第三話
新年あけましておめでとうございますw
今年もよろしくお願いいたします。
がっくり落ち込んだおっさんはそのままに、人里の方向を聞くと、俺が目指そうとしていた方向だった。
「おっさん、ありがとな~」
「ちくしょ、お前のぼけを絶対につっこみ返したるからな!!」
とかみ合わない会話のしばらく後、結構大きな町に到着。
トメイナという町で、町にはいるための検査があった。
悪いことをしていないかとか、そう言う情報が確認できるようでわりと簡単なようだ。
で、俺の番。
「隣の国からきました。氏族『斜め下』のリュウジ。目的は熊の売買」
「「「「「ざわ!」」」」」
そのまま警備所に引っ張られました。
「と、隣の国というと、もしや、ダンジョンを抜けてかね?」
「いいえ、山越えの峠を越えてです」
「「「「「わーはっはっはっは!」」」」」
大爆笑の兵たちに、一応冒険者カードを見せた。
これは作った以降に倒されたモノが記載される。
そして指さす欄。
<熊48匹><大王熊12匹><皇帝熊5匹>
これを見せられては虚偽だ冗談だと笑えない。
急いで詰め所からギルドへ連絡が行き、ギルド職員から俺が本物の冒険者であり、ギルド登録員であることが認められた。
で、熊。
これがかなり高かった。
ふつうの熊が一体銀50枚。
大王熊が一体銀150枚
皇帝熊が一体金10枚
合計販売金額、金50枚、銀4200枚となった。
銀一枚5000円程度で換算すると銀で二億一千万円、金で五〇億ほどもって居ることになる。
手持ちは銀百枚だけにして、あとはギルド預金枠に入れた。
手持ちが多いと襲われるから、ねぇ。
ギルド預金枠も個人枠は金五枚と銀一〇〇枚だけにして、あとは氏族資金枠に入れた。
何かと要りような職種に就いた先輩用なんだが、これは完全な杞憂だったので後の説明は割愛。
これは俺自身のクラス「F」に見合わぬ行動として咎められたが、氏族を守る親としてはその程度の強さは必要とされ、ギルドランクの方で調整され、Sランカーにされてしまった。
氏族の親はその程度の力が必要なのだそうだ。
加えて、ギルドへ氏族資金から金三枚ほど与えたところ、劇的に対応が変わった。
王侯貴族を迎えるかごとくの対応で、なんだか気持ち悪かったので、ふつうの宿を近所の食堂で聞いてそこを拠点で活動することにした。
すると宿のオバチャンから、「氏族:斜め下御用達」の一筆がほしいというのでそれを与えると、泊まり料金が半額になり、食事も豪華になった。
どうやら、御用達宿になると国から補助金がでるらしい。
だったら、うちの仲間が来ると言うことで、逆にこっちが手を出させてもらった。
魔石魔法陣を使ったドンドン水がでる蛇口や、お風呂魔法湯船などを宿の敷地内に無理矢理露天風呂を作ったところ、オバチャンから大いに感謝され、王侯貴族の宿のようだと泊まり代を暫くただにしてくれるようになってしまった。
食事もリアルのレシピを一部解放して味を変えてもらったり、俺の自費で薬草を大量購入して食べるだけで体に良いメニューなんかも開発してもらった。
そんなこんなしているうちに、ゲーム内掲示板の内容が変わったことに気づいた。
現在の攻略状況。
北:北の迷宮 全100階層/35階層
南:南の迷宮 全1000階層/0階層
西:西の迷宮 全15階層/10階層
東:東の迷宮 全20階層/19階層
どうやら独占を放棄したらしい。
だったら、ちょっと攻めてみますか。
東の迷宮、逆うちを!!
