「人生最後にホームランぐらい飛ばしてみたいよね」
冬が過ぎ、早々に春が来た。冬の間も例にも漏れずに“散歩”に付き合い続けた彼に藤島は最早呆れていた。
「いやー春だね。もう授業中に眠くて仕方がないよ」
「イナバって生物の時にここぞとばかりに寝るよね。嫌がらせ?」
生物の教科係である藤島は「因幡の居眠り癖はどうにかならんのか」と何かに付けて相談されるのである。大して仲も良くない自分に何故そのようなことを聞くのか。藤島はほとほと困り果てていたのだ。
「たまたまだって! ──話変わるけど、今日藤島さん体育のソフトボールで三塁守ってたよね」
「……それが何」
藤島は苦々しくそれに返答をする。今日の体育のソフトボールと言えば嫌な思い出しかなかった。むすっとした顔で彼の言葉を待つ。
「いや、フライ取り損ねて顔面直撃でっ、いったい!」
「うるさいイナバ。あなたこそ空振り三振だったじゃないの」
やはり見られていたのか、と藤島はほんのり顔が赤くなる。その羞恥のあまりに藤島は彼の足をげし、と容赦なく蹴った。
「──いやあ、人生最後にホームランぐらい飛ばしてみたいよね」
「てめーにはゴロがお似合いだ」
うわ、藤島さん辛辣。という彼の声が藤島の耳に入るが無視を貫き通した。