第55話 猛攻のスケルトンキング
その時、タマユラは激しく震えた。それはアガニケに初めて会った時の反応だ。
アガニケがいるのか?
まずそう思った。
なぜか強いモンスターとの遭遇と同じ反応を見せるタマユラ。あの時と同じ反応。アガニケに初めて会った日だ。
あの日のアガニケを思い出す。
横たわったまま苦しげに荒い呼吸を吐き悶えていた。
異様なのは彼女から立ち昇る黒い煙のような瘴気。
その瘴気がまるで底なし沼から手だけを突き出してもがく溺死寸前の人間のように無気味に揺らぐのだ。
人間じゃない……!
エミリオはその時本能的に思った。
「待って」
柄に手を掛けたエミリオはその声でアガニケに寄り添っていた人間に気付いた。
すぐそばにいたのに存在を感じないほどのか弱い存在。
いや、それ以上にアガニケの存在感が異様だった。荒い息に喘ぐ本体、虚空に手を伸ばし、時折地面を打ちつけるようにのたうつ瘴気。
それに比べ傍らの細身の女性はあまりに存在感が乏しかった。
「キミは?」
「私は、この人と一緒に迷宮に入ったものです。突然彼女が苦しみだして……。でも私のジョブクラスはプリーステス。心配いりません」
そう言ってアガニケに祈祷式魔法を施したのが傍にいたジゼルだ。
そして今、震える妖刀タマユラとそれを持つエミリオの視線の先にはいたのは、アガニケではなかった。
「ジゼル……」
そしてその隣にはジゼルと今回いつも一緒にいる、彼女の同僚ヘーゲル。
「あら、エミリオ。一人でどうしたの?仲間は?」
同じマグダ・レガリナのメンバー同士。お互いよく知った相手。
けれど、エミリオはこれまでの誤解を自覚した。タマユラはあの日、アガニケに反応したのではなく、ジゼルに反応したのだ。絶好調のタマユラが、普段気付かない何かに、今、気づいたのだ。
その証拠にモンスターらしきものはこの場にはいない。
切っ先がジゼルに向けられた。
「ちょっと、何の冗談?」
そういうジゼルの口元は笑っているが、目は笑っていない。
「そっちじゃないよ。こっち」
その頃、エミリオを追っているモルガナが、右に曲がろうとするアベルに言った。
「分かるのか?」
「ふふふ。これだよ」
長い針を取り出し、指でビィンと弾いてみせた。
「おお、それは…昨日の!使い方知ってるのか?」
「もち。まあ、昨日エミリオに聞いたんだけどね」
それはウソ。使い方など知らない。
こんなもの無くても気配を辿れる。
モルガナにそう言う固有の能力があるのではなく、今、迷宮の中で毛細血管のように走る魔力の脈と繋がっている感じなのだ。脈を辿ってエミリオの位置が薄らと感じ取れる。
だがそれを口に出して言うことはできない。
不気味な存在とは思われたくないからだ。
だが探し相手の位置が何の説明もなく分かってしまうのも不自然。そこでウソに昨日の道具を利用したのだ。
魔脈がエミリオの位置を報せる。そしてなにやら不気味な存在も。その時、エミリオの気配が消えた。
「い、急ぐよ!」
モルガナ達が向かう先では他の冒険者パーティがモンスター相手に、し烈な戦闘の最中だった。
モンスターはスケルトンのようだが、すこし様子が違う。腕が4本あり、しかもそのスケルトンは、古びてはいるが高価そうな鎧を着ており、4本それぞれの腕に武器を持っている。そのうち一本は魔法使いのロッド。距離をとれば魔法を放ち、接近戦では近接武器を巧みに使う。そのモンスターと戦っているのはニミッツガルドのA級パーティ、「竜飛」だ。
すでに前衛の剣士のギルバートが戦闘不能で、クロスが祈祷式魔法で治癒をしている。鎧をきた骸骨はカラッカラッと笑っている。リーヴは剣を構えながら横にいるベンに声を掛けた。
「ベン・クレイマン。こいつは何なんだ?」
「分かりません。スケルトンキングというのがいるそうですが、もしかしたらこいつがそうなのかも」
その骨は極めて固く、骨に当たっても刃物を通さない。その上、動きもすばやく、剣士であるギルバートの剣技を上回る動きで彼を斬ったのだ。
ギルバートは重傷だ。
スケルトンは下級モンスターだが、その最上位種であるスケルトンキングは、存在が確認されているだけで、仕留めたという話は聞いたことがない。ただ語られるその姿から、人間のアンデッドではないだろうという事だったが、今ならその噂も頷ける。
ビュン!
死角に回り込んでいたシーフのマチルダが斜め後ろからボウガンを撃った。モンスターは察知能力を有するのか、矢の放たれた方向を見ることも無く、剣でその矢を弾いたのだった。
冒険者パーティ、竜飛の一同は青ざめた。逃げたいがまだギルバートの治癒が終わってない。モンスターは怯む冒険者たちに、無理に距離は詰めず、魔法で攻撃してきた。貫通系の光弾魔法。辛うじて躱すも、迷宮の壁に無数の穴を開ける威力。当たれば致命傷は免れない。治療中のギルバートたちが狙われたら……。焦燥が表情に浮かんだ。
このままでは……。
盤面を崩さなければ、全滅もあり得る。
だが、意外なことが起こった。モンスターの様子が急に変化し、狼狽気味にモンスターのほうから立ち去ったのだ。いや立ち去った、というか、逃げた。そう見えた。あまりの突然のことだった。




