第二話
昨日に続いて第二話~
ともあれ、初心者で剣も装備していない徒手空拳で「初心者ねらいのファング」を下したと言うことで、彼は大いに目立ち、そして速攻でリアル割れしたのであった。
なにしろこの「ふれんず」、キャラエディットが出来ないから、リアルと全く同じ顔なのだ。
さらに言えば、学校や住宅地つながりで網の張られたフレンズでリアル割れなんか当たり前なのだが、今回は実に残念な方向に働いてしまった。
プレイヤー:リュウジ。
高円 竜二(高校1年)というリアルが。
まず、高校。
いきなり携帯で写真を撮られまくった。
なに、これ、いじめ? とか思ったら、リアル「リュージの朝」ということでソーシャルメディアに大量アップされたそうだ。
目の前の友人「神田渡辺」と言う変人にすら写メされた。
とはいえ、リアル割れ率90%のフレンズではよくあることだという。
そういえば、時々写メを集中されている人が居た気もするがそう言うことか、と納得。
「で、リュウジ。いつから始めてたんだよ」
「んー? 一週間前かなぁ」
従姉妹からIDをもらったことを話すと、なるほどな、と苦笑い。
「お前の親筋も大変だな。いきなりファング撃退なんて無茶をする子が入ってきたんじゃ」
親筋戦争だぜ、と肩をすくめる渡辺。
まぁ、訴えかけるべき親筋は居ませんので、どうなるかは知りませんけどねぇ、と内心思ったがまぁいいか。
まぁ、朝の加熱も一時間ほどするとほとぼりが冷めるようで、写メはなくなった。
ということで安心状態の俺を、想像だにしない衝撃がおそう。
今から弁当を食べようとした俺を訪ねて三年の先輩が来たというのだ。
だれだ、と視線を動かすと、そこには、こう、表現が難しいが形容できる存在が居た。
簡単に書きすぎると色々な問題があるので、軽く浅く表現しよう。
昭和バンガラ風山賊顔高校生。
いや、居るんだよ、目の前に!!
幻じゃないんだ!!
その上しゃべるんだよ!!
「あー、君が高円君で間違いないかな?」
「ええ、高円リュウジですが、なにか?」
警戒感がないわけじゃないが、このバンガラ、何となく暴力の香りがしないので気を抜いている。
「ちょっと謝りたいことがあるので、放課後時間をとらせてもらえないか?」
・・・どうやら昨日の続きがありそうです。
昭和バンガラ、いや岩谷岳生、って名と体がイコールな人は、なんと「初心者ねらいのファング」の元の親筋だそうだ。
彼がIDを渡して、そして色々と意見が合わなくなって親筋を向こうが変えたそうだ。
今回の騒動で「初心者ねらいのファング」はアカウント停止となり、再登録拒絶となったとか。
「初心者ねらいのファング」の子筋も同じ処置となり、会則が変わらない限り二度と「ふれんず」に関われない事になった。
ただのゲームだろ、と言う話もあるが、「ふれんず」を経由したソーシャルネットやブログも多く、アカウントの停止・登録拒否となれば、いわば村八分だ。
ブログなどを見るだけは出来る、そんな関係にまで引き離されたわけだ。
「元とはいえ、親筋から謝るのが筋だと思ってな」
苦笑いの岩谷先輩だったが、初期発行者の責任もあるという事で、親筋から絶縁されてしまったそうだ。
なんというか、個人主義日本かとおもっていたら事なかれ主義日本がネットを支配している様子。
先輩は生産系を中心にしているので、多少困りはするけど、ゲーム自体は続けるそうだ。
・・・・・
「じゃ、先輩。親筋をうちにしません?」
「あ?」
俺自身が「親ID」であり、色々と面白そうなプレイの可能性があることを打ち明けると、目をきらきらさせた先輩に、是非試させてくれと逆にお願いされた。
というわけで、家に帰ってから「子ID」を送信したところ、「しばらく『籠もる』ので、今持っているキャラクターのアイテムを預かって欲しい」と本気メールが来た。
始めてきてみたが、上り坂荘は、なんと小さな山の上にあった。
先輩も驚いたみたいだったが、おれは先輩のメインキャラに驚いた。
見た目ドアーフ、なのにエルフだというのだ。
この、体型詐欺!!
その見た目でPvPでは翻弄し、初見ゴロシが結構あるとか。
ともあれ、上り坂荘の倉庫に数千ものアイテムをパブリックスペースに置き、にこやかな笑顔でログオフしていった。
今度会うときには、氏族:斜め下 の仲間になってくれていると信じて。
「あら、お帰りなさい。リュウジさん」
「管理人さん、ただいま」
「みゅ!」
母性あふれる外見で、さらにこんな風に声をかけられれば、本気でほれてしまう。
アバターなのに、NPCなのに・・・。
・・・いや、あの乳に罪はない。
無罪決定!!