※逆うち:四国などの霊所巡りを、逆方向で巡る事
つまり迷宮出口から攻めてみようという思惑
ダンジョンの出口と思われる遺跡は有名だったのですぐに見つけた。
ちょうど遺跡の真ん中に魔法陣があったが、不活性化していたので、まだ倒されていないのだろう。
遺跡内を細かく探してみると、どうやら山の中へと続く扉を発見。
ただし、門番付き。
敵の名は「銀角黒ウサギ」。
なんとなく、うちの弟子とウルウルしてる。
どうやら知り合いのようだ。
がっつりハグしあってなにか良くわからない言語で会話していた。
最後には、黒い方が俺に土下座。
さらに弟子まで土下座。
<テイム可能です。テイムしますか?>
というわけで、白い方は「弟子一号」に改名。
黒い方は「弟子二号」。
双方ともに喜んで「きゅ~♪」とかいって直立歩行で踊っている。
まぁよし、ということで、すすみ行くと、そこは金銀財宝の山であった。
なるほど、第一突破報酬の倉庫というわけか。
もちろん全部いただきますよ。
「弟子一号、弟子二号、かき集めるぞ!」
「「きゅ!」」
まるで猿顔の三世がバキュームカーで宝石店を襲うがごとくに財宝全部を回収すると、再び扉。
うむ、ということで、色々と試してみたが、開かなかった。
「何か知らないか、弟子二号?」
「きゅ~?」
知らない模様。
が、弟子一号が知っていた。
一部に肉球を押し込むと、その扉が開く。
「もしかして、ここの門番ってお前だったのか、弟子一号」
「きゅ~♪」
なるほどなるほど。
縁は奇なモノだな、うん。
開いた扉の向こうは通路で、曲がり角もなにもないものだった。
そしてその向こうでは、ぎゃーとか逃げろーとか回復はなにやってんのぉーとか叫び声が聞こえた。
なるほど、とうとうダンジョンのボスエリアまできたのか。
各氏族協力の下・・・・あれぇ?
「なぁ、弟子たちよ。少なくないか、人」
「「きゅ」」
コロセウム状態の主賓席から見下ろすと、とりあえず逃げ回っている人々が、5人。
で、装備の残り具合を見ると・・・・20人ぐらいが死に戻ってるのかなぁ?
敵はおよそ20m級のドラゴン。
ブレスを吐くけど飛ばないんだから、足下攻撃だよな?
一応ダメージバーがでてるけど、緑色、というかドラゴンにダメージはない。
あ、また死んだ。
これがデスゲームとからな助けにはいるけど、ねー?
「「きゅ」」
弟子たちと共にドラゴン掃討戦を眺めていたが、五分ほどで全員が消えた。
現装備品の一部を現場に落とすルールのため。色々と金銀財宝満載状態だったりする。
課金アイテムとかは持ち帰れるので、残っているのは金か通常以上品だけだろうけど。
ドラゴンは、敵が居るはずなのに見えないことに疑問を持って捜索している。
まぁ、この位置にいるとは思わないんだろうけど。
さて、弟子たちよ、参ろうか!
「「きゅ!」」
俺たちは翼を持たない巨大トカゲ「ドラゴン」に飛びかかった。
私たちが氏族「斜め下」のホームである「上り坂荘」に到着したときだった。
<おめでとうございます。氏族「斜め下」による東の迷宮攻略が完了しました>
こんなアナウンスが全キャラ通信で発表された。
いま、ホームにいるのは三人。
で、氏族は四人。
つまり・・・
「・・・ああ、お兄ちゃん、何かやったんだわ」
「絶対、ふつうの方法じゃないですよねぇ」
「あいつそう言うタイプだよな」
三人とも、同じ感想でした。
そんな三人の前にホーム転移してきたお兄ちゃん。
血みどろだけどダメージはない。
つまり、
「いやー、ドラゴン肉大量入荷!」
「「きゅ!!」」
角ウサギも増えてるし。
白い方が金角、黒い方が銀角。
どっちも激レア。
「お、おにーさん? えっと、東の迷宮は女神の鉄槌って氏族が独占してたんですけど?」
「昨日いきなり解放されたんで、逆うちした」
「逆うち?」
曰く、ダンジョンは新道トンネルと考えると旧道があったはずだと言うことで山中を突破して隣の国に行ったそうだ。
その時点で常識を越えている。
そのルートは当初考えられたが、大量の熊の出現に全滅が多発して、エルダー会議でダンジョンを最初に目指そうという方向で決まったのだ。
それを力業って、恐ろしいわ、頭脳系脳筋。
「じゃ、じゃぁ、もしかして、隣の町に拠点も作ったんですか、おにーさん」
「うん、ちょっといい感じの宿があったんで氏族御用達にしといたけど、いいよな?」
こうして、氏族「斜め下」は、斜め上の親によって隣の国にポータル移動できるようになりました。
・・・どうしよう、この無軌道ぶり。
エルダー規約ぶっちぎりって、やり過ぎじゃないのだろうか?
「なんだ、そのエルダー規約って?」
「「「え?」」」
なんとお兄ちゃん、エルダーなのにエルダー規約を知らないってもしかして!!
