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月が綺麗な夜に、


 寒々とした空だった。少し欠けた月が浮かぶ、変哲のない風景。彼女は彼と最初に出会った時と、まったく同じ風体で一年ほど前までごく頻繁に歩いていた道を歩いていた。

 薄い氷が張っている道路。冷え込んだ夜の空気は彼女の肺を少し抉る。

 ちょうど一年前から伸ばし始めた髪の毛が風に揺れた。首筋に吹き付ける風に彼女は顔をしかめながらマフラーをたぐり寄せる。


「……誰が雪女だって言うのよ」


 ふと、彼が暴露したそれを思い出し彼女が淡く笑った。

 春が近いというのに、未だ雪がちらつくのだ。コートもブーツも仕舞い終えた後に訪れる、この急激な寒さはこたえるものがある。手袋も忘れ、指先がかじかんできた。はあ、と真っ白の息を吹きかけて暖を取る。何という不覚だろうか、彼女は後悔を感しながらゆっくりと歩む。

 そういえば、あの決意を固めた日も手袋を忘れたと思い出す。寒々しい、あのクリスマスが終わった頃。あの頃はクリスマスを楽しむ余裕などなく、先生に課された課題で悲鳴を上げながら過ごしていた。卒業式を終え、前期で受験を終えた彼女にはもう縁のないことだが。彼は既に受験を終えたのだろうか、それとも未だ奮闘しているのだろうか。気づけば在学中彼とメールアドレスを交換していなかった彼女に確かめる術などないのだ。諦めていつもより早く切り上げようとすると、後ろからかすかに自身の名前を呼ぶ声がする。一年前まではよく聞いていた、聞き慣れた声だ。彼女は思わず上がる口角を必死で宥めながら後ろを振り向く。









(またお会いしましょう)

end.

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