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結びの一番大横綱オンブバッタ山

作者: ユウコ徹
掲載日:2026/06/05

静かな少し田舎町の住宅街の中にある三軒立ち並んだ家。

 その三軒の家の真ん中の家の中のリビングでは、朝から録画した相撲番組を穏やかな六十代くらいの老父婦が見ていた。

 ワシは、その三軒の家を空から眺めていた。

 ワシの名前は、相撲仙人。

 老夫婦の相撲愛から出てくる暖かいオーラから生まれた者だ。

 ワシの姿は、スキンヘッドに白い髭を生やして白いマントを着ている。

 見た目通りの仙人姿だが少し丸顔で太っている。

 まあ、相撲愛のオーラから出てきたから太っているわな…笑。

 老夫婦の名前は、吉岡さん。

 吉岡さん夫妻は、いつも穏やかでおっとりとしている。

 朝は、吉岡さんのおばあさんが健康に良い手料理を吉岡さんのおじいさんに振る舞う。

 吉岡さんのおじいさんも嬉しそうに吉岡さんのおばあさんが作った手料理を食べていた。

 吉岡さん夫婦は、何不自由なく幸せな生活を送っていた。

 「うわー、凄いわー」

 吉岡さんのおばあさんがテレビ画面に映る相撲の取り組みに釘付けになって白熱した様子で見ていた。

 「本当だ!凄いな!」

 吉岡さんのおじいさんもテレビ画面に釘付けになって白熱した様子で見ていた。

 「さあ、吉岡さん夫婦!流石は、朝一番から落ち着いて堂々とした立ち振る舞い。まさしく、朝のリビングを静かに振る舞いながら静寂さを見せつけて、ミステリアスな雰囲気を醸し出す。まさにレジェンド横綱です!まさしくがっぷり四つの横綱相撲!」

 ワシは、吉岡さん夫婦が穏やかそうにリビングで相撲中継を見る姿に相撲実況風に解説した。

 ワシは、吉岡さん夫婦が相撲を見る姿が好きだ。

 穏やかで優しい吉岡さん夫婦が相撲を見る姿は、微笑ましく和やかせ幸せそうだからだ。

 ワシ自身も物凄く嬉しい気分になる。

 いやー、吉岡さん夫婦は、幸せそうだな。

 ただ、吉岡さん夫婦は一つだけ悩みがあった。

 それは、子供がいない事だ。

 吉岡さん夫婦には、子供がいない。

 その事は、夫婦間では言わないようにしていたが街中を歩いている時に子供連れの家族を見ると、少し羨ましくなり、切ない気持ちになっている時がある。

 しかし、吉岡さん夫婦は、その事を気にせず、夫婦円満な事を誇りに思っていた。

 「ハハハハハ。凄いわね。横綱は」

 「そうだな。横綱は、強いのが当たり前だ」

 吉岡さん夫婦は、嬉しそうにテレビ画面に映る相撲の取り組みを見て二人で話をしていた。

 「そうだわ。あなたお茶淹れましょうか?」

 吉岡さんのおばあさんが聞いた。

 「そうだな。淹れてくれ。後、饅頭食べたい」

 「饅頭?朝から食べたら太りますよ。昼ご飯過ぎてから食べましょう」

 吉岡さんのおばあさんが笑って言った。

 「そうだな。また太るな」

 吉岡のおじいさんが笑って言った。

 吉岡さん夫婦は、本当に仲良しの夫婦だった。

 良いなー。ワシもあんな女房欲しいな…。

 ワシは、吉岡さん夫婦を見ていると、自分の妻が欲しくなった。

 すると、吉岡さん夫婦の右隣の家のリビングでは騒がしそうにしていた。

 中年女性の金切り声が聞こえてきた。

 「ハハハハ。やはり、金切り山か」

 ワシは、くすりと笑って右隣の家のリビングの様子を空から見た。

 金切り山は、ワシが付けたしこ名だ。

 ちなみに、吉岡さん夫婦のしこ名は、穏やか山だ。


 「こらー!いつまで支度しているの!プリントの提出出来たの!ねぇ!聞いているの!鞄をテーブルの上に放ったらかししないで!早く片付けて!何をしているのよ!」

 吉岡さん夫婦の右隣の家の奥田さんの家では、奥田さんの奥さんが娘さんに金切り声を上げて中学生と高校生の娘二人に捲し立てた。

 奥田さんの奥さんは、目を吊り上げて鬼の形相をして、娘達に怒っていた。

 奥田さんの奥さんの声は、物凄く金切り声で耳の鼓膜が破けそうな勢いだ。

 「さあ!出ました!奥田さんの奥さんの激しい突っ張り!娘達に突き放すように金切り声を上げます。よ!流石金切り山!金切り山は、突っ張りが得意手です。奥田さんの奥さんは、突き押し相撲で相手を土俵に突き落として存在感を見せます!さあ!金切り声のように激しく突き押して、娘達を圧倒出来るか!」

 ワシは、相撲実況風に言った。

 「はい…ごめんないさい…」

 すると、高校生の娘さんは、縮こまって様子で母の金切り声の叱りに怯んでしまい、弱々しい声で謝った。

 「ごめんなさいって言うならちゃんとしなさい!寝るのも遅いし!毎日夜更かしばかりしてあんた達は!制服もリビングに散らかしっぱなし!もう毎日、毎日何回言わせるの!髪もちゃんと結ばずダラダラ起きてきて!一体何になるの!ねぇ!朝からダラダラして学校行く気あるの!ねぇ!ふざけているの!毎日、毎日、私の時間を奪って楽しいの!」

 「さあ!娘一人を土俵俵の外へと押し出した!流石金切り山!突き押し相撲で押し切った!しかしもう一人の娘が土俵俵ギリギリまで踏ん張っている!」

 ワシは、奥田さんの奥さんの激しい突き押しの怒りを熱く実況した。

 しかし、中学生の娘さんが金切り声で怒る母に対して睨み付けた。

 「何?その目は?」

 奥田さんの奥さんが睨み返して怒りを抑えた声で聞き返した。

 「私達の時間を奪っているのは、お母さんの方でしょ。いつもダラダラして昼寝ばかりして何もしないで」

 中学生の娘さんが睨み返して、強い口調で言い返した。

 「来たぞ!娘が突き返したぞ!このまま押し切れるか!」

 ワシは、感情が昂ぶり、熱狂するように実況した。

 すると、奥田さんの奥さんは、目をさらに吊り上げてまるで阿修羅像のような形相で口を大きく開けて激昂した。

 「何よ!毎日あんたの為に朝ご飯作っているのよ!そんな言い方どういう事よ!私だって、あんた達の生活費や学費の為に働いているのよ!ねぇ!親に向かってそんな事言って良いと思っているの!今日から自分で朝ご飯作りなさい!」

 そう言うと、奥田さんの奥さんは、娘達に背を向けて奥の和室の部屋に向かった。

 「出た!金切り山!突き返して、娘を土俵俵の外へと押し出した!凄い!突き押しの威力が凄まじい!突っ張りだけで勝ち上がる。まさに突き押し力士の貫禄!」

 ワシは、熱く実況した。

 「まあ、そんな事言うなよ。二人とも悪気はなかったのだから…」

 奥田さんの主人さんが弱気で控えめな口調で奥田さんの奥さんに声を掛けた。

 「もう、あなたは、娘に甘やかし過ぎなの!」

 奥田さんの奥さんが奥田のご主人さんに向かって金切り声で叫んで、奥の和室の部屋に籠もった。

 「出た!締めの突き出し!微動駄にせず、旦那を押し出した!旦那は、吹っ飛ぶように砂席まで突き出された!金切り山の取り組みは、終わりました!次はー」

 ワシは、吉岡さん夫婦の左隣の家を見た。

 ドスの効いた怒鳴り声が外からでも聞こえるようなくらい響いていた。

 金切り山とは、比較出来ないくらいの怒鳴り声だ。

 威圧感があり過ぎて、周囲を圧倒する迫力。

 「高波サーフィン山だな」

 ワシは、にやりと笑って吉岡さん夫婦の左隣の家を見た。

 高波サーフィン山もワシが付けたしこ名だ。


 「おい!こら!早くしろや!早くしろや!」

 家のリビングで小麦色に肌が焼けて金髪の目つきの鋭い、小柄だが筋肉質の体格をした三十代くらい男が二人の小学生くらいの息子にドスの効いた怒鳴り声を上げていた。

 男の名前は、この家の主人、山田さんだ。

 山田さんの主人さんは、今日は、有給休暇を取ってサーフィンに行く。

 小学生の二人の息子達も今日は父親と一緒にサーフィンに行く予定だった。

 山田さんのご主人さんは、二人の息子達の小学校の創立記年日の休みに合わせて有給休暇を取った。

 二人の息子さんは、サーフィンにあまり行きたくなかった。

 しかし、山田さんのご主人さんは、やたらと頑なに連れて行こうとしていた。

 理由は、自分が留守の時に息子達がリビングを散らかすのが嫌だったからそれを防ぐ為に連れて行こうとしたのだ。

 朝食も食べずまだ寝間着姿で行く用意が出来ていなかった。

 「…、お父さん…、今日は、家でゴロゴロしたいよ…。お願いだよ…」

 小学六年生の息子さんが目をこすって、眠たそうに言った。

 「そうだよ。家でゲームがしたい…」

 小学一年生の息子さんも目をこすって眠たそうに言った。

 「うるさい!お前らが家にいたら散らかるだろ!俺と来い!早くしろやー!」

 山田さんの主人さんが怒鳴り声を上げた。

 大迫力ある大声でまるでメガホンを使って声を出しているかのように家の外まで響いてきた。

 「さーて!出ました!高波サーフィン山のがっぷり四つ!息子達のまわしを掴んで上手を掴んで豪快に投げようとする!」

 ワシは、熱く実況した。

 「嫌だよ!今日は、家にいたい!家でゴロゴロしたい!」

 小学一年生の息子さんが足踏みして駄々を捏ねた。

 「僕もサーフィンなんて行きたくない!」

 小学六年生の息子さんも足踏みして駄々を捏ねた。

 すると、山田さんのご主人さんが火に油を注がれたかのごとく激しく怒り狂った。

 「おい!ごら!俺の言う事が聞けないのか!早くしろって言っているだろうが!早くしろ!早くしろって言っているだろうが!」

 山田さんの主人さんが激しく怒り狂いながら爆発するような怒鳴り声を上げた。

 「高波サーフィン山!二人の息子を豪快に上手で投げた!」

 ワシは、実況した。

 「うわーん!怖いよ!」

 小学一年生息子さんが泣き声を上げた。

 「おっと!ここで小学一年生の息子が下手投げで高波サーフィン山を投げ倒そうとする!高波サーフィン山苦しそうだ!投げ返せるか!」

 「うるせぇ!クソ野郎!死ね!」

 山田さんのご主人さんが罵声を浴びせた。

 「うわーん!嫌だ!うわーん!」

 小学一年生の息子さんがさらに泣き喚いて、二階の自分の部屋へと階段を上がって背を向けるように逃げて行った。

 「さーて!高波サーフィン山!息子一人が高波サーフィン山の四つを逃げるように踏ん張っている!高波サーフィン山の得意技上手投げが決まるか!水入りの時間が続きます!」

 

 すると、二階の寝室で寝ていた山田さんの奥さんが目をこすって、寝癖の付いた茶髪で長髪の髪を手で掻きながら、一階のリビングへと降りて来た。

 「ちょっと!静かにしてよね!朝から大きな声出さないでよ!」

 山田さんの奥さんが鬱陶しそうに苛立った様子に大声で言った。

 「うるさい!お前は黙っていろ!」

 山田さんのご主人さんが奥さんに大声で言い返した。

 「朝ご飯食べたの?」

 山田さんの奥さんが苛立って聞いた。

 「食べていないけど。何か?」

 山田さんのご主人さんが苛立って聞き返した。

 「作るけど、食べる?」

 山田さんの奥さんが押し殺した声で聞いた。

 「いらねぇよ。お前の作る飯は、不味いからよ」

 山田さんのご主人さんが呆れるように言った。

 「どういう事よ!今日のガソリン代だって私が出しているのよ!ねぇ!そんな言い方ないでしょ!」

 山田さんの奥さんが激しく金切り声で言い返した。

 「うるさい!お前なんてろくに働いていないだろ!安月給のパートの仕事していないだろ!」

 山田さんの主人さんが激しくドスの効いた怒鳴り声を上げた。

 「さあ!始まった!高波サーフィン山!激しく妻と四つ相撲を組んで土俵の外へとおし出そうとする!上手投げ決まるか!」

 ワシは、熱く実況した。

 「安月給のバイトって何よ!あんた何か安月給の土方じゃない!毎日、毎日、大した稼ぎもないくせに、酒ばっかり飲んで、好きなサーフィン行って。子供達を無理やり連れて行って、父親失格じゃない!」

 山田さんの奥さんが激しく言い返した。

 「何だと!この野郎!」

 山田さんの主人さんが奥さんに頬を平手打ちした。

 乾いた音がリビングに響き渡った。

 その瞬間、顔を歪めて辛そうに床に座り込んだ。

 その様子を小学六年生の息子さんが呆然とした様子で見ていた。

 「出ました!高波サーフィン山!豪快に投げ飛ばした!上手投げが決まりました!」

 ワシは、熱く実況した。

 そして、山田さんのご主人さんは、階段を上がって一階の部屋にこもっている小学一年生の息子さんを部屋から引き摺り出して、引っ張って行った。

 「嫌だ!嫌だ!行きたくない!」

 小学一年生の息子さんが泣き喚いていた。

 「早く来い!着替える準備しろ!」

 山田さんのご主人さんが大声を上げて、息子達に支度の準備をするように促した。

 「さあ、早く…」

 小学六年生の息子さんが小学一年生の弟の肩を叩いて、出掛けるように促した。

 小学一年生の息子さんは、嫌嫌ながらも着替えて、出掛ける準備を始めた。

 そして、息子二人は、家を出て、駐車場に停めている車の前に立った。

 「早く来い!早く乗れ!」

 山田さんのご主人さんが息子達に車に乗るように急かした。

 しかし、息子達は、なかなか車に乗ろうとせず戸惑った様子で立ち尽くしていた。

 「何をしている?早くしろや!」

 山田さんのご主人さんは、なかなか息子達が車に乗らないのに苛立って声を上げた。

 「お母さん、大丈夫かな?」

 小学六年生の息子さんが家を指差して言った。

 「ほっとけ!」

 山田さんの主人さんが鬱陶しそうに声を上げた。

 「でも…」

 小学六年生の息子さんが躊躇った様子で言った。

 小学一年生の息子さんも泣き顔になっていた。

 「うるせぇ!早く乗れ!乗れ!乗れ!乗れ!」

 山田さんのご主人さんが激昂した。

 まるで雷が落ちたような衝撃の怒り方だった。

 山田さんのご主人さんの怒鳴り声が周囲の家々に響き渡っていた。

 そして、息子達は、怯えた様子で車に乗り込んだ。

 そして、山田さんのご主人さんは、サーフボードを車のトランクに入れて、運転席に乗り込んで車を走らせた。

 「さーて!高波サーフィン山!豪快に高波のごとく左右に投げて、豪快に上手投げで決めた!流石は、上手投げの力士!上手投げで妻と息子達を土俵の上に叩き落とします!この力士は、金切り山よりも強い力士です!この力士に勝てる力士はいるのでしょうか!豪快な高波のごとく破天荒な高波サーフィン山!今場所の殊勲賞確定的です!高波サーフィン山と金切り山と穏やか山は、今場所無敗続きです!果たしてこの力士に土を付ける力士はいるのでしょうか!」

 ワシは、熱弁するように実況した。

 すると、吉岡さん夫婦が心配そうに家を出て、山田さんの家を見た。

 「大丈夫かしらね?あなた」

 吉岡さんのおばあさんが心配そうにおじいさんの方を見て聞いた。

 「そうだな…。ちょっと心配だけどな…。山田さんのご主人さんいつも怒っているな…」

 吉岡さんのおじいさんが苦笑いして言った。

 「そうね…。何でいつも怒っているのかしらね…」

 吉岡さんのおばあさんが険しい様子で言った。

 「そうだな。まあ、よく分からんけどな。まあ、静かにしていてくれると良いが…」

 吉岡さんのおじいさんが苦笑いして、頷いた。

 「そうね。それより、相撲の続き見ましょう」

 吉岡さんのおばあさんがおじいさんの気を紛らわすように微笑んで言った。

 「そうだな。そうしよう」

 吉岡さんのおじいさんが微笑んで頷いて、おばあさんと一緒に家の中に入って戻った。

 「いや、吉岡さん夫婦は、仲が良くて良いな。あれくらい仲良しの円満家族が一番理想的だ。流石は、穏やか山。力士の鏡だ。しかし、それに比べて、金切り山と高波サーフィン山は、冷静さがない。力しかないのか。

 全く…。吉岡さん夫婦も優しさだけではなく力があればもっと良い力士になれると思うけどな…。横綱の家族は誰だろうか…?

 まだワシの相撲の家族番付の横綱はいないな…。出来れば、吉岡さん夫婦が横綱になって欲しいけど、ちょっと優しすぎるかな…」

 ワシは、ブツブツと悩ましそうに独り言を言っていた。


 翌日の昼、奥田さんの一家と吉岡さん夫婦と山田さんの一家が各家の前に出て来た。

 ワシは、ぼんやりとした様子で見ていた。

 奥田さん一家と山田さん一家は、やけに険しい様子だった。

 奥田さんの奥さんとご主人さんと高校生の娘さんが中学生の娘さんと向かい合っていた。

 中学生の娘さんは、リュックサックを背負っていて、母を睨み付けていた。

 「もう出て行くから」

 中学生の娘さんがきっぱりと言った。

 「どこに出て行くの?」

 奥田さんの奥さんが苛立って聞いた。

 「どこでも良いでしょ!」

 中学生の娘さんが鬱陶しそうに声を上げた。

 「どこに行くの!待ちなさい!」

 奥田さんの奥さんが金切り声で叫んだ。

 「出ました!金切り山の突き押し!娘に突き返されても金切り声のような鋭い突き押しを披露したぞ!さあ!どうなる!」

 ワシは、熱く実況した。

 「うるさい!死ね!ババア!」

 中学生の娘さんが罵声を浴びせた。

 「出ました!娘さんの激しい突き返し!どうなる!俵越しまで押されていたが押し返した!」

 “パチーン!”

