から追放する旨の決議まで下している段階で何度も足の引っ張り合いを見せている合議会議を見て「長くはありませんわね」と呟いたタカネであったが、抗議者以外のアバターに囲まれて困っていた。
そう、女神の鉄槌という氏族ではなく、タカネという存在にあこがれて氏族に加わったモノたちである。
「タカネ様、どうか我々もお連れください!!」
「「「「「タカネ様、どうか!!」」」」」
実に困ったタカネであった。
なにしろ、タカネはこれ以降女神の鉄槌で育成したキャラをデリートして、斜め下に本格移行しようと思っていたからだ。
個人的な移行は問題ないと考える彼女であるが、さすがにエルダー連合で一緒でしたという仲間を引き込むのはばつが悪い。
なにしろ、斜め下や破壊の剣との交流禁止を打ち出した本人が、するっと斜め下に移行しようと言うのだから。
「(どうしたものかしら)」
さすがにこの騒動を女神の鉄槌氏族ホーム前で続けるのはどうかと思うので悩んでいたのだが、そこに助けの手が現れた。
「おや、タカネ君ではないか。どうしたんだい?」
そこに現れたは破壊の剣エルダーであった。
あの女神の鉄槌二代目エルダーを引き連れて、NPCの喫茶店に入る。
氏族に対して悪感情のあるこの町のNPCではあるが、その氏族連合から嫌われているウチや息子の氏族は「敵の敵」ということで歓迎してくれていたりする。
そんな事とは知らないタカネの連れはビクビクしているが、ニコヤカに招き入れられて驚いているようであった。
「で、タカネちゃん。どうなったの?」
「実は、女神の鉄槌を追放されましたの」
おほほほほ、とうれしそうに微笑むタカネ。
彼女に表情には、ここ数ヶ月の影はない。
やはりあれだろうか? 娘の言っていた「女(熊)皇帝」の称号の影響だろうか?
「で、君たちは、タカネちゃんについて行きたい、と?」
「「「「「はい!!」」」」」
だったら、話は簡単だ。
タカネが子IDを発行すればいい。
「・・・いまからスキルリセットは、あんまりでは?」
「でも、タカネちゃんだってそう言う道を選んだんでしょ?」
むにゅむにゅと言葉に詰まるタカネ。
「で、ですが、もう、例の「熊殺し(クマキラー)」系クエストはもうありませんし・・・」
「大丈夫だよ、タカネちゃん。鯱だって虎だって、もういーーーっぱいいるんだし」
がっくりと肩を落とすタカネは、彼女について行きたいと申し出たモノたちへ子IDを発行した。
「・・・実はすでに私は、新IDでキャラリセットしていますの。ですからみなさんにチュートリアルから始めていただかないといけないのですが・・・」
「「「「「ついてゆきます!!」」」」」
はぁ、とため息をついたタカネであったが、根性を決めたようだ。
「ところでみなさん、今までのプレイに不満はありませんでしたか?」
「「「「「?」」」」」
ふふふ、おもしろい新戦力になりそうだな。
「ところで、先代には知らせたのかい?タカネちゃん」
ついーっと視線を逸らして口笛を吹き出す姿は、まるで息子や娘のようで楽しいものだ。
女神の鉄槌二代目エルダータカネの追放はリアルへも波及した。
初代エルダーである彼女の母親は、現在の氏族たちへの怒りをSNS経由で全面的にブツケたが、引退した者の戯言と処理する者が大半であり、その行動も浮き上がっていた。
語れば語るほどに温度差が生まれ、声を出せば出すほどに引退した氏族と現状の氏族の間で体温の差が如実になるばかりで。
そう、いまの「ふれんず」に於いて、氏族という繋がりが絆が、あまりにも脆くなっていたのだ。
排他的で利己的で自身の損益には敏感で、そして他人への責任追及を全力で行う。
まるで現代社会そのままの在りように、引退氏族たちは絶望的になっていた。
こんな状況でも運営からの介入はなく、またプレイ方向への指導もない。
どうしてこうなったのだ、と事情聴取をしようと考えた彼女たちであったが、すでに時は遅し。
引退氏族たちと現行氏族たちの溝は深くなってしまい、たとえ親子や友人たちであっても踏み込めない話題となってしまっていた。
そんな状態になっても「ふれんず」への登録自体は減っていないというのだから、業が深いといえる。
宗像は、自分が「リア充」であると実感していた。
恋に仕事に邁進しており、明らかに生活が変わった。
