第49話 フィルモアの魔女
「ええ、アガニケはハンターフェスに出場するのね。私はライゼンの紹介で救護班の仕事をもらったの」
そんな二人の様子にもベリアスは関心を示す様子がない。「知り合いか?」とか一切ない。仕方ないので聞かれもしないのにアガニケがベリアスに説明した。
「彼女はマグダ・レガリナの一員で優秀なプリーステス。多分王国ナンバーワンの。救護班に彼女がいるなんて心強いわ」
そう説明するとベリアスが返事を返してきた。
「ほお、それは心強いな」
「分かってて言ってんの?彼女、有名人だよ?まあ、いいわ。ちなみにライゼンの名前は聞いたことあるわよね?」
「いや、知らんが」
「マグダ・レガリナのリーダーだよ。王国唯一の個人S級冒険者」
正式にはライゼンフロスト・リンドベルグという。王国最強と認知されている男だ。
「おお、それは心強い」
さっきとまるで同じセリフを繰り返した。どうも分かっていないようだ。しかし彼が冒険者を意識しないのも、その理由が分かる気がした。あまりに突出した実力。
彼の視界に入り、意識させる事さえ普通では難しいのであろう。
彼には関心の対象がいない。モルガナ以外は。
そのモルガナでさえ、ヴェロニカの話を合わせて考えると、平民の振りをしているただの道楽貴族に過ぎないのだ。
きっと彼は孤独で、その孤独に慣れ、孤独が居場所になっている。そう思い至るのはアガニケが成長している証しだ。
「隣の方がパーティメンバー?強そうね……」
ジゼルは正直に感想を言った。特定条件での鋭い感覚は、エミリオを含めてもパーティ随一の彼女。
そしてついベリアスと視線が合ってしまい、あわてて逸らす。
「ジゼル・ヴァンキッシュか。お前のことなら知っているぞ。フィルモア地方で魔女と呼ばれていたプリーステス。そうか、そのマグダ・レガリナとかいうパーティにはロクなのがいないのだな」
「ッ!?」
フィルモアの魔女とはジゼルがマグダ・レガリナ加入前にそう呼ばれていた異名だ。
「ベリアス、それは……」
アガニケが何か誤解を解こうとするような言葉を掛けようとしたところで、それをさえぎりジゼルが自分で話し出した。
「ベリアス様とおっしゃるのですね。その通り、私はかつてフィルモアの魔女と呼ばれていました」
「もう一つ異名があっただろう。そっちを名乗ってもいいぞ。確か、以前フィルモア地方は疫病とモンスターによって領地が荒れ人口が激減していた。そこで困っていた住人、もっと言えばそこを治めるフィルモア公を救ったのがお前だな?そしてその後都合が悪くなったフィルモア公と領地の司祭によって殺されかけた。要は疫病と、モンスター。お前が解決した全てをお前の罪として濡れ衣を着せられた。前日までフィルモアの聖女と呼んで有難がっていたにも関わらずにな」
「そこまで……」
絶句したのはアガニケだ。その事情を知る者は多くはない。彼女に関する歴史は、領主の都合で捻じ曲げられ、書き換えられたのだから。
「おっしゃる通りです。もう一つ言葉を補えば、今の私はジゼル・ヴァンキッシュではなく、ただのジゼル。ベリアス様、ジゼルとお呼びください」
「ヴァンキッシュ修道院とは縁を切ったか。まあ、そうなるだろうな。ところで隣の寝たふりをしている男は?」
ベリアスのその言葉で男がムクリと起きあがった。
「いやあ、気づいておられましたか。私は王宮騎士団の端くれで、今回の警備主任のヘーゲルです。まあ、ジゼルさんとは同僚のようなものです」
「そうか。主従のように見えたがな」
ジゼルが主、ヘーゲルが従だ。
「そりゃ、私は今回警備担当でジゼルさんは救護担当。部門が違う以上明確な上下はありません。なら女性が主に見えるのは自然かと」
「そうか。もう一つある。お前は寝たふりをしながら話を聞いていた。しかし、動揺に呼吸を乱す気配がなかったのは全てを事前に知っていたからだ。ただの同僚ではあるまい?」
その質問にはジゼルが答えた。
「ヘーゲルさんはフィルモア公の騎士でした。私をフィルモアにおいて裏で助けてくださり、そして王都に転職したのです」
あり得る話だ。フィルモア公の騎士である信用をもって王都で王宮騎士の職を得た。フィルモア公にジゼルを裏で助けていたという事実を知られてさえいなければ十分可能だろう。そして実際に彼は王都にいる。
だがベリアスは馬車に乗る前から二人の様子に主従の気配を感じていた。
その理由は今の説明では分からない。