 乾いた音が鳴った。

 すると、奥田の奥さんが中学生の娘さんの頬を平手打ちした。

 「出た!金切り山!豪華な張り手が決まりました!」

 ワシは、熱く実況した。

 その様子を吉岡さん夫婦が心配そうに見ていた。

 高校生の娘さんとご主人さんも心配そうに見ていた。

 奥田さんの奥さんもやり過ぎたというような顔をしていた。

 すると、奥田さんの奥さんと中学生の娘さんの周りに背にバッタを乗せたバッタのオンブバッタが飛び回りました。

 中学生の娘さんと奥田さんの奥さんがふと見ました。

 そして、二人の表情が穏やかになりました。

 「さっきは、ごめんね…」

 奥田さんの奥さんが小さく頭を下げて謝りました。

 「良いよ…私の方こそ言い過ぎたわ…」

 中学生の娘さんも笑顔で首を横に振りました。

 「良かったです。これからも仲良くして下さいね」

 吉岡さんのおばあさんが笑顔で言った。

 吉岡さんのおじいさんも笑顔で頷いた。

 すると、もう一方の山田さんのご主人さんは、奥さんと二人の息子達に罵声を浴びせていた。

 「待ちやがれ!どこに行く!」

 山田さんのご主人さんは、ドスの効いた怒鳴り声を上げていました。

 「もう、一緒に暮らせないわ!」

 山田さんの奥さんがスーツケースを手に持って、二人の息子達を連れて出て行こうとしました。

 「待ちやがれ!待ちやがれ!勝手に出て行くなや!金置いて行け!今までお前らを養った金を返せ!」

 山田さんのご主人さんが奥さんの手を掴んで激しく振り上げました。

 「出た!高波サーフィン山の豪快な上手投げ!得意の上手で廻しをがっちり掴んで上手投げを決められるか!」

 ワシは、熱く実況した。

 「止めて!離して!離して!離して!触らないで!」

 山田さんの奥さんが金切り声を上げて、悲痛そうな叫び声を上げていた。

 「出た!奥さんも下手投げで応戦する!下手投げを決められるか!」

 ワシは、熱く実況した。

 その様子を奥田さん一家と吉岡さん夫婦が心配そうに見ていた。

 「お父さん!離して!」

 「離してお父さん!」

 二人の息子達が顔を歪めて懇願するように声を上げた。

 「うるせぇ!」

 山田さんのご主人さんは、拳で奥さんを殴り倒しました。

 そして、続けて息子達も殴っていきました。

 「高波サーフィン山!奥さんと息子達を上手投げで豪快に投げ飛ばしました!しかし、殴ってはいけません!禁じ手です!」

 ワシは、怒りを抑えながら実況した。

 オンブバッタは、山田さんの主人さんの頭に乗った。

 「うわ!汚い虫だ!」

 山田さんの主人さんが顔をしかめてオンブバッタを手で払い除けた。

 すると、無数のオンブバッタが家の前の茂みから出て来て跳ね回り、山田さんのご主人さんの体全体を覆い尽くして、激しい竜巻のような風を起こした。

 「うわー!辞めろ!」

 山田さんのご主人さんが悲鳴を上げた。

 すると、少し経つと、風は、静かに止んだ。

 山田さんのご主人さんを覆っていた無数のオンブバッタは、家の前の茂みに入っていった。

 一匹のオンブバッタだけは、地面に付いて残っていた。

 山田さんのご主人さんは、抜け殻のような表情になっていた。

 そして、家の前に背を向けてゆっくりと歩いて立ち去ろうとした。

 「…どこに行くのですか?」

 吉岡さんのおじいさんが聞いた。

 「俺が出て行きます…」

 山田さんのご主人さんは、か細い弱々しい声で言って静かに立ち去った。

 すると、吉岡さん夫婦の周りをオンブバッタが飛び跳ねた。

 吉岡さんのおばあさんは、オンブバッタを掌に乗せた。

 吉岡さん夫婦は、微笑ましそうにオンブバッタを見ていた。

 「子供がいなくても幸せね…」

 吉岡さんの奥さんが切ない眼差しながらも嬉しそうにオンブバッタを見て言った。

 「ああ…」

 吉岡さんのおじいさんが微笑ましそうにオンブバッタを見て言った。

 奥田さん一家と山田さん一家も微笑ましそうにオンブバッタを見ていた。

 「それじゃあ、お腹空いたからちゃんこ鍋食べます?私が作りますわ!」

 吉岡さんのおばあさんは、気合いが入ったような元気な声で言って、奥田さん一家と山田さん一家を見て聞いた。

 奥田さん一家も山田さん一家も笑顔で頷いた。

 「ゴッちゃんです!」

 奥田さん一家と山田さん一家が嬉しそうに一斉に言った。

 オンブバッタは、飛び跳ねて茂みの方へと入って行った。

 「さあーて、本日結びの一番の優勝決定戦を制して、リビング大相撲幕内最高優勝をしたのは、小結の金切り山、関脇の高波サーフィン山!大関の穏やか山を堂々たる横綱相撲で勝利した大横綱オンブバッタ山!皆様盛大な拍手をして下さい!」

 ワシは、実況してオンブバッタ山を称えた。

 すると、リビングで吉岡さん夫婦と奥田さん一家と山田さん一家が楽しそうに話しながらちゃんこ鍋を食べていると、家の庭で大横綱オンブバッタが優勝した嬉しさを表現するかのように高く飛び跳ねていた。

静かな少し田舎町の住宅街の中にある三軒立ち並んだ家。

 その三軒の家の真ん中の家の中のリビングでは、朝から録画した相撲番組を穏やかな六十代くらいの老父婦が見ていた。

 ワシは、その三軒の家を空から眺めていた。

 ワシの名前は、相撲仙人。

 老夫婦の相撲愛から出てくる暖かいオーラから生まれた者だ。

 ワシの姿は、スキンヘッドに白い髭を生やして白いマントを着ている。

 見た目通りの仙人姿だが少し丸顔で太っている。

 まあ、相撲愛のオーラから出てきたから太っているわな…笑。

 老夫婦の名前は、吉岡さん。

 吉岡さん夫妻は、いつも穏やかでおっとりとしている。

 朝は、吉岡さんのおばあさんが健康に良い手料理を吉岡さんのおじいさんに振る舞う。

 吉岡さんのおじいさんも嬉しそうに吉岡さんのおばあさんが作った手料理を食べていた。

 吉岡さん夫婦は、何不自由なく幸せな生活を送っていた。

 「うわー、凄いわー」

 吉岡さんのおばあさんがテレビ画面に映る相撲の取り組みに釘付けになって白熱した様子で見ていた。

 「本当だ!凄いな!」

 吉岡さんのおじいさんもテレビ画面に釘付けになって白熱した様子で見ていた。

 「さあ、吉岡さん夫婦!流石は、朝一番から落ち着いて堂々とした立ち振る舞い。まさしく、朝のリビングを静かに振る舞いながら静寂さを見せつけて、ミステリアスな雰囲気を醸し出す。まさにレジェンド横綱です!まさしくがっぷり四つの横綱相撲!」

 ワシは、吉岡さん夫婦が穏やかそうにリビングで相撲中継を見る姿に相撲実況風に解説した。

 ワシは、吉岡さん夫婦が相撲を見る姿が好きだ。

 穏やかで優しい吉岡さん夫婦が相撲を見る姿は、微笑ましく和やかせ幸せそうだからだ。

 ワシ自身も物凄く嬉しい気分になる。

 いやー、吉岡さん夫婦は、幸せそうだな。

 ただ、吉岡さん夫婦は一つだけ悩みがあった。

 それは、子供がいない事だ。

 吉岡さん夫婦には、子供がいない。

 その事は、夫婦間では言わないようにしていたが街中を歩いている時に子供連れの家族を見ると、少し羨ましくなり、切ない気持ちになっている時がある。

 しかし、吉岡さん夫婦は、その事を気にせず、夫婦円満な事を誇りに思っていた。

 「ハハハハハ。凄いわね。横綱は」

 「そうだな。横綱は、強いのが当たり前だ」

 吉岡さん夫婦は、嬉しそうにテレビ画面に映る相撲の取り組みを見て二人で話をしていた。

 「そうだわ。あなたお茶淹れましょうか?」

 吉岡さんのおばあさんが聞いた。

 「そうだな。淹れてくれ。後、饅頭食べたい」

 「饅頭?朝から食べたら太りますよ。昼ご飯過ぎてから食べましょう」

 吉岡さんのおばあさんが笑って言った。

 「そうだな。また太るな」

 吉岡のおじいさんが笑って言った。

 吉岡さん夫婦は、本当に仲良しの夫婦だった。

 良いなー。ワシもあんな女房欲しいな…。

 ワシは、吉岡さん夫婦を見ていると、自分の妻が欲しくなった。

 すると、吉岡さん夫婦の右隣の家のリビングでは騒がしそうにしていた。

 中年女性の金切り声が聞こえてきた。

 「ハハハハ。やはり、金切り山か」

 ワシは、くすりと笑って右隣の家のリビングの様子を空から見た。

 金切り山は、ワシが付けたしこ名だ。

 ちなみに、吉岡さん夫婦のしこ名は、穏やか山だ。


 「こらー!いつまで支度しているの!プリントの提出出来たの!ねぇ!聞いているの!鞄をテーブルの上に放ったらかししないで!早く片付けて!何をしているのよ!」

 吉岡さん夫婦の右隣の家の奥田さんの家では、奥田さんの奥さんが娘さんに金切り声を上げて中学生と高校生の娘二人に捲し立てた。

 奥田さんの奥さんは、目を吊り上げて鬼の形相をして、娘達に怒っていた。

 奥田さんの奥さんの声は、物凄く金切り声で耳の鼓膜が破けそうな勢いだ。

 「さあ!出ました!奥田さんの奥さんの激しい突っ張り!娘達に突き放すように金切り声を上げます。よ!流石金切り山!金切り山は、突っ張りが得意手です。奥田さんの奥さんは、突き押し相撲で相手を土俵に突き落として存在感を見せます!さあ!金切り声のように激しく突き押して、娘達を圧倒出来るか!」

 ワシは、相撲実況風に言った。

 「はい…ごめんないさい…」

 すると、高校生の娘さんは、縮こまって様子で母の金切り声の叱りに怯んでしまい、弱々しい声で謝った。

 「ごめんなさいって言うならちゃんとしなさい!寝るのも遅いし!毎日夜更かしばかりしてあんた達は!制服もリビングに散らかしっぱなし!もう毎日、毎日何回言わせるの!髪もちゃんと結ばずダラダラ起きてきて!一体何になるの!ねぇ!朝からダラダラして学校行く気あるの!ねぇ!ふざけているの!毎日、毎日、私の時間を奪って楽しいの!」

 「さあ!娘一人を土俵俵の外へと押し出した!流石金切り山!突き押し相撲で押し切った!しかしもう一人の娘が土俵俵ギリギリまで踏ん張っている!」

 ワシは、奥田さんの奥さんの激しい突き押しの怒りを熱く実況した。

 しかし、中学生の娘さんが金切り声で怒る母に対して睨み付けた。

 「何?その目は?」

 奥田さんの奥さんが睨み返して怒りを抑えた声で聞き返した。

 「私達の時間を奪っているのは、お母さんの方でしょ。いつもダラダラして昼寝ばかりして何もしないで」

 中学生の娘さんが睨み返して、強い口調で言い返した。

 「来たぞ!娘が突き返したぞ!このまま押し切れるか!」

 ワシは、感情が昂ぶり、熱狂するように実況した。

 すると、奥田さんの奥さんは、目をさらに吊り上げてまるで阿修羅像のような形相で口を大きく開けて激昂した。

 「何よ!毎日あんたの為に朝ご飯作っているのよ!そんな言い方どういう事よ!私だって、あんた達の生活費や学費の為に働いているのよ!ねぇ!親に向かってそんな事言って良いと思っているの!今日から自分で朝ご飯作りなさい!」

 そう言うと、奥田さんの奥さんは、娘達に背を向けて奥の和室の部屋に向かった。

 「出た!金切り山!突き返して、娘を土俵俵の外へと押し出した!凄い!突き押しの威力が凄まじい!突っ張りだけで勝ち上がる。まさに突き押し力士の貫禄!」

 ワシは、熱く実況した。

 「まあ、そんな事言うなよ。二人とも悪気はなかったのだから…」

 奥田さんの主人さんが弱気で控えめな口調で奥田さんの奥さんに声を掛けた。

 「もう、あなたは、娘に甘やかし過ぎなの!」

 奥田さんの奥さんが奥田のご主人さんに向かって金切り声で叫んで、奥の和室の部屋に籠もった。

 「出た!締めの突き出し!微動駄にせず、旦那を押し出した!旦那は、吹っ飛ぶように砂席まで突き出された!金切り山の取り組みは、終わりました!次はー」

 ワシは、吉岡さん夫婦の左隣の家を見た。

 ドスの効いた怒鳴り声が外からでも聞こえるようなくらい響いていた。

 金切り山とは、比較出来ないくらいの怒鳴り声だ。

 威圧感があり過ぎて、周囲を圧倒する迫力。

 「高波サーフィン山だな」

 ワシは、にやりと笑って吉岡さん夫婦の左隣の家を見た。

 高波サーフィン山もワシが付けたしこ名だ。


 「おい!こら!早くしろや!早くしろや!」

 家のリビングで小麦色に肌が焼けて金髪の目つきの鋭い、小柄だが筋肉質の体格をした三十代くらい男が二人の小学生くらいの息子にドスの効いた怒鳴り声を上げていた。

 男の名前は、この家の主人、山田さんだ。

 山田さんの主人さんは、今日は、有給休暇を取ってサーフィンに行く。

 小学生の二人の息子達も今日は父親と一緒にサーフィンに行く予定だった。

 山田さんのご主人さんは、二人の息子達の小学校の創立記年日の休みに合わせて有給休暇を取った。

 二人の息子さんは、サーフィンにあまり行きたくなかった。

 しかし、山田さんのご主人さんは、やたらと頑なに連れて行こうとしていた。

 理由は、自分が留守の時に息子達がリビングを散らかすのが嫌だったからそれを防ぐ為に連れて行こうとしたのだ。

 朝食も食べずまだ寝間着姿で行く用意が出来ていなかった。

 「…、お父さん…、今日は、家でゴロゴロしたいよ…。お願いだよ…」

 小学六年生の息子さんが目をこすって、眠たそうに言った。

 「そうだよ。家でゲームがしたい…」

 小学一年生の息子さんも目をこすって眠たそうに言った。

 「うるさい!お前らが家にいたら散らかるだろ!俺と来い!早くしろやー!」

 山田さんの主人さんが怒鳴り声を上げた。

 大迫力ある大声でまるでメガホンを使って声を出しているかのように家の外まで響いてきた。

 「さーて!出ました!高波サーフィン山のがっぷり四つ!息子達のまわしを掴んで上手を掴んで豪快に投げようとする!」

 ワシは、熱く実況した。

 「嫌だよ!今日は、家にいたい!家でゴロゴロしたい!」

 小学一年生の息子さんが足踏みして駄々を捏ねた。

 「僕もサーフィンなんて行きたくない!」

 小学六年生の息子さんも足踏みして駄々を捏ねた。

 すると、山田さんのご主人さんが火に油を注がれたかのごとく激しく怒り狂った。

 「おい!ごら!俺の言う事が聞けないのか!早くしろって言っているだろうが!早くしろ!早くしろって言っているだろうが!」

 山田さんの主人さんが激しく怒り狂いながら爆発するような怒鳴り声を上げた。

 「高波サーフィン山!二人の息子を豪快に上手で投げた!」

 ワシは、実況した。

 「うわーん!怖いよ!」

 小学一年生息子さんが泣き声を上げた。

 「おっと!ここで小学一年生の息子が下手投げで高波サーフィン山を投げ倒そうとする!高波サーフィン山苦しそうだ!投げ返せるか!」

 「うるせぇ!クソ野郎!死ね!」

 山田さんのご主人さんが罵声を浴びせた。

 「うわーん!嫌だ!うわーん!」

 小学一年生の息子さんがさらに泣き喚いて、二階の自分の部屋へと階段を上がって背を向けるように逃げて行った。

 「さーて!高波サーフィン山!息子一人が高波サーフィン山の四つを逃げるように踏ん張っている!高波サーフィン山の得意技上手投げが決まるか!水入りの時間が続きます!」

 

