新春番外編02「二個め」
本日に込めの更新です。
一個目を先にご覧ください。
今回はつぶれた、というよりも運営当初の意図をつぶした、という感じです
偽りの姿こそアバターの本質、というVRMMORPGがあった。
VRものだと基本的に等身大の自分を使用する場合が多い。
これは実際の自分との差が大きいと、動作上の違和感が本人にもアヴァターにも発生するからだ。
普段何気ない動作でも、男性女性太め細めで動きが違う。
自分に全く係わり合いのない体を手に入れると、その反応が不自然に成るのだ。
が、ゲーム内全体でそれを容認すればどうなるか?
格好のペルソナを得たと、大いに盛り上がる。
その予定であった。
が、現実はかくも虚ろなもので。
登録者のリアル性別が男性という参加者で溢れていたはずの空間なのに、実際にログインしてみるとそこは圧倒的に女性が多い空間になっていたりする。
言ってしまえば「ネカマ」の巣窟。
ぶっちゃけて言えば新宿歌舞伎町二丁目臭漂う異郷の地となった。
逆に、男性ばかりの地域が出来たが、そこはかとなく池袋のサンシャイン方面臭が漂っていたりする。
初めからTSVRMMOで売り出せばよかったのでは、という疑問が運営にもあったのだが、そのままの性別でログインして見た目だけ変更しているプレイヤーもいるので変身願望の一端であると誰もが信じようとした。
が、その思い込みは、急展開を迎える。
始まりはゲーム内結婚のシステムであった。
アイテムの共有やシステム内での土地購入、加えて経験値の上方修正は非常に好評で、かなりの結婚が進んだ。
が、この結婚。
ゲームアバターの性別で結婚をしたため、ネットの中で盛り上がった相手とリアルでも会いたくなってしまい、実際にあってしまうという悲劇が何件も起きた。
男同士、であればまだ幸せだ。
ゲーム内のこととネット内のことを切り分ければよいのだから。
まれに、同居したり、まれに生活を共にしたり、まれに養子縁組をしたりする人たちも居たそうだが、それは個人の自由意志の範囲であるだろう。
が、アバターの性別がそれぞれで異性、それも性別反転カップルであった場合、色々と問題が起きた。
結婚というネットの夢と、リアルの性別という現実が同時に同時に襲い掛かってきたのだ。
初めは恐慌、続いて暴走、そしてリアルゴールインするカップルやネットでも破局してしまうカップルや、周辺ネットユーザーをも巻き込んで空気を悪くさせるものたちも多く出現した。
TSネカマ男性プレイヤーを「キモイ」と断罪する、TSネナベ女子。
TSネナベ女性プレイヤーを「勘違い」と揶揄する、TSネカマ男子。
激化する感情と感情のたたき付け合いは、一人のプレイヤーによって鎮静化と激化の二局面になる。
彼、であった。
彼自身はTSしないで、老人プレイを楽しんでいた。
この老人キャラアバターは非常にリアルあふれる設定で、筋力や行動力に強力な制限が加わっていたり、視界が不良であったり聴力に問題があったりと猛烈に負荷のかかるものだった。
正直、レベルアップにもマイナス補正が付くようなキャラだったので、他の誰もプレイしていなかったのだが、彼は嬉々として超縛りプレイを楽しんでいたりなんかした。
そんな中、最近の街中の空気が悪いということで、色々と調べてみたのだが、どうやら人間関係に起因していると理解した。
リアルでは若輩者であるが、このゲームの中では老人である彼は考えた。
若者を導かなければならない、と。
其処で始めたのが「ギルド:結婚相談所」。
結婚相手を探すばかりではなく、結婚後の生活やリアル割れに関する問題などの相談を受けるという目的であった。
初めは余計なことを、という態度であったプレイヤーがほとんどであったが、時間が過ぎるにしたがって信用が上昇し、成婚していたカップルの組み換えや新規のネット成婚とリアル結婚が三軒ほど成立すると大人気ギルドになっていた。
流石に一人では裁ききれなくなったので、知人にも老人キャラでログインしてもらって処理を開始すると、かなりの確率でリアル成婚に至るという評判まで上がるようになってしまった。
そんなわけで、自由表現を売りにしたVRMMOが、いつの間にかリアルの生活での結婚を目的としたアバターで溢れる様になり、RPGの部分などおまけ程度、いや、リアルの相性を見るための訓練のようになってしまったという時点で、このゲームの本来の寿命は終わってしまったのだろう。
なんだか老人プレイに飽きたので、彼も基本業務の全てを運営に預けたのだが、当初のスタッフではなく、どこかの結婚相談所の社員のようなスタッフばかりになっていたのには彼も驚いたらしい。
これが二個め。
TSプレイを楽しんでいた衆には大破壊ですよねw




