中学1年生の夏、地区ブロック大会決勝後。
「あの」
「……」
「本田さん」
「……あ」
決勝戦が終わって閉会式を待つ間、体育館の中にいるのも何だった。
ジロジロと色んな人に見られるのも嫌で、体育館の外階段で1人涼んでいた。
ボーッと空を仰いでいた時に呼ばれて、聞き覚えのない声に反応が遅れた。
「え、あ。中井さん?」
「お疲れ様です」
「あ、お疲れ様です」
「少しお話良いですか?」
「え?あ、どうぞ」
「失礼します」
試合中は髪を結んでいたから、おろした状態の中井さんを認識するのにまた時間がかかった。
私が座る2段下に中井さんが座る。
「あ、えっと……すんません。腹、大丈夫っすか?」
「え?あ、はい。全然」
「めちゃくちゃ強かったんで、本気出しちゃいました」
「え?」
「あ、中井さん強かったんで。自分もマジでやらんといかんなって……あ」
私は自分が喋ってる内容がとても上から目線なのに気付いた。
目を泳がせる。
基本的に人見知りが激しい性格だ。
さっき戦ったとは言え、初めて接する相手である。
「いや、えっと……」
「本田さんって変ですね」
「え?」
「いや。何か読めなかったです。準決勝までのお相手は結構読めたんですが……」
「……凄いっすね」
「え?」
「心とか読むんですか?」
「あ、いえ。そういうことじゃ……ふふっ」
急に中井さんが笑い始める。
私は首を傾げた。
「え、何か私、変なこと言いました?」
「いえ……ふふっ」
「?」
「本田さん」
「あ、はい」
「また来年も決勝でお会いしたいです」
「……」
「え?」
私は初めてだった。
また戦いたいと言われたこと。
今までずっと、誰と戦っても美鈴とは2度と戦いたくないと言われてきた。
「初めて……言われました」
「え?嘘でしょ」
「戦いたくないっていつも言われるので」
「ははは。まぁ本田さんはお強いですもんね」
「いや。そういう訳じゃ……」
「でも、私は強い人と戦いたいので」
中井さんが右手を差し出した。
私は再度首を傾げる。
「来年も、また決勝で」
「……あ、はい」
「出来たら……」
「え?」
「出来たらこの先も、本田さんとはずっと決勝で会いたいです」
私は自分の右手を差し出した。
中井さんがグッと私の右手を掴む。
思いの外、力強い握手だった。
「なんか、固いっすね。中井さん」
「え、そうですか?」
「だって、私達同い年ですよね?」
「……え!嘘!」
「私、中1っす」
「わ、私も!」
中井さんが途端に笑顔になった。
さっき思いっきり蹴られた相手に、そんな笑顔向けられるのか。
悔しいとかないんだろうか。
「中学1年生で決勝って凄いですね!」
「いやその言葉、そっくりそのまま中井さんにお返ししますよ」
「いや、いやいや!本田さんの方に中3の方、多かったですし」
「うちの1個上の学年の県代表、倒してましたやん」
「え、いつですか?」
「し、知らずに倒したんかい……」
「あ、はい」
「……クスッ」
「あ、本田さん。笑いましたね」
「ご、ごめん、ごめん……フフフッ」
何だか読めない子だった。
面白くて自然に笑いが出る。
そんな私を見て、中井さんもつられて笑った。
試合後にこんなに仲良く笑い合えた人は、今まで1人もいなかった。