 すると、二階の寝室で寝ていた山田さんの奥さんが目をこすって、寝癖の付いた茶髪で長髪の髪を手で掻きながら、一階のリビングへと降りて来た。

 「ちょっと!静かにしてよね!朝から大きな声出さないでよ!」

 山田さんの奥さんが鬱陶しそうに苛立った様子に大声で言った。

 「うるさい!お前は黙っていろ!」

 山田さんのご主人さんが奥さんに大声で言い返した。

 「朝ご飯食べたの?」

 山田さんの奥さんが苛立って聞いた。

 「食べていないけど。何か?」

 山田さんのご主人さんが苛立って聞き返した。

 「作るけど、食べる?」

 山田さんの奥さんが押し殺した声で聞いた。

 「いらねぇよ。お前の作る飯は、不味いからよ」

 山田さんのご主人さんが呆れるように言った。

 「どういう事よ!今日のガソリン代だって私が出しているのよ!ねぇ!そんな言い方ないでしょ!」

 山田さんの奥さんが激しく金切り声で言い返した。

 「うるさい!お前なんてろくに働いていないだろ!安月給のパートの仕事していないだろ!」

 山田さんの主人さんが激しくドスの効いた怒鳴り声を上げた。

 「さあ!始まった!高波サーフィン山!激しく妻と四つ相撲を組んで土俵の外へとおし出そうとする!上手投げ決まるか!」

 ワシは、熱く実況した。

 「安月給のバイトって何よ!あんた何か安月給の土方じゃない!毎日、毎日、大した稼ぎもないくせに、酒ばっかり飲んで、好きなサーフィン行って。子供達を無理やり連れて行って、父親失格じゃない!」

 山田さんの奥さんが激しく言い返した。

 「何だと!この野郎!」

 山田さんの主人さんが奥さんに頬を平手打ちした。

 乾いた音がリビングに響き渡った。

 その瞬間、顔を歪めて辛そうに床に座り込んだ。

 その様子を小学六年生の息子さんが呆然とした様子で見ていた。

 「出ました!高波サーフィン山!豪快に投げ飛ばした!上手投げが決まりました!」

 ワシは、熱く実況した。

 そして、山田さんのご主人さんは、階段を上がって一階の部屋にこもっている小学一年生の息子さんを部屋から引き摺り出して、引っ張って行った。

 「嫌だ!嫌だ!行きたくない!」

 小学一年生の息子さんが泣き喚いていた。

 「早く来い!着替える準備しろ!」

 山田さんのご主人さんが大声を上げて、息子達に支度の準備をするように促した。

 「さあ、早く…」

 小学六年生の息子さんが小学一年生の弟の肩を叩いて、出掛けるように促した。

 小学一年生の息子さんは、嫌嫌ながらも着替えて、出掛ける準備を始めた。

 そして、息子二人は、家を出て、駐車場に停めている車の前に立った。

 「早く来い!早く乗れ!」

 山田さんのご主人さんが息子達に車に乗るように急かした。

 しかし、息子達は、なかなか車に乗ろうとせず戸惑った様子で立ち尽くしていた。

 「何をしている?早くしろや!」

 山田さんのご主人さんは、なかなか息子達が車に乗らないのに苛立って声を上げた。

 「お母さん、大丈夫かな?」

 小学六年生の息子さんが家を指差して言った。

 「ほっとけ!」

 山田さんの主人さんが鬱陶しそうに声を上げた。

 「でも…」

 小学六年生の息子さんが躊躇った様子で言った。

 小学一年生の息子さんも泣き顔になっていた。

 「うるせぇ!早く乗れ!乗れ!乗れ!乗れ!」

 山田さんのご主人さんが激昂した。

 まるで雷が落ちたような衝撃の怒り方だった。

 山田さんのご主人さんの怒鳴り声が周囲の家々に響き渡っていた。

 そして、息子達は、怯えた様子で車に乗り込んだ。

 そして、山田さんのご主人さんは、サーフボードを車のトランクに入れて、運転席に乗り込んで車を走らせた。

 「さーて!高波サーフィン山!豪快に高波のごとく左右に投げて、豪快に上手投げで決めた!流石は、上手投げの力士!上手投げで妻と息子達を土俵の上に叩き落とします!この力士は、金切り山よりも強い力士です!この力士に勝てる力士はいるのでしょうか!豪快な高波のごとく破天荒な高波サーフィン山!今場所の殊勲賞確定的です!高波サーフィン山と金切り山と穏やか山は、今場所無敗続きです!果たしてこの力士に土を付ける力士はいるのでしょうか!」

 ワシは、熱弁するように実況した。

 すると、吉岡さん夫婦が心配そうに家を出て、山田さんの家を見た。

 「大丈夫かしらね?あなた」

 吉岡さんのおばあさんが心配そうにおじいさんの方を見て聞いた。

 「そうだな…。ちょっと心配だけどな…。山田さんのご主人さんいつも怒っているな…」

 吉岡さんのおじいさんが苦笑いして言った。

 「そうね…。何でいつも怒っているのかしらね…」

 吉岡さんのおばあさんが険しい様子で言った。

 「そうだな。まあ、よく分からんけどな。まあ、静かにしていてくれると良いが…」

 吉岡さんのおじいさんが苦笑いして、頷いた。

 「そうね。それより、相撲の続き見ましょう」

 吉岡さんのおばあさんがおじいさんの気を紛らわすように微笑んで言った。

 「そうだな。そうしよう」

 吉岡さんのおじいさんが微笑んで頷いて、おばあさんと一緒に家の中に入って戻った。

 「いや、吉岡さん夫婦は、仲が良くて良いな。あれくらい仲良しの円満家族が一番理想的だ。流石は、穏やか山。力士の鏡だ。しかし、それに比べて、金切り山と高波サーフィン山は、冷静さがない。力しかないのか。

 全く…。吉岡さん夫婦も優しさだけではなく力があればもっと良い力士になれると思うけどな…。横綱の家族は誰だろうか…?

 まだワシの相撲の家族番付の横綱はいないな…。出来れば、吉岡さん夫婦が横綱になって欲しいけど、ちょっと優しすぎるかな…」

 ワシは、ブツブツと悩ましそうに独り言を言っていた。


 翌日の昼、奥田さんの一家と吉岡さん夫婦と山田さんの一家が各家の前に出て来た。

 ワシは、ぼんやりとした様子で見ていた。

 奥田さん一家と山田さん一家は、やけに険しい様子だった。

 奥田さんの奥さんとご主人さんと高校生の娘さんが中学生の娘さんと向かい合っていた。

 中学生の娘さんは、リュックサックを背負っていて、母を睨み付けていた。

 「もう出て行くから」

 中学生の娘さんがきっぱりと言った。

 「どこに出て行くの?」

 奥田さんの奥さんが苛立って聞いた。

 「どこでも良いでしょ!」

 中学生の娘さんが鬱陶しそうに声を上げた。

 「どこに行くの!待ちなさい!」

 奥田さんの奥さんが金切り声で叫んだ。

 「出ました!金切り山の突き押し!娘に突き返されても金切り声のような鋭い突き押しを披露したぞ!さあ!どうなる!」

 ワシは、熱く実況した。

 「うるさい!死ね!ババア!」

 中学生の娘さんが罵声を浴びせた。

 「出ました!娘さんの激しい突き返し!どうなる!俵越しまで押されていたが押し返した!」

 “パチーン!”

 乾いた音が鳴った。

 すると、奥田の奥さんが中学生の娘さんの頬を平手打ちした。

 「出た!金切り山!豪華な張り手が決まりました!」

 ワシは、熱く実況した。

 その様子を吉岡さん夫婦が心配そうに見ていた。

 高校生の娘さんとご主人さんも心配そうに見ていた。

 奥田さんの奥さんもやり過ぎたというような顔をしていた。

 すると、奥田さんの奥さんと中学生の娘さんの周りに背にバッタを乗せたバッタのオンブバッタが飛び回りました。

 中学生の娘さんと奥田さんの奥さんがふと見ました。

 そして、二人の表情が穏やかになりました。

 「さっきは、ごめんね…」

 奥田さんの奥さんが小さく頭を下げて謝りました。

 「良いよ…私の方こそ言い過ぎたわ…」

 中学生の娘さんも笑顔で首を横に振りました。

 「良かったです。これからも仲良くして下さいね」

 吉岡さんのおばあさんが笑顔で言った。

 吉岡さんのおじいさんも笑顔で頷いた。

 すると、もう一方の山田さんのご主人さんは、奥さんと二人の息子達に罵声を浴びせていた。

 「待ちやがれ!どこに行く!」

 山田さんのご主人さんは、ドスの効いた怒鳴り声を上げていました。

 「もう、一緒に暮らせないわ!」

 山田さんの奥さんがスーツケースを手に持って、二人の息子達を連れて出て行こうとしました。

 「待ちやがれ!待ちやがれ!勝手に出て行くなや!金置いて行け!今までお前らを養った金を返せ!」

 山田さんのご主人さんが奥さんの手を掴んで激しく振り上げました。

 「出た!高波サーフィン山の豪快な上手投げ!得意の上手で廻しをがっちり掴んで上手投げを決められるか!」

 ワシは、熱く実況した。

 「止めて!離して!離して!離して!触らないで!」

 山田さんの奥さんが金切り声を上げて、悲痛そうな叫び声を上げていた。

 「出た!奥さんも下手投げで応戦する!下手投げを決められるか!」

 ワシは、熱く実況した。

 その様子を奥田さん一家と吉岡さん夫婦が心配そうに見ていた。

 「お父さん!離して!」

 「離してお父さん!」

 二人の息子達が顔を歪めて懇願するように声を上げた。

 「うるせぇ!」

 山田さんのご主人さんは、拳で奥さんを殴り倒しました。

 そして、続けて息子達も殴っていきました。

 「高波サーフィン山!奥さんと息子達を上手投げで豪快に投げ飛ばしました!しかし、殴ってはいけません!禁じ手です!」

 ワシは、怒りを抑えながら実況した。

 オンブバッタは、山田さんの主人さんの頭に乗った。

 「うわ!汚い虫だ!」

 山田さんの主人さんが顔をしかめてオンブバッタを手で払い除けた。

 すると、無数のオンブバッタが家の前の茂みから出て来て跳ね回り、山田さんのご主人さんの体全体を覆い尽くして、激しい竜巻のような風を起こした。

 「うわー!辞めろ!」

 山田さんのご主人さんが悲鳴を上げた。

 すると、少し経つと、風は、静かに止んだ。

 山田さんのご主人さんを覆っていた無数のオンブバッタは、家の前の茂みに入っていった。

 一匹のオンブバッタだけは、地面に付いて残っていた。

 山田さんのご主人さんは、抜け殻のような表情になっていた。

 そして、家の前に背を向けてゆっくりと歩いて立ち去ろうとした。

 「…どこに行くのですか?」

 吉岡さんのおじいさんが聞いた。

 「俺が出て行きます…」

 山田さんのご主人さんは、か細い弱々しい声で言って静かに立ち去った。

 すると、吉岡さん夫婦の周りをオンブバッタが飛び跳ねた。

 吉岡さんのおばあさんは、オンブバッタを掌に乗せた。

 吉岡さん夫婦は、微笑ましそうにオンブバッタを見ていた。

 「子供がいなくても幸せね…」

 吉岡さんの奥さんが切ない眼差しながらも嬉しそうにオンブバッタを見て言った。

 「ああ…」

 吉岡さんのおじいさんが微笑ましそうにオンブバッタを見て言った。

 奥田さん一家と山田さん一家も微笑ましそうにオンブバッタを見ていた。

 「それじゃあ、お腹空いたからちゃんこ鍋食べます?私が作りますわ!」

 吉岡さんのおばあさんは、気合いが入ったような元気な声で言って、奥田さん一家と山田さん一家を見て聞いた。

 奥田さん一家も山田さん一家も笑顔で頷いた。

 「ゴッちゃんです!」

 奥田さん一家と山田さん一家が嬉しそうに一斉に言った。

 オンブバッタは、飛び跳ねて茂みの方へと入って行った。

 「さあーて、本日結びの一番の優勝決定戦を制して、リビング大相撲幕内最高優勝をしたのは、小結の金切り山、関脇の高波サーフィン山!大関の穏やか山を堂々たる横綱相撲で勝利した大横綱オンブバッタ山!皆様盛大な拍手をして下さい!」

 ワシは、実況してオンブバッタ山を称えた。

 すると、リビングで吉岡さん夫婦と奥田さん一家と山田さん一家が楽しそうに話しながらちゃんこ鍋を食べていると、家の庭で大横綱オンブバッタが優勝した嬉しさを表現するかのように高く飛び跳ねていた。

静かな少し田舎町の住宅街の中にある三軒立ち並んだ家。

 その三軒の家の真ん中の家の中のリビングでは、朝から録画した相撲番組を穏やかな六十代くらいの老父婦が見ていた。

 ワシは、その三軒の家を空から眺めていた。

 ワシの名前は、相撲仙人。

 老夫婦の相撲愛から出てくる暖かいオーラから生まれた者だ。

 ワシの姿は、スキンヘッドに白い髭を生やして白いマントを着ている。

 見た目通りの仙人姿だが少し丸顔で太っている。

 まあ、相撲愛のオーラから出てきたから太っているわな…笑。

 老夫婦の名前は、吉岡さん。

 吉岡さん夫妻は、いつも穏やかでおっとりとしている。

 朝は、吉岡さんのおばあさんが健康に良い手料理を吉岡さんのおじいさんに振る舞う。

 吉岡さんのおじいさんも嬉しそうに吉岡さんのおばあさんが作った手料理を食べていた。

 吉岡さん夫婦は、何不自由なく幸せな生活を送っていた。

 「うわー、凄いわー」

 吉岡さんのおばあさんがテレビ画面に映る相撲の取り組みに釘付けになって白熱した様子で見ていた。

 「本当だ!凄いな!」

 吉岡さんのおじいさんもテレビ画面に釘付けになって白熱した様子で見ていた。

 「さあ、吉岡さん夫婦!流石は、朝一番から落ち着いて堂々とした立ち振る舞い。まさしく、朝のリビングを静かに振る舞いながら静寂さを見せつけて、ミステリアスな雰囲気を醸し出す。まさにレジェンド横綱です!まさしくがっぷり四つの横綱相撲!」

 ワシは、吉岡さん夫婦が穏やかそうにリビングで相撲中継を見る姿に相撲実況風に解説した。

 ワシは、吉岡さん夫婦が相撲を見る姿が好きだ。

 穏やかで優しい吉岡さん夫婦が相撲を見る姿は、微笑ましく和やかせ幸せそうだからだ。

 ワシ自身も物凄く嬉しい気分になる。

 いやー、吉岡さん夫婦は、幸せそうだな。

 ただ、吉岡さん夫婦は一つだけ悩みがあった。

 それは、子供がいない事だ。

 吉岡さん夫婦には、子供がいない。

 その事は、夫婦間では言わないようにしていたが街中を歩いている時に子供連れの家族を見ると、少し羨ましくなり、切ない気持ちになっている時がある。

 しかし、吉岡さん夫婦は、その事を気にせず、夫婦円満な事を誇りに思っていた。

 「ハハハハハ。凄いわね。横綱は」

 「そうだな。横綱は、強いのが当たり前だ」

 吉岡さん夫婦は、嬉しそうにテレビ画面に映る相撲の取り組みを見て二人で話をしていた。

 「そうだわ。あなたお茶淹れましょうか?」

 吉岡さんのおばあさんが聞いた。

 「そうだな。淹れてくれ。後、饅頭食べたい」

 「饅頭?朝から食べたら太りますよ。昼ご飯過ぎてから食べましょう」

 吉岡さんのおばあさんが笑って言った。

 「そうだな。また太るな」

 吉岡のおじいさんが笑って言った。

 吉岡さん夫婦は、本当に仲良しの夫婦だった。

 良いなー。ワシもあんな女房欲しいな…。

 ワシは、吉岡さん夫婦を見ていると、自分の妻が欲しくなった。

 すると、吉岡さん夫婦の右隣の家のリビングでは騒がしそうにしていた。

 中年女性の金切り声が聞こえてきた。

 「ハハハハ。やはり、金切り山か」

 ワシは、くすりと笑って右隣の家のリビングの様子を空から見た。

 金切り山は、ワシが付けたしこ名だ。

 ちなみに、吉岡さん夫婦のしこ名は、穏やか山だ。


 「こらー!いつまで支度しているの!プリントの提出出来たの!ねぇ!聞いているの!鞄をテーブルの上に放ったらかししないで!早く片付けて!何をしているのよ!」

 吉岡さん夫婦の右隣の家の奥田さんの家では、奥田さんの奥さんが娘さんに金切り声を上げて中学生と高校生の娘二人に捲し立てた。

 奥田さんの奥さんは、目を吊り上げて鬼の形相をして、娘達に怒っていた。

 奥田さんの奥さんの声は、物凄く金切り声で耳の鼓膜が破けそうな勢いだ。

 「さあ!出ました!奥田さんの奥さんの激しい突っ張り!娘達に突き放すように金切り声を上げます。よ!流石金切り山!金切り山は、突っ張りが得意手です。奥田さんの奥さんは、突き押し相撲で相手を土俵に突き落として存在感を見せます!さあ!金切り声のように激しく突き押して、娘達を圧倒出来るか!」

 ワシは、相撲実況風に言った。

 「はい…ごめんないさい…」

 すると、高校生の娘さんは、縮こまって様子で母の金切り声の叱りに怯んでしまい、弱々しい声で謝った。

 「ごめんなさいって言うならちゃんとしなさい!寝るのも遅いし!毎日夜更かしばかりしてあんた達は!制服もリビングに散らかしっぱなし!もう毎日、毎日何回言わせるの!髪もちゃんと結ばずダラダラ起きてきて!一体何になるの!ねぇ!朝からダラダラして学校行く気あるの!ねぇ!ふざけているの!毎日、毎日、私の時間を奪って楽しいの!」

