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第62話 同じではないよ

 焼いたキノコが香ばしい。早起きしたモルガナが昨日料理に使っていないキノコを塩をまぶして、スープの残りを浸したパンと一緒に焼いて、朝食を用意している。燻製肉の残りも刻んでパンに挟んで、キノコたっぷりサンドを作ったのだ。


 キノコのカットは大胆で、野趣あふれる歯応えの食感。

 なのに細切れにした燻製肉が食感のリズムを一定に定めない。焼いたキノコとスープに浸して焼いたパン、するとキノコがパンの塩味を丁度いい塩梅で相殺し、後味に焼きキノコの風味が残る。

 最初からこのレシピを考えていたのではないかと思うほど。

 いや、このために昨日の夕飯があったのでは、と思うほど。

 それは驚くほどに美味しい。


 馬が僅かに黄色く色づいてきた草を食む。空が高い。きっと昼前には目的地に辿り着くだろう。

「ベリアス、手を出しちゃだめだよ。ともかく下手に出て」

 到着するや否や、二人は拘束されてしまったのだ。


「私たちは怪しいものではありません。ただの旅人です。もしこのことが王国に知られれば、戦争になる可能性だってあります。どうか、そのことも考えて」

 別に脅迫したいわけではない。実務としてそうせざる得ない状況もあるのだ。

 なぜかと言えば近隣の諸国や国内の貴族の目があるためだ。国民を見殺しにした。或いは報復しなかった。その事実は国内では国民の不満と王宮への不信になるし、外国から見れば付け入る隙になる。


 面子の点でも、実務の点でも放置はできればしたくないはずだ。

「確かにあなたの言う通りです」

 そう言って後ろ手に縛られた二人の前にやってきたのは長老だ。長老は女性だった。高齢のようだが足腰がしっかりして背筋がピンと張っている。姿勢の良さに上品な雰囲気が滲む。


「あ、あの。では……」

「まず聞きなさい」

「は、はい……」

「私はオルネドア。この村の村長であると同時に、周囲の民族を代表する巫女でもあるのです」

 オルネドア……。聞いたことがある気がする。


「村の村長としてあなたたちを受け入れることが出来ても、地域の巫女としてあなた達を見過ごすことはできない」

「王宮との密約、だから?」

 モルガナの大きな瞳が不敵にオルネドアを見据える。


「牢に入れておきなさい」

「分かりました。自分で入ります。逆らいません。でも、あたしに触らないで。ベリアス、ついてきなさい」

 何やら威厳のありそうな様子に村人が手をこまねく中、牢の位置を知っているのかモルガナが勝手に進んでいく。



 後ろ手に縛られたまま。その周囲を弓を持った男たちが囲みながら、モルガナの歩幅に合わせて方位の陣形を保ったまま進んでいく。

 やがてモルガナは牢の前に立った。

「早く開けなさいよ。入れないじゃない」

「は、ただいま」

 なぜか配下のような口調で村人の一人が牢を開けたのだった。


「ねえ。まずいことに気付いたんだけど」

 しばらくしてモルガナが不意に行ってきた。

「まずいこととは?」 

「トイレってあの穴?まさかあんたの前であれを使うはめになるの?」

「む……。このままではそうなりますな。ま、私にも同じことが言えますが」

「お……、お…、お、同じじゃねえだろ。1ミリとて。どういう理屈か見当もつかないけど、同じてか。どう斜めにひねったらそんな発想が出来るのよ。お前の頭はどうなってんだよ?」

「……。なら、蹴破って脱出しますか?この程度の規模を制圧するなら一分いや30秒ほども頂ければ十分ですが……」


「駄目よ。でも交渉は必要ね。おーい、たすけてえッ、こいつに乱暴される、たすけてえッ、誰かあー」

「ちょ……ッ」

 結局モルガナ一人が牢を出されたのだった。


「さて、モルガナさんだったわね。王宮との密約?どういう意味かしら?」

 後ろ手に縛れたままのモルガナにオルネドアは尋ねた。今は2人きり。オルネドアがそうさせたのだ。

「35年ほど前の、白い魔女ウィステリアとの約束のことですよ、もちろん」

 モルガナの言葉にオルネドアの顔色が変わる。

 だがモルガナもまた真っ青だ。真っ青になって脂汗をかいている。

「あなた、まさか……、ウィステリア様!?」

 オルネドアの言葉にモルガナの意識が一層乱される。


 モルガナはこの村に着いた時から白い魔女のビジョンを見ていた。ビジョンとは白い魔女の記憶。ラグナ彗星迷宮の時と同じだ。ゆかりのある場所で白い魔女の記憶が流入し、それが彼女の視点で脳裏に再現されるのだ。

 そしてモルガナは知ったのだ。白い魔女のおぞましい本性を。


「いいえ、私はウィステリアではありません」

 そのビジョンをみて気分を悪くしていたモルガナだが、なんとか踏みとどまって答えた。

「ウィステリアではありませんが、彼女がここで何をしたかを知るものです」

 オルネドアの言うウィステリアとは白い魔女のことだ。つまりウソはついていない。

 モルガナは白い魔女ではないし。だけどビジョンを通じて白い魔女の行動を知っている。


「な、なんなのです、あなた……」

 モルガナは明確に知っていると言った。そしてモルガナには確かにウィステリアの面影がある。オルネドアの額を汗が伝う。唇が震える。

「なら、モルガナさん、あなたは何を知っていると……」

 言葉が終わる前にモルガナがゆっくりとかしぎ、そして倒れて意識を失った。


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