中学3年生の夏、地区ブロック大会個人戦決勝。
中3の夏。
個人女子組手決勝。
再戦の夏だと、私だけが思っていた。
「……」
目の前にいたのは中井さんではなかった。
1つ下の学年で……名前は何だったか。
興味無さすぎて覚えていなかった。
「……だるい」
視線を上にやるとまた観客席の最前を陣取っている集団が見えた。
今年は私か。
私を見に来たのか。
何だか自分が、動物園にいる囚われた動物の気分がした。
「美鈴ちゃん」
「あ、めい。腕大丈夫なん?」
「大丈夫!」
めいは今年は腕を骨折していて出場出来なかった。
もしめいが出場していたら、目の前にいたのはめいかもしれない。
いや、めいだったはずだ。
「今年は中井さんじゃないね」
「うん。思った」
「ね、めい、気になってたんだけど」
「ん?」
めいが視線を上げた。
私は首を傾げながら同じ方を向く。
黒ジャージの集団しか見えないが……。
「1番左にいるの、中井さんじゃない?」
「え?」
私は目を凝らして黒の集団の左側を見た。
1番左の最前。
「……」
私は言葉を失くした。
そこに座っていたのは紛れもなく中井さんだった。
「だよね?」
「……ああ」
「美鈴ちゃん?」
「なんだ。そういうことだったんか」
私は去年からの違和感がスッと胸から消えるのを感じた。
そして代わりに沸いて出る嫌悪や憎悪。
「……ね、めい」
「ん?なに」
「私さ、上下関係とか1番嫌いなんだよね」
「え?」
「全国常連校とか……ホントに強いと思う?」
「……え」
「名前借りて勝ってる人間って多いんよね」
「……」
めいは何も言えなかった。
何を感じ取ったのか私には分からない。
私自身が、何故こんなにも虫酸が走るほど気持ち悪くなっているのかも分からない。
「選手、前に」
そんな嫌な空気を裂いて主審の声が聞こえた。
私はマウスピースを口に入れる。
小さく息を吐いてめいに笑顔を見せた。
「なーんて、気にせんで。勝ってくるよ」
「あ、うん」
私は上手く笑えていただろうか。
最後の夏。
中井さんがリベンジしてくると信じていたこの大会。
私は名前も知らない選手と戦った。
強豪校の集団に仲間入りしていた中井さんに見られながら。