 「さあ!娘一人を土俵俵の外へと押し出した!流石金切り山!突き押し相撲で押し切った!しかしもう一人の娘が土俵俵ギリギリまで踏ん張っている!」

 ワシは、奥田さんの奥さんの激しい突き押しの怒りを熱く実況した。

 しかし、中学生の娘さんが金切り声で怒る母に対して睨み付けた。

 「何?その目は?」

 奥田さんの奥さんが睨み返して怒りを抑えた声で聞き返した。

 「私達の時間を奪っているのは、お母さんの方でしょ。いつもダラダラして昼寝ばかりして何もしないで」

 中学生の娘さんが睨み返して、強い口調で言い返した。

 「来たぞ!娘が突き返したぞ!このまま押し切れるか!」

 ワシは、感情が昂ぶり、熱狂するように実況した。

 すると、奥田さんの奥さんは、目をさらに吊り上げてまるで阿修羅像のような形相で口を大きく開けて激昂した。

 「何よ!毎日あんたの為に朝ご飯作っているのよ!そんな言い方どういう事よ!私だって、あんた達の生活費や学費の為に働いているのよ!ねぇ!親に向かってそんな事言って良いと思っているの!今日から自分で朝ご飯作りなさい!」

 そう言うと、奥田さんの奥さんは、娘達に背を向けて奥の和室の部屋に向かった。

 「出た!金切り山!突き返して、娘を土俵俵の外へと押し出した!凄い!突き押しの威力が凄まじい!突っ張りだけで勝ち上がる。まさに突き押し力士の貫禄!」

 ワシは、熱く実況した。

 「まあ、そんな事言うなよ。二人とも悪気はなかったのだから…」

 奥田さんの主人さんが弱気で控えめな口調で奥田さんの奥さんに声を掛けた。

 「もう、あなたは、娘に甘やかし過ぎなの!」

 奥田さんの奥さんが奥田のご主人さんに向かって金切り声で叫んで、奥の和室の部屋に籠もった。

 「出た!締めの突き出し!微動駄にせず、旦那を押し出した!旦那は、吹っ飛ぶように砂席まで突き出された!金切り山の取り組みは、終わりました!次はー」

 ワシは、吉岡さん夫婦の左隣の家を見た。

 ドスの効いた怒鳴り声が外からでも聞こえるようなくらい響いていた。

 金切り山とは、比較出来ないくらいの怒鳴り声だ。

 威圧感があり過ぎて、周囲を圧倒する迫力。

 「高波サーフィン山だな」

 ワシは、にやりと笑って吉岡さん夫婦の左隣の家を見た。

 高波サーフィン山もワシが付けたしこ名だ。


 「おい!こら!早くしろや!早くしろや!」

 家のリビングで小麦色に肌が焼けて金髪の目つきの鋭い、小柄だが筋肉質の体格をした三十代くらい男が二人の小学生くらいの息子にドスの効いた怒鳴り声を上げていた。

 男の名前は、この家の主人、山田さんだ。

 山田さんの主人さんは、今日は、有給休暇を取ってサーフィンに行く。

 小学生の二人の息子達も今日は父親と一緒にサーフィンに行く予定だった。

 山田さんのご主人さんは、二人の息子達の小学校の創立記年日の休みに合わせて有給休暇を取った。

 二人の息子さんは、サーフィンにあまり行きたくなかった。

 しかし、山田さんのご主人さんは、やたらと頑なに連れて行こうとしていた。

 理由は、自分が留守の時に息子達がリビングを散らかすのが嫌だったからそれを防ぐ為に連れて行こうとしたのだ。

 朝食も食べずまだ寝間着姿で行く用意が出来ていなかった。

 「…、お父さん…、今日は、家でゴロゴロしたいよ…。お願いだよ…」

 小学六年生の息子さんが目をこすって、眠たそうに言った。

 「そうだよ。家でゲームがしたい…」

 小学一年生の息子さんも目をこすって眠たそうに言った。

 「うるさい!お前らが家にいたら散らかるだろ!俺と来い!早くしろやー!」

 山田さんの主人さんが怒鳴り声を上げた。

 大迫力ある大声でまるでメガホンを使って声を出しているかのように家の外まで響いてきた。

 「さーて!出ました!高波サーフィン山のがっぷり四つ!息子達のまわしを掴んで上手を掴んで豪快に投げようとする!」

 ワシは、熱く実況した。

 「嫌だよ!今日は、家にいたい!家でゴロゴロしたい!」

 小学一年生の息子さんが足踏みして駄々を捏ねた。

 「僕もサーフィンなんて行きたくない!」

 小学六年生の息子さんも足踏みして駄々を捏ねた。

 すると、山田さんのご主人さんが火に油を注がれたかのごとく激しく怒り狂った。

 「おい!ごら!俺の言う事が聞けないのか!早くしろって言っているだろうが!早くしろ!早くしろって言っているだろうが!」

 山田さんの主人さんが激しく怒り狂いながら爆発するような怒鳴り声を上げた。

 「高波サーフィン山!二人の息子を豪快に上手で投げた!」

 ワシは、実況した。

 「うわーん!怖いよ!」

 小学一年生息子さんが泣き声を上げた。

 「おっと!ここで小学一年生の息子が下手投げで高波サーフィン山を投げ倒そうとする!高波サーフィン山苦しそうだ!投げ返せるか!」

 「うるせぇ!クソ野郎!死ね!」

 山田さんのご主人さんが罵声を浴びせた。

 「うわーん!嫌だ!うわーん!」

 小学一年生の息子さんがさらに泣き喚いて、二階の自分の部屋へと階段を上がって背を向けるように逃げて行った。

 「さーて!高波サーフィン山!息子一人が高波サーフィン山の四つを逃げるように踏ん張っている!高波サーフィン山の得意技上手投げが決まるか!水入りの時間が続きます!」

 

 すると、二階の寝室で寝ていた山田さんの奥さんが目をこすって、寝癖の付いた茶髪で長髪の髪を手で掻きながら、一階のリビングへと降りて来た。

 「ちょっと!静かにしてよね!朝から大きな声出さないでよ!」

 山田さんの奥さんが鬱陶しそうに苛立った様子に大声で言った。

 「うるさい!お前は黙っていろ!」

 山田さんのご主人さんが奥さんに大声で言い返した。

 「朝ご飯食べたの?」

 山田さんの奥さんが苛立って聞いた。

 「食べていないけど。何か?」

 山田さんのご主人さんが苛立って聞き返した。

 「作るけど、食べる?」

 山田さんの奥さんが押し殺した声で聞いた。

 「いらねぇよ。お前の作る飯は、不味いからよ」

 山田さんのご主人さんが呆れるように言った。

 「どういう事よ!今日のガソリン代だって私が出しているのよ!ねぇ!そんな言い方ないでしょ!」

 山田さんの奥さんが激しく金切り声で言い返した。

 「うるさい!お前なんてろくに働いていないだろ!安月給のパートの仕事していないだろ!」

 山田さんの主人さんが激しくドスの効いた怒鳴り声を上げた。

 「さあ!始まった!高波サーフィン山!激しく妻と四つ相撲を組んで土俵の外へとおし出そうとする!上手投げ決まるか!」

 ワシは、熱く実況した。

 「安月給のバイトって何よ!あんた何か安月給の土方じゃない!毎日、毎日、大した稼ぎもないくせに、酒ばっかり飲んで、好きなサーフィン行って。子供達を無理やり連れて行って、父親失格じゃない!」

 山田さんの奥さんが激しく言い返した。

 「何だと!この野郎!」

 山田さんの主人さんが奥さんに頬を平手打ちした。

 乾いた音がリビングに響き渡った。

 その瞬間、顔を歪めて辛そうに床に座り込んだ。

 その様子を小学六年生の息子さんが呆然とした様子で見ていた。

 「出ました!高波サーフィン山!豪快に投げ飛ばした!上手投げが決まりました!」

 ワシは、熱く実況した。

 そして、山田さんのご主人さんは、階段を上がって一階の部屋にこもっている小学一年生の息子さんを部屋から引き摺り出して、引っ張って行った。

 「嫌だ!嫌だ!行きたくない!」

 小学一年生の息子さんが泣き喚いていた。

 「早く来い!着替える準備しろ!」

 山田さんのご主人さんが大声を上げて、息子達に支度の準備をするように促した。

 「さあ、早く…」

 小学六年生の息子さんが小学一年生の弟の肩を叩いて、出掛けるように促した。

 小学一年生の息子さんは、嫌嫌ながらも着替えて、出掛ける準備を始めた。

 そして、息子二人は、家を出て、駐車場に停めている車の前に立った。

 「早く来い!早く乗れ!」

 山田さんのご主人さんが息子達に車に乗るように急かした。

 しかし、息子達は、なかなか車に乗ろうとせず戸惑った様子で立ち尽くしていた。

 「何をしている?早くしろや!」

 山田さんのご主人さんは、なかなか息子達が車に乗らないのに苛立って声を上げた。

 「お母さん、大丈夫かな?」

 小学六年生の息子さんが家を指差して言った。

 「ほっとけ!」

 山田さんの主人さんが鬱陶しそうに声を上げた。

 「でも…」

 小学六年生の息子さんが躊躇った様子で言った。

 小学一年生の息子さんも泣き顔になっていた。

 「うるせぇ!早く乗れ!乗れ!乗れ!乗れ!」

 山田さんのご主人さんが激昂した。

 まるで雷が落ちたような衝撃の怒り方だった。

 山田さんのご主人さんの怒鳴り声が周囲の家々に響き渡っていた。

 そして、息子達は、怯えた様子で車に乗り込んだ。

 そして、山田さんのご主人さんは、サーフボードを車のトランクに入れて、運転席に乗り込んで車を走らせた。

 「さーて!高波サーフィン山!豪快に高波のごとく左右に投げて、豪快に上手投げで決めた!流石は、上手投げの力士!上手投げで妻と息子達を土俵の上に叩き落とします!この力士は、金切り山よりも強い力士です!この力士に勝てる力士はいるのでしょうか!豪快な高波のごとく破天荒な高波サーフィン山!今場所の殊勲賞確定的です!高波サーフィン山と金切り山と穏やか山は、今場所無敗続きです!果たしてこの力士に土を付ける力士はいるのでしょうか!」

 ワシは、熱弁するように実況した。

 すると、吉岡さん夫婦が心配そうに家を出て、山田さんの家を見た。

 「大丈夫かしらね?あなた」

 吉岡さんのおばあさんが心配そうにおじいさんの方を見て聞いた。

 「そうだな…。ちょっと心配だけどな…。山田さんのご主人さんいつも怒っているな…」

 吉岡さんのおじいさんが苦笑いして言った。

 「そうね…。何でいつも怒っているのかしらね…」

 吉岡さんのおばあさんが険しい様子で言った。

 「そうだな。まあ、よく分からんけどな。まあ、静かにしていてくれると良いが…」

 吉岡さんのおじいさんが苦笑いして、頷いた。

 「そうね。それより、相撲の続き見ましょう」

 吉岡さんのおばあさんがおじいさんの気を紛らわすように微笑んで言った。

 「そうだな。そうしよう」

 吉岡さんのおじいさんが微笑んで頷いて、おばあさんと一緒に家の中に入って戻った。

 「いや、吉岡さん夫婦は、仲が良くて良いな。あれくらい仲良しの円満家族が一番理想的だ。流石は、穏やか山。力士の鏡だ。しかし、それに比べて、金切り山と高波サーフィン山は、冷静さがない。力しかないのか。

 全く…。吉岡さん夫婦も優しさだけではなく力があればもっと良い力士になれると思うけどな…。横綱の家族は誰だろうか…?

 まだワシの相撲の家族番付の横綱はいないな…。出来れば、吉岡さん夫婦が横綱になって欲しいけど、ちょっと優しすぎるかな…」

 ワシは、ブツブツと悩ましそうに独り言を言っていた。


 翌日の昼、奥田さんの一家と吉岡さん夫婦と山田さんの一家が各家の前に出て来た。

 ワシは、ぼんやりとした様子で見ていた。

 奥田さん一家と山田さん一家は、やけに険しい様子だった。

 奥田さんの奥さんとご主人さんと高校生の娘さんが中学生の娘さんと向かい合っていた。

 中学生の娘さんは、リュックサックを背負っていて、母を睨み付けていた。

 「もう出て行くから」

 中学生の娘さんがきっぱりと言った。

 「どこに出て行くの?」

 奥田さんの奥さんが苛立って聞いた。

 「どこでも良いでしょ!」

 中学生の娘さんが鬱陶しそうに声を上げた。

 「どこに行くの!待ちなさい!」

 奥田さんの奥さんが金切り声で叫んだ。

 「出ました!金切り山の突き押し!娘に突き返されても金切り声のような鋭い突き押しを披露したぞ!さあ!どうなる!」

 ワシは、熱く実況した。

 「うるさい!死ね!ババア!」

 中学生の娘さんが罵声を浴びせた。

 「出ました!娘さんの激しい突き返し!どうなる!俵越しまで押されていたが押し返した!」

 “パチーン!”

 乾いた音が鳴った。

 すると、奥田の奥さんが中学生の娘さんの頬を平手打ちした。

 「出た!金切り山!豪華な張り手が決まりました!」

 ワシは、熱く実況した。

 その様子を吉岡さん夫婦が心配そうに見ていた。

 高校生の娘さんとご主人さんも心配そうに見ていた。

 奥田さんの奥さんもやり過ぎたというような顔をしていた。

 すると、奥田さんの奥さんと中学生の娘さんの周りに背にバッタを乗せたバッタのオンブバッタが飛び回りました。

 中学生の娘さんと奥田さんの奥さんがふと見ました。

 そして、二人の表情が穏やかになりました。

 「さっきは、ごめんね…」

 奥田さんの奥さんが小さく頭を下げて謝りました。

 「良いよ…私の方こそ言い過ぎたわ…」

 中学生の娘さんも笑顔で首を横に振りました。

 「良かったです。これからも仲良くして下さいね」

 吉岡さんのおばあさんが笑顔で言った。

 吉岡さんのおじいさんも笑顔で頷いた。

 すると、もう一方の山田さんのご主人さんは、奥さんと二人の息子達に罵声を浴びせていた。

 「待ちやがれ!どこに行く!」

 山田さんのご主人さんは、ドスの効いた怒鳴り声を上げていました。

 「もう、一緒に暮らせないわ!」

 山田さんの奥さんがスーツケースを手に持って、二人の息子達を連れて出て行こうとしました。

 「待ちやがれ!待ちやがれ!勝手に出て行くなや!金置いて行け!今までお前らを養った金を返せ!」

 山田さんのご主人さんが奥さんの手を掴んで激しく振り上げました。

 「出た!高波サーフィン山の豪快な上手投げ!得意の上手で廻しをがっちり掴んで上手投げを決められるか!」

 ワシは、熱く実況した。

 「止めて!離して!離して!離して!触らないで!」

 山田さんの奥さんが金切り声を上げて、悲痛そうな叫び声を上げていた。

 「出た!奥さんも下手投げで応戦する!下手投げを決められるか!」

 ワシは、熱く実況した。

 その様子を奥田さん一家と吉岡さん夫婦が心配そうに見ていた。

 「お父さん!離して!」

 「離してお父さん!」

 二人の息子達が顔を歪めて懇願するように声を上げた。

 「うるせぇ!」

 山田さんのご主人さんは、拳で奥さんを殴り倒しました。

 そして、続けて息子達も殴っていきました。

 「高波サーフィン山!奥さんと息子達を上手投げで豪快に投げ飛ばしました!しかし、殴ってはいけません!禁じ手です!」

 ワシは、怒りを抑えながら実況した。

 オンブバッタは、山田さんの主人さんの頭に乗った。

 「うわ!汚い虫だ!」

 山田さんの主人さんが顔をしかめてオンブバッタを手で払い除けた。

 すると、無数のオンブバッタが家の前の茂みから出て来て跳ね回り、山田さんのご主人さんの体全体を覆い尽くして、激しい竜巻のような風を起こした。

 「うわー!辞めろ!」

 山田さんのご主人さんが悲鳴を上げた。

 すると、少し経つと、風は、静かに止んだ。

 山田さんのご主人さんを覆っていた無数のオンブバッタは、家の前の茂みに入っていった。

 一匹のオンブバッタだけは、地面に付いて残っていた。

 山田さんのご主人さんは、抜け殻のような表情になっていた。

 そして、家の前に背を向けてゆっくりと歩いて立ち去ろうとした。

 「…どこに行くのですか?」

 吉岡さんのおじいさんが聞いた。

 「俺が出て行きます…」

 山田さんのご主人さんは、か細い弱々しい声で言って静かに立ち去った。

 すると、吉岡さん夫婦の周りをオンブバッタが飛び跳ねた。

 吉岡さんのおばあさんは、オンブバッタを掌に乗せた。

 吉岡さん夫婦は、微笑ましそうにオンブバッタを見ていた。

 「子供がいなくても幸せね…」

 吉岡さんの奥さんが切ない眼差しながらも嬉しそうにオンブバッタを見て言った。

 「ああ…」

 吉岡さんのおじいさんが微笑ましそうにオンブバッタを見て言った。

 奥田さん一家と山田さん一家も微笑ましそうにオンブバッタを見ていた。

 「それじゃあ、お腹空いたからちゃんこ鍋食べます?私が作りますわ!」

 吉岡さんのおばあさんは、気合いが入ったような元気な声で言って、奥田さん一家と山田さん一家を見て聞いた。

 奥田さん一家も山田さん一家も笑顔で頷いた。

 「ゴッちゃんです!」

 奥田さん一家と山田さん一家が嬉しそうに一斉に言った。

 オンブバッタは、飛び跳ねて茂みの方へと入って行った。

 「さあーて、本日結びの一番の優勝決定戦を制して、リビング大相撲幕内最高優勝をしたのは、小結の金切り山、関脇の高波サーフィン山!大関の穏やか山を堂々たる横綱相撲で勝利した大横綱オンブバッタ山!皆様盛大な拍手をして下さい!」

 ワシは、実況してオンブバッタ山を称えた。

 すると、リビングで吉岡さん夫婦と奥田さん一家と山田さん一家が楽しそうに話しながらちゃんこ鍋を食べていると、家の庭で大横綱オンブバッタが優勝した嬉しさを表現するかのように高く飛び跳ねていた。

