「このまま朝が来なければいいのに」
「あー、寒! 今ならオンナノコの皆さんが膝にブランケットかけてる気持ち分かる」
「……男子って寒くても制服とマフラーで寒さを凌ごうとしてるよね。イナバはマフラーさえもしてないし。馬鹿なの?」
ぶえっくしょん、と盛大なくしゃみをした因幡に彼女は軽蔑の視線を投げる。彼女はゆるりとした長袖のジャージに暗い色のコートとマフラー、そして手袋という重装備。その反面、因幡はどうにも防御力に欠ける紺色のジャージを裾いっぱいに伸ばしていた。チャックを首まで最大限に上げているが、それだけでは風を防ぎきれないのだろう。首を竦めて因幡は更に縮こまる。
「しかもこの頃、日出るの遅いからさ。朝起きるの辛いんだよね」
「それだけはイナバに同意する」
「……それだけ?!」
それだけ、と彼女が白い息を出しながら答える。さみーさみーと手先をしきりに摩擦する因幡に彼女は呆れながら晩秋の冴えきった夜空を見上げた。
「このまま朝がこなければいいのに」
起きるの辛いし。とぼそりと最後に言葉を付け足した彼女に因幡は内心どきり胸が鳴った。その表情があまりにも憂いを帯びているようで。
普段見せないその表情が変に頭にこびりつく。
「なに、イナバ。無言なのが一番気持ち悪いんだけど」
「藤島さんが俺と居るのが楽しいからそんな風に言ってくれたのかなあ、と」
「ほんとイナバってくだらないことしか言わないよね。その頭の中には木くずしか入ってないの?」
「わー、今日は藤島さんいつにも増して当たりがつよーい」
眉根を寄せ、冷たい声でぴしゃりと言い放った彼女に、因幡は苦笑いする。
「──また朝は来るよ。どんなに嫌でもさ」
分かってるよ、そう吐き出した彼女の表情は曇ったまま。その理由を因幡は知ることはなかった。




