「レッサーパンダくらい可愛いよ」
枯れ葉が宙に舞う。パーカーだけでは少し肌寒い季節になってきた。藤島は背を震わせながら、真上で優しげな光をぽわぽわと照らしてくれる月のぬくもりを感じる。カシオペア座が北極星の斜め下に見える。それをぼんやりと眺めながら今日も彼は来るのだろう、と藤島は確信した。
「……藤島さん、上ばっかり見てると転けるよ?」
「イナバじゃないから」
やっぱり、と思いながら藤島は、今日も懲りもせず近寄ってきた彼に辛辣な言葉を投げつける。毎度のように邪魔に入る彼に見向きもせず、藤島は星座に魅入る。カシオペア座のほぼ真下にはペガスス座が。その中央には秋の四辺形が確認できた。それに目が向けられすぎていたのだろう。つま先が小石につまづきかけ、あっ、とどうにもならない声が藤島の口から漏れる。
「──ほら、言わんこっちゃない」
ぱしり、と隣を歩いていた彼に腕を掴まれた。彼の言ったとおり、転けたことに藤島は顔を赤くさせる。転びそうになるなんて何年ぶりだろう、と思いながら、ぼそりと彼に「ありがとう」と感謝の言葉を口にした。
「……イナバあったかいね。触っててもいい?」
腕に張り付いた手を引きはがし、藤島は彼の手首を自然に引き寄せる。その顔は満更でもないようにで、温かさを享受している。
彼自身もカットソーにジーンズという薄手の格好のため、藤島の温かさはすぐに伝わってくる。あったかー、とはにかむように笑う藤島に、彼は拍子抜けしたように返答した。
「何かさ、急に猫に懐かれたって言うか」
「は?」
急にデレるなよ、と彼はぷいっと横を向いた。その耳は赤く染まっており、顔はだらしなく緩んでいる。しかし鳥目の藤島はそんな彼の表情を見ることが出来ず、首を傾げた。
「レッサーパンダくらい可愛いよ」
「なにそれ。比較対象が微妙」
彼は藤島の手を繋ぎ直すこともできず、そのままなすがままにされていた。そのままどちらがともなく繋ぎ直すことは一度もなく。最後まで彼の耳は赤いままだった。