静かな少し田舎町の住宅街の中にある三軒立ち並んだ家。

 その三軒の家の真ん中の家の中のリビングでは、朝から録画した相撲番組を穏やかな六十代くらいの老父婦が見ていた。

 ワシは、その三軒の家を空から眺めていた。

 ワシの名前は、相撲仙人。

 老夫婦の相撲愛から出てくる暖かいオーラから生まれた者だ。

 ワシの姿は、スキンヘッドに白い髭を生やして白いマントを着ている。

 見た目通りの仙人姿だが少し丸顔で太っている。

 まあ、相撲愛のオーラから出てきたから太っているわな…笑。

 老夫婦の名前は、吉岡さん。

 吉岡さん夫妻は、いつも穏やかでおっとりとしている。

 朝は、吉岡さんのおばあさんが健康に良い手料理を吉岡さんのおじいさんに振る舞う。

 吉岡さんのおじいさんも嬉しそうに吉岡さんのおばあさんが作った手料理を食べていた。

 吉岡さん夫婦は、何不自由なく幸せな生活を送っていた。

 「うわー、凄いわー」

 吉岡さんのおばあさんがテレビ画面に映る相撲の取り組みに釘付けになって白熱した様子で見ていた。

 「本当だ!凄いな!」

 吉岡さんのおじいさんもテレビ画面に釘付けになって白熱した様子で見ていた。

 「さあ、吉岡さん夫婦!流石は、朝一番から落ち着いて堂々とした立ち振る舞い。まさしく、朝のリビングを静かに振る舞いながら静寂さを見せつけて、ミステリアスな雰囲気を醸し出す。まさにレジェンド横綱です!まさしくがっぷり四つの横綱相撲!」

 ワシは、吉岡さん夫婦が穏やかそうにリビングで相撲中継を見る姿に相撲実況風に解説した。

 ワシは、吉岡さん夫婦が相撲を見る姿が好きだ。

 穏やかで優しい吉岡さん夫婦が相撲を見る姿は、微笑ましく和やかせ幸せそうだからだ。

 ワシ自身も物凄く嬉しい気分になる。

 いやー、吉岡さん夫婦は、幸せそうだな。

 ただ、吉岡さん夫婦は一つだけ悩みがあった。

 それは、子供がいない事だ。

 吉岡さん夫婦には、子供がいない。

 その事は、夫婦間では言わないようにしていたが街中を歩いている時に子供連れの家族を見ると、少し羨ましくなり、切ない気持ちになっている時がある。

 しかし、吉岡さん夫婦は、その事を気にせず、夫婦円満な事を誇りに思っていた。

 「ハハハハハ。凄いわね。横綱は」

 「そうだな。横綱は、強いのが当たり前だ」

 吉岡さん夫婦は、嬉しそうにテレビ画面に映る相撲の取り組みを見て二人で話をしていた。

 「そうだわ。あなたお茶淹れましょうか?」

 吉岡さんのおばあさんが聞いた。

 「そうだな。淹れてくれ。後、饅頭食べたい」

 「饅頭?朝から食べたら太りますよ。昼ご飯過ぎてから食べましょう」

 吉岡さんのおばあさんが笑って言った。

 「そうだな。また太るな」

 吉岡のおじいさんが笑って言った。

 吉岡さん夫婦は、本当に仲良しの夫婦だった。

 良いなー。ワシもあんな女房欲しいな…。

 ワシは、吉岡さん夫婦を見ていると、自分の妻が欲しくなった。

 すると、吉岡さん夫婦の右隣の家のリビングでは騒がしそうにしていた。

 中年女性の金切り声が聞こえてきた。

 「ハハハハ。やはり、金切り山か」

 ワシは、くすりと笑って右隣の家のリビングの様子を空から見た。

 金切り山は、ワシが付けたしこ名だ。

 ちなみに、吉岡さん夫婦のしこ名は、穏やか山だ。


 「こらー!いつまで支度しているの!プリントの提出出来たの!ねぇ!聞いているの!鞄をテーブルの上に放ったらかししないで!早く片付けて!何をしているのよ!」

 吉岡さん夫婦の右隣の家の奥田さんの家では、奥田さんの奥さんが娘さんに金切り声を上げて中学生と高校生の娘二人に捲し立てた。

 奥田さんの奥さんは、目を吊り上げて鬼の形相をして、娘達に怒っていた。

 奥田さんの奥さんの声は、物凄く金切り声で耳の鼓膜が破けそうな勢いだ。

 「さあ!出ました!奥田さんの奥さんの激しい突っ張り!娘達に突き放すように金切り声を上げます。よ!流石金切り山!金切り山は、突っ張りが得意手です。奥田さんの奥さんは、突き押し相撲で相手を土俵に突き落として存在感を見せます!さあ!金切り声のように激しく突き押して、娘達を圧倒出来るか!」

 ワシは、相撲実況風に言った。

 「はい…ごめんないさい…」

 すると、高校生の娘さんは、縮こまって様子で母の金切り声の叱りに怯んでしまい、弱々しい声で謝った。

 「ごめんなさいって言うならちゃんとしなさい!寝るのも遅いし!毎日夜更かしばかりしてあんた達は!制服もリビングに散らかしっぱなし!もう毎日、毎日何回言わせるの!髪もちゃんと結ばずダラダラ起きてきて!一体何になるの!ねぇ!朝からダラダラして学校行く気あるの!ねぇ!ふざけているの!毎日、毎日、私の時間を奪って楽しいの!」

 「さあ!娘一人を土俵俵の外へと押し出した!流石金切り山!突き押し相撲で押し切った!しかしもう一人の娘が土俵俵ギリギリまで踏ん張っている!」

 ワシは、奥田さんの奥さんの激しい突き押しの怒りを熱く実況した。

 しかし、中学生の娘さんが金切り声で怒る母に対して睨み付けた。

 「何?その目は?」

 奥田さんの奥さんが睨み返して怒りを抑えた声で聞き返した。

 「私達の時間を奪っているのは、お母さんの方でしょ。いつもダラダラして昼寝ばかりして何もしないで」

 中学生の娘さんが睨み返して、強い口調で言い返した。

 「来たぞ!娘が突き返したぞ!このまま押し切れるか!」

 ワシは、感情が昂ぶり、熱狂するように実況した。

 すると、奥田さんの奥さんは、目をさらに吊り上げてまるで阿修羅像のような形相で口を大きく開けて激昂した。

 「何よ!毎日あんたの為に朝ご飯作っているのよ!そんな言い方どういう事よ!私だって、あんた達の生活費や学費の為に働いているのよ!ねぇ!親に向かってそんな事言って良いと思っているの!今日から自分で朝ご飯作りなさい!」

 そう言うと、奥田さんの奥さんは、娘達に背を向けて奥の和室の部屋に向かった。

 「出た!金切り山!突き返して、娘を土俵俵の外へと押し出した!凄い!突き押しの威力が凄まじい!突っ張りだけで勝ち上がる。まさに突き押し力士の貫禄!」

 ワシは、熱く実況した。

 「まあ、そんな事言うなよ。二人とも悪気はなかったのだから…」

 奥田さんの主人さんが弱気で控えめな口調で奥田さんの奥さんに声を掛けた。

 「もう、あなたは、娘に甘やかし過ぎなの!」

 奥田さんの奥さんが奥田のご主人さんに向かって金切り声で叫んで、奥の和室の部屋に籠もった。

 「出た!締めの突き出し!微動駄にせず、旦那を押し出した!旦那は、吹っ飛ぶように砂席まで突き出された!金切り山の取り組みは、終わりました!次はー」

 ワシは、吉岡さん夫婦の左隣の家を見た。

 ドスの効いた怒鳴り声が外からでも聞こえるようなくらい響いていた。

 金切り山とは、比較出来ないくらいの怒鳴り声だ。

 威圧感があり過ぎて、周囲を圧倒する迫力。

 「高波サーフィン山だな」

 ワシは、にやりと笑って吉岡さん夫婦の左隣の家を見た。

 高波サーフィン山もワシが付けたしこ名だ。


 「おい!こら!早くしろや!早くしろや!」

 家のリビングで小麦色に肌が焼けて金髪の目つきの鋭い、小柄だが筋肉質の体格をした三十代くらい男が二人の小学生くらいの息子にドスの効いた怒鳴り声を上げていた。

 男の名前は、この家の主人、山田さんだ。

 山田さんの主人さんは、今日は、有給休暇を取ってサーフィンに行く。

 小学生の二人の息子達も今日は父親と一緒にサーフィンに行く予定だった。

 山田さんのご主人さんは、二人の息子達の小学校の創立記年日の休みに合わせて有給休暇を取った。

 二人の息子さんは、サーフィンにあまり行きたくなかった。

 しかし、山田さんのご主人さんは、やたらと頑なに連れて行こうとしていた。

 理由は、自分が留守の時に息子達がリビングを散らかすのが嫌だったからそれを防ぐ為に連れて行こうとしたのだ。

 朝食も食べずまだ寝間着姿で行く用意が出来ていなかった。

 「…、お父さん…、今日は、家でゴロゴロしたいよ…。お願いだよ…」

 小学六年生の息子さんが目をこすって、眠たそうに言った。

 「そうだよ。家でゲームがしたい…」

 小学一年生の息子さんも目をこすって眠たそうに言った。

 「うるさい!お前らが家にいたら散らかるだろ!俺と来い!早くしろやー!」

 山田さんの主人さんが怒鳴り声を上げた。

 大迫力ある大声でまるでメガホンを使って声を出しているかのように家の外まで響いてきた。

 「さーて!出ました!高波サーフィン山のがっぷり四つ!息子達のまわしを掴んで上手を掴んで豪快に投げようとする!」

 ワシは、熱く実況した。

 「嫌だよ!今日は、家にいたい!家でゴロゴロしたい!」

 小学一年生の息子さんが足踏みして駄々を捏ねた。

 「僕もサーフィンなんて行きたくない!」

 小学六年生の息子さんも足踏みして駄々を捏ねた。

 すると、山田さんのご主人さんが火に油を注がれたかのごとく激しく怒り狂った。

 「おい!ごら!俺の言う事が聞けないのか!早くしろって言っているだろうが!早くしろ!早くしろって言っているだろうが!」

 山田さんの主人さんが激しく怒り狂いながら爆発するような怒鳴り声を上げた。

 「高波サーフィン山!二人の息子を豪快に上手で投げた!」

 ワシは、実況した。

 「うわーん!怖いよ!」

 小学一年生息子さんが泣き声を上げた。

 「おっと!ここで小学一年生の息子が下手投げで高波サーフィン山を投げ倒そうとする!高波サーフィン山苦しそうだ!投げ返せるか!」

 「うるせぇ!クソ野郎!死ね!」

 山田さんのご主人さんが罵声を浴びせた。

 「うわーん!嫌だ!うわーん!」

 小学一年生の息子さんがさらに泣き喚いて、二階の自分の部屋へと階段を上がって背を向けるように逃げて行った。

 「さーて!高波サーフィン山!息子一人が高波サーフィン山の四つを逃げるように踏ん張っている!高波サーフィン山の得意技上手投げが決まるか!水入りの時間が続きます!」

 

 すると、二階の寝室で寝ていた山田さんの奥さんが目をこすって、寝癖の付いた茶髪で長髪の髪を手で掻きながら、一階のリビングへと降りて来た。

 「ちょっと!静かにしてよね!朝から大きな声出さないでよ!」

 山田さんの奥さんが鬱陶しそうに苛立った様子に大声で言った。

 「うるさい!お前は黙っていろ!」

 山田さんのご主人さんが奥さんに大声で言い返した。

 「朝ご飯食べたの?」

 山田さんの奥さんが苛立って聞いた。

 「食べていないけど。何か?」

 山田さんのご主人さんが苛立って聞き返した。

 「作るけど、食べる?」

 山田さんの奥さんが押し殺した声で聞いた。

 「いらねぇよ。お前の作る飯は、不味いからよ」

 山田さんのご主人さんが呆れるように言った。

 「どういう事よ!今日のガソリン代だって私が出しているのよ!ねぇ!そんな言い方ないでしょ!」

 山田さんの奥さんが激しく金切り声で言い返した。

 「うるさい!お前なんてろくに働いていないだろ!安月給のパートの仕事していないだろ!」

 山田さんの主人さんが激しくドスの効いた怒鳴り声を上げた。

 「さあ!始まった!高波サーフィン山!激しく妻と四つ相撲を組んで土俵の外へとおし出そうとする!上手投げ決まるか!」

 ワシは、熱く実況した。

 「安月給のバイトって何よ!あんた何か安月給の土方じゃない!毎日、毎日、大した稼ぎもないくせに、酒ばっかり飲んで、好きなサーフィン行って。子供達を無理やり連れて行って、父親失格じゃない!」

 山田さんの奥さんが激しく言い返した。

 「何だと!この野郎!」

 山田さんの主人さんが奥さんに頬を平手打ちした。

 乾いた音がリビングに響き渡った。

 その瞬間、顔を歪めて辛そうに床に座り込んだ。

 その様子を小学六年生の息子さんが呆然とした様子で見ていた。

 「出ました!高波サーフィン山!豪快に投げ飛ばした!上手投げが決まりました!」

 ワシは、熱く実況した。

 そして、山田さんのご主人さんは、階段を上がって一階の部屋にこもっている小学一年生の息子さんを部屋から引き摺り出して、引っ張って行った。

 「嫌だ!嫌だ!行きたくない!」

 小学一年生の息子さんが泣き喚いていた。

 「早く来い!着替える準備しろ!」

 山田さんのご主人さんが大声を上げて、息子達に支度の準備をするように促した。

 「さあ、早く…」

 小学六年生の息子さんが小学一年生の弟の肩を叩いて、出掛けるように促した。

 小学一年生の息子さんは、嫌嫌ながらも着替えて、出掛ける準備を始めた。

 そして、息子二人は、家を出て、駐車場に停めている車の前に立った。

 「早く来い!早く乗れ!」

 山田さんのご主人さんが息子達に車に乗るように急かした。

 しかし、息子達は、なかなか車に乗ろうとせず戸惑った様子で立ち尽くしていた。

 「何をしている?早くしろや!」

 山田さんのご主人さんは、なかなか息子達が車に乗らないのに苛立って声を上げた。

 「お母さん、大丈夫かな?」

 小学六年生の息子さんが家を指差して言った。

 「ほっとけ!」

 山田さんの主人さんが鬱陶しそうに声を上げた。

 「でも…」

 小学六年生の息子さんが躊躇った様子で言った。

 小学一年生の息子さんも泣き顔になっていた。

 「うるせぇ!早く乗れ!乗れ!乗れ!乗れ!」

 山田さんのご主人さんが激昂した。

 まるで雷が落ちたような衝撃の怒り方だった。

 山田さんのご主人さんの怒鳴り声が周囲の家々に響き渡っていた。

 そして、息子達は、怯えた様子で車に乗り込んだ。

 そして、山田さんのご主人さんは、サーフボードを車のトランクに入れて、運転席に乗り込んで車を走らせた。

 「さーて!高波サーフィン山!豪快に高波のごとく左右に投げて、豪快に上手投げで決めた!流石は、上手投げの力士!上手投げで妻と息子達を土俵の上に叩き落とします!この力士は、金切り山よりも強い力士です!この力士に勝てる力士はいるのでしょうか!豪快な高波のごとく破天荒な高波サーフィン山!今場所の殊勲賞確定的です!高波サーフィン山と金切り山と穏やか山は、今場所無敗続きです!果たしてこの力士に土を付ける力士はいるのでしょうか!」

 ワシは、熱弁するように実況した。

 すると、吉岡さん夫婦が心配そうに家を出て、山田さんの家を見た。

 「大丈夫かしらね?あなた」

 吉岡さんのおばあさんが心配そうにおじいさんの方を見て聞いた。

 「そうだな…。ちょっと心配だけどな…。山田さんのご主人さんいつも怒っているな…」

 吉岡さんのおじいさんが苦笑いして言った。

 「そうね…。何でいつも怒っているのかしらね…」

 吉岡さんのおばあさんが険しい様子で言った。

 「そうだな。まあ、よく分からんけどな。まあ、静かにしていてくれると良いが…」

 吉岡さんのおじいさんが苦笑いして、頷いた。

 「そうね。それより、相撲の続き見ましょう」

 吉岡さんのおばあさんがおじいさんの気を紛らわすように微笑んで言った。

 「そうだな。そうしよう」

 吉岡さんのおじいさんが微笑んで頷いて、おばあさんと一緒に家の中に入って戻った。

 「いや、吉岡さん夫婦は、仲が良くて良いな。あれくらい仲良しの円満家族が一番理想的だ。流石は、穏やか山。力士の鏡だ。しかし、それに比べて、金切り山と高波サーフィン山は、冷静さがない。力しかないのか。

 全く…。吉岡さん夫婦も優しさだけではなく力があればもっと良い力士になれると思うけどな…。横綱の家族は誰だろうか…?

 まだワシの相撲の家族番付の横綱はいないな…。出来れば、吉岡さん夫婦が横綱になって欲しいけど、ちょっと優しすぎるかな…」

 ワシは、ブツブツと悩ましそうに独り言を言っていた。


 翌日の昼、奥田さんの一家と吉岡さん夫婦と山田さんの一家が各家の前に出て来た。

 ワシは、ぼんやりとした様子で見ていた。

 奥田さん一家と山田さん一家は、やけに険しい様子だった。

 奥田さんの奥さんとご主人さんと高校生の娘さんが中学生の娘さんと向かい合っていた。

 中学生の娘さんは、リュックサックを背負っていて、母を睨み付けていた。

 「もう出て行くから」

 中学生の娘さんがきっぱりと言った。

 「どこに出て行くの?」

 奥田さんの奥さんが苛立って聞いた。

 「どこでも良いでしょ!」

 中学生の娘さんが鬱陶しそうに声を上げた。

 「どこに行くの!待ちなさい!」

 奥田さんの奥さんが金切り声で叫んだ。

 「出ました!金切り山の突き押し!娘に突き返されても金切り声のような鋭い突き押しを披露したぞ!さあ!どうなる!」

 ワシは、熱く実況した。

 「うるさい!死ね!ババア!」

 中学生の娘さんが罵声を浴びせた。

 「出ました!娘さんの激しい突き返し!どうなる!俵越しまで押されていたが押し返した!」

 “パチーン!”

