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第41話 ニンジャマスター、その正体

 ハンター・フェスティバルの開催が近づき、冒険者を中心に人が増えつつある王都。最新王都ガイドブックに掲載されたことにより、地方からの客の目的の場所となったリゼの店は今日も大繁盛だ。


 旅と交易そして冒険の街、ニミッツガルドを本拠地にする冒険者パーティ、ブラックダガーの5人は楽しみにしていたリゼの店に長時間並んでようやく順番が回ってきた。店に入ると何やら揉めている。店員が客に叱られているのだ。

「すいません。産地の風習を理解していなかったボクのミスです」

 若い男が謝っている。

「もうやめなよ。あんたの言う風習は王都にはない。郷に入っては郷に従え、だ。店はメニューを今後改善する、あんたは謝罪を受け入れる。それでいいだろ?」

 赤髪を撫でつけたショートカットの女が間を取り持とうとした。


 問題となっているのはある地方における食材の組み合わせのタブーをこの店がやっており、それが原因でもめているらしい。ここでのタブーとは縁起が悪いという迷信的な意味のタブーだ。


 そんな言いがかりに、若い男は謝罪の上、食材を改めたものに変更するという。そこで決着すればいいのに、まだ揉めているのだ。

「これ以上ガタガタいうなら、表に出てもらうよ」

「おもしれえ。やってみろ」

 とうとう女がキレた。クレーム客も応じる。

「あの。やめた方がいいですよ。その女性、赤煌のリーダーですから」

「な、なに」

 クレーム客は見るからに冒険者だ。赤煌と聞けば何者か分かるのだろう。表情に動揺が浮かんでいる。


「というか、さすがに女性に代わりをやらせるわけにはいかない。ボクはたった今店をやめます。ただの一人の男としてボクが相手をしましょう」

「キ、キミ……」


 清々しい男気にその女性、ヴェロニカも多少のうろたえを見せた。女性としてはここでその男気を尊重してやりたい。しかしそれは彼にとって最悪の結果だ。


「ロベルト、いい加減にしろ」

 席についたばかりのブラックダガーのリーダー、ジェイガンはクレーム客を窘めた。

「赤煌さんに、若いパティシエ。私はブラックダガーのジェイガン。この男はニミッツガルドのB級パーティ狼の牙のロベルトだ。ニミッツガルド最強の私が同郷を代表して謝罪しよう。ロベルト、文句は無いな?」

 そう言われてロベルトはすごすごと退散して行った。


「初めまして、ジェイガン。高名なブラックダガーのリーダーにお会いできて光栄です。私もパティシエも救われました。私はヴェロニカです」

「よろしくヴェロニカ」

 二人が握手を交わし、次にジェイガンはパティシエに手を差し出した。

「もちろん店を辞めるというのは撤回してくれるね?」

「は、はい。もちろんです。ボクはエミリオ。有難うございます」


 ブラックダガーは王都にまで名を馳せるニミッツガルドのA級パーティだ。

「ちょっと店を辞めるって何の話しよ」

 今出勤してきたばかりのモルガナが詰め寄る。

「いやあ、なり行きでそうなりそうだったんだ。クレーム客がいて。つい……」

「でもやめないことにしたんでしょ?ならいいわ」

 エミリオはそうだねと言って笑い、ジェイガンに助けられたと彼をモルガナに紹介した。

「僕たちもそうだが、ハンターフェスに参加するため、ニミッツガルドから来たものは多い。しかし、マグダ・レガリナが不参加表明とは残念だ」


 ジェイガンのそのセリフにはヴェロニカも頷く。

「彼らはA級パーティである私たちから見ても別格でした。私は一度だけ迷宮で彼らの一人に遭遇したことがそれ以外ではギルドでも顔を合わせたことがありません。ただその一度が衝撃でした」


 一年と少し前のことだ。ピットフォールに落下した時のことだ。落下先には蛇だまり。数千匹もの蛇型モンスター、ガンプヴァイパーがうねる中に落下したのだ。ゼリオールが電撃魔法で周囲を駆逐するもブラメーデが噛まれたのだ。強力な麻痺毒によって解毒魔法を使えるブラメーデが麻痺という状況下にてリーダーであるヴェロニカも噛まれたのだ。


 そこへ鎖頭巾をかぶった黒装束の男が現れた。彼は蛇たち掌大の壺を取り出し、そこから油を撒いて回った。

「これを掛けると脱皮が出来なくらしく、こいつらはこの油を嫌う」

 確かに逃げていく。そして十分ガンプヴァイパーとの距離が取れたところで、彼は鍵縄を迷宮の天井に引っ掛け、蛇の上で逆さに宙づりになると、そこで火打ち石をカチカチ擦り合わせた。すると火花が飛び、それが油に着火し燃え上がる千匹のガンプヴァイパー。


 そして彼は縄をゆすって遠心力を利用し、またこちらに戻ってくると、ブラメーデの脹脛のズボンを斬り裂いて肌を露出させ、鎖頭巾から鼻の下までめくって自分の口を出すと、ブラメーデの噛まれた部分に口をつけて血を吸い出して、その後に今度は噛みついた。


 次がヴェエロカだ。ヴェロニカは内またを噛まれていたが、男は容赦なくズボンのその部分を破くと同じように血を吸い出し、同じようにかみついた。

「ボクの唾液には解毒効果があるんだ。しばらくすればガンプヴァイパー程度の毒は解毒できる。赤煌と言えども油断したね。今日は撤退しな。じゃ」

「ま、待って、あなたは?」

「マグダ・レガリナのニンジャマスター。そう覚えていて」


 そう言って去って行ったのだという。ちなみに彼はピットフォールにかかったパーティを察知してわざわざ助けに来たのだそうだ。

「そうか。腕が立つだけでなく、人間性まで。くそ、なおさら会いたかった」


 そう言うジェイガンにモルガナが言った。

「そうですね。でもマグダ・レガリナのメンバーは他のパーティに混じって参加する人もいますよ。例えばそのニンジャマスター君とか」

「そうなのか?どこのパーティに?」

「ンン……。どこというか、こいつがそのニンジャマスター君だから」

「え」

 ジェイガンだけでなくヴェロニカも目を丸くする。モルガナがグイッと腕を引っ張ったのがエミリオだったからだ。


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