寝ても覚めても
いつのまにか
ただ一度、見ただけのあの夢が離れなくなった
現実の事ではないのに、あの先がどうしても気になって寝る時間が遅くなる
これではまるで恋しているかのようだ。
そう思っておかしくて笑う。
どうせ夢なのだから続きなんてものはない
そして今日も眠れない。
剥いたリンゴを挿してある楊枝を無視して、今日も蒼白い手が素手でつかむ。
シャク。と齧られて顎が動いてる。
いつもなら最後の一口が飲み込まれるまで見つめているけれど、眠気が邪魔して
頭が重くて鈍くなる。
「珍しいね」
声に驚いて少し目が覚める。
「なにが?」
「奏が僕のより先に眠ろうとするなんて。久しぶりに見たよ」
「最近寝ていないの」
「そうかい。じゃあ、おやすみ」
「でも時間が惜しいわ、一緒にいるのに貴方が見れないなんて」
「じゃあ、抱きしめていてあげよう、そうしたら視界にはいなくとも感触はすべてぼくの物だ」
私の答えに満足したみたいで、目を細めて笑って両腕をこちらに向けて広げた。
強い引力が働いてるみたいに私は引き込まれて、彼の左手を握ると指と指を交互に割り込んで握られる。
その手の蒼白さとは対照的なこの陽気と同じ温度で安心感と愛しさでまた眠い。
「寝ないの?」
「貴方が寂しくなるんじゃないかと思って」
「大丈夫だよ。だって、奏でがいなくなることはあり得ないんだから」
「寝ている間さえ惜しいのに」
「大丈夫、ここにずっといるから」
大丈夫と繰り返す彼の心臓の音を聞いていたら、もうそこまで眠りに入りそうになる。
そして、ふと夢を思い出す。
あの最後に見た笑顔はもしかしたらこの人に似ていたのかもしれない。
「夢の中の人物は貴方だったのかしら」
「君の方が寂しがり屋なんだろうね」
「大丈夫って、何度も言ってくれて、もう、見えなくなってしまった。夢だから、その先が気になって、夜には考えて眠れなくなる」
もうほとんど暗闇の中に入ってうとうとしていたら、シャク。という音が聞こえて頭は引き戻された。
「おや、寝ないの?」
「だって、一緒に眠ると思っていたから、音がして驚いたわ」
「そうか、ならそれで良かったんじゃないか」
「怒っているの?」
質問に返事をしないでまたひと齧り歯を立てる。
全く訳もわからないまま無言でいると、林檎を食べ終えた口が薄く笑う。
「怒っているようにみえる?」
見えるからそう聞いたのだけれど、彼は聴き返してくる。
「君が眠いのは構わないんだよ」
「じゃあ、怒っているの?」
「僕以外を考えて君の時間を潰すなんて少し妬けてしまったというのはどうだろう」
「やっぱり貴方が寂しがり屋なのね」
眠気がすっかり飛んでしまってもう一度彼に抱きついた。
離した手が汗ばんでいて少し涼しく感じる。
「奏」
「なあに」
「夢の中で僕だったとしても、それは君の中の僕なんだ。ここの僕じゃない」
「ええ、もう考えるのはやめるの。だって私を悩ませるのはこの貴方だけでいいの」
「そうだろうね、僕だけが君を愛してあげるだけでいいんだ」
ああ、
やっぱり、あの人は夢だったけれどこの人なのかもしれない。
だって、こんなにも手の感触が似ている。