表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

第二章3 『歩兵と執事』


 雨は止み、雲の隙間から光が差し込み始めていた。

アルトはまだ私を抱きしめたままだ。

胸に感じる彼の温もりと、濡れた衣服の冷たさ。心がぎゅっと締め付けられる。


「アルト…」


そっと呟くと、彼の瞳がゆっくりと私を見る。


「シグレ、大丈夫か……?」


微笑むその声に、思わず胸が熱くなる。


その時、後ろから低い声が響いた。


「……君たち、こんなところで何をしている?」


振り返ると、赤い外套の男――バトラーが立っていた。


私は今の状況を顧み頬が赤くなった。


「ち、ちがくて…!これは、……その…。」


あまりの恥ずかしさに口ごもる。

するとアルトが爽やかに笑った。


「あはは。バトラー、シグレって可愛いだろ。」


 「な、何言ってるのよ、アンタ…!」


「……惚気に私を巻き込まないでくれ。」


バトラーが溜息をつく。

なんだかすごく恥ずかしい。穴があったら入りたい気分だ。


「そのままだと風邪を引く。…来い、シャワーと替えの服ぐらいは貸してやる。」


そう言うと赤い外套を翻し、書物庫へと戻って行った。

私とアルトはどちらもずぶ濡れでお互い顔を見合わせ笑う。それからしばらくして、バトラーを追いかけるように書物庫へと向かった。


書物庫の奥には簡易のシャワー室が設けられていた。書物庫にシャワー室があることを疑問に思いバトラーに聞くと、長時間の研究に耐える学者たちのためだと言っていた。


そこは、しっかりと整備されていてカビや汚れはなかった。シャワーの温度も適温で快適に使えた。

気分よくシャワーを浴びそのまま渡された服に着替える。黒色のワイシャツは私には大きく、袖を余らせた。


「……これでいいのかな。」


備え付けてあった鏡を見ながら呟く。少し不格好だが、仕方ない。

ワイシャツをぎゅっと胸元で整え、深呼吸をひとつ。


「よし…戻ろう。」


濡れた髪はまだ少しひんやりしているけれど、胸の奥のもやもやした気持ちが少し落ち着いていく。


そっと書物庫の扉を開けると、アルトは机の横に立って、私の方を見ていた。


「シグレ…戻ったのか」


声に少し安心したような響きがある。

私は小さくうなずき、ぎこちなく笑う。


「うん、ちょっとさっぱりしたよ」


アルトはにっこりと微笑むけれど、その目線は私と合わない。何処か明後日の方を向いている。


「……アルト?」


「い、いや、その………すまない。」


よくわからないが謝られた。アルトは若干顔が赤くなっていた。

すると、本を読んでいたバトラーが顔を上げた。


「その辺にしておけ、アルトはまだそういうのに慣れてない。」


「そ、そんなことない…!!

……大体、君は俺のことなにも知らないだろう。」


その言葉を聞き、本を閉じて肩をすくめた。


「…何も知らないのは君の方だ、アルト。私はほとんどの候補者の情報を把握済みだ。

例えば君なら、年齢は18、身長176cm、体重62kg、称号はポーンで既にナイト、リージェントと接触済み。

一家の長男であり、下には年の離れた弟と妹がいて心配だからと妹の初デートを尾行しーー」


「ーーわー!!わかった!わかったよ!!俺が悪かった!」


「……フンっ。私の情報網をなめないほうがいい。王戦は情報が武器になる。覚えておけ。」


アルトは「ぐぬぬ」と悔しそうな声を上げた。それにしても、バトラーの情報網には驚いた。アルトの反応的にどれも合ってるのだろう。


(……初デートの話は少し気になる、あとで聞こう。)


「さて、私は君達を助けたんだ。対価を支払ってもらわなければならない。丁度いい、ずっと探していたんだ。」


そうすると、バトラーはじっと私たちを見つめた。


「同盟を組め。」


「……同盟?」


「あぁ、そうだ。既に組んでいる候補者もいる。そこの警戒ともう一人、個人的に潰しておきたい奴がいる。」


「なるほど、でも俺らが協力する理由には少し欠けるな。確かに対価を払うことは必要だ。

だが、怪我一つでそこまで協力できない。俺達の利点が少なすぎる。」


「もちろん、それは分かっている。だから、必要な情報を提示しよう。何でも聞いてくれ」


おずおずと手を挙げる。

私は今までずっと思っていたことを聞いた。


「あのさ、私そもそも王戦のルールとか知らないんだけど教えてくれない?」


「……君、教えてなかったのか。」


「し、仕方ないだろう…。時間がなかったんだ…。」


バトラーは少し間を置き、視線を遠くに向ける。


「まず、王戦には“紋章”と“祭壇”が関わる。

紋章――それは“王印”と呼ばれる、生まれつき候補者の体に刻まれる印だ。

王印を持たぬ者は、そもそも戦いの場に立てない。

——いわば、王を目指す資格の証だ。」


私は手の甲にある王印に触れる。


「俺のは首にあるぞ。」


誇らしげにアルトが言った。


「そして祭壇――戦いの終着点。

ペンダントを嵌めれば儀式が動き出す。

だが、それだけでは足りない。

王候補者と鍵、二つの王印が揃ったとき、

祭壇は真に応え、王への扉が開く。」


「…そうなんだ。」


「他に、質問はあるか?」


アルトが手を挙げた。


「はい!君が警戒する人物ってのは誰なんだい?」


場の雰囲気が冷たくなった。


「ルークだ。君達も知っているだろう。」



ルーク。前、アルトから説明された王候補者の一人だ。


「ルークのことはあまり知らないな。俺の耳に入ってくる話はナイトとリージェントのことばかりだ。他の候補者のことは聞きかじりの知識しかない。」


「そうか、なら私が実際に相対したときのことを話してやろう。」


少し間を置き、話し出す。


「ルークは普通の候補者じゃない。戦闘狂、というより……手がつけられない、危険なタイプだ。力だけじゃなく、戦い方が狡猾でね。」


私は思わず息を飲む。


「……狡猾……?」


バトラーは少し眉を寄せ、真剣な目で続ける。


「力が強いだけならまだ対処はできる。

しかし奴は、自分より強い者を見極めるために、戦う手段を選ばない。臣民のことなどお構いなしだ。酒を口にしながら三節棍を振り回す──手段も手加減も知らない。」


アルトが小さく唸る。


「……なるほど。こういう危険人物は、早めに手を打つべきってわけか。」


「そうだ。利害が一致するなら、同盟は自然な選択だ。どうする?」


「…わかった、俺も手を貸すよ」


「あぁ、いい選択だ。」


同盟を示すように二人は握手をした。


――そんな様子をきり裂くように何処からか爆発音が響いた。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

次話は、ナイトであるヴェインが出てきます。そして、新たな敵ルークとも対峙します。

面白いと思ってもらえたら、ブックマークやコメントで応援してもらえると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