「入ってないの! エルダー連合!?」
「なにそれ?」
きたー、きましたよ、お兄ちゃんクオリティー。
色々とみんなが損しないためのルールを決めた話をしたら、鼻で笑われてしまった。
「それは、エルダーが有利になるためのルールだ。いらねーよ、そんなの」
「でも! 連合参加してないと、買い物も・・・」
「俺は隣の国で色々と面白いモノを買えたが?」
あ、と理解する。
攻略が進んでいなかった今までなら、この国の中で暗黙の了解が利いたけど、プレイヤーショップのない隣国では全く意味がないのだ。
うわー、こりゃエルダー会議から招集食らうぞ。
そう思ったところで、お兄ちゃんの目の前に紙の郵便。
そこにはエルダー連合への加入要請と召集状という名称がかかれていた。
「参加しねえって。そんなゲームのおもしろさを奪うような風紀委員に」
そう言って、連合加入拒否と召集状への拒否をサインして飛ばした。
「それよりもよぉ、ダンジョンなんて経験点の入らないところより山越えの熊狩り、こっちの方がおもしれーぞ」
にっこりほほえむ兄に、ものすごい殺意を感じた私だったが、それ以上に殺意を覚えている人たちはいるんだろうなぁ、と思うことにした。
ああ、女神の鉄槌の親、タカネ様。
怒ってるんだろうなー。
「く、熊かぁ・・・。いまのパラメーターなら確かに熊狩りは出来るな」
「そ、そうですね、熊アレルギーは治せる、そんな感じですよね」
ぐっと乗り気な二人を見て、私も熊狩りは燃えていた。
熊相手に勝利し続けると称号が得られると言うし。
「ああ、『ベアーズキラー』な?」
「さすがに山越えすると、その称号は得られるかぁ、いいな、お兄ちゃん」
「まぁ、倒すのはお前たちに任せるから、俺は血抜きとか処理を・・・」
ちょっとまった、お兄ちゃん!!
その血抜きってなに!?
「ああ? 倒した獲物が大きいとドロップまでの時間がかかるだろ?」
「・・・そうね、そう言う傾向があるわ」
「そう言う敵は、積極的に毛皮や肉なんかを実際の手法でバラすと、ドロップ以外でも大量にアイテムゲットできるんだぜ」
・・・そうか、そうだったんだ。
大物を狩りした後、あの時間ってそう言う事だったんだ。
正直、驚いた。
「だから、短剣術も解体術に進化するし、解体術から保存食なんかも作れるぞ」
・・・なんていうか、この「ふれんず」、今までにないほどに自由な遊び方があったんだ、と本気で感動した。
あ、もしかして・・・!
「お、お兄ちゃん、もしかして、この氏族ホームのダンジョンって・・・」
「ああ、クリアーしたぞ。わりと簡単で弟子一号だけでもクリアーできるけど、罠が楽しいな。あと、あそこと雰囲気がにてるよな、チュートリアルフィールド」
きました、きましたよ!
伝説の氏族用ダンジョン!!
この存在が発見されたのは、もちろん発売日その日。
しかし、発見から七日間以内に攻略しないとそのダンジョンが消えてしまうのだ。
私がプレイし始めた時にはすでに全ての氏族がダンジョンを持っていなかった。
が、さすが常識の斜め上をいくお兄ちゃんは、そのダンジョンを保持していたのだ。
なんというアドバンテージ。
「・・・じゃ、そろそろ熊狩り行くか?」
<氏族長より、クエストが発行されました>
<がんがん狩ろうぜ!! in 熊>
<成功報酬 : 熊販売の参加者頭割り>
<成功条件 : 生存状態での隣国到達>
<失敗条件 : 死に戻り>
<ペナルティー: セカンドクエスト「がんがん狩ろうぜ!! in 熊(一人旅)」への強制参加 >
「「「よっしゃ!!」」」
一人で行っただけで熊が80体以上出てきたというのだから、この人数だとどれだけ出てくるのやら。
「熊狩るツアーしゅっぱーつ」
結論から言おう、雲霞のごとく現れた熊に最初ビビった私たちの目の前にでたお兄ちゃんが、トンデモ格闘で言うところのマップ兵器を使用したおかげで冷静になれ、山中の熊が全滅したのではないだろうかと言うほど刈り尽くした。
私は、26連コンボからの26連コンボを繋ぎ、52連コンボという奇跡を体現した感動の方が大きかったけど、生産職のちーちゃんやガンさんが作った鉄球投げが怖かった。
やはり生産職でも腕力が必要なので見た目は別にして、普通以上の腕力を持っている二人が、ちーちゃんの身長の半分ほどの鉄球を投げて熊を圧殺する様は恐ろしかった。
なんか、こう、トラウマなんて知るかーみたいなノリで。
「ガンさんちーちゃん!」
「なんですか、おにーさん」「リュウジ、今良いところだ」
「もっと精度よく、売れる部位を破損しないように倒してください。圧殺はもってのほかです」
「「はーい」」
なんというか、視点が変だ。
「あと、妹」
え、私なんかあるの?
