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高校1年生の春、地区大会の後。

結果として3年生の引退が決まった。

県大会出場はやはり無理だった。

マネージャーとして近くで見させてもらった。

ストレートに表現させてもらうが、3年生の先輩方は経験者から見て本当に激弱だった。

初心者が見よう見まねでやってます、というレベル。


「はっはっは!今日から復帰するぞ!ワシの時代だ」


このめちゃくちゃ破天荒な新部長松野先輩を除いて、だが。


「本田ちゃん」

「あ、はい」

「次の新人戦は個人戦でワシと本田ちゃんを出場させる」

「あ、え?」

「大丈夫。成田には了承済みだ」


春の大会で話をして感じていたが、松野先輩はどこか考えが似てる部分があった。

3年生の先輩方が口にしていた伝統。

いつからの伝統なのかは分からないが、松野先輩は一切口にしない。


松野先輩なら、私の気持ちを分かってくれるかもしれない。

もしかしたら……。


「ワシ、そういうの嫌いなんだ。伝統とか古臭いの」

「珍しいっすね」

「本田ちゃんも珍しいぞ?東神田に来るなんて」

「あー……まぁ。そうですかね」

「そして、本田ちゃん」

「あ、はい」

「ワシを、ワシらを……全国に連れていってくれ!!」

「……」


少しだけ心が揺れた。

道場の流派の試合で、たかが3年間県内で負けたことがないだけの私に、この人はここまで信頼を寄せるのか。


「すみません。お言葉ですが、多分……今年の秋の新人戦は難しいです。ギリギリ来年の春に間に合うかどうか……」

「それは私と成田の引退試合ってとこか」

「はい」

「面白い!」

「え?」

「面白いじゃないか!その崖っぷちでの勝負!」

「……」

「念のために聞きますけど。本当に私に任せて良いんですか?」

「任せる!」


本当に変な人だ。


「じゃあ……お言葉に甘えて。まずは練習メニューから変えましょう」

「おお、なるほど」

「準備運動で要らない部分は捨てます。柔軟を重点的に、そして筋トレを組み込みます」

「ふむ」

「基本の時間も削りますので、どうでも良い動きは削ります。良いですか?過去の先輩方が続けてきたメニューですけど……」

「要らん!伝統なんて要らん」

「では次に、組手の試合形式を増やします」

「でも本田ちゃん。他の子達はまだ組手のくの字も分からんが」

「それでもやります」

「なんと……」

「組手で勝つにはとにかく場数です。今後は高校の大会だけじゃなく、剛柔流の大会にも出れるものは全て出ましょう」

「では、しかし……基本は」

「松野先輩、少し良いですか」

「ん?」


私は他の部員達から距離をとった。

松野先輩も私についてくる。


「すみません。こういうことは言いづらいのですが……」

「?」

「うちにはちゃんと教えれる指導者がいません」

「うん。そうだな」

「見て真似して覚える。これが基本となります」

「ん?と言うのは……」

「ついてこれない人は見捨てます」

「……」


私の言葉を聞いて松野先輩は腕組みをして黙り込んだ。

それはそうだろう。

急に仲間を捨てることを明言したのだから。

部長としてそれが許されるのか。


「……ちょっと、考えさせてくれ」

「はい、勿論です。松野先輩がこの空手部の部長です。決定権は松野先輩にあります」

「すまん……」


ああ、ちゃんと人間だ。

変な表現ではあるけど、松野先輩からはちゃんと人間を感じた。

それに比べて。


「いつでも声かけてください。その時は」

「……ああ」


腕を組んだままの松野先輩が小さく答えた。

元より私と身長差がある松野さんが更に小さく見えた。

私は軽く会釈をして部員達の元に戻っていく。

1年生の10人のうち、私と白川さんだけが経験者。

他のスポーツ経験者が3人。

あと5人は全くの初心者。


「お待たせ。じゃあ、ランニング行こうか」

「おー!美鈴ちゃん。行こうか」


白川さんが手を上げて笑顔を見せた。

私と白川さんで高1メンバーを仕切る。

最初の1ヶ月は基礎体力をつける為に外周を3周してから練習に入る。

その間に先輩方は型を練習する。


(外周3周がなくなったら……型の練習は週1で良いな……)


走りながら私は1ヶ月後からの練習メニューを考えた。

春までに個人戦じゃなく団体戦で神郷学園に勝つ。

それまで1年もない。


(私と松野先輩と白川さんが絶対に勝てるようにするしかないのか……)


松野先輩の組手はこの前見た。

経験者の組手ではあるが、お世辞にも強いと言える組手ではない。

白川さんも経験者とは言え、元々型の選手だった。

組手はからっきしだった記憶しかない。


(どこまでやれるのか……どこまでやる気があるのか……)


ふと脳裏に浮かぶ、最後の中学生大会で対峙した黒い集団。

細かくは覚えていないが体は厚かった。

まともに戦って私以外がやれるのだろうか。

名前も込みで勝つなんて。


ーカタン。

私の中で何かが1つ外れた音がした。


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