高校3年生の春、県大会個人戦決勝。
私達は向かい合う。
胸元には異なる高校名の刺繍。
拳には異なる色の防具。
君は赤。
私は青。
体育館の中央に掲げられた文字。
“高校空手道選手権県予選”
女子個人組手決勝戦。
「赤、神郷学園。中井貴江選手」
「はい」
「青、東神田高校、本田美鈴選手」
「はい」
僅かな空気の振動さえも強く感じるほど感覚が澄んでいる。
君との距離はもう測れない。
物理的な距離の話ではない。
2度と縮まることはない距離のことを私はよく分かっている。
君はどうだろうか。
絡まった視線は千切れない。
あと数分後にはどちらかが勝者で、どちらかが敗者となる。
今日ほど勝ちを望んだ試合はなかった。
会場の全視線が私と君に注がれていて、沢山の声援が飛び交うのに、私の心は揺れない。
数多くの大人や選手達が口々に君の名前を呼ぶ。
私の後ろには僅か十数名。
君の後ろにはその3倍はいるだろうか。
君が手に入れたもの。
私が手に入れたもの。
君が失ったもの。
私が失ったもの。
その違いは何なのか。
きっとすぐに分かる。
「選手、前に!」
主審の声が大きく響いた。
一礼してコートに入る君。
私は真後ろにいた、副部長の白川桜に声をかけた。
「じゃ、白川。行ってくる」
「本田」
「ん?」
「最後だぞ」
「最後にはならんよ」
「違う」
「あ?」
私が振り返ると、白川はコートの中に視線をやった。
「彼女とは最後、だろ」
「あぁ……確かに。そうなるな」
私は白川に背を向けて再びコートを見た。
既に君はコートの中で軽く体を動かしている。
私はそれを見て小さく笑った。
「……最後、なぁ」
「本田選手、早く中に」
「はい……」
主審に促されて私はコートの中に入る。
深々とお辞儀をしてからゆっくりと視線を上げた。
「……」
「……」
再度絡まった視線。
昔と変わらない表情。
懐かしい。
「どうも……」
「よろしくお願いします」
勝った方が全国大会出場の権利を得る。
それは私が高校に入学した時からの目標で、もうそれは目の前にある。
そして、その出場権利は君も同じく目標にしているものだろう。
そうこう考えているうちに主審の手がゆっくり上がった。
ああ、もう始まる。
この大会の最終種目、組手決勝戦が。
「勝負一本……」
急に思い出された。
最初の出会い。
中学1年生、13歳の夏。
蒸し暑い体育館の中。
まだ私達は何も知らなかった。




