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第8話 勇者の仲間たち

 街は魔王城があるとされるガイア山に対して、もっとも人間の居住圏が迫った場所であった。王国内最大の冒険者ギルドがあるのもこの街だ。冒険者ギルドの規模は王都のそれを遥かに凌駕する。

 なぜか。仕事が多いからだ。ここはモンスター討伐の拠点の街だ。他の街ではモンスター被害の防止などで討伐されるケースが多いが、この街でのモンスター討伐の目的はほぼ素材収集のためだ。

 ここで採集されたモンスターの牙や骨、皮革は大陸各地に高値で売れる。さらにこの街は大陸各地に対する供給の街である一方で、武器や防具などの需要と消費の街でもある。


 大勢の冒険者がここで最後の支度を整えるのだ。

 街の名をニミッツガルドという。



 ニミッツガルドと王都を最短で結ぶ線はモンスターの徘徊する森林を縦断する。通常はこのリスクを避けた迂回路を通ることが多く、その迂回路が主要街道だ。

 都からだと街に近づいたところで大きく迂回することにはなるが、森の中では圧倒的に人間は不利だから仕方ない。ただ、腕のいい冒険者にとっては競争の激しくない狩場とも言えるのだ。

 途中二組ほど冒険者パーティが森の方に向かうのを見た。アルケロン・ギガテスのようなモンスターは普段から森にいるのだろうか。あの二組では太刀打ちできまい。モルガナはそう思った。

「ねえ、あのレベルのモンスターって普段からいるの?」

「いや、存在は知ってたけど、ボクは初めて見た」

 駆けだし勇者かな?

 とても魔王に挑む勇者とは思えない。

「最近、地震が頻発するし、そのせいか、強いモンスターの目撃例が増えてるそうよ」

 ゼニアが補足してくれた。口ぶりからこのパーティが王都とニミッツガルドを何度か往復したことがあると知れた。

 そうか、魔王はこの時代、いるんだ……。

 歴史では確かに彼が魔王に挑むのだ。そして敗れて死ぬ。その戦闘は火山の噴火を招き、近隣を焼いた。しかし、その後王都に蔓延した疫病は終息していく。

 因果関係は明示されていないが、それが勇者セリオンの残した偉業だ。


 散らかっていたピースが少しずつ嵌っていく。疫病が拡がり、魔物が活性化する時代に勇者は魔王に戦いを挑む。その戦闘は天変地異を招き、そして勇者は敗死する。

 これをどうにかするとしたら、誰かがどうにか出来るとしたら。多分それ、あたしなんだ。


 そっか、こんな大きな街だったんだね……。いや、大きな街になったんだ……。

 感慨も生まれるが記憶も蘇る。

 モルガナにはこの街の記憶がある。風景にではない。この場所と空気感に。それは100年前よりももっとずっと前、まだ小さな町だった頃の。

「ほら、あれが泉の聖女像だ」

 セリオンが指差す。甕を抱えた聖女の像だ。

「セリオンはこの街には以前も?」

「ああ、数えきれないくらい何度もね」

「その時は何をしに?」

「モンスター討伐の依頼を受けに、ね」

 そうか。彼は普段はこのようにして生活していたのか。

「セリオンって冒険者なんだ」

「いや、国境警備兵だった時の話だよ。その後王都の警護兵に抜擢されて王都に越してきたんだけど、一年前に退団したんだ」

 セリオン退団の理由は聞けなかった。会話は周囲の声で中断したからだ。

「おい、A級パーティ、ブルーシールドだ」

「あれがセリオン・ラーカムか」

「かっこいい」

 モルガナは知らなかったが、彼らは有名人のようだ。


 一行は宿に入った。上客の常連客と認識されているようで、宿の対応は極めて丁寧だった。

「セリオンさん、凄い人気ですね。警備隊を退団して正解だったのかも」

 何気ないモルガナの一言だったが、同室のゼニアには何気なくは聞こえなかったらしい。彼女は純白のローブを脱いで壁にかけると、改まるようにモルガナに向き直った。


「セリオンは王都の警備兵時代に今も続く疫病で恋人を失くしたのよ。一年前にね」

 警備隊を退団したという時期と一緒だ。

「それで、警備兵をやめたんですか……?」


「ええ。身近なものを守れない。そしてバタバタと人々が亡くなっていくのを黙って見ているしかない無力さに絶望してね。それで一人になった彼と、彼が国境警備兵時代に何度か協力関係にあった私たちが偶然会って協力を依頼したのよ。その時は私たちも落ち込んでいたからね」

 ゼニアは当時の様子を話してくれた。


 冒険者パーティ、「ブルーシールド」は当時からここよりもっと先の、国境付近で活躍していたパーティだった。それで国境警備兵の隊長セリオンと協力する機会は多かった。民間からの依頼でモンスター討伐を請け負うブルーシールドの事情を、国境警備兵側も理解していたからだ。歩み寄ったのは隊長セリオンの方からだ。


「ボクは国境警備のセリオン・ラーカム。キミたち冒険者とはこの場における手段と目的を同じにするものだ。共調できれば一層成果が上がると思うが、どうだろう?」

「ああ、あんたセリオンって言うのか、昨日の働きはなかなか凄かった。遠目にも腕のほどが分かったぜ」


「先行して目印を残しておいてくれたのはキミたちだろ。あれがあったおかげでボク達の移動はスムーズに出来た」

「王国の兵に睨まれるわけにはいかねえからな。売れる時には積極的に恩を売るぜ。そういうわけで、今回も売れる恩があるなら用意するから買ってくれ」


 こうして協調行動は成立し、当時のブルーシールドのリーダー、アッシュと警備隊長のセリオンはすぐに打ち解けた。

 国境警備兵の活躍は王都にまで聞こえるようになり、その隊長セリオンの王都招聘の流れを作ったのも、アッシュとそのパーティ、ブルーシールドとの協調行動があってのことだとも言えた。


 しかしある時、冒険者パーティ、ブルーシールドはリーダーであるアッシュを失った。

 アッシュを失ったブルーシールドが、職を捨てたセリオンと再会した時、ブルーシールドが彼を求め、それにセリオンが応じたのも自然の流れだったのだ。


「アッシュさんはいまどこに?」

 何となく察しがつくが答えを聞かない以上、確定ではない。

「死んだよ。セリオンと同レベルの連携を期待し、それに後任の警備兵は同じだけの動きが取れなかった。でも、国境警備兵は悪くないよ。アッシュが過度に期待しただけ」

 そう言うゼニアは少しさみしげだ。


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