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第52話 新階層発見

「出遅れを取り戻すぞ。なんでも有力パーティがいきなり初日に全滅したらしく、参加者の進行速度が一気に落ちているようだ。いまなら取り戻せる」

 運営や他のパーティのキャンプが設置された第七階層、通称センター。そこで新米リーダー、アベルが力強くメンバーを鼓舞した。ここでいうメンバーとはS級パーティ所属、ニンジャマスターのエミリオ。

 そして当代魔王のモルガナだ。


「えいえい、おー」

 魔王がリーダーの鼓舞に応える。右腕を突き上げる。ハンターフェスはまだ、始まったばかりだ。そして迷宮は活性化していく。なぜと言えば魔王がやって来たから。モンスターたちの魔力は魔王の魔力に共鳴する。迷宮そのものもまたしかり。


 このパーティの異様さは、何でもない新人パーティに最強冒険者の一人が加入している点ではない。

 魔の巣窟である迷宮に潜るに当たり、魔の眷属を統べる存在が加入している点こそ、このパーティの異様の本質なのだ。

 そして迷宮の規模が大きければ大きいほど、共鳴の影響と作用、そしてその効果は増幅する。

 波及効果或いは連鎖効果。そのように呼ばれる連続相互作用が起こるためだ。


 突然の縦揺れにリーヴは引き攣った声を上げた。龍飛のリーダーであるベンもうおおと叫ぶ。天井が崩落したらアウトなのだ。このことは冒険者の経験や技量と一切関係がない。唐突に訪れる理不尽な死だ。

 強弱もまた関係がない。

 強者であろうと死の可能性を眼前に突きつけられれば恐怖を覚える。


 迷宮の至る所で絶叫が湧いた。やがてその声が収束したのは震動が収まったからだ。今のところ天井崩落の被害は不明。だが運営は見ていた。呆然とするモルガナの様子を。モルガナの足元に穴が開いている。センターの一部で底が抜けたのだ。それがモルガナの足元だ。いま、まさにこれから迷宮に挑もうとしていた、その目前での崩落だ。

「あの、第八階層を発見しました!」

 すかさずモルガナがすぐ傍にある運営のキャンプにアピール。

「いやあ、それはちょっと……」

 偶発的に目の前に現れたのであり、運営もまたその様子を見ている。


「ノーカンで」

「な、なして……、ち、ちくしょう……」

 モルガナの涙目にはもちろん理由がある。彼女は第八階層の存在を知っていた。そして偶発的にその発表の機会を失ったのだ。だから悔し涙が溢れようとして来てそれを必死に耐えているのだ。モルガナはこうして勝機を一つ手放した。しかし、そのままロープを使って降りたため、最初の第八階層「到達」者の名誉はモルガナ達のものになったのだ。


 この迷宮は王都の近くに位置しながらその存在を王都の住人や冒険者に知られること無く存在した。それをゼキエルがダイブし、第10階層までその体で踏み抜いたのだ。ゼキエルはモンスターたちの頂点に立つ存在だった。

 それを殺害したのが白い魔女。

 先日モルガナはここで白い魔女の記憶を読んだ。

 なぜ白い魔女の記憶が読めるのだろうか。


 モルガナはその理由に気付きつつあった。魔王の魔力に迷宮が共鳴し、その共鳴はまた魔王に作用する。

 いくつかの反射が同時に起こり、触れあう部分に摩擦が生じる。摩擦が生じてエネルギーが生まれ、迷宮は活性化していく。

 その恩恵を、魔力の強いものほど受けることが出来る。つまり恩恵を最大限に受けるのはもっとも強いものだ。


 カタカタ……。

「どしたの?」

 モルガナがエミリオに尋ねた。彼は小刻みに震えている。

「い、いや、何かいる。とてつもない何かが」

「どこに?」

「それが分からない、こんなこと初めてだよ」

「ちょっと、怖いこと言わないでよ」

 そうは言うモルガナだが、自分もまたこの迷宮に影響を受けている、その自覚が芽生えつつあった。

 まだ正体には気づいていない。まだ見ぬ強敵がこの奥に潜んでいるのか、それとも別の要素なのか。


「なあ、やっぱり何にもいねえぜ。どうなってんだ?」

 アベルが呑気に言うのは進んでもみても全くモンスターに遭遇しないからだ。その疑問についてはエミリオが明確に説明した。

「いや、アベルさん、モンスターはいますよ。でも人間を避けています。間違いなく。弱いモンスターなのかもしれません。ただ明らかに侵入者を避けている」


 エミリオがモンスターの存在を感知しても、すぐにモンスターは距離を取るのだという。

「ま、弱いなら別にいいか」

 アベルは気にする様子もなくそう言った。

「さすがリーダー」

 言わずもがななのだが、モルガナがついそう口走ったのは彼女もまた自身の変調に不安を覚えていたからだ。

 気を良くしているのはアベルばかりだった。


「ね、そこの壁。なんか怪しくない?」

「ここ?」

 モルガナに言われてエミリオがコツコツとその壁を拳でノックする。

「あ、空洞か通路がある……」

「なに!俺に任せろ」

 アベルが思いっきりその壁を蹴ると壁が崩れてその先の空洞部分が姿を現した。

 宝石箱が隠されていた。

「これは、かなりの逸品だよ。でもモルガナ、どうしてわかったの?」

 このような直感に優れているのはエミリオだ。得意だという実感も本人にある。その自分より先に隠されたスペースに気付いたモルガナに、エミリオは驚きを隠せないでいた。

「う~ん……。なんとなく?」

 事実は言えないというか、言う術がない。

 伝えられない。


 モルガナは白い魔女の幻影を見たのだ。昨夜のことだ。白い魔女はゼキエルの死後にこの迷宮を何度も調査に訪れている。第八階層も踏破済みだ。

 その幻影の中、白い魔女の視点で見たとおりの構造なのだ、この第八階層は。

 この先に第九階層へ降りるルートがある。モルガナは何も言わずにそこまで進んだ。

「お、おい!階段があるぞ!今度こそ正真正銘の新階層発見だ!なあ!」

 アベルが大喜びだ。


「そうだね。まずは報告に上に戻ろう。探索再開は明日。いいよね?」

 アベルもエミリオも頷いた。このままなら優勝確実。たださらに下層があって、他のパーティに発見されれば、下に行くほど価値があるという法則から、優勝は期待できなくなる。

 モンスターが出てこないのだから、下があるなら誰かが必ず見つけるだろう。とはいえ、今は運営への報告が先だ。


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