第一章3 『ナイト邂逅』
この剣が飛ばされてくる感じ知っている。
前、私と盗賊少女を襲った魔法だ。
それに、さっき威嚇のように現れた剣。
その剣には馬の模様が刻まれていた。
王候補者だとして多分犯人は……
「ナイトの襲撃だ。気をつけろ、シグレ。
俺が今把握している王候補者の中で最も警戒するべき男だ。」
アルトは次々と襲い来る剣を流しながらそう言った。
「このままじゃ埒が明かないな。
シグレ、一緒にナイトがいる場所に行こうじゃないか。本気を出すまでもないと判断しているのだろう。随分と舐められたものだ。」
私の手を掴み走り出す。
「えーっと、……それって私いなきゃダメ?
どこかバレないところで私を匿ってもらうことってできないかなー、……なんちゃって…。」
「うーん。それはあんまりおすすめしないな。
そもそも今は、誰が敵で味方なのか分かっていない状況だからね。シグレにとって一番安全なのは俺の隣だと思うよ。大丈夫、俺が守るから。」
軽く剣をかわしながら雑談のように話しかけてきた。
どうしてもダメらしい。死と隣り合わせの王戦に参加だなんて最悪だ。家に帰りたい……。
アルトが私の手を引っ張りながらズンズンと進んでいく。まるで敵の居場所が分かっているかのようだ。
そんな私の疑問に気づいたのかアルトが顔をこちらに向けた。
「魔力探知だよ。相手は自分の腕に自信があるみたいでね、魔力痕が分かりやすく残ってる。」
するとアルトは街にある時計塔を指差した。
「あそこだ。」
石畳の広い中庭を駆け抜け、重厚な門を飛び出す。どうやら相当な屋敷らしい。
外へ出た瞬間、降り注いでいた剣の雨がぴたりと止んだ。
「誘っている。罠だろうな。」
「え!? わかってるのに行くの?」
アルトは爽やかで余裕たっぷりな笑顔を浮かべる。
「罠ごと踏み潰せば問題ない。」
ーーどれだけ走っただろう。
足が疲れたとか文句を言いたかったがそんな雰囲気でもない。
目の前には古い寂れた時計塔がある。
見上げる程のそれは町の外れにポツンと取り残されたように立っていた。
「えーと、この中にいるの?」
「あぁ、場所も移動してないようだ。」
まるで怪談に出てきそうな時計塔だ。石造りのそれは、所々苔が生え、錆びついている。
体がブルリと震えた。
「よし、行こう!」
「ちょっ、ちょっと待ってよー!!」
見るからに恐ろしい場所へと、迷いなく進んでいくその姿は勇者のようだった。
アルトの背を慌てて追いかけ中に入る。
ほこりが辺りを漂い、端々にクモの巣が張っていた。
「上だな」
そう言うと彼は階段を上り始めた。歯車の裏を通り上を目指す。その時間はなんだか長く感じた。
天辺には着くと、逆光の中誰かがこちらを見ていた。重い鐘の音が辺りに鳴り響く。
段々と姿が見えてきた。
よく磨かれた革の靴に、光を鈍く弾く銀髪を後ろに流した美青年だった。ツリ目気味の金色の瞳がこちらを見下ろす。
その姿は悪魔的な美しさであった。
息を呑むほどの美青年だ。
アルトとはまた違ったタイプのイケメン。
……かっこいい。
思わず場違いなことを考えてしまった。
自分の世界に浸かりそうになっていると、
アルトの凜とした声で意識が戻る。
「君がナイトか?」
アルトがそう問うと男は喉の奥を鳴らして笑い出した。
「その名は不要だ。」
「世界、は既に王だ。」
一瞬時が止まった気がした。
自称王だけが高らかに笑っている。
なるほど、ナルシストタイプのイケメンだったか。
「貴様らは挑戦者にすぎない。」
剣の切っ先をこちらに向けた。
「なら試させてもらおうか、王様。」
「たわけたことをぬかすな。試されるのは貴様だ。」
鐘が再び鳴る。その音を合図とするかのように剣と剣がぶつかった。金属特有のガキンッという音が辺りに響く。