ロマンスグレー、イエーイ♪である。
「宗像君、ちょっといいかね?」
「はい、ダーリン」
「「「「「ぶばっ!」」」」」
とまぁ、仕事場でもこんな事を言ってしまうほど舞い上がっていたわけだが、それはそれ。
某京大教授に相談された内容は、じつに微妙な内容であった。
「・・・えぇ、それはちょっと」
問題の大本は、再び「リュウジ」。
今回の彼の行動は、ゲーマーとして斜め上の行動でありつつ、誰もが真似ができると言うものではなかった。
が、システムの穴を直撃した者になっていた。
「さすがに、そこまでの対応は、開発でもできません。というかなんでそうなるんですか・・・」
運営側の開発関係での窓口である宗像は、自らの「リア充」っぷりを脇に置いて、立ちふさがったいとこの少年への怒りを燃やしていた。
が、こんな騒ぎであっても仕事の失敗ではなく多様性という意味では正常な負荷であり、私生活へのスパイスとも言えるのだから、やはり「リア充」といって過言無いだろう。
時は少しさかのぼり、「斜め下」傘下に元女神の鉄槌組が合流した。
チュートリアルチートを経験した影響で、熊以外の山抜けルートを経験し、妙に逞しくなったりしているのだが、それはそれ。
ふはははは~、とか言って南迷宮を攻略しちゃったりしたのは、やはり熊を越えるトラウマになりつつあった「グラップラー」トラウマ解消のためだろう。
同行したリュウジも、そのテンションに引き気味であった。
それはさておき。
南迷宮攻略完了でわき上がる元女神の鉄槌組であったが、そんな彼女らをリュウジは宝物庫に誘った。
そこにいたのは白虎柄角兎と黒虎柄角兎。
案の定、弟子五号六号となったわけだが、その中身に新人たちは小躍りした。
で、その取り分は、となった段階でリュウジは言う。
「ああ、全部持って行って良いよ。うちの鍛冶職人装備の方が質良いし」
「「「「「あ、そうですか・・・」」」」」
リュウジ曰く、天然物としてはレベルが高いが、山越えした先で得られる素材や技術的に考えると、攻略補助程度の内容であり、NPCへの売却が織り込まれた内容なので、氏族への参加祝いとして渡しても問題ないとか。
それよりも、鯱・虎・猿・北魔物で得られる売却益のほうが重要なので、あまり重要性も感じていなかったため今まで放置していたというリュウジの台詞に、新規傘下の彼女たちは肩を落としてしまった。
「「「「「(エルダー連合が勝てないわけだ)」」」」」
もう立っているステージが違うのだ。
それはその立場になって初めて気づく、そして気づいてしまえばその差に絶望すら覚えるものであった。
そんな彼女たちを歓迎しようと、一時的に攻略は中止になり、上り坂荘に氏族全体が集まることになった。
割と大きな庭に立食パーティー、となったわけだが、そこで珍妙な相談が持ち込まれた。
「私の熊ちゃんの一部が変なんですの」
まぁ、誰の相談なんかは知れたもの。
期待の新人「タカネ様」であった。
相談を受けたエルダー、リュウジは詳しく話を聞いてみたのだが要領を得ない。
そこで実際に見てみようという段階で影から召喚されたのは「熊」「皇帝熊」「シロクマ」であった。
「・・・つうか、タカネちゃん。いつのまにシロクマも配下に?」
「北に行きますと、必ずホイホイ集まってきますのよ? 私の配下に入りたいというのですから可愛いものですわ」
「「「「「へぇ・・・・」」」」」
内心がどこに向いているかは別にして、一応周辺全員が感心した、というかあきれた。
さすが「女(熊)皇帝」だ、と。
「で、どこが変なんだ? パラメータを見ても・・・って、ええ? 熊と皇帝熊に差があるのは良いけど、シロクマってこんなパラメータだったんだ」
「そうなんですの。見た目やオブジェクトは同じですのに、性格にも差があって。ものすごく違和感がありますの」
彼女が感じている違和感、それはテイムしなければわからない感覚であったが、逆にリュウジは疑問を感じた。
見た目のオブジェクトが同じなのに、パラメーター
や性格に差がある。
では、それを判別しているモノってなんだ? と。
瞬間、リュウジはひらめいた。
「ガンさん! なんかペンキっぽいものない!?」
「んっぁ? あるぞ?」
そう言って渡された各種ペンキから黒を出す。
