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第7話 それは勘違いだから

 

 森を抜けたところでセリオンがモルガナに向き直った。一行もまたその瞬間を待っていたようだ。

 な、なんすか!?

 モルガナだけが何をされるのかと身を構える。

「モルガナ、まだ言っていないことがあった。聞いてくれるか?」

「え、な、なに?面倒な話はヤダよ?」

「悪い。多分面倒な話だ」

「なるほど。じゃあ、ダメだね」

「そうだな。悪かった。さ、この先に街がある。そこまで送ろう。そこでお別れだ。最後に美味しいものでも御馳走するよ」

 だああ……。

 パーティの仲間たちの様子に一瞬の腰砕けの気配が浮いた。だが踏みとどまる。

 でもまだ仲間たちはリーダーのその発言に何か言いたげだ。なのに彼らは飲み込んだ。リーダーの意向を尊重したのだろう。それは気配でモルガナにも分かった。そしてセリオンがどこに向かうつもりなのかも。

「はあ・・・。本当に面倒。魔王バルザルド。それがあなたたちの向かう先なのね」

「な、なぜ、それが・・・」

「そりゃわかるけど」

 ところでバルザルドって今もいるのだろうか。それについてはモルガナも知らない。なにしろ会ったこともないのだ。仮にもういないとして、過去から来た彼らはがっかりするだろうか、それとも喜ぶだろうか。

「それで、そのことで何か用があるんじゃないの?」

「あ、ああ。つまり、キミが一緒に戦ってくれると、とても心強い」

 アルケロンを前にしてのあの落着き。森の中で無防備に寝る豪胆さ。何より見たことの無い強力な魔法。きっと幼い頃より幾多の修羅場を生き延びてきた真の強者に違いない。

「それで昨晩の恩返しになるなら、よろこんで」

 一行に笑顔が咲いた。最終盤に来てパーティが完成したのだ。探し続けて、しかし巡り合えていない攻撃魔法の使い手。

 何人も試したが、どれも使い物にならなかった。理由は魔法の普及は進んでいたが、ほぼ貴族の独占になり、平民には習得の機会が極端に少なかったためだ。そのため冒険者ギルドで魔法使いが加入募集をかければ、ほぼ全パーティから加入の申し込みが入る。獲得競争に参加しないのは競争率の高さをもって最初から諦めているパーティ位だ。


 そのような状況下、質の良い魔法使いに巡り合うのは難しいのだ。しかし、ここに来てようやく巡り会えた。それも質が高いどころではない。破格の実力者、その上この年齢で経験までもが豊富だ。もちろん気になるのはどうやって魔法を習得したかだ。

「ねえ、モルガナ。キミはどこで魔法を習ったの?もしかして白い魔女に?」

 モルガナは首を振った。あまり答えたくないようだ。そしてモルガナの方から質問が返ってくる。

「セリオンは白い魔女を知っているの?」

「ああ、もちろん。ボクの力は白い魔女に与えられたものだ」

 ホーリーエンチャントの能力を持つセリオンは夜明けの塔に登り、そこで白い魔女に魔王討伐の助力を願った。塔は単身で登る必要がある。彼はそれをやり遂げた。

「白い魔女ってどんな人?」

「年齢不詳。でもきれいな人だったよ」

 そうだろうか。年齢も黒い魔女にきっと近いはずだ。なら魔法で見た目だけ変えているのではないだろうか。白い魔女は魔王を討伐し、

 王国を災厄から守りたいというセリオンの言葉に感動し、強力な力を授けたのだ言う。きっとあのホーリーエンチャントがそれなのだろう。誰かを救うため。それが白い魔女が力を与える条件だ。


 そしてやはりセリオンたちは過去から来たのだ。今白い魔女はいない。だから会えるはずがない。この事実をどこでどう告げるべきだろうか。

 魔王だって多分もういないだろう。王都まで一度も来たことがないし、その目で見たという人だって聞いたことがない。


 森を抜けると平原が広がりその先に小さく街並が見えた。

「……ッ」

 モルガナの鼓動がドクンと高まった。


 彼女は森の中を歩いているときに逡巡していた。この森を抜けた先に街など無いのだ。自分の時代から見て170~180年ほど前、そして彼らの70~80年ほど前には間違いなく存在したはずだ。しかし火山の噴火の土石流に巻き込まれ、それ以降誰も近づこうとしない禁忌の地だ。過去から飛ばされてきたセリオン達はその事実を知らないのだ。

 確かに勇者セリオンの名は100年前の人物として現代に語り継がれている。


 街がある。そのセリフは彼の活動時期を示す証拠なのだ。彼は後に滅びる街の存在を知っている。つまり火山の溶岩に街が呑みこまれる前だ。彼はその時代からこの時代へ飛んできた。森を抜けたあと、眼前に広がる光景を見てどう思うだろうか。100年の時空を超えた彼は、現在の様子を知らない。


 事実を言わなければならない。事実とは街の存在の有無にとどまらない。

 モルガナは道中その覚悟を決めていた。決めていたのにも関わらず、そのきっかけを失った。


「ふえ!?」

 溶岩に焼かれた山肌、あるべき位置から失われた街。覚悟の光景はどこにもなかった。


 つまり、街はあった。


 ここに至ってモルガナは別の可能性を考えた。あの森の夜、寝てしまって、目が覚めた先が100年前の世界。

 つまり時間を飛び越えたのは自分自身なのではないか。


 そこに想像が及ばなかった理由は明白だ。彼女は15歳に若返った際、185年前に遡って過去に飛んだのではないかと最初勘違いしたのだ。しかし、実はそうではなく、単に自分ひとり若返っただけだった。

 その勘違をしたという記憶が新しく、自分が過去に戻るという発想にならなかったのだ。


 いや、まだ決まったわけじゃない。慎重になるのよ、あたし。街に入るまでは迂闊に口を滑らせちゃ、ダメ。

 そう自分に言い聞かせるモルガナだった。


 



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