 乾いた音が鳴った。

 すると、奥田の奥さんが中学生の娘さんの頬を平手打ちした。

 「出た!金切り山!豪華な張り手が決まりました!」

 ワシは、熱く実況した。

 その様子を吉岡さん夫婦が心配そうに見ていた。

 高校生の娘さんとご主人さんも心配そうに見ていた。

 奥田さんの奥さんもやり過ぎたというような顔をしていた。

 すると、奥田さんの奥さんと中学生の娘さんの周りに背にバッタを乗せたバッタのオンブバッタが飛び回りました。

 中学生の娘さんと奥田さんの奥さんがふと見ました。

 そして、二人の表情が穏やかになりました。

 「さっきは、ごめんね…」

 奥田さんの奥さんが小さく頭を下げて謝りました。

 「良いよ…私の方こそ言い過ぎたわ…」

 中学生の娘さんも笑顔で首を横に振りました。

 「良かったです。これからも仲良くして下さいね」

 吉岡さんのおばあさんが笑顔で言った。

 吉岡さんのおじいさんも笑顔で頷いた。

 すると、もう一方の山田さんのご主人さんは、奥さんと二人の息子達に罵声を浴びせていた。

 「待ちやがれ!どこに行く!」

 山田さんのご主人さんは、ドスの効いた怒鳴り声を上げていました。

 「もう、一緒に暮らせないわ!」

 山田さんの奥さんがスーツケースを手に持って、二人の息子達を連れて出て行こうとしました。

 「待ちやがれ!待ちやがれ!勝手に出て行くなや!金置いて行け!今までお前らを養った金を返せ!」

 山田さんのご主人さんが奥さんの手を掴んで激しく振り上げました。

 「出た!高波サーフィン山の豪快な上手投げ!得意の上手で廻しをがっちり掴んで上手投げを決められるか!」

 ワシは、熱く実況した。

 「止めて!離して!離して!離して!触らないで!」

 山田さんの奥さんが金切り声を上げて、悲痛そうな叫び声を上げていた。

 「出た!奥さんも下手投げで応戦する!下手投げを決められるか!」

 ワシは、熱く実況した。

 その様子を奥田さん一家と吉岡さん夫婦が心配そうに見ていた。

 「お父さん!離して!」

 「離してお父さん!」

 二人の息子達が顔を歪めて懇願するように声を上げた。

 「うるせぇ!」

 山田さんのご主人さんは、拳で奥さんを殴り倒しました。

 そして、続けて息子達も殴っていきました。

 「高波サーフィン山!奥さんと息子達を上手投げで豪快に投げ飛ばしました!しかし、殴ってはいけません!禁じ手です!」

 ワシは、怒りを抑えながら実況した。

 オンブバッタは、山田さんの主人さんの頭に乗った。

 「うわ!汚い虫だ!」

 山田さんの主人さんが顔をしかめてオンブバッタを手で払い除けた。

 すると、無数のオンブバッタが家の前の茂みから出て来て跳ね回り、山田さんのご主人さんの体全体を覆い尽くして、激しい竜巻のような風を起こした。

 「うわー!辞めろ!」

 山田さんのご主人さんが悲鳴を上げた。

 すると、少し経つと、風は、静かに止んだ。

 山田さんのご主人さんを覆っていた無数のオンブバッタは、家の前の茂みに入っていった。

 一匹のオンブバッタだけは、地面に付いて残っていた。

 山田さんのご主人さんは、抜け殻のような表情になっていた。

 そして、家の前に背を向けてゆっくりと歩いて立ち去ろうとした。

 「…どこに行くのですか?」

 吉岡さんのおじいさんが聞いた。

 「俺が出て行きます…」

 山田さんのご主人さんは、か細い弱々しい声で言って静かに立ち去った。

 すると、吉岡さん夫婦の周りをオンブバッタが飛び跳ねた。

 吉岡さんのおばあさんは、オンブバッタを掌に乗せた。

 吉岡さん夫婦は、微笑ましそうにオンブバッタを見ていた。

 「子供がいなくても幸せね…」

 吉岡さんの奥さんが切ない眼差しながらも嬉しそうにオンブバッタを見て言った。

 「ああ…」

 吉岡さんのおじいさんが微笑ましそうにオンブバッタを見て言った。

 奥田さん一家と山田さん一家も微笑ましそうにオンブバッタを見ていた。

 「それじゃあ、お腹空いたからちゃんこ鍋食べます?私が作りますわ!」

 吉岡さんのおばあさんは、気合いが入ったような元気な声で言って、奥田さん一家と山田さん一家を見て聞いた。

 奥田さん一家も山田さん一家も笑顔で頷いた。

 「ゴッちゃんです!」

 奥田さん一家と山田さん一家が嬉しそうに一斉に言った。

 オンブバッタは、飛び跳ねて茂みの方へと入って行った。

 「さあーて、本日結びの一番の優勝決定戦を制して、リビング大相撲幕内最高優勝をしたのは、小結の金切り山、関脇の高波サーフィン山!大関の穏やか山を堂々たる横綱相撲で勝利した大横綱オンブバッタ山!皆様盛大な拍手をして下さい!」

 ワシは、実況してオンブバッタ山を称えた。

 すると、リビングで吉岡さん夫婦と奥田さん一家と山田さん一家が楽しそうに話しながらちゃんこ鍋を食べていると、家の庭で大横綱オンブバッタが優勝した嬉しさを表現するかのように高く飛び跳ねていた。

静かな少し田舎町の住宅街の中にある三軒立ち並んだ家。

 その三軒の家の真ん中の家の中のリビングでは、朝から録画した相撲番組を穏やかな六十代くらいの老父婦が見ていた。

 ワシは、その三軒の家を空から眺めていた。

 ワシの名前は、相撲仙人。

 老夫婦の相撲愛から出てくる暖かいオーラから生まれた者だ。

 ワシの姿は、スキンヘッドに白い髭を生やして白いマントを着ている。

 見た目通りの仙人姿だが少し丸顔で太っている。

 まあ、相撲愛のオーラから出てきたから太っているわな…笑。

 老夫婦の名前は、吉岡さん。

 吉岡さん夫妻は、いつも穏やかでおっとりとしている。

 朝は、吉岡さんのおばあさんが健康に良い手料理を吉岡さんのおじいさんに振る舞う。

 吉岡さんのおじいさんも嬉しそうに吉岡さんのおばあさんが作った手料理を食べていた。

 吉岡さん夫婦は、何不自由なく幸せな生活を送っていた。

 「うわー、凄いわー」

 吉岡さんのおばあさんがテレビ画面に映る相撲の取り組みに釘付けになって白熱した様子で見ていた。

 「本当だ!凄いな!」

 吉岡さんのおじいさんもテレビ画面に釘付けになって白熱した様子で見ていた。

 「さあ、吉岡さん夫婦!流石は、朝一番から落ち着いて堂々とした立ち振る舞い。まさしく、朝のリビングを静かに振る舞いながら静寂さを見せつけて、ミステリアスな雰囲気を醸し出す。まさにレジェンド横綱です!まさしくがっぷり四つの横綱相撲!」

 ワシは、吉岡さん夫婦が穏やかそうにリビングで相撲中継を見る姿に相撲実況風に解説した。

 ワシは、吉岡さん夫婦が相撲を見る姿が好きだ。

 穏やかで優しい吉岡さん夫婦が相撲を見る姿は、微笑ましく和やかせ幸せそうだからだ。

 ワシ自身も物凄く嬉しい気分になる。

 いやー、吉岡さん夫婦は、幸せそうだな。

 ただ、吉岡さん夫婦は一つだけ悩みがあった。

 それは、子供がいない事だ。

 吉岡さん夫婦には、子供がいない。

 その事は、夫婦間では言わないようにしていたが街中を歩いている時に子供連れの家族を見ると、少し羨ましくなり、切ない気持ちになっている時がある。

 しかし、吉岡さん夫婦は、その事を気にせず、夫婦円満な事を誇りに思っていた。

 「ハハハハハ。凄いわね。横綱は」

 「そうだな。横綱は、強いのが当たり前だ」

 吉岡さん夫婦は、嬉しそうにテレビ画面に映る相撲の取り組みを見て二人で話をしていた。

 「そうだわ。あなたお茶淹れましょうか?」

 吉岡さんのおばあさんが聞いた。

 「そうだな。淹れてくれ。後、饅頭食べたい」

 「饅頭?朝から食べたら太りますよ。昼ご飯過ぎてから食べましょう」

 吉岡さんのおばあさんが笑って言った。

 「そうだな。また太るな」

 吉岡のおじいさんが笑って言った。

 吉岡さん夫婦は、本当に仲良しの夫婦だった。

 良いなー。ワシもあんな女房欲しいな…。

 ワシは、吉岡さん夫婦を見ていると、自分の妻が欲しくなった。

 すると、吉岡さん夫婦の右隣の家のリビングでは騒がしそうにしていた。

 中年女性の金切り声が聞こえてきた。

 「ハハハハ。やはり、金切り山か」

 ワシは、くすりと笑って右隣の家のリビングの様子を空から見た。

 金切り山は、ワシが付けたしこ名だ。

 ちなみに、吉岡さん夫婦のしこ名は、穏やか山だ。


 「こらー!いつまで支度しているの!プリントの提出出来たの!ねぇ!聞いているの!鞄をテーブルの上に放ったらかししないで!早く片付けて!何をしているのよ!」

 吉岡さん夫婦の右隣の家の奥田さんの家では、奥田さんの奥さんが娘さんに金切り声を上げて中学生と高校生の娘二人に捲し立てた。

 奥田さんの奥さんは、目を吊り上げて鬼の形相をして、娘達に怒っていた。

 奥田さんの奥さんの声は、物凄く金切り声で耳の鼓膜が破けそうな勢いだ。

 「さあ!出ました!奥田さんの奥さんの激しい突っ張り!娘達に突き放すように金切り声を上げます。よ!流石金切り山!金切り山は、突っ張りが得意手です。奥田さんの奥さんは、突き押し相撲で相手を土俵に突き落として存在感を見せます!さあ!金切り声のように激しく突き押して、娘達を圧倒出来るか!」

 ワシは、相撲実況風に言った。

 「はい…ごめんないさい…」

 すると、高校生の娘さんは、縮こまって様子で母の金切り声の叱りに怯んでしまい、弱々しい声で謝った。

 「ごめんなさいって言うならちゃんとしなさい!寝るのも遅いし!毎日夜更かしばかりしてあんた達は!制服もリビングに散らかしっぱなし!もう毎日、毎日何回言わせるの!髪もちゃんと結ばずダラダラ起きてきて!一体何になるの!ねぇ!朝からダラダラして学校行く気あるの!ねぇ!ふざけているの!毎日、毎日、私の時間を奪って楽しいの!」

 「さあ!娘一人を土俵俵の外へと押し出した!流石金切り山!突き押し相撲で押し切った!しかしもう一人の娘が土俵俵ギリギリまで踏ん張っている!」

 ワシは、奥田さんの奥さんの激しい突き押しの怒りを熱く実況した。

 しかし、中学生の娘さんが金切り声で怒る母に対して睨み付けた。

 「何?その目は?」

 奥田さんの奥さんが睨み返して怒りを抑えた声で聞き返した。

 「私達の時間を奪っているのは、お母さんの方でしょ。いつもダラダラして昼寝ばかりして何もしないで」

 中学生の娘さんが睨み返して、強い口調で言い返した。

 「来たぞ!娘が突き返したぞ!このまま押し切れるか!」

 ワシは、感情が昂ぶり、熱狂するように実況した。

 すると、奥田さんの奥さんは、目をさらに吊り上げてまるで阿修羅像のような形相で口を大きく開けて激昂した。

 「何よ!毎日あんたの為に朝ご飯作っているのよ!そんな言い方どういう事よ!私だって、あんた達の生活費や学費の為に働いているのよ!ねぇ!親に向かってそんな事言って良いと思っているの!今日から自分で朝ご飯作りなさい!」

 そう言うと、奥田さんの奥さんは、娘達に背を向けて奥の和室の部屋に向かった。

 「出た!金切り山!突き返して、娘を土俵俵の外へと押し出した!凄い!突き押しの威力が凄まじい!突っ張りだけで勝ち上がる。まさに突き押し力士の貫禄!」

 ワシは、熱く実況した。

 「まあ、そんな事言うなよ。二人とも悪気はなかったのだから…」

 奥田さんの主人さんが弱気で控えめな口調で奥田さんの奥さんに声を掛けた。

 「もう、あなたは、娘に甘やかし過ぎなの!」

 奥田さんの奥さんが奥田のご主人さんに向かって金切り声で叫んで、奥の和室の部屋に籠もった。

 「出た!締めの突き出し!微動駄にせず、旦那を押し出した!旦那は、吹っ飛ぶように砂席まで突き出された!金切り山の取り組みは、終わりました!次はー」

 ワシは、吉岡さん夫婦の左隣の家を見た。

 ドスの効いた怒鳴り声が外からでも聞こえるようなくらい響いていた。

 金切り山とは、比較出来ないくらいの怒鳴り声だ。

 威圧感があり過ぎて、周囲を圧倒する迫力。

 「高波サーフィン山だな」

 ワシは、にやりと笑って吉岡さん夫婦の左隣の家を見た。

 高波サーフィン山もワシが付けたしこ名だ。


 「おい!こら!早くしろや!早くしろや!」

 家のリビングで小麦色に肌が焼けて金髪の目つきの鋭い、小柄だが筋肉質の体格をした三十代くらい男が二人の小学生くらいの息子にドスの効いた怒鳴り声を上げていた。

 男の名前は、この家の主人、山田さんだ。

 山田さんの主人さんは、今日は、有給休暇を取ってサーフィンに行く。

 小学生の二人の息子達も今日は父親と一緒にサーフィンに行く予定だった。

 山田さんのご主人さんは、二人の息子達の小学校の創立記年日の休みに合わせて有給休暇を取った。

 二人の息子さんは、サーフィンにあまり行きたくなかった。

 しかし、山田さんのご主人さんは、やたらと頑なに連れて行こうとしていた。

 理由は、自分が留守の時に息子達がリビングを散らかすのが嫌だったからそれを防ぐ為に連れて行こうとしたのだ。

 朝食も食べずまだ寝間着姿で行く用意が出来ていなかった。

 「…、お父さん…、今日は、家でゴロゴロしたいよ…。お願いだよ…」

 小学六年生の息子さんが目をこすって、眠たそうに言った。

 「そうだよ。家でゲームがしたい…」

 小学一年生の息子さんも目をこすって眠たそうに言った。

 「うるさい!お前らが家にいたら散らかるだろ!俺と来い!早くしろやー!」

 山田さんの主人さんが怒鳴り声を上げた。

 大迫力ある大声でまるでメガホンを使って声を出しているかのように家の外まで響いてきた。

 「さーて!出ました!高波サーフィン山のがっぷり四つ!息子達のまわしを掴んで上手を掴んで豪快に投げようとする!」

 ワシは、熱く実況した。

 「嫌だよ!今日は、家にいたい!家でゴロゴロしたい!」

 小学一年生の息子さんが足踏みして駄々を捏ねた。

 「僕もサーフィンなんて行きたくない!」

 小学六年生の息子さんも足踏みして駄々を捏ねた。

 すると、山田さんのご主人さんが火に油を注がれたかのごとく激しく怒り狂った。

 「おい!ごら!俺の言う事が聞けないのか!早くしろって言っているだろうが!早くしろ!早くしろって言っているだろうが!」

 山田さんの主人さんが激しく怒り狂いながら爆発するような怒鳴り声を上げた。

 「高波サーフィン山!二人の息子を豪快に上手で投げた!」

 ワシは、実況した。

 「うわーん!怖いよ!」

 小学一年生息子さんが泣き声を上げた。

 「おっと!ここで小学一年生の息子が下手投げで高波サーフィン山を投げ倒そうとする!高波サーフィン山苦しそうだ!投げ返せるか!」

 「うるせぇ!クソ野郎!死ね!」

 山田さんのご主人さんが罵声を浴びせた。

 「うわーん!嫌だ!うわーん!」

 小学一年生の息子さんがさらに泣き喚いて、二階の自分の部屋へと階段を上がって背を向けるように逃げて行った。

 「さーて!高波サーフィン山!息子一人が高波サーフィン山の四つを逃げるように踏ん張っている!高波サーフィン山の得意技上手投げが決まるか!水入りの時間が続きます!」

 

