「舌を噛んで死んでしまえ」
「藤島さん、ちょっといい?」
「……何でしょうか、イナバくん」
彼女から再三強く言われ続けてこられた言葉がある。「学校では絶対絡んでこないで」。口下手に見える彼女だが、学校ではそれなりに友だちもおり、休み時間になれば楽しそうにお喋りをする姿もまあまあにある。
しかし因幡とは距離感を感じているようで。彼女はどちらかと言えばクラスでも地味なグループに所属しており、因幡は中心的なグループの輪に入っている。そのためあらぬ誤解をされたくはないのだろう。因幡はクラスでもかなり目立つ部類の人間なのだ。
「呼んでみただけ……って言うのは冗談で」
「早く言ってください」
夜と同じように軽いノリで冗談を口にしたら、彼女の張り付いた笑みがぴくぴくと痙攣した。口が「早くしろ」と忌々しげに動く。これ以上からかうのは流石に無理そうだ、と苦笑いした因幡は話題を切り出した。
「生物の実習プリント無くしちゃって。藤島さん、生物の教科連絡だからどこに余りあるか分かるかなって」
「……生物の棚の中に入れてあると思います」
「ありがとう」
因幡がにこりと微笑むと、彼女の張り付いた笑みが崩れて歪む。そしてそれを取りに彼女を横切ろうとすると、地の底から這い上がってきたような低い声がぼそりと因幡の耳を刺激した。
「舌を噛んで死んでしまえ」
驚いて振り返って彼女を見れば小さく中指を突き立てていた。可愛くない。