meet ~それは唐突に~
やたら行変えが多いですが悪しからず←
「……翔君、悠翔君!」
体がゆさゆさ揺れている。
今度は一体何なのだろう?
目を開け、突っ伏したまま顔だけを横に向け震源地を確認した。
「あ、やっと起きた? おはよ~」
そこにいたのは、よく知った少女だった。
「……お休み」
「ふぇっ、ち、ちょっと何でまた寝ちゃうの~! 起きてよ!」
「眠いんだ」
「それは3、4時限目の間ずっと寝てた人の発言じゃないと思うよ……」
そう言われて初めて、今が昼休みだという事に気づいた。
「ほらっ、みんな待ってると思うよ」
「わかった、わかったから」
幼なじみに手を引かれ、頭がはっきりしないまま、食堂まで連行されるのだった。
―――――――――――――――――――
頭がはっきりしたのは、結局食堂で昼食を注文し、いつもの席に座った頃だった。
しかし、時既に遅し
「ねえ、誠二?」
「なんだ?」
目の前の昼食を穴があくほどみた後、前の席にいる親友の1人、荒井誠二に訊く。
しっかり者で、まさに頼れる人。
体つきもよく、運動もなんなくこなす。
そんな常識人の誠二だからこそ訊くんだよ……っ。
「……これ、なんだと思う?」
「何って、蕎麦だろ?」
いたって冷静に返された!?
「いや、確かにそうなんだけど……」
上にコロッケが乗っている
そう、天ぷらではなくコロッケ
上にコロッケが乗っている蕎麦なんてないんじゃないのだろうか。
「なんでコロッケ……」
「それ、看板メニューらしいぞ? 確かアイデア募集したとか言ってたが」
「これで看板メニューって……」
出汁のせいでコロッケは見事にぐずぐず。
お世辞にも美味しそうには見えない。
ここの食堂のおばちゃんは一体どうなっているんだ。
「私の記憶が正しければ……」
その声は、自分から見て右前にいるもう1人の親友、西沢詩織のものだった。
「確か元ネタでも、それは不評だったような……」
「そんな情報いらなかったよ……」
ただでさえあまり食べたいと思ってないのに。
くそぅ、なんで僕は寝ぼけたまま食券買ったんだ!
というか、なんでその不評のメニューが看板……
「んで、その元ネタってなんなんだ?」
おっと、誠二がちょっと関心を寄せたみたいだ。
「あ、はい。野球ゲームなのですが……、やっぱりちょっと違いますかね?」
「はっきりしないな」
「だって、うなぎパイでバトルしたりしたりもしてますし……」
「それは……、どうなんだろうね」
「『それは逆にお前の方がうなぎパイに食われたということさ』という素晴らしい名言を残してたり」
「めちゃくちゃカオスだな……」
誠二が若干引いている。
僕も同じ気持ちだけど。
「何言ってるんですか。あれは名作です。泣きゲーなのです。」
憤慨してるようだけど、取り乱さず冷静に抗議をする。
冷静な分、余計に怖かったりする。
西沢さん、華奢だし、大和撫子という言葉がぴったりくる綺麗な人なんだけどなぁ……。
蓋を開ければ、俗に言うオタクだ。
主に、ゲーム……らしい。
というのも、本人談であり、深く追求するのはなんか怖いので、3年間友達としてつきあっている今でも詳細は不明だ。
まあ、それでもインドア派というわけではなく、運動神経が良く、意外にアグレッシブだったりする。
でもゲームか……、最近やる事ないし……。
「ねえ、西沢さん。今度そのゲーム貸してくれないかな?」
「はい喜んで、妃桜さん」
急に目をキラキラさせて頷く西沢さん。
「……チャレンジャーだな」
「それはどうも」
蕎麦を食べつつ投げやりにこたえる。
いい加減食べないと、のびてしまう。
「そういえば、立花は一緒じゃなかったのか?」
誠二がそんな事を聞いてくる。
