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第42話 二人で作戦会議

 そう言えばアガニケが言っていた。マグダ・レガリナのニンジャマスターはヴェロニカと話をしたことがあると。どの時のことを言っているのかは知らないが、これまで色々と話したことがあるのは間違いない。ヴェロニカは内またを吸われ、また歯形を付けられたことを思い出し、真っ赤になった。



 ジェイガンが間を置いて口を開いた。

「ほ、本当なのか、キミが……」

「ま、まあ……」

 相手がいい奴。そう知っていてもその技量を試したくなるのがこういう人種のサガだ。冒険者たちの頂点、S級パーティにまみえる機会を逸した痛恨の慚愧。それがいま、目の前にある。どうしても、抑えることが出来なかった。ジェイガンの剣がエミリオの前髪を切り払う。――かに見えた。

 ビイィン。

 しかし前髪に当たる前に親指、人差し指中指の三本の指でつままれビクともしない。

「う……」

 一段階ランクが違う。そう言う程度の差ではない。天と地だ。それ程の技量の差をジェイガンは痛感した。それは傍にいたヴェロニカも分かった。自分たちは常識の中の最高峰。彼らは常軌を逸したところにいる存在だ。にしてもあの笑顔を絶やさない人の好いパティシエが。


「エミリオ、どうして唾液に解毒効果が?」

 ヴェロニカが問いかける。あの日の疑問。会うことがあれば聞こうと思っていた。それでつい聞いてしまった。

「長い時間をかけて自分に毒を投与し続けるんだ。いつかその耐性が血に備わる。そして唾液はその血が姿を変えたもの。ボクは世界のありとあらゆる毒に対して耐性がある」


「でも、どうして今まで言ってくれなかったの?」

 正体のことだ。やはりそこは恨み言。そっちはこっちを知っているんだから、正体を教えてくれたっていいじゃないか。抑えたくても抑えられるものではないのが女性の特質だ。

「ニンジャマスターだからだよ」

 それはそうだ。ニンジャとはそういうものなのだろう。でもモルガナは知っているなんて、ズルい。

 とはいえ口に出しては言えない恨み言もあるものだ。


 ここにもひとつ、いまだ腰の定まらぬ、どこか境い目にあって進むも戻るもままらないような、そんなパーティがいた。

「見なさい、ベリアス。ここからならラグニ彗星迷宮の外観の全貌が見える」

「だから何だ?」

 アガニケは頭を抱えた。今日は作戦会議と称しベリアスをこの小高い丘の上まで呼び出したのだが、初対面の時からずっとこの調子だ。これでは足の引っ張り合いになり、優勝を逃す可能性がある。

 それだけは駄目なのだ。優勝だけが彼女の狙い。そうでなくてはマグダ・レガリナの名が地に堕ちる。


 マグダ・レガリナの一人が新人と組んでたった二人で優勝したらしいぞ。

 うそだろ、新人のお守りをしながらか?

 全員揃ったらどうなるんだ?


 これだ。街の話題はこうなるべきだ。これが理想。これなら自分たちのパーティも、そして所属する王都のギルドも、面目丸立ち言うわけだ。

 脚を引っ張るどころか、場合によっては、こいつはいつの間にか死んでるという可能性もある。トラップに引っ掛かったり、階段から足を滑らせて落下したり。

 それもまたマグダ・レガリナの名を地に落とすことになる。


 聞いたか?新人と組んで、その新人を死なせたらしいぞ。

 新人だと?じゃあ、マグダ・レガリナが殺したようなもんじゃねえか。


 こんなふうに言われる可能性がある。ああ、これはまずい。リスクの高すぎる選択をしてしまった。出来るなら決定する前まで巻き戻したい。

 だいたいこいつは実績も実力もないくせに、なぜにこうまで偉そうなのか。


「あんたね。どうしてそんなに偉そうなの?」

「俺がお仕えするのはモルガナ様だけだからだ」

 そうだ、ヴェロニカが言っていた。

 多分だけど、モルガナはどこかの貴族に連なるものね。驚くほど高価なものをたくさん持っているし、貴族の作法にも精通している。ベリアスのモルガナに対する態度はその身分を物語っているわ。

 ヴェロニカがそう言ったのをはっきり覚えている。

「モルガナってそんなに偉いの?」

「本来なら呼び捨てにした時点でお前の首は飛んでいなければならない。だが普段の様子からモルガナ様がそれを許容している以上、俺も従うほかない」

「怖いこと言うね。でも、それならモルガナが言ってたのは、あんたは私に従うということだよね?それは守んなくていいの?」


「無論、モルガナ様の仰せの通りだ」

「じゃあ従いなさいよ」

「いいだろう。要求を言ってみろ」

「そう言われると……。そうだ、先ずは迷宮での役割を決めその練習よ」

「必要ない」

「あん?」


 こいつ従う気ねえじゃねえか。さっきまでの会話はまるで無駄だった。そう思ったアガニケだったが、その後に続いたベリアスの言葉は意外だった。

「役割など必要ない。お前はただ行きたい先に向かえばいい。その道程の安全は俺が保証しよう」

「あ、あんたねえ……。迷宮を舐めているよね?」

「過小評価しているかどうかの確認なら、その確認の必要もない。俺の現状と戦力差の分析に誤りはない」

「はあん?戦力差?じゃあ、なに?私の実力も把握しているってこと?見たこと無いでしょ?あるの?」


「正直に言えば、自分より強い者の実力は測れない。その意味では測れないことをもって強敵と認識できる。弱い奴なら一目で分かる。お前だってそうだろう?」

「わ、私が弱い……?そう言いたいの?」

 アガニケの瞳がウルウルしだしている。また面倒なことになってきた。ベリアスはとりなすセリフを用意しなかったが、その代わりそれ以上の言葉を足すことを慎んだ。


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