「肝臓が破損しますので、レバーブローは禁止です」
「がーーーん」
そんな進行をする後ろで、お兄ちゃんとその従魔「弟子一号」と「弟子二号」が黙々と熊を裁いているのがもっと怖いといえば怖い。
ともあれ、20頭もの皇帝熊を含めた千を越える熊たちとの死闘遊技は極めて順当に終わり、キャラリメイクしたのなんか信じられないほどの報酬がもたらされたのだった。
氏族名、「ベア☆」とかにした方がいいのではないかと思う私だった。
その空間は、ヒドく苛立ちにあふれていた。
そこには、数人の人間が円卓に座っており、誰もが平等である理念はあるが、楕円形であることとその頂点がある時点で階位があり、そして発言力に差がある証拠だろう。
「・・・つまり、氏族「斜め下」は連合参加はしないし、この召還にも応じないと言うことか」
氏族長代理で参加している私の発言に、頂点位置に座る女が「きーーーー」とか言ってる。
「私たちが弱らせて衰弱したドラゴンを横からかっさらった分際で、連合参加を蹴るとはなんと無礼な!!」
あー、私もその状況を見てたけど、飛ばないドラゴンに全滅するまで、全然ダメージ与えられてなかったじゃねーか。
パラメーターにも変化無かったし。
「よ、よ、弱らせる準備中に乱入されて・・・」
それはねーだろ?
お前等が全滅するまで待っていて、その全滅後10分待ちしてドラゴンのパラメーターは戻るのを待ってたぜ?
逆にお前さんたちは感謝すべきだろ?
あのボスフロアにおいて来ちゃならねぇアイテムを置いてきた奴らも多かったはずだぜ?
「「「「「・・・・」」」」」
そう、死に戻りすると、ランダムで装備アイテムがその場に残ってしまう。
それを狙ったPKも横行したが、エルダー連合議決でPK・MPKは即除名になっている。
親筋の得られないプレイヤーは、無料のセーブポイントすら無くなるので、事実上のアカウント制限と同じだ。
プレイヤーとしてその状況は負担が多すぎる。
だからPKやMPKが「ふれんず」には今まで無かったのだ。
逆に、自爆してる連中の装備なんか横取りすればいいのだが、そんな装備を、わざわざ氏族別に届けてくれたのだから感謝しない方がおかしい。
とはいえ、感謝や善行は人間性をあげ、死に戻りドロップを掠める行為は人間の信頼は落ちて行くので、この人間関係重視型ゲーム「ふれんず」では後者など向かない行動だろうだろう。
「・・・で、で、で、ですが! 我々エルダー連合に逆らうと言うことは、所属プレイヤーショップからの恩恵は得られないと言うことと同じ事!」
まぁ、プレイヤーメイドの品物は、町売りから見れば数段下だし、買い取りも同じ事だ。
しかし、連合に参加しなくてもプレイできる存在が現れた。
そう、新たなる親であった。
彼はID入手後、なぜかずっとチュートリアルと続けるという異常行動をとった後、始まりの町に登場。
そこで伝説に残るようなPvPを勝ち、恐ろしい違法(無許可改造)アイテムの摘発の原動力となった。
その影響で、一つの親筋が失われ、他の親筋への大量移動が発生し混乱したのは記憶に新しい。
「有利不利で言えば、不利だろうけど、向こうさんは『女神の鉄槌』が攻略できなかったドラゴンを、従魔を連れているとはいえソロで倒しているんだぜ? あまり強硬な姿勢を取るべきじゃないだろ?」
「そうは仰いますが! 現在安定している『ふれんず』社会に破壊をもたらすような混乱を起こそうという輩が現れましたのよ!? 是が非でも懲罰対象にすべきですわ!!」
賛成の声が周囲から巻き起こる。
そして、先ほどまでヒステリーを起こしていた女は笑う。
「で、どうしますの? 『氏族:破壊の剣』副長さん?」
はん、これが民主主義?
これはな、数の暴力って言うんだ。
ま、これで決定だな。
「・・・なにがですの?」
「『氏族:破壊の剣』は、エルダー連合を脱退する」
「「「「「なっ!」」」」」
まー、最近のめんどくせー会議にはイライラしてたんだよなぁ。
こっちは、そんな思いをしたくてゲームしてんじゃねーってんだ。
「そ、そんな、副長さんの権限でそんな決定は出来ませんわよ!?」
「完全委任状をもらってる。今日はログインできないってうちの親の話でな、その辺の判断も全部俺任せさ」
がたり、と席を立った後、一応言っておく。
「ま、PK禁止やMPK禁止は同意してやるけどな」
続きは、あしたw