「今日はお夕食を食べていきますか?」
「はい、お願いします!!」
「では、焼き魚中心で、お弟子さんは野菜たっぷりですよ?」
「きゅ~~~~♪」
踊り喜ぶ弟子。
うんうん、まるで家族か夫婦かという感じでうれしいぜぇ。
さぁ、日曜の夕方のような雰囲気で、和もうぜぇ、と思っていたら、メールが来た。
リアルメールアドレスからの転送で、なんと相手は妹。
妹様はお友達が多く、色々な親筋から誘われたが、幼なじみで大親友と一緒に始めると言うことで我が母親が親筋になったのがどうにもおかしい。
俺の親筋にもなってくれよと頼んだら、色々と理由を付けられて拒絶された。
息子として見られていないに違いないと家族会議に持ち込んだが、父親曰く「お前リアルチートだし、普通のMMOでもやってなさい」という裁定が下された。
正直、涙をのんださ。
でも、他のゲームだってある、と言うことでゲームをしていても、だいたいみんな掛け持ちで「ふれんず」をやっているのが悔しかった。
というか、「ふれんず」始めるとリアルが充実するとかいってログオン自体が減るというのが俺の感覚だった。
悔しくないわい、という俺に妹様はこうおっしゃった。
「誰の親筋でもお兄ちゃんには『ふれんず』してほしくない」
な、なんと!? あんなにファンタジー系で一緒にプレイしたではないか!!
「・・・でも、フレンズは親筋ゲームでもあるの。だから・・・」
くぅ、俺の知らないゲー無感覚で説得しても理解できんわい!
ということで、半泣きになって自分の部屋に逃げ込んだ俺だったわけだが、そんな妹様、なんと俺が「ふれんず」を始めたのを知ってしまったようだ。
『どこにいるか教えて!』
これだけで通じると思っている妹も変だが、俺も理解できるので変化もしれない。
『一番新しい氏族拠点を探してみるがよい。ほっほっほっほっほ~』
程なく絶対にリアルではあり得ない髪型で登場したのは妹とその親友。
「・・・うわぁ、やっぱり斜め上にいってる」
「お兄さん、あのファングを垢バンにしたって本当ですか?」
俺を見てorzしてる妹はおいておいて、鶴見ちゃんには答える。
「ああ、正確には「初心者ねらいのファング」さんだ」
「うっわぁー、血も涙もない行為ですね」
「だって、初心者から全部奪おうっていうんだぜ? そりゃ痛い目にあってもらわないと」
俺の言葉に妹様は吠える。
「いきなりPvPで攻略プレイヤーを垢バンって、どんだけよ!! うちの氏族は大混乱よ!」
入会は母親の親筋だったが、今は大型ギルドの攻略最先端にいつとか。
努力家だな、妹。
「あと、始めたのが一週間以内なのに、何をどうしたらテイムモンスター、それも黄金角白兎なんてレアモノゲットできるのよ!! あと親筋は誰!?」
とりあえず、何故は氏族の秘密。
新人の育成方法やアイテムの機密保持何かは、基本的に氏族の秘密として囲い込むルールになっていることになっている、はずだ。
ただし、この氏族の親なら答えられる。
「この氏族『斜め下』の親は俺だ」
だだーーーーん、と格好付けたと思ったのに、なぜか妹様は「やっぱり」という顔だった。
「何故驚かない?」
「お兄ちゃんが『ふれんず』始められるとしたら、親スタートしかあり得ないもの」
地味に傷つきましたよ、妹様。
あと、鶴見ちゃん、マジ笑いは衝撃です。
おとなしい子で好みだったのに。
それにしてもあの「初心者ねらいのファング」さんは、妹さんの氏族だったのかい?
「氏族は別。でも前線では結構頼れた遊撃だったのよ」
「そーですねー、だから結構困ってますよ。おにーさん、責任とって前線にでてくれません?」
俺自身に責任があるかと言えば、無い。
これがデスゲームですって言うなら別だけど、あんなチャラ夫を頼りにする時点でダメでしょ。
いや、デスゲームじゃないからチャラ汚が前線にいたのか?
「でも、おにーさん。ふれんず で前衛遊撃って珍しいんですよ? タンクも居ないし」
「まぁ、痛くて経験値が入りにくいタンクは人気無いのよね、ふれんず だと」
うむ、ダメージをコントロールするのに、耐えるだけとは、君たちは何かね、マゾかね?
迎撃してもイイし、受け流してもいいのではないのか?