そして待機状態のシロクマにべたべたと塗り始めた。
目の周りや肩口や、様々なところを。
そして出来上がった白黒模様は、ものすごく「大熊猫」であった。
だれもが、ああ「アレ」だ、と認識したところで変化が現れた。
伸ばされていた背筋が「ダラ」っとしてしまう。
引き締まった表情が「まったり」してしまう。
どこから取り出したのか「笹」をモシャモシャ。
自然に座り込み、ゴロゴロ。
誰が見ても「大熊猫」。
どこをどう見ても「大熊猫」。
タカネの指示にも「もっさり」動作で従う有様。
「りゅ、リュウジさん! これはどう言うことですの!?」
「いやぁ、予想外だわ、うん」
そう言いながらパラメーターを全員で見て驚いた。
それはシロクマのパラメーターを全体的に1/3にした感じであったが、魅力だけが何倍にもぶっちぎっていたから。
「いやはや、ものすごく『大熊猫』だわ」
げらげら笑うリュウジのとなりで怒りを露わにするタカネであったが、その方向性は妙な方向に進化した。
リボンをつけるとTS、性別が変化したり。
鎧の一部、兜をかぶせると騎士っぽくなったり。
しゃれで黒布で「忍」っぽくしたら、身体能力が跳ね上がったり。
これは面白いと盛り上がっているところで、タカネ様の怒りが爆発。
「私の可愛い熊ちゃんをおもちゃないしないでくださいませ!!」
そう言いながらも抱きしめているのが「大熊猫」であるあたり、熊好きでもいろいろと在るんだなぁ、と思わざるえないのであった。
引退氏族のゲームへの復活は、いわば対抗意識によるモノであったと言える。
現行氏族たちとの溝が明らかであり、その溝の中で蠢く引退氏族への不満というものがリアルにも大きな影響がでているため、「だったら現場に出てやろうじゃないか」という過敏な反応と言える。
現状のエルダー連合の礎ともいえる存在の復帰は、旧来のエルダー連合の形の復活となっただけで、何のプラスにもなっておらず、より頑迷さが進んだだけとも言える。
そんな頑迷な連合が、行動方針についての議論、いや足の引っ張り合いをしているところで、イヤなアナウンスが流れてしまった。
南迷宮の攻略完了である。
攻略氏族の名は「斜め下」。
これで始まりの町周辺のダンジョンすべての攻略が終了したと言えた。
そしてエルダー連合によって開発されたダンジョンは北迷宮のみ。
正直にいえば、あり得ない、と旧来の古参プレイヤーは絶望的な気分になっただろう。
しかし、最近の負け慣れたプレイヤーは「アイツらのところ、楽しそうだなぁ」程度の感覚になってしまっていた。
ふつうのゲームで在れば、「だったらあいつらのほうにいけばいいじゃねーか」という判断になる。
だが「ふれんず」における人間関係、ゲーム外でもつながる人間関係は並ではなく、そんな簡単な行為ですら不可能としている。
この時点で会議は紛糾した。
どれだけ少ない被害で活動範囲を広げるか、この話し合いはゲーム内時間で三日三晩行われたわけだが、そんな無駄な時間の中、朗報とも言える情報がきた。
「・・・封鎖峠の熊が、一匹も居なくなっています!!」
その報告に、エルダー連合始まって以来の大規模捜索隊が派遣され、そして封鎖峠を越えてしまった瞬間、その情報が正しいことを実感した。
そう、ここで初めて、エルダー連合は「国」を出ることに成功したのだ。
感涙する新旧氏族たち。
喜びで抱き合う者たち。
その感動は、熊の海を知るもの達にとって衝撃であり望外の者であった。
ただ、ただ一人、その感動から遠い場所に立っている復帰プレイヤーがいた。
「(この『女(熊)皇帝の母』って称号ってなにかしら?)」
「ふれんず」はつながっている。
それはゲーム内ばかりではなくリアルにも。
SNSやブログばかりではなく、リアルの血ですら。
「ふれんず」はつながっている。
というわけで、エルダー連合も閉鎖された空間から抜けましたw
というか、北にこだわらずに行ければよかったのですが、自分たちが攻略したルートに固執した結果、という流れです。
※2014/01/11 皇后 > 皇太后 > 女(熊)皇帝の母
もう面倒すぎて婉曲表現はやめました。
キャラクターの発言や内心表現の内容に関して言えば、正しい日本語ではなくノリと勢いを押しますので、修正には応じませんのでご了承ください。




