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第51話 不穏の気配

「鋭利なもので斬られた痕だ。もしかして剣で?」

 剣で攻撃されたからと言って直ちに人間の仕業とは言えない。武器を使用するモンスターは存在するのだ。だが、剣で斬られた傷を見れば、この時点で人間の関与を疑うのも、それもまた自然だ。


 ジェイガンの愛剣が見つからない。彼を殺害した者によって持って行かれた可能性があった。

「他のパーティの痕跡は?」

 例えば人間の仕業なら装備や物資を持って行かれる可能性は高い。A級パーティだけあって、いい装備を持っている。ただ、その気配は見当たらなかった。

「一旦センターに戻って運営に知らせましょう」

 センターとは第一階層から第七階層まで貫いたその底が広場上になっている部分を差す。多くのパーティがここにベースキャンプを設置していた。


 ここは篝火が多数焚かれ、夜中であっても明るい。

 文字通り雰囲気は祭りのそれだ。赤煌の報告ににわかにセンターは騒がしくなった。鋭利な刃物か何かの傷という事実は伏せられたまま、第七階層で優勝候補のブラックダガーが全滅した。その事実は参加者に伝わったのだ。

 だからといって中止になるという事はない。フェスは継続される。死人は毎回出るのだ。それが普通だ。中止になったことは過去に事例がない。


「ねえ、ベリアス。どう思う?」

 第七階層でA級パーティが全滅した事実についてだ。彼らは経験豊かな冒険者であり、数々の未踏破迷宮に挑戦し、そこで実績を重ねてきた猛者たちだ。王都に近く危険度の低い大規模迷宮で全滅するような要素を持っていない。この点から想像できるのは想定外の存在だ。


 その想定外、アガニケは先日経験済みだ。そしてベリアスに至っては想定内であったようにさえ、アガニケからは見えた。

「気づかないか?」

 やはりベリアスはアガニケの想像の及ばない何かに気付いている。

「ごめんなさい、分からないわ」


 アガニケは自然に出てくる自分の言葉にさえ不思議な感覚を抱いた。例えばマグダ・レガリナのリーダーであるライゼンにさえ、こうも素直に自分の未熟を口に出すことは出来なかっただろう。

「魔力濃度が濃い。ここではなくもっと下層があるな。そこから滲み出ているのだ」

「もしかして、新階層……!あるの!?発見できれば優勝ね」


「アガニケよ、優勝にこだわるな。囚われるな。俺はモルガナ様よりお前を守るように言われている。その最初の一歩が、今言ったことを理解してもらうことだ」

「ええ。でも、そこまで警戒する理由を知りたいんだけど」

「逃げるのがもっとも理にかなっている。そういう迷宮だからだ」

 アガニケはそのベリアスの言葉に一瞬言葉に詰まって思考を巡らせた。


「モンスターが強いってこと?あんたが逃げなきゃならないくらいに」

「モンスターの強さは不明だ。しかし恐怖を覚えるような無気味さがある。ところでお前、なぜあの女がフィルモアの魔女と呼ばれていたか知っているか?」

「はあ?あんた自分で言ってたじゃない。忘れた、というか知ったか、してたの?」

「そうじゃない。同じパーティだろ?本当の理由を知っているか、聞いたのだ」

「え……」


 フィルモアの聖女は領地と領民のために疫病を防ぎ、モンスターを領内に近づけないようにした。

 領主であるフィルモア公にとっては聖女の人気は自分の地位を揺るがしかねず、全ての原因を聖女のせいであるとし、魔女のレッテルを貼った。それが魔女と呼ばれた理由ではないのか。


「知らないか。あの女はテイマーの能力も持つ。それは知っているな?」

「え、ええ……。プリーストではなくテイマーとして本格的に活動できそうなほどのには得意だったはず」

「そんなレベルではないが、まあ、それはいい。実際モンスターを操って当時フィルモアの国境付近を荒らしていたのがあの女だ」

「ウソよ……」


 根拠も無く否定はしてみるが、このベリアス、未だに一度も真実に反することを口にしていない。大口叩くと思っていたら、むしろ控え目だったくらいだ。

「フィルモア公の立ち位置は理解しているな?」

「ええ、もちろん。我が国と敵対するエグザム王国に挟まれ、しかも鉱物資源産出地を我が国と接しており、板挟みのフィルモア公はエグザムでははなく、我が国の傘下に入ることを選んだ」


「そうだ。フィルモアはそのためエグザムとことを構えることになった。戦力に勝るエグザムがなぜフィルモアの防衛線を破れなかったか、想像がつくか?」

「まさか、ジゼルが?」

「そうだ。あの女こそがエグザム王国の兵士たちが恐れたフィルモア最高の戦力だ。その戦力ゆえに魔女呼ばわりされたのだ。そしてあの女を恐れたのはエグザム王国だけではない」


「フィルモア公も、恐れた……?」

「それも違う」

「じゃあ、この国の王?」

 ベリアスが頷いた。


「フィルモア公はむしろあの女をこの国の王宮から守った側だ。悪名を被ってまで」

 知らなかった。主君に裏切られた悲劇の聖女。そうだとばかり思っていた。しかしフィルモアにジゼルの処分を命じたのはこの国の王だという。エグザムを退けた以上、フィルモアが力を持ちすぎるのも不都合。それでフィルモアの力を削いでおくために。

「だが、あの女の出自が問題なのではない。あの女とその従者は以前から夜明けの塔に出入りしていた」

「白い魔女の塔……?」


「そうだ。白い魔女と繋がっていた。なぜそのあいつらがここに来ているのか。この迷宮もさらに秘密がありそうだし、裏のある二人が運営側として来ていることも不気味だ。フィルモアの魔女たちと白い魔女。嫌な予感がする。白い魔女が絡んでいるなら、深い入りは危険だ」

「ジゼル、それと、一緒にいた男。あの二人と戦闘になる可能性も?」

「その程度の事しか起こらないのなら何の問題もない。やつらだけなら所詮、俺の敵ではない」

「あっそ」

 ベリアスがそう言うなら多分そうなのだろう。アガニケは呆れたように言ったが、どういうわけか迷宮の先がさっきより暗く、そして狭く見える。錯覚。

 そうと知ってなお、鼓動の早鐘が鎮まらない。


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