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第9話 あたしにも役目がある。

 翌朝、先ずはじめたのはガイア火山の麓の探索だ。魔王城があるとの言い伝えだが、どこにあるのか、その情報が無い。

「モンスターだ。3時に数体」


 アーチャーのパイクは目がいい。いち早く仲間に敵の居場所を告げる。ゲイルリザードという大型トカゲだ。意外に俊敏で噛む力が強い。毒はないが、噛まれると雑菌により高確率で感染症になる。そうでなくとも一撃で骨まで噛み砕く。遠距離での攻撃手段は持っていないので、遠距離での戦闘が有効だ。だが俊敏。遠目ではパイクの矢も躱されれてしまう。


「雲を運ぶ大気の精霊、我が求めに応じ、道を開かん。マーシフルヘイズ」

 ゼニアが補助魔法を発動する。陽炎などに代表される大気中の視覚的歪みを起こす魔法だ。

 弓矢を放つ祭、射手からは標的であるモンスターも歪んで見えるが、より影響を受けるのは標的にされた方だ。飛んで来る矢の歪み方がより深刻なのだ。


 パイクは三体のゲイルリザードを全て仕留めた。仕留めたゲイルリザードはその場で解体される。素材は高値で売れるのだ。

「A級ってのはなんですか?」

「はは、モルガナは何も知らねえんだな」

 ブルーシールドの前衛、ガランが笑って説明してくれた。


 冒険者はギルドで冒険者登録をする必要があるのだ。誰でもなれるのではない。

 但し、今回のモルガナのようにパーティ内で私兵を雇うことは可能だ。よってパーティに参加するのはギルドの登録証を所有している者だけということはない。そして個人クラスとパーティクラスもまた別々に区分されている。

 パーティはパーティでメンバーと共に登録していく必要がある。そして実績に応じて階級が付くのだが、高い階級だと高額任務の受注が可能になる。

「その中でもA級は全体の5%未満だ、それ以上はないから、ま、実質的なトップの一つが俺たちだって話だ」

 間違ってはいない。彼らは有名パーティで、セリオン加入後、更にその名を高めた。アッシュの時代はB級だったのだからだ。

「何階級あるんですか?」

「AからE。つまり5階級だ」


 さらに個人にも階級があるという。これは必ずしもパーティの階級とは一致しない。ガランはAだという。セリオンもAだ。ゼニアとパイクはB。

「へえ~」

 モルガナは改めて自分の世間知らずを知った。

 おかしい。宮廷魔術師まで務めた自分であるはずなのに。


 若返りの際に失った知識の一つなのだろう。そう思うことにした。

 そのとき不意に魔力を感知した。敵意の感知。

「敵!あっち!」

 指で方向を指し示す。


 それはモンスターでは無いように見えた。人影だ。人影だが背後には数体のモンスターを引き連れている。背後のそれはデーモン種モンスターのガーゴイル。デーモン種は滅多に出会うことはないレアモンスター。しかも強力な戦闘力を有している。

「止まれ、何者だ」

 セリオンがグリップに手を掛けて聞いた。


 世の中にはモンスターを支配下に置き、使役する冒険者がいると聞くが、この男の正体はまだ分かっていない。

「それが人にものを聞く態度か?」

 男は薄い笑いを口元に湛えた。

 その男の前に出たのはモルガナだ。

「あなたは魔人ね。近づいてきた目的を教えてもらえますか?」

 その言葉に一同が身構えた。


 魔人の存在とその認知については100年前でも同じなのだ。そして偏見もまた同じだ。しかし、モルガナには偏見はない。もちろん陽が沈んだ後の明るい場所で、それも1対1で遭遇したのであれば話は別だ。普通に恐怖する。防衛本能がまず働く。あの感覚が相手の正体を看破する。


「俺の役目は魔王城の在り処を探ろうとする愚か者を排除することだ」

「なるほど。それを言ったからには私たちを生かして帰すつもりはないと?」

「そのとおりだ」

 偏見はない。それはこっちの側の都合だ。こっちにはないからと言って、向こうにもないとは限らないのだ。

「モルガナ。どいてくれ」


 モルガナの前に出たのはセリオンだ。

 おお、これは……。

 アルケロン・ギガテスの時よりも溢れるオーラの量。ホーリー・エンチャントが全身を包んでいる。


 これが白い魔女の代償と引き換えの希望の力。それを見て魔人も剣を抜いた。

「ボクの名はセリオン・ラーカム。魔王を討ち、人間を脅かす影を打ち払う者だ」

「俺は魔王様の側近、メールガム。この地に足を踏み入れたことを後悔しろ!」

 剣と剣がぶつかり合う。セリオンが僅かに押し込んだ。

「ガーゴイルを始末して!」

 ガラン達に指示を出したのはモルガナだ。勝ち筋が見えている。


 ゼニアの祈祷式魔法はデーモン種ガーゴイルに有効だ。普段はサポート、治療役が主な役割だが、今回は攻撃役として最も効果を発揮している。

 純白のローブが風も無いのに下から煽られる様に激しくはためき、祈祷式魔法の終了と同時に光弾がガーゴイルを穿つ。魔法使いは杖を、プリーステスは魔石や強い魔物の化石を触媒に使う。ゼニアは魔石を埋め込んだ指輪をはめた指を組んで祈祷式魔法を放つのだ。純白のローブをはためかせながら祈る姿は美しかった。


 その間、ガランはそのゼニアの護衛に回り、パイクが矢で援護。趨勢が決まったと思われた瞬間、セリオンとメールガムの決着もついた。数合剣を重ね、徐々に押し込まれたメールガムが飛び退いて距離を取った瞬間、セリオンの剣がオーラの束を剣先から伸ばし、そのオーラの剣でメールガルを袈裟掛けに斬ったのだ。

 すごい……。これが白い魔女の力……。

 他人にこれだけの力を与える術は自分にはない。


 今更ながら白い魔女との実力差を痛感し、そして今の時代なら彼女も生きているはずだと気付く。セリオンになら案内と紹介を頼むことが出来る。心残りの一つに決着の道筋が見えた。


 この件が片付いたら会いに行こう。いる以上は会えるチャンスもあるだろう。本当はもっと重要なことに思考が及んでなければいけない気もするのだが、いまは別件の方が気になった。問題はここからなのだ。


 気楽にはいけない。なぜなら100年後に知られる歴史では、セリオンはここで死ぬ。だがその100年前と直面している今では事情が大きく違う。

 100年前、勇者一行の中に、黒い魔女はいなかった。

 今は、――いる。


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