「「は?」」
まぁ、疑問を抱えて帰るがいいさ。
「ちょちょちょっとまって、お兄ちゃん!一つだけ確認させて。親として、親筋の祖としての立場わかってる?」
よくわからないことを言う妹に、俺は親指を立てて言い切った。
「全くわからないけど、おっけーさ!」
ばったり倒れた二人。
なんだ、疲れているのか?
VR疲労は深疲労だから、ゆっくり寝なくちゃダメだぞ?
「だーーーーー!! もうダメ、耐えられない。こうなるから『ふれんず』させずにいたのに! ああああもう、ごめんちーちゃん、わたし、今の親筋抜けるわ」
「わかってますよ。わたしもおにーさんの起こす混乱を間近で見てみたいですから、一緒ですよ」
がばっと起きあがって抱き合った二人は、何故か同時に俺に手をさしのべた。
「「子IDちょうだい!!」」
はいよー、二人前。
っていいのか? いまの攻略組抜けるのか?
「仕方ないでしょ!! エアクラッシュには定評のあるお兄ちゃんが入ってきたんだもん!! そばにいてコントロールしなきゃ!!」
そっかー、色々教えてくれよな?
「・・・教える前に爆発する気がするのは何でだと思う? ちーちゃん」
「積み重ねられた信頼関係と言うものですよ」
「だよねー」
とかなんとかそういうわけで、妹たちは氏族に縁切りにいくそうで、その後ログアウトするから待っていなくてもイイと言うことになった。
俺は、管理人さんの夕食を味わってから、自分の部屋でログアウトした。
翌日の放課後、妹と鶴見ちゃんに拉致されて、カラオケに閉じこめられた。
最近一人カラオケとかが流行っているらしく、一人の男性が多い中、女の子二人とカラオケって言う時点で嫉妬の視線が痛い。
で、ちょっと大きめな部屋で話すのは氏族の秘密。
大ざっぱに俺の秘密を話すと、ばったり倒れた鶴見ちゃんと目をきらきらさせてる妹。
「じゃ、じゃぁ、もしかして、私も26連HITとかできるぅ!?」
「うん、ただし、相手によるぞ? ノックバックによっては繋がらないから」
「でもいいの、でもいいの!! あれを対人で、PvPでできると考えただけで、これからの人生がどれだけ明るいか!!」
妹は結構な格闘ゲーマーだが、効率派でもあるので武器を手にするプレイスタイルらしいが、「トンデモ格闘」の内容を考えれば、妹が食いつかないわけがない。
で、鶴見ちゃん。
あのチュートリアルで又可愛い瞳で殺されるの待ちのウサギもどきに対面することにダメージを受けている模様。
でもあれ、絶対「最後」に倒せばいいだけだよなぁ。
「・・・どういうことですか、おにいさん」
俺の初めての子筋になった高校の先輩が居るんだけど、生産者プレイで、モンスターを倒さないで進める方法を、ずっと座り込んで考えていたどうだ。
「あ、しってます。背後から声がして『どうなさいましたか?』って聞くんですよね。で、効率的な殺し肩を延々と教えてくれるんですよ・・・」
それは、『あのウサギを見てると殺せなくて』みたいな答えをしていないかい?
「え、あ、はい」
「俺の先輩は『うむ、あのウサギの足下の岩が、どうも気になるので見つめていたのです』と答えたら、永延とそこら従にある岩の種類と見分けかたを教えてくれて、鑑定のスキルと鍛冶士のスキルと大量の鉱石が手に入ったと行ってるよ」
「「・・・え?」」
つまるところ、速攻で倒すと攻撃スキル。
で、問答にどう対応するかで又分岐があると思うのです。
これの検証には無茶苦茶大量なIDが必要なので完全検証はできませんが、あのチュートリアルには様々な要素がありませんか?
森があり、川があり、草花があり、恐ろしいほどの岩がごろごろしていて、小屋もあったりして、もう、いっぱい。
実はその小屋の中には鍛冶設備や調合設備もあって・・・・
「お兄さんそれ以上はイイです、理解しました。私が目指す道が見えました!!!」
がおーと腕を振り上げた鶴見ちゃん。
すでに興奮状態の妹。
一曲も歌ってないけど、もうでないと二人の興奮が収まらない。
「というわけで、とっととダイブしよ!!」
「はいです!!」
ダッシュで俺を引っ張ってゆく二人。
なんか面白いことになってきた気がする。
楽しい一週間だった。
氏族のチュートリアルフィールドは一緒らしく、ちーちゃんと私、そしてガンさんはチュートリアルフィールドという名の「精神と時の間」でチート修行していた。
だって、このフィールド、敵に攻撃レベル制限があるくせにこっちにはないものだから、一方的蹂躙になる。
だから出来ました! 26連コンボ!!