 すると、二階の寝室で寝ていた山田さんの奥さんが目をこすって、寝癖の付いた茶髪で長髪の髪を手で掻きながら、一階のリビングへと降りて来た。

 「ちょっと!静かにしてよね!朝から大きな声出さないでよ!」

 山田さんの奥さんが鬱陶しそうに苛立った様子に大声で言った。

 「うるさい!お前は黙っていろ!」

 山田さんのご主人さんが奥さんに大声で言い返した。

 「朝ご飯食べたの?」

 山田さんの奥さんが苛立って聞いた。

 「食べていないけど。何か?」

 山田さんのご主人さんが苛立って聞き返した。

 「作るけど、食べる?」

 山田さんの奥さんが押し殺した声で聞いた。

 「いらねぇよ。お前の作る飯は、不味いからよ」

 山田さんのご主人さんが呆れるように言った。

 「どういう事よ!今日のガソリン代だって私が出しているのよ!ねぇ!そんな言い方ないでしょ!」

 山田さんの奥さんが激しく金切り声で言い返した。

 「うるさい!お前なんてろくに働いていないだろ!安月給のパートの仕事していないだろ!」

 山田さんの主人さんが激しくドスの効いた怒鳴り声を上げた。

 「さあ!始まった!高波サーフィン山!激しく妻と四つ相撲を組んで土俵の外へとおし出そうとする!上手投げ決まるか!」

 ワシは、熱く実況した。

 「安月給のバイトって何よ!あんた何か安月給の土方じゃない!毎日、毎日、大した稼ぎもないくせに、酒ばっかり飲んで、好きなサーフィン行って。子供達を無理やり連れて行って、父親失格じゃない!」

 山田さんの奥さんが激しく言い返した。

 「何だと!この野郎!」

 山田さんの主人さんが奥さんに頬を平手打ちした。

 乾いた音がリビングに響き渡った。

 その瞬間、顔を歪めて辛そうに床に座り込んだ。

 その様子を小学六年生の息子さんが呆然とした様子で見ていた。

 「出ました!高波サーフィン山!豪快に投げ飛ばした!上手投げが決まりました!」

 ワシは、熱く実況した。

 そして、山田さんのご主人さんは、階段を上がって一階の部屋にこもっている小学一年生の息子さんを部屋から引き摺り出して、引っ張って行った。

 「嫌だ!嫌だ!行きたくない!」

 小学一年生の息子さんが泣き喚いていた。

 「早く来い!着替える準備しろ!」

 山田さんのご主人さんが大声を上げて、息子達に支度の準備をするように促した。

 「さあ、早く…」

 小学六年生の息子さんが小学一年生の弟の肩を叩いて、出掛けるように促した。

 小学一年生の息子さんは、嫌嫌ながらも着替えて、出掛ける準備を始めた。

 そして、息子二人は、家を出て、駐車場に停めている車の前に立った。

 「早く来い!早く乗れ!」

 山田さんのご主人さんが息子達に車に乗るように急かした。

 しかし、息子達は、なかなか車に乗ろうとせず戸惑った様子で立ち尽くしていた。

 「何をしている?早くしろや!」

 山田さんのご主人さんは、なかなか息子達が車に乗らないのに苛立って声を上げた。

 「お母さん、大丈夫かな?」

 小学六年生の息子さんが家を指差して言った。

 「ほっとけ!」

 山田さんの主人さんが鬱陶しそうに声を上げた。

 「でも…」

 小学六年生の息子さんが躊躇った様子で言った。

 小学一年生の息子さんも泣き顔になっていた。

 「うるせぇ!早く乗れ!乗れ!乗れ!乗れ!」

 山田さんのご主人さんが激昂した。

 まるで雷が落ちたような衝撃の怒り方だった。

 山田さんのご主人さんの怒鳴り声が周囲の家々に響き渡っていた。

 そして、息子達は、怯えた様子で車に乗り込んだ。

 そして、山田さんのご主人さんは、サーフボードを車のトランクに入れて、運転席に乗り込んで車を走らせた。

 「さーて!高波サーフィン山!豪快に高波のごとく左右に投げて、豪快に上手投げで決めた!流石は、上手投げの力士!上手投げで妻と息子達を土俵の上に叩き落とします!この力士は、金切り山よりも強い力士です!この力士に勝てる力士はいるのでしょうか!豪快な高波のごとく破天荒な高波サーフィン山!今場所の殊勲賞確定的です!高波サーフィン山と金切り山と穏やか山は、今場所無敗続きです!果たしてこの力士に土を付ける力士はいるのでしょうか!」

 ワシは、熱弁するように実況した。

 すると、吉岡さん夫婦が心配そうに家を出て、山田さんの家を見た。

 「大丈夫かしらね?あなた」

 吉岡さんのおばあさんが心配そうにおじいさんの方を見て聞いた。

 「そうだな…。ちょっと心配だけどな…。山田さんのご主人さんいつも怒っているな…」

 吉岡さんのおじいさんが苦笑いして言った。

 「そうね…。何でいつも怒っているのかしらね…」

 吉岡さんのおばあさんが険しい様子で言った。

 「そうだな。まあ、よく分からんけどな。まあ、静かにしていてくれると良いが…」

 吉岡さんのおじいさんが苦笑いして、頷いた。

 「そうね。それより、相撲の続き見ましょう」

 吉岡さんのおばあさんがおじいさんの気を紛らわすように微笑んで言った。

 「そうだな。そうしよう」

 吉岡さんのおじいさんが微笑んで頷いて、おばあさんと一緒に家の中に入って戻った。

 「いや、吉岡さん夫婦は、仲が良くて良いな。あれくらい仲良しの円満家族が一番理想的だ。流石は、穏やか山。力士の鏡だ。しかし、それに比べて、金切り山と高波サーフィン山は、冷静さがない。力しかないのか。

 全く…。吉岡さん夫婦も優しさだけではなく力があればもっと良い力士になれると思うけどな…。横綱の家族は誰だろうか…?

 まだワシの相撲の家族番付の横綱はいないな…。出来れば、吉岡さん夫婦が横綱になって欲しいけど、ちょっと優しすぎるかな…」

 ワシは、ブツブツと悩ましそうに独り言を言っていた。


 翌日の昼、奥田さんの一家と吉岡さん夫婦と山田さんの一家が各家の前に出て来た。

 ワシは、ぼんやりとした様子で見ていた。

 奥田さん一家と山田さん一家は、やけに険しい様子だった。

 奥田さんの奥さんとご主人さんと高校生の娘さんが中学生の娘さんと向かい合っていた。

 中学生の娘さんは、リュックサックを背負っていて、母を睨み付けていた。

 「もう出て行くから」

 中学生の娘さんがきっぱりと言った。

 「どこに出て行くの?」

 奥田さんの奥さんが苛立って聞いた。

 「どこでも良いでしょ!」

 中学生の娘さんが鬱陶しそうに声を上げた。

 「どこに行くの!待ちなさい!」

 奥田さんの奥さんが金切り声で叫んだ。

 「出ました!金切り山の突き押し!娘に突き返されても金切り声のような鋭い突き押しを披露したぞ!さあ!どうなる!」

 ワシは、熱く実況した。

 「うるさい!死ね!ババア!」

 中学生の娘さんが罵声を浴びせた。

 「出ました!娘さんの激しい突き返し!どうなる!俵越しまで押されていたが押し返した!」

 “パチーン!”

 乾いた音が鳴った。

 すると、奥田の奥さんが中学生の娘さんの頬を平手打ちした。

 「出た!金切り山!豪華な張り手が決まりました!」

 ワシは、熱く実況した。

 その様子を吉岡さん夫婦が心配そうに見ていた。

 高校生の娘さんとご主人さんも心配そうに見ていた。

 奥田さんの奥さんもやり過ぎたというような顔をしていた。

 すると、奥田さんの奥さんと中学生の娘さんの周りに背にバッタを乗せたバッタのオンブバッタが飛び回りました。

 中学生の娘さんと奥田さんの奥さんがふと見ました。

 そして、二人の表情が穏やかになりました。

 「さっきは、ごめんね…」

 奥田さんの奥さんが小さく頭を下げて謝りました。

 「良いよ…私の方こそ言い過ぎたわ…」

 中学生の娘さんも笑顔で首を横に振りました。

 「良かったです。これからも仲良くして下さいね」

 吉岡さんのおばあさんが笑顔で言った。

 吉岡さんのおじいさんも笑顔で頷いた。

 すると、もう一方の山田さんのご主人さんは、奥さんと二人の息子達に罵声を浴びせていた。

 「待ちやがれ!どこに行く!」

 山田さんのご主人さんは、ドスの効いた怒鳴り声を上げていました。

 「もう、一緒に暮らせないわ!」

 山田さんの奥さんがスーツケースを手に持って、二人の息子達を連れて出て行こうとしました。

 「待ちやがれ!待ちやがれ!勝手に出て行くなや!金置いて行け!今までお前らを養った金を返せ!」

 山田さんのご主人さんが奥さんの手を掴んで激しく振り上げました。

 「出た!高波サーフィン山の豪快な上手投げ!得意の上手で廻しをがっちり掴んで上手投げを決められるか!」

 ワシは、熱く実況した。

 「止めて!離して!離して!離して!触らないで!」

 山田さんの奥さんが金切り声を上げて、悲痛そうな叫び声を上げていた。

 「出た!奥さんも下手投げで応戦する!下手投げを決められるか!」

 ワシは、熱く実況した。

 その様子を奥田さん一家と吉岡さん夫婦が心配そうに見ていた。

 「お父さん!離して!」

 「離してお父さん!」

 二人の息子達が顔を歪めて懇願するように声を上げた。

 「うるせぇ!」

 山田さんのご主人さんは、拳で奥さんを殴り倒しました。

 そして、続けて息子達も殴っていきました。

 「高波サーフィン山!奥さんと息子達を上手投げで豪快に投げ飛ばしました!しかし、殴ってはいけません!禁じ手です!」

 ワシは、怒りを抑えながら実況した。

 オンブバッタは、山田さんの主人さんの頭に乗った。

 「うわ!汚い虫だ!」

 山田さんの主人さんが顔をしかめてオンブバッタを手で払い除けた。

 すると、無数のオンブバッタが家の前の茂みから出て来て跳ね回り、山田さんのご主人さんの体全体を覆い尽くして、激しい竜巻のような風を起こした。

 「うわー!辞めろ!」

 山田さんのご主人さんが悲鳴を上げた。

 すると、少し経つと、風は、静かに止んだ。

 山田さんのご主人さんを覆っていた無数のオンブバッタは、家の前の茂みに入っていった。

 一匹のオンブバッタだけは、地面に付いて残っていた。

 山田さんのご主人さんは、抜け殻のような表情になっていた。

 そして、家の前に背を向けてゆっくりと歩いて立ち去ろうとした。

 「…どこに行くのですか?」

 吉岡さんのおじいさんが聞いた。

 「俺が出て行きます…」

 山田さんのご主人さんは、か細い弱々しい声で言って静かに立ち去った。

 すると、吉岡さん夫婦の周りをオンブバッタが飛び跳ねた。

 吉岡さんのおばあさんは、オンブバッタを掌に乗せた。

 吉岡さん夫婦は、微笑ましそうにオンブバッタを見ていた。

 「子供がいなくても幸せね…」

 吉岡さんの奥さんが切ない眼差しながらも嬉しそうにオンブバッタを見て言った。

 「ああ…」

 吉岡さんのおじいさんが微笑ましそうにオンブバッタを見て言った。

 奥田さん一家と山田さん一家も微笑ましそうにオンブバッタを見ていた。

 「それじゃあ、お腹空いたからちゃんこ鍋食べます?私が作りますわ!」

 吉岡さんのおばあさんは、気合いが入ったような元気な声で言って、奥田さん一家と山田さん一家を見て聞いた。

 奥田さん一家も山田さん一家も笑顔で頷いた。

 「ゴッちゃんです!」

 奥田さん一家と山田さん一家が嬉しそうに一斉に言った。

 オンブバッタは、飛び跳ねて茂みの方へと入って行った。

 「さあーて、本日結びの一番の優勝決定戦を制して、リビング大相撲幕内最高優勝をしたのは、小結の金切り山、関脇の高波サーフィン山!大関の穏やか山を堂々たる横綱相撲で勝利した大横綱オンブバッタ山!皆様盛大な拍手をして下さい!」

 ワシは、実況してオンブバッタ山を称えた。

 すると、リビングで吉岡さん夫婦と奥田さん一家と山田さん一家が楽しそうに話しながらちゃんこ鍋を食べていると、家の庭で大横綱オンブバッタが優勝した嬉しさを表現するかのように高く飛び跳ねていた。

静かな少し田舎町の住宅街の中にある三軒立ち並んだ家。

 その三軒の家の真ん中の家の中のリビングでは、朝から録画した相撲番組を穏やかな六十代くらいの老父婦が見ていた。

 ワシは、その三軒の家を空から眺めていた。

 ワシの名前は、相撲仙人。

 老夫婦の相撲愛から出てくる暖かいオーラから生まれた者だ。

 ワシの姿は、スキンヘッドに白い髭を生やして白いマントを着ている。

 見た目通りの仙人姿だが少し丸顔で太っている。

 まあ、相撲愛のオーラから出てきたから太っているわな…笑。

 老夫婦の名前は、吉岡さん。

 吉岡さん夫妻は、いつも穏やかでおっとりとしている。

 朝は、吉岡さんのおばあさんが健康に良い手料理を吉岡さんのおじいさんに振る舞う。

 吉岡さんのおじいさんも嬉しそうに吉岡さんのおばあさんが作った手料理を食べていた。

 吉岡さん夫婦は、何不自由なく幸せな生活を送っていた。

 「うわー、凄いわー」

 吉岡さんのおばあさんがテレビ画面に映る相撲の取り組みに釘付けになって白熱した様子で見ていた。

 「本当だ!凄いな!」

 吉岡さんのおじいさんもテレビ画面に釘付けになって白熱した様子で見ていた。

 「さあ、吉岡さん夫婦!流石は、朝一番から落ち着いて堂々とした立ち振る舞い。まさしく、朝のリビングを静かに振る舞いながら静寂さを見せつけて、ミステリアスな雰囲気を醸し出す。まさにレジェンド横綱です!まさしくがっぷり四つの横綱相撲!」

 ワシは、吉岡さん夫婦が穏やかそうにリビングで相撲中継を見る姿に相撲実況風に解説した。

 ワシは、吉岡さん夫婦が相撲を見る姿が好きだ。

 穏やかで優しい吉岡さん夫婦が相撲を見る姿は、微笑ましく和やかせ幸せそうだからだ。

 ワシ自身も物凄く嬉しい気分になる。

 いやー、吉岡さん夫婦は、幸せそうだな。

 ただ、吉岡さん夫婦は一つだけ悩みがあった。

 それは、子供がいない事だ。

 吉岡さん夫婦には、子供がいない。

 その事は、夫婦間では言わないようにしていたが街中を歩いている時に子供連れの家族を見ると、少し羨ましくなり、切ない気持ちになっている時がある。

 しかし、吉岡さん夫婦は、その事を気にせず、夫婦円満な事を誇りに思っていた。

 「ハハハハハ。凄いわね。横綱は」

 「そうだな。横綱は、強いのが当たり前だ」

 吉岡さん夫婦は、嬉しそうにテレビ画面に映る相撲の取り組みを見て二人で話をしていた。

 「そうだわ。あなたお茶淹れましょうか?」

 吉岡さんのおばあさんが聞いた。

 「そうだな。淹れてくれ。後、饅頭食べたい」

 「饅頭?朝から食べたら太りますよ。昼ご飯過ぎてから食べましょう」

 吉岡さんのおばあさんが笑って言った。

 「そうだな。また太るな」

 吉岡のおじいさんが笑って言った。

 吉岡さん夫婦は、本当に仲良しの夫婦だった。

 良いなー。ワシもあんな女房欲しいな…。

 ワシは、吉岡さん夫婦を見ていると、自分の妻が欲しくなった。

 すると、吉岡さん夫婦の右隣の家のリビングでは騒がしそうにしていた。

 中年女性の金切り声が聞こえてきた。

 「ハハハハ。やはり、金切り山か」

 ワシは、くすりと笑って右隣の家のリビングの様子を空から見た。

 金切り山は、ワシが付けたしこ名だ。

 ちなみに、吉岡さん夫婦のしこ名は、穏やか山だ。


 「こらー!いつまで支度しているの!プリントの提出出来たの!ねぇ!聞いているの!鞄をテーブルの上に放ったらかししないで!早く片付けて!何をしているのよ!」

 吉岡さん夫婦の右隣の家の奥田さんの家では、奥田さんの奥さんが娘さんに金切り声を上げて中学生と高校生の娘二人に捲し立てた。

 奥田さんの奥さんは、目を吊り上げて鬼の形相をして、娘達に怒っていた。

 奥田さんの奥さんの声は、物凄く金切り声で耳の鼓膜が破けそうな勢いだ。

 「さあ!出ました!奥田さんの奥さんの激しい突っ張り!娘達に突き放すように金切り声を上げます。よ!流石金切り山!金切り山は、突っ張りが得意手です。奥田さんの奥さんは、突き押し相撲で相手を土俵に突き落として存在感を見せます!さあ!金切り声のように激しく突き押して、娘達を圧倒出来るか!」

 ワシは、相撲実況風に言った。

 「はい…ごめんないさい…」

 すると、高校生の娘さんは、縮こまって様子で母の金切り声の叱りに怯んでしまい、弱々しい声で謝った。

 「ごめんなさいって言うならちゃんとしなさい!寝るのも遅いし!毎日夜更かしばかりしてあんた達は!制服もリビングに散らかしっぱなし!もう毎日、毎日何回言わせるの!髪もちゃんと結ばずダラダラ起きてきて!一体何になるの!ねぇ!朝からダラダラして学校行く気あるの!ねぇ!ふざけているの!毎日、毎日、私の時間を奪って楽しいの!」