「ほう、なかなかやるではないか、歩兵。もっとも、俺の足元にも及ばないが。」
ヴェインはアルトを見ながら余裕そうに笑った。剣と剣が噛み合い、鍔競り合いとなる。
アルトは歯を食いしばり踏み留まるが、ヴェインの剣は容赦なく押し込んでくる。
じりじりと距離が詰まり、踵が床を擦った。
一歩、また一歩と後退していく。
このままじゃアルトが危ない。
でも私には、異世界主人公が持つような超人的な
魔法もないし、そもそも魔法の使い方さえ知らない。
それでも、……できることはある。
私は大きく息を吸い自分史上一番大きな声で叫んだ。
「――そこまでよ!!」
ナイトは驚いたのか動きが一瞬鈍くなった。
その隙を見逃さずアルトの剣は綺麗な弧を描きナイトの頬を掠った。
傷を与えられたのがよほどショックだったのかしばらく固まっていた。
驚いた顔が意外と幼い。
しかし、そんな一面を見せた数秒後
その表情は笑みに変わり、下品な高笑いをしだした。
「ハッハッハッ!貴様、やるではないか。ただの傀儡と思っていたが俺と歩兵の闘いに横槍を入れるとは。」
「傀儡!?私、傀儡だと思われてたの…?!」
ナイトは更に笑いだした。どうやら私の反応も含めて面白いらしい。
「ハッー……。これほど笑ったのは久方ぶりだ。今ならどれだけ低俗な芸や物語でも観た途端、
たちまち笑い転げてしまうだろう。」
「そ、それはよかった…。」
何も良くない。これだけ笑われると恥ずかしくなる。私、別に変なことしてないはずなのに…!
「た、楽しそうでなによりだ…。」
そのあまりの笑いっぷりにアルトも少し引いていた。
「楽しませてもらった礼だ、今回は見逃してやる。鍵、せいぜい足掻くのだな。貴様は幾度も死線を越えることになる。王からの忠告だ。ありがたく心に刻むがいい。」
何もありがたくないが頭の片隅には入れておこう。
「忠告を、形にしてやろう。」
その言葉の刹那、――剣が私に向かって飛んできた
「……え」
反応できない。
突然のことに体が固まって動けない。
息が荒くなる。
“死ぬ”そう感じ反射的に目を閉じた。
直前、青いマントが目の端に映った気がした。
――ガキンッ
金属が弾かれる音が響いた。
痛くない。死んでない。
恐る恐る目を開けるとアルトが私を庇うように立っていた。
アルトが守ってくれたと理解し一気に安心する。
「アルト、ありがと、う…。」
瞬間、アルトが崩れ落ちた。
地面に片膝をつき苦しそうにしている。
そこでようやく理解した。アルトが私を庇って怪我をしたことに。
「アルト……!アルト……!!嫌だよ……死なないで!!」
肩口が裂け、血が滝のように流れ出る。
あまりにも悲惨なその光景に顔が青ざめる。
「ほう、そこまで守るのか。」
感心したようなナイトの声がどこからか響く。
「死ぬなよ、歩兵。鍵は貴様に任せる。」
段々と足音が遠ざかるが、アルトのことで頭がいっぱいで気にする余裕もない。
傀儡。
鍵。
守られるだけで何もできない私は、なんなんだろう。
◇◇◇
誰かが、時計塔の影から様子をうかがっていた。
青いツインテールの髪が揺れる、盗賊少女だ。 目に映るのは、崩れ落ちたアルトと、それでも必死にしがみつくシグレの姿。
「おぉ〜、やってるな……ヴェインの野郎。そこまでする必要ないってのに……あのバカ馬」
足音も立てず、影の人物は静かに息を潜めている。だがその瞳は確かに、次に自分が動く時を見据えていた。
「そろそろオレの出番か……」
静まり返った時計塔の周囲に、次なる嵐の気配が漂う。
最後まで読んでいただきありがとうございます。これで一章が終わりました。
シグレを庇って怪我を負ったアルト。そんな2人に迫る怪しい影。
次回2章開幕、王戦、始動です。
面白かったら、ブックマークやコメントで応援してもらえると嬉しいです。