すかっとしたーしたなー、熊相手に。
正直、これで私のゲーム終わりでもイイかもとか思ったのは仕方ないだろうと思う。
で、ちーちゃん。
はじめはじっと目を凝らして森を疑視していたんだけど、そのうちに声が聞こえたので、こう答えた。
「森にいる、いや全てにいる何かが見える気がするんです」
こうして、ちーちゃんは「ふれんず」史上初となる精霊魔法術を取得。加えて精霊目や精霊語や精霊文字など様々なスキルを大量ゲットしたばかりか、鑑定も入手し、このチュートリアルフィールドの様々なモノがお宝の山であることを鑑定しきって、猛烈な勢いで採取を始めた。
調剤、調薬、錬金術、調理等々、恐ろしいほどの勢いでスキルを追加してゆくちーちゃん。
併せて、ポーションの自家製作記録Lv3を遙かに越えるLv8を叩きだし、ガンさんも大いに感動していた。
ガンさんは武具や防具や装具、あと服なんかを作る生産系だそうで、私が来てから素材に困らないとうれしそうに色々と作っていた。
三人でハイエナのように刈り尽くしたチュートリアルフィールドが、更地になった頃、背後から声が聞こえた。
『そろそろ、やめません? チュートリアル』
うん、勘弁してやる。
ということで、三人で短剣術を納めてチュートリアルを終了した。
正直、この一週間であげたレベルを考えると、お兄ちゃんが異常な理由がよく理解できた。
あと、攻略の最前線で、火力不足と防御力不足が表面化していてゲームバランスが悪いという点が何故なのかが良くわかった。
チュートリアルチートが前提って、あり得ませんから。
ともあれ、私たちは、明日から上り坂荘の住人となり、それぞれの攻略を進めることになるのだった。
もちろん、私たちが干渉できなかった一週間。
お兄ちゃんがじっとしているわけがなかったことを理解していなかった私はバカだった。
現在の攻略状況。
北:北の迷宮 全100階層/35階層
南:南の迷宮 全1000階層/0階層
西:西の迷宮 全15階層/10階層
東:東の迷宮 占有中 不明
というのが現在の進行状況らしい。
妹曰く、このゲームにグランドクエストがあるかどうかも不明だと言っていた。
妹の元居た親筋が、現在東の迷宮を独占しており、友好筋だけ入れる状態なので、俺には関係ない。
が、何となく、そっちに行ってみることにした。
たぶんなのだが、迷宮って、古代の地下通路で、それ以前の昔は山を越えていたのではないだろうか、と。
つうわけで、迷宮方面の道から分かれて、山村集落地帯へ進む。
時々出てくる熊は、魔物ではないのであまりレベルが高くないらしく、強制横スクロール格闘ゲーム状態で倒せているのが泣ける。
熊ゴロシを看板に立てても意味がないとは、格闘かとしての矜持が保てない気がする。
とりあえず血抜きして全部剥いでからアイテムボックスに入れているのだけれども、アイテムボックスで操作できないものか、試してみたが無理だった。
群れて出てくる熊を倒して全部血抜きしてから全部バラす。
なんか殺伐とした工場のような気がする。
ともあれ、最奥の村以降は獣道があるだけで何もないと言われていたが、俺には確信があった。
この山と山を縫うような獣道は昔道だったと。
マイルストーンぽい岩もあるし、草の生え方が違うし。
そうこうしていると、ほぼ峠の頂上と思われる部分にきた。
やはり人為的に切り開かれた後があるのを見れば、峠の山村があったのだろう。
下るに至っては、雑木林を縫うように直行で降りた。
道探しなんかするテンションではなく、もっとテンションがあがっていたからだ。
そう、胸突き八丁を越えた感動というか、自分の妄想が形になったというか。
そんな思いで突っ走ると、なんと普通の道にでた。
おおやった、山を越えた、そんな感動をかみしめる俺に鋸片手のおっさんが声をかけてきた。
「おめー、どこからきたんだ?」
「山の向こうだよおっさん」
するとおっさん、鋸を棒で叩きながら言う。
「おーまーえーはーあーほーかー! そんなこと出来るわけねーだろ!」
おっさん曰く、向こうの山は熊の群生地で、人が入ると次々と襲ってくるそうだ。
確かにいっぱい居たなー。
「って、まるで越えてきたみたいにいってんじゃねー!」
「いやね、熊の血抜きって結構大変で。でも脂身はうまいわ、肉付きはいいわでウマウマです」
「な、なんやとぉ!? あの凶悪な生物がうまいうやとぉ!?」
「生物の頂点に立つモノは、その栄養を全てかみしめるのです。そのさらに頂点をかみしめるのですから、おいしいのは当たり前です」
「・・・っは!? あかん、兄ちゃんの話に引き込まれてつっこみ忘れた。まだまだ修行がたりん」
続きは明日w
※色々と修正 2013/12/31