今気づいたけど、誠二はおにぎり、西沢さんはサンドイッチ……なんだこの軽食組は。
「葵はもう少しで来ると思う、何買うか迷ってたみたいだし。」
「ところでですね、妃桜さん」
西沢さんの目が、怪しく輝く。
「……何かな?」
これは絶対によくない事が起こる前兆だ。
今まで何度やられてきたか考えたくもない。
今度は一体何を―
「そのメニューを提案したのは私ですよ」
「お前かーーーーっ!」
思わず叫んでしまった。
周りが何事かと、視線を向けてくる。
「何、何事なの~!?」
そんななか近づいてくるのが1人。
いつものほんわかした雰囲気なんてどこへやら、涙目になりながら駆け寄ってくる。
まるで世界が終わる宣告を受けたかのようだ。
実際そうなった場合に出くわした事がないからよくわからない、というか今後一切ないだろう。
「な、なんでもないよ、葵」
とりあえず取り繕う。
「ほ、本当に? あんなに大声で叫んでたのに?」
「いやまあ、取るに足らない事だったって思ってよ」
「そう? ならよかった~」
本当に安心したようにニコニコと顔を緩ませる。
いつもの5割増でほんわかした雰囲気になる。
「しかしまぁ」
誠二がニコニコとパフェ(これは昼飯なんかじゃないだろうという突っ込みは受け付けておりません)を頬張る葵を見てしみじみ言う。
「悠翔にこんな可愛い幼なじみがいたなんてなぁ」
「ふえ?」
「そうですね、特徴がない事が特徴な妃桜さんには勿体ないくらいです」
「散々な評価だね……」
言いたい事好き放題いってくれるよ本当に……
「そんな事ないよ」
苦笑いしている僕に向かって、葵はいつものように断言する。
「悠翔君は、誰にも負けないくらいいい子だよ」
「葵……、くすぐったいからそういうのは止めて……」
聞いてるこっちの方が恥ずかしくなる。
「あー、熱い熱い、相変わらず仲のよい事で」
手をパタパタしながら誠二は言った。
「当たり前だよ、だって私は悠翔君のお姉ちゃんなんだからね」
エヘンと胸を張った。
そんな葵に一言。
「……、頬にクリームついてるよ」
「ふぇぇぇ!?」
お姉ちゃんにはまだまだ遠いようだった。
―――――――――――――――――――
キーンコーンカーンコーン
「やっと終わった……」
「先に行ってるね」
「あっ、待ってよー」
最後の授業の終わりを知らせるチャイムが鳴り、辺りは一気に喧騒に包まれる。
それはもちろん、クラス……いや、ここの生徒の大半にとっては今からが本番だからだ。
ここ西城高校は全国有数のスポーツ校で、全校生徒の約2割を全国から優秀だった中学生を推薦で取っている。
さらに、設備が段違いにいいから部活動を中心に考える生徒が入学しにくる。
結果生徒の半分以上は部活が楽しみな人になるわけであって
「う~んっ! さてさて、私も行こうっと」
隣にいる葵(授業中は寝ていた)が、背筋を伸ばして立ち上がる。
「頑張ってね」
「うん、私頑張っちゃうよー!」
葵もその例に漏れない1人だ。
何をしているのかと言うと
「期待の星なんだよね、剣術部の?」
「えへへ、そんなに褒めても何も出ないんだよ?」
「葵の出すものには期待してないから大丈夫だよ」
「酷い!?」
剣術とは、最近一大ブームになっているスポーツだ。
「でもね~、私にはちょっと期待してる事があるんだよ~」
「?」
一体何を期待していると言うんだろうか。
「私はね~、悠翔君が剣術部に入ってくれればな~って。 そしたら、私はもっと頑張れる気がするんだっ」
ズキッ
「残念ながら、僕は帰宅部を退部する気はないよ?」
胸の痛みが走るけど、顔に出さないように僕は冗談めかして笑う。
「そっか~……」
葵は残念そうに肩を落とした。
でも直ぐに立ち直ったようで。