 「さあ!娘一人を土俵俵の外へと押し出した!流石金切り山!突き押し相撲で押し切った!しかしもう一人の娘が土俵俵ギリギリまで踏ん張っている!」

 ワシは、奥田さんの奥さんの激しい突き押しの怒りを熱く実況した。

 しかし、中学生の娘さんが金切り声で怒る母に対して睨み付けた。

 「何?その目は?」

 奥田さんの奥さんが睨み返して怒りを抑えた声で聞き返した。

 「私達の時間を奪っているのは、お母さんの方でしょ。いつもダラダラして昼寝ばかりして何もしないで」

 中学生の娘さんが睨み返して、強い口調で言い返した。

 「来たぞ!娘が突き返したぞ!このまま押し切れるか!」

 ワシは、感情が昂ぶり、熱狂するように実況した。

 すると、奥田さんの奥さんは、目をさらに吊り上げてまるで阿修羅像のような形相で口を大きく開けて激昂した。

 「何よ!毎日あんたの為に朝ご飯作っているのよ!そんな言い方どういう事よ!私だって、あんた達の生活費や学費の為に働いているのよ!ねぇ!親に向かってそんな事言って良いと思っているの!今日から自分で朝ご飯作りなさい!」

 そう言うと、奥田さんの奥さんは、娘達に背を向けて奥の和室の部屋に向かった。

 「出た!金切り山!突き返して、娘を土俵俵の外へと押し出した!凄い!突き押しの威力が凄まじい!突っ張りだけで勝ち上がる。まさに突き押し力士の貫禄!」

 ワシは、熱く実況した。

 「まあ、そんな事言うなよ。二人とも悪気はなかったのだから…」

 奥田さんの主人さんが弱気で控えめな口調で奥田さんの奥さんに声を掛けた。

 「もう、あなたは、娘に甘やかし過ぎなの!」

 奥田さんの奥さんが奥田のご主人さんに向かって金切り声で叫んで、奥の和室の部屋に籠もった。

 「出た!締めの突き出し!微動駄にせず、旦那を押し出した!旦那は、吹っ飛ぶように砂席まで突き出された!金切り山の取り組みは、終わりました!次はー」

 ワシは、吉岡さん夫婦の左隣の家を見た。

 ドスの効いた怒鳴り声が外からでも聞こえるようなくらい響いていた。

 金切り山とは、比較出来ないくらいの怒鳴り声だ。

 威圧感があり過ぎて、周囲を圧倒する迫力。

 「高波サーフィン山だな」

 ワシは、にやりと笑って吉岡さん夫婦の左隣の家を見た。

 高波サーフィン山もワシが付けたしこ名だ。


 「おい!こら!早くしろや!早くしろや!」

 家のリビングで小麦色に肌が焼けて金髪の目つきの鋭い、小柄だが筋肉質の体格をした三十代くらい男が二人の小学生くらいの息子にドスの効いた怒鳴り声を上げていた。

 男の名前は、この家の主人、山田さんだ。

 山田さんの主人さんは、今日は、有給休暇を取ってサーフィンに行く。

 小学生の二人の息子達も今日は父親と一緒にサーフィンに行く予定だった。

 山田さんのご主人さんは、二人の息子達の小学校の創立記年日の休みに合わせて有給休暇を取った。

 二人の息子さんは、サーフィンにあまり行きたくなかった。

 しかし、山田さんのご主人さんは、やたらと頑なに連れて行こうとしていた。

 理由は、自分が留守の時に息子達がリビングを散らかすのが嫌だったからそれを防ぐ為に連れて行こうとしたのだ。

 朝食も食べずまだ寝間着姿で行く用意が出来ていなかった。

 「…、お父さん…、今日は、家でゴロゴロしたいよ…。お願いだよ…」

 小学六年生の息子さんが目をこすって、眠たそうに言った。

 「そうだよ。家でゲームがしたい…」

 小学一年生の息子さんも目をこすって眠たそうに言った。

 「うるさい!お前らが家にいたら散らかるだろ!俺と来い!早くしろやー!」

 山田さんの主人さんが怒鳴り声を上げた。

 大迫力ある大声でまるでメガホンを使って声を出しているかのように家の外まで響いてきた。

 「さーて!出ました!高波サーフィン山のがっぷり四つ!息子達のまわしを掴んで上手を掴んで豪快に投げようとする!」

 ワシは、熱く実況した。

 「嫌だよ!今日は、家にいたい!家でゴロゴロしたい!」

 小学一年生の息子さんが足踏みして駄々を捏ねた。

 「僕もサーフィンなんて行きたくない!」

 小学六年生の息子さんも足踏みして駄々を捏ねた。

 すると、山田さんのご主人さんが火に油を注がれたかのごとく激しく怒り狂った。

 「おい!ごら!俺の言う事が聞けないのか!早くしろって言っているだろうが!早くしろ!早くしろって言っているだろうが!」

 山田さんの主人さんが激しく怒り狂いながら爆発するような怒鳴り声を上げた。

 「高波サーフィン山!二人の息子を豪快に上手で投げた!」

 ワシは、実況した。

 「うわーん!怖いよ!」

 小学一年生息子さんが泣き声を上げた。

 「おっと!ここで小学一年生の息子が下手投げで高波サーフィン山を投げ倒そうとする!高波サーフィン山苦しそうだ!投げ返せるか!」

 「うるせぇ!クソ野郎!死ね!」

 山田さんのご主人さんが罵声を浴びせた。

 「うわーん!嫌だ!うわーん!」

 小学一年生の息子さんがさらに泣き喚いて、二階の自分の部屋へと階段を上がって背を向けるように逃げて行った。

 「さーて!高波サーフィン山!息子一人が高波サーフィン山の四つを逃げるように踏ん張っている!高波サーフィン山の得意技上手投げが決まるか!水入りの時間が続きます!」

 

 すると、二階の寝室で寝ていた山田さんの奥さんが目をこすって、寝癖の付いた茶髪で長髪の髪を手で掻きながら、一階のリビングへと降りて来た。

 「ちょっと!静かにしてよね!朝から大きな声出さないでよ!」

 山田さんの奥さんが鬱陶しそうに苛立った様子に大声で言った。

 「うるさい!お前は黙っていろ!」

 山田さんのご主人さんが奥さんに大声で言い返した。

 「朝ご飯食べたの?」

 山田さんの奥さんが苛立って聞いた。

 「食べていないけど。何か?」

 山田さんのご主人さんが苛立って聞き返した。

 「作るけど、食べる?」

 山田さんの奥さんが押し殺した声で聞いた。

 「いらねぇよ。お前の作る飯は、不味いからよ」

 山田さんのご主人さんが呆れるように言った。

 「どういう事よ!今日のガソリン代だって私が出しているのよ!ねぇ!そんな言い方ないでしょ!」

 山田さんの奥さんが激しく金切り声で言い返した。

 「うるさい!お前なんてろくに働いていないだろ!安月給のパートの仕事していないだろ!」

 山田さんの主人さんが激しくドスの効いた怒鳴り声を上げた。

 「さあ!始まった!高波サーフィン山!激しく妻と四つ相撲を組んで土俵の外へとおし出そうとする!上手投げ決まるか!」

 ワシは、熱く実況した。

 「安月給のバイトって何よ!あんた何か安月給の土方じゃない!毎日、毎日、大した稼ぎもないくせに、酒ばっかり飲んで、好きなサーフィン行って。子供達を無理やり連れて行って、父親失格じゃない!」

 山田さんの奥さんが激しく言い返した。

 「何だと!この野郎!」

 山田さんの主人さんが奥さんに頬を平手打ちした。

 乾いた音がリビングに響き渡った。

 その瞬間、顔を歪めて辛そうに床に座り込んだ。

 その様子を小学六年生の息子さんが呆然とした様子で見ていた。

 「出ました!高波サーフィン山!豪快に投げ飛ばした!上手投げが決まりました!」

 ワシは、熱く実況した。

 そして、山田さんのご主人さんは、階段を上がって一階の部屋にこもっている小学一年生の息子さんを部屋から引き摺り出して、引っ張って行った。

 「嫌だ!嫌だ!行きたくない!」

 小学一年生の息子さんが泣き喚いていた。

 「早く来い!着替える準備しろ!」

 山田さんのご主人さんが大声を上げて、息子達に支度の準備をするように促した。

 「さあ、早く…」

 小学六年生の息子さんが小学一年生の弟の肩を叩いて、出掛けるように促した。

 小学一年生の息子さんは、嫌嫌ながらも着替えて、出掛ける準備を始めた。

 そして、息子二人は、家を出て、駐車場に停めている車の前に立った。

 「早く来い!早く乗れ!」

 山田さんのご主人さんが息子達に車に乗るように急かした。

 しかし、息子達は、なかなか車に乗ろうとせず戸惑った様子で立ち尽くしていた。

 「何をしている?早くしろや!」

 山田さんのご主人さんは、なかなか息子達が車に乗らないのに苛立って声を上げた。

 「お母さん、大丈夫かな?」

 小学六年生の息子さんが家を指差して言った。

 「ほっとけ!」

 山田さんの主人さんが鬱陶しそうに声を上げた。

 「でも…」

 小学六年生の息子さんが躊躇った様子で言った。

 小学一年生の息子さんも泣き顔になっていた。

 「うるせぇ!早く乗れ!乗れ!乗れ!乗れ!」

 山田さんのご主人さんが激昂した。

 まるで雷が落ちたような衝撃の怒り方だった。

 山田さんのご主人さんの怒鳴り声が周囲の家々に響き渡っていた。

 そして、息子達は、怯えた様子で車に乗り込んだ。

 そして、山田さんのご主人さんは、サーフボードを車のトランクに入れて、運転席に乗り込んで車を走らせた。

 「さーて!高波サーフィン山!豪快に高波のごとく左右に投げて、豪快に上手投げで決めた!流石は、上手投げの力士!上手投げで妻と息子達を土俵の上に叩き落とします!この力士は、金切り山よりも強い力士です!この力士に勝てる力士はいるのでしょうか!豪快な高波のごとく破天荒な高波サーフィン山!今場所の殊勲賞確定的です!高波サーフィン山と金切り山と穏やか山は、今場所無敗続きです!果たしてこの力士に土を付ける力士はいるのでしょうか!」

 ワシは、熱弁するように実況した。

 すると、吉岡さん夫婦が心配そうに家を出て、山田さんの家を見た。

 「大丈夫かしらね?あなた」

 吉岡さんのおばあさんが心配そうにおじいさんの方を見て聞いた。

 「そうだな…。ちょっと心配だけどな…。山田さんのご主人さんいつも怒っているな…」

 吉岡さんのおじいさんが苦笑いして言った。

 「そうね…。何でいつも怒っているのかしらね…」

 吉岡さんのおばあさんが険しい様子で言った。

 「そうだな。まあ、よく分からんけどな。まあ、静かにしていてくれると良いが…」

 吉岡さんのおじいさんが苦笑いして、頷いた。

 「そうね。それより、相撲の続き見ましょう」

 吉岡さんのおばあさんがおじいさんの気を紛らわすように微笑んで言った。

 「そうだな。そうしよう」

 吉岡さんのおじいさんが微笑んで頷いて、おばあさんと一緒に家の中に入って戻った。

 「いや、吉岡さん夫婦は、仲が良くて良いな。あれくらい仲良しの円満家族が一番理想的だ。流石は、穏やか山。力士の鏡だ。しかし、それに比べて、金切り山と高波サーフィン山は、冷静さがない。力しかないのか。

 全く…。吉岡さん夫婦も優しさだけではなく力があればもっと良い力士になれると思うけどな…。横綱の家族は誰だろうか…?

 まだワシの相撲の家族番付の横綱はいないな…。出来れば、吉岡さん夫婦が横綱になって欲しいけど、ちょっと優しすぎるかな…」

 ワシは、ブツブツと悩ましそうに独り言を言っていた。


 翌日の昼、奥田さんの一家と吉岡さん夫婦と山田さんの一家が各家の前に出て来た。

 ワシは、ぼんやりとした様子で見ていた。

 奥田さん一家と山田さん一家は、やけに険しい様子だった。

 奥田さんの奥さんとご主人さんと高校生の娘さんが中学生の娘さんと向かい合っていた。

 中学生の娘さんは、リュックサックを背負っていて、母を睨み付けていた。

 「もう出て行くから」

 中学生の娘さんがきっぱりと言った。

 「どこに出て行くの?」

 奥田さんの奥さんが苛立って聞いた。

 「どこでも良いでしょ!」

 中学生の娘さんが鬱陶しそうに声を上げた。

 「どこに行くの!待ちなさい!」

 奥田さんの奥さんが金切り声で叫んだ。

 「出ました!金切り山の突き押し!娘に突き返されても金切り声のような鋭い突き押しを披露したぞ!さあ!どうなる!」

 ワシは、熱く実況した。

 「うるさい!死ね!ババア!」

 中学生の娘さんが罵声を浴びせた。

 「出ました!娘さんの激しい突き返し!どうなる!俵越しまで押されていたが押し返した!」

 “パチーン!”

 乾いた音が鳴った。

 すると、奥田の奥さんが中学生の娘さんの頬を平手打ちした。

 「出た!金切り山!豪華な張り手が決まりました!」

 ワシは、熱く実況した。

 その様子を吉岡さん夫婦が心配そうに見ていた。

 高校生の娘さんとご主人さんも心配そうに見ていた。

 奥田さんの奥さんもやり過ぎたというような顔をしていた。

 すると、奥田さんの奥さんと中学生の娘さんの周りに背にバッタを乗せたバッタのオンブバッタが飛び回りました。

 中学生の娘さんと奥田さんの奥さんがふと見ました。

 そして、二人の表情が穏やかになりました。

 「さっきは、ごめんね…」

 奥田さんの奥さんが小さく頭を下げて謝りました。

 「良いよ…私の方こそ言い過ぎたわ…」

 中学生の娘さんも笑顔で首を横に振りました。

 「良かったです。これからも仲良くして下さいね」

 吉岡さんのおばあさんが笑顔で言った。

 吉岡さんのおじいさんも笑顔で頷いた。

 すると、もう一方の山田さんのご主人さんは、奥さんと二人の息子達に罵声を浴びせていた。

 「待ちやがれ!どこに行く!」

 山田さんのご主人さんは、ドスの効いた怒鳴り声を上げていました。

 「もう、一緒に暮らせないわ!」

 山田さんの奥さんがスーツケースを手に持って、二人の息子達を連れて出て行こうとしました。

 「待ちやがれ!待ちやがれ!勝手に出て行くなや!金置いて行け!今までお前らを養った金を返せ!」

 山田さんのご主人さんが奥さんの手を掴んで激しく振り上げました。

 「出た!高波サーフィン山の豪快な上手投げ!得意の上手で廻しをがっちり掴んで上手投げを決められるか!」

 ワシは、熱く実況した。

 「止めて!離して!離して!離して!触らないで!」

 山田さんの奥さんが金切り声を上げて、悲痛そうな叫び声を上げていた。

 「出た!奥さんも下手投げで応戦する!下手投げを決められるか!」

 ワシは、熱く実況した。

 その様子を奥田さん一家と吉岡さん夫婦が心配そうに見ていた。

 「お父さん!離して!」

 「離してお父さん!」

 二人の息子達が顔を歪めて懇願するように声を上げた。

 「うるせぇ!」

 山田さんのご主人さんは、拳で奥さんを殴り倒しました。

 そして、続けて息子達も殴っていきました。

 「高波サーフィン山!奥さんと息子達を上手投げで豪快に投げ飛ばしました!しかし、殴ってはいけません!禁じ手です!」

 ワシは、怒りを抑えながら実況した。

 オンブバッタは、山田さんの主人さんの頭に乗った。

 「うわ!汚い虫だ!」

 山田さんの主人さんが顔をしかめてオンブバッタを手で払い除けた。

 すると、無数のオンブバッタが家の前の茂みから出て来て跳ね回り、山田さんのご主人さんの体全体を覆い尽くして、激しい竜巻のような風を起こした。

 「うわー!辞めろ!」

 山田さんのご主人さんが悲鳴を上げた。

 すると、少し経つと、風は、静かに止んだ。

 山田さんのご主人さんを覆っていた無数のオンブバッタは、家の前の茂みに入っていった。

 一匹のオンブバッタだけは、地面に付いて残っていた。

 山田さんのご主人さんは、抜け殻のような表情になっていた。

 そして、家の前に背を向けてゆっくりと歩いて立ち去ろうとした。

 「…どこに行くのですか?」

 吉岡さんのおじいさんが聞いた。

 「俺が出て行きます…」

 山田さんのご主人さんは、か細い弱々しい声で言って静かに立ち去った。

 すると、吉岡さん夫婦の周りをオンブバッタが飛び跳ねた。

 吉岡さんのおばあさんは、オンブバッタを掌に乗せた。

 吉岡さん夫婦は、微笑ましそうにオンブバッタを見ていた。

 「子供がいなくても幸せね…」

 吉岡さんの奥さんが切ない眼差しながらも嬉しそうにオンブバッタを見て言った。

 「ああ…」

 吉岡さんのおじいさんが微笑ましそうにオンブバッタを見て言った。

 奥田さん一家と山田さん一家も微笑ましそうにオンブバッタを見ていた。

 「それじゃあ、お腹空いたからちゃんこ鍋食べます?私が作りますわ!」

 吉岡さんのおばあさんは、気合いが入ったような元気な声で言って、奥田さん一家と山田さん一家を見て聞いた。

 奥田さん一家も山田さん一家も笑顔で頷いた。

 「ゴッちゃんです!」

 奥田さん一家と山田さん一家が嬉しそうに一斉に言った。

 オンブバッタは、飛び跳ねて茂みの方へと入って行った。

 「さあーて、本日結びの一番の優勝決定戦を制して、リビング大相撲幕内最高優勝をしたのは、小結の金切り山、関脇の高波サーフィン山!大関の穏やか山を堂々たる横綱相撲で勝利した大横綱オンブバッタ山!皆様盛大な拍手をして下さい!」

 ワシは、実況してオンブバッタ山を称えた。

 すると、リビングで吉岡さん夫婦と奥田さん一家と山田さん一家が楽しそうに話しながらちゃんこ鍋を食べていると、家の庭で大横綱オンブバッタが優勝した嬉しさを表現するかのように高く飛び跳ねていた。


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