第一章2 『王選開幕の証』
目が覚めるとそこは現代。
私は普通の女子高生で
平和で平穏なJKライフを送っています……。
……ならどれだけ良かったことか。
目が覚めたら知らない天井でした。
異世界の貴族が暮らしてそうな豪華な部屋。シルクのような肌触りの上品なベッド。
寝心地はバッチリ!
そのまま二度寝を決めようとしていたらドアから軽いノックの音がした。
無視無視。こういうのに反応したらダメだ。
私の異世界知識がそう告げている。
狸寝入りで切り抜けようとしていたら突如ドアが開いた。
「シグレ、体調はどうかな?」
「ちょっと!良いって言ってないのに何で開けるのよ!」
入ってきたのは私を助けた金髪碧眼イケメン
――アルトだった。
アルトは騒ぎ出す私に少しだけ困った顔をした後、ベッドの近くにあった椅子に腰を掛けた。
「早いほうがいいと思ってね。
候補者の中には既に動き出しているヤツがいる。
…よし!交渉と行こうか」
「候補者?動き出してる?交渉?
……ちょっとごめん、何言ってるかわかんない。」
「わからなくて構わないよ。
取り敢えずそのペンダントをこっちに渡してくれ。それがある以上君の身の安全は保証できない。」
アルトが私の胸元にあるペンダントを指差す。
私は反射的にペンダントを守るように握った。
母の形見だ。そう簡単に渡してなるものか。
「渡したくない気持ちは分かるよ。でも、そのペンダントは君の命を奪いかねない。君は前、
そのペンダントのせいで殺されかけた――」
「どうぞ持っていってください」
前言撤回。流石に命とペンダントどっちを取ると言われたら命を取ってしまう。母さんごめん。
私があまりにも食い気味に言うからか、
アルトはツリ目気味の目を丸くしていた。
「……え?本当にいいの?そんな、軽々と。
もっと交渉しようと思ってたんだけど……。」
「命よりも大切なものなど存在しないから!
持っていってください!!」
「……はぁ。そう?なら、もらってくよ。」
これでとりあえず身の安全は保証された。
この後は異世界平和ライフをエンジョイしようと
ペンダントのフックに手をかけ外そうとする
……あれ?ペンダントが取れない…!?
ペンダントが外れず困惑しているとアルトが近づいてくる。
「どうした?何か、あったのか?」
「あ、あの……。…えーと。すごく言いづらいんだけど……ペンダントが、外れない…。」
「……え、えー!!」
絶望で後半から声が小さくなる。
“ヤバい”私の心はその言葉で埋め尽くされた。
アルトは口をあんぐりと空け、汗が滝のように出ていた。
「ヤバい、ヤバい!何で取れないの!?
意味わっかんない…!」
母さんの呪いか!?母の形見よりも命を取ったからか!?仕方ないよ!申し訳ないとは思ったけど
やっぱり自分ファーストだよ!
「…ど、どうする?切ろうか?ペンダントのチェーン切ってもいいか?」
「いいよ!だから早く外して!!」
アルトがオドオドしながらも腰に下げていた剣を取り出した。
……まじか。あれで切るの?
いや、首ごといっちゃうだろ!そんなでかい剣!
「ちょっと待って!!……それで切るの?
無理無理無理!!やっぱなし!切らないで…!!」
「安心してくれ、シグレ。俺は剣の腕には自信がある。そのチェーンだけ切ることもきっとできる!……多分。」
「今、多分って言った!?絶対言っちゃいけない
一言だよ!」
「……大丈夫!俺はできる!!行くぞ、シグレ!」
「待って、待っ――」
私の抗議も虚しく剣は振るわれた。
直後、ガキンッという金属が弾かれる音がした。
……首は切れていない。アルトはしっかりとチェーンだけを切ってくれたようだ。
これでペンダントを渡せると思い胸元を見ると、まだペンダントはそこにあったのだ。
ならば、あの金属の音は何だったのか。
いや、そもそもチェーンを切るだけで
『ガキンッ』なんていう音が出るはずがない。
後ろを見るとアルトの剣が折れていた。
「……え?」
思わず声が出た。
チェーンの強度エグすぎだろとかどこか現実逃避をしているとペンダントが唐突に光り出した。
「ア、アルト?これって、大丈夫なの?」
「まずい、間に合わない…!」
アルトがペンダントに手を伸ばすがバチッと手が弾かれた。
光と共に手の甲が熱くなった。
熱々のフライパンに手を押しつけているようだ。
あまりの熱さにうめき声が漏れた。
光が消えると熱も段々となくなっていった。
ふと手の甲を見てみると赤い、鍵の形のような紋章が浮かんでいた。
「これは、なに……?」
アルトは気まずそうな表情でこちらを見た。
「……すまない。わかっていたことだが……巻き込んでしまった。君は、これから命を狙われることになる。」
「……どういうこと?命を狙われる?
どうして……。」
「今は、時間がないから重要なことだけ話すよ。
とりあえず、君が知っておくべきことは三つある。」
アルトは指で三を作りながら淡々と話す。
「一つ。王選戦争――通称、王戦。七人の候補者が“鍵”を奪い合い、王座を争う。」
「そしてその“鍵”が、君だ。」
「ちょっと待って!王選戦争?王の座?いやいや、私には関係ないよ。だって、さっき来たばかりだし。それに、関わっていたとしてもそれは
ペンダントが重要って意味でしょ?」
そう、さっきまでアルトはペンダントを取ろうとしてた。元はといえば、あの盗賊少女だってペンダントを奪ってきた。私が鍵というのは少しおかしい。
しかし、アルトは数回首を横に振った。
「いいや、関係あるんだよ。というか、たった今、君は王戦攻略の鍵になったって言い方のほうが正しいかな。」
「そ、それはどういう意味…?」
「そのペンダントは、君を主に選んだんだ。だから外れない。
その手に浮かんだ紋章が証だ。紋章が現れてから
1週間――それが王戦の期間だ。
そして、鍵であるペンダントを手に入れるためには、君自身を手に入れなきゃいけない。
時間は限られている。無駄はできないんだ。」
頭が痛くなってきた。
私の手に現れた紋章、王戦の時間は限られている、王戦を勝つためには私を手に入れなきゃいけない
――あまりにも非現実的だ。
「二つ、この王選には七人の候補者がいる。その候補者は君と同じ紋章を持つ七人でそれぞれ称号が
与えられる。
ナイト、ルーク、ビショップ、リージェント、
カメレオン、バトラー、そしてポーン。
俺はポーンの称号だ。」
「それから最後、三つ目は君を狙って候補者が
すでに行動していること――」
その言葉の刹那、窓ガラスが砕けた。
足元には馬の紋章が刻まれた剣。
「シグレ、下がれ!」
アルトの声に体が反応する間もなく、
彼は全力で私の前に飛び出した。
再び放たれた剣はアルトの前で弾かれ、窓の外に消える。
息を呑む。心臓が、全身が、ぎゅっと締め付けられる。
外には誰が、何のために?
アルトの背に隠れるように私は震えた。
「大丈夫、俺がいる。」
その短い言葉の裏に、何千もの戦いの匂いが隠されている気がした。
――王戦が、ここから本当に始まる。
鍵の紋章が現れ、王戦は残り7日──。
最後まで読んでくださりありがとうございます!
ついに王戦開幕!シグレを狙う、気になるイケメン候補者が現れる――次回もお楽しみに!