「よ~しっ、じゃあ悠翔くんの分まで思いっきり練習してくるね!」
「いってらっしゃい」
「うん!」
いつもののほほんとした雰囲気はどこへやら、目にもとまらぬ速さで教室を去っていった。
「やれやれ……」
ひとりごちに呟く
「ごめんね、葵……」
僕は
剣術は無理なんだ……
―――――――――――――――――――
葵と別れた後、僕は1人で帰路についていた。
誠二は柔道部、西沢さんは水泳部とみんなそれぞれ部活動に勤しんでいるので、必然的にこうなる。
ただ、寂寥感があるのは、1人でいるからではない。
「葵……」
久しぶりに再会した幼なじみ。
正直また会えるとは思ってもみなかった。
その人に、まだ自分は本当の事を言えていない……。
自分は……、自分は――
「きゃーーーっ!」
突然響き渡る悲鳴
案外近かったからだろうか、思わず走って悲鳴がした方へ走る。厄介事には関わらないでいようとは頭では思っていても、勝手に動いてしまう自分の性格が恨めしい。
やはりそこは近い所で、若い女性がへたりこんでいて、警官1人が倒れていた。
警官の方を確認したが、命に別状はなさそうだ。
「どうしました?」
「ひ、ひったくりです!」
彼女の指差した方向には、犯人と思われる男が遙か彼方にいて、人間とは思えない速度で走り去っていく。
その右手にはナイフらしきものがかろうじて見える。
だが、そのナイフは普通のとは似てもにつかない、透き通った緑色、まるでエメラルドのような色をしていた。
「アレは……、精錬鉱か……っ」
反射的に顔をしかめてしまった。
精錬鉱とは、個人差はあるものも、持っている人の身体能力を著しく上昇させる、まさに夢のような石の事だ。
最初の内は、軍事利用出来ないかと各国がこぞって研究したもので、大変注目を集めたものだった。
ただ、実際はそう甘いものではなかった。
この石、何故か近接武器として使えるようにならないと効果を発揮してくれないのだ。
しかも、持っている場合限定。流石にこれでは使い物にはならず、軍事利用は実現しなかった。
しかし、レザルトを使っての犯罪が発生するようになった。
いくら使い勝手が悪いと言っても、小型拳銃の弾ぐらいなら当たった所で対したダメージにもならず、ましてそれ相応の使い手なら弾自体を叩き落とすほどの動体視力をも得られる。
こんなに便利なものはない。
各国は早急にレザルトに規制をかけ、簡単には出回らないようにし、警察官にも同じものを携帯させ、事態に備えたが、それでも手を焼いている。
そこまで思い出して、辺りをみると近くにレザルトで作られたのだろう警棒が転がっていた。
持ってみると軽い。
万が一の怪我の事を考えて、最軽量化して、衝撃でこちらが潰れるようにしているはずなので、そう何回も叩ける代物ではない。
これには触りたくはなかった。
だけど
「くっ……」
迷ってる暇はなかった。
警棒を握りしめ、そして地面を蹴り、近くの"アパートの屋上"に飛び移った。
そこから、屋根づたいに犯人が逃げた方向へひたすら走る。
さっきは見失ったが、強化された視力は再び犯人の姿を捉えていた。
そこへめがけて一気に走る。
すると犯人は、追跡に気付いたのかそれともたまたまなのか、狭い路地裏に入っていった。
「くそっ」
その裏路地の入り口まで来たが、犯人の姿はない。
どうやら複雑に入り組んでいるようだ。
「もう一度上から……」
探すために、建物の上に跳ぶ。
と
「うわぁぁぁあ!?」
その前に今度は男の悲鳴が聞こえた。
疑問に思うよりも先に体が動いていた。
悲鳴を上げた方へと駆ける。
その場所は、存外近くだった。
そこには、男が倒れている。
それとは別に、もう1人、少女の姿があった。
「ふぅ、初任務コンプリートっ!」




