中学2年生の夏、地区ブロック大会個人戦決勝。
大きく息を吸って吐いた。
上がる口角を抑えきれない。
「……」
「……」
目の前に立っているのは去年と変わらない相手。
少しだけ体が大きくなったかもしれない。
瞳は変わらず強い目をしていた。
中学2年生の夏。
再戦の夏。
「赤、本田選手」
「はい」
「白、中井選手」
「はい」
後ろには去年と同じでコーチを連れている。
やっぱり強い道場は違うんだろう。
コーチや監督、支える役割を揃えている。
そう思いながら私は後ろを振り返る。
「美鈴ちゃん!!」
「キャプテンファイト!!」
私の後ろには同じ道場の後輩達とめい。
めいは今年は準々決勝まで進んだ。
あと1歩で私と戦えたが、接戦の末に負けた。
無論、その相手はさっきの準決勝で私がストレートで下して仇はとった。
そして私は中2の春に道場のキャプテンとなった。
2年間通しのキャプテンは久しぶりだった。
前回は確か……。
「あれ?」
急に違う空気を察する。
顔を上げた。
観客席から感じた違和感。
「……神郷学園」
去年はいなかった神郷学園の集団が観客席の最前を陣取っていた。
真っ黒なジャージが目立っている。
一昨年に去年、高校女子組手団体優勝校。
いわゆる強豪校と呼ばれる高校。
この県で全国に行きたいなら神郷学園に進めば間違いない。
そう言われているほどの集団。
この大会で勧誘をしていることは知っていた。
去年は私も中井さんも中1同士だったから見向きもしなかったけど、今年は別なのか。
「まぁ……3位は2人とも中3か」
その延長で見てるって訳か。
まぁ来年は勧誘対象になるし、前もって見ててもおかしくはない。
「勝負一本、はじめ!」
「?」
また感じる違和感。
その理由はまたすぐに分かった。
「……サウスポー」
中井さんの構えが逆になっていた。
さっきの準決勝では普通だった。
この1年で両刀に変えたのか。
私対策で取り入れたのか。
……にしても。
「……甘い」
動きが若干ぎこちない。
付け焼き刃だろうか。
カウンターを狙っているのは分かる。
でも狙い方が去年と違う。
去年は僅かに体を上下させてタイミングを計っていた。
でも今はかかとまでしっかり床につけて、ほとんど体を動かしてない。
「ふっ!」
「っ!」
呼吸と共に軽くフェイントをかけるとすぐに反応した。
間違いなくカウンター待ち。
……でも。
「……」
今日の中井さんは何故かワクワクしなかった。
勝ちたい意欲は見えるのに。
私はチラッと中井さんのコーチを見た。
「?」
中井さんのコーチの視線が上を向いている。
選手の試合中に目を反らす?
そんなことをコーチが普通するのか?
「……」
引っ掛かることが多いけど、今は目の前のことを終わらせるのが先。
確かに私はサウスポーとの経験が少なく、対応に苦戦することが多かった。
でもそれは純粋なサウスポーに限る。
私も1年遊んでいた訳じゃない。
「早く終わらそ……」
私は間合いをとって大きく背伸びをした。
中井さんはそれでもじっと私の動きを注視して構えている。
右足と左足をトントンと手で叩く。
まだ中井さんは動かない。
「すぅー」
大きく息を吸い込んで。
「っしゃあ、おらぁ!」
「っ!」
私の咆哮にビクッと反応する中井さんをよそに、私は右足を投げた。
ノーモーションの蹴り。
相手は逆体。
腹は狙いやすい場所。
両手で避けに入るが別に私は点をとろうとは思ってない。
去年と同様に鈍い音が鳴る。
「っぐ!!」
怯んだその隙。
それが命取りになる。
蹴った右足を床につけることなく再び引き足をとって、私はそのまま中井さんの顔目掛けて蹴った。
ーバチン!
「……」
寸止めを考慮する余裕はあったはず。
なのに私は一瞬の迷いもなく中井さんの頬に右足の甲をぶち当てた。
ーピッ、ピッ、ピッ。
副審の旗が危険行為を表して会場内がざわつく。
中井さんがふらついて床に落ちた。
「大丈夫っすか、中井さん」
「……あ」
去年と同じように私は中井さんの脇に手を入れて抱え上げた。
変わらず片手で引き上げれるほど中井さんは軽かった。
「適当な試合するなら、本気なれないっすよ」
「え……」
「なんか……だるいっす」
中井さんが立てたのを確認して、私は手を離して最後の言葉を吐き捨てた。
コーチが中井さんの元に来る前に私は背中を向けた。
去年の秋の全国大会に中井さんがいたのは見たが、ブロックが違ったから声をかけることすら出来なかった。
あの時はまだこんな戦い方してなかった。
……いや。
私と当たらなかったからだろうか。
「……」
今年も力の差は圧倒的だった。
とにかく自分の中の違和感を拭おうと戦ったが、何も変わらなかった。
中井さんのせいではない。
そう思っていた。
でも違った。
その理由は、1年後にすぐに分かった。




