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第40話 ちょうどいい勝ち筋

「お」

 不意の遭遇に声が出た。やり込めようとして果たせなかった相手、モルガナだ。

「う」

 モルガナはビクッとして、そして一歩後ずさる。何を言われるかと身構える。

 翌日、昨日のことを調べるため、図書館に入ったその直後、モルガナは目の合った相手に硬直した。

 出たな、妖怪。

 もちろん口に出しては言わない。そもそもエミリオがそう言っているだけだし。それを心の中で真似ただけ。だが表情には出たようだ。


「そう警戒しないで、モルガナ」

 い、いかん。

 第一、アガニケは妖怪どころか美女だ。しかもS級パーティの魔法使い。

「い、いや警戒なんかしてないよ?」

「私はこれでもあんたには感謝しているのよ?」

 そうだった。私のおかげで彼女はベリアスと二人、迷宮デートにこぎつけたのだ。

 そう思えば警戒どころか可愛いものだ。

「感謝に及ばないわ、アガニケ。私たちの仲でしょ?」

 言葉にも心理の余裕が滲み出る。


「そうね。そう言ってくれてうれしいわ。ところで今日は一人?何か探し物?」

「そうなの。飛龍ゼキエルに関する本ってない?」

 モルガナはゼキエルの名を聞いたことがある。ウィステリアとしてだ。しかしその名を聞いた時にはすでにその姿を見たものはいない過去の存在だったのだ。ウィステリアの知るゼキエル。それは王都の守護竜と呼ばれており、王都の上空を飛ぶ姿は誰でも見ることが出来た。


 それがある時、王都に攻撃を仕掛け、そしてその日を境に姿を消したのだという。しかしそうなるとあの少女が白い魔女である場合、年齢は伝聞との間に差があったのか。もしかして黒い魔女はまだこの世にいない?


「守護竜ゼキエルね。白い魔女をどこからか連れてきて、彼女を王都に降ろすと、そのまま飛び去って、ノースザインの山頂に去ったというわ」

「へえ、ゼキエルってまだ生きているんだ」

「いえ、竜の寿命は知らないけど多分死んでるんじゃない?最後の目撃は200年近く前の事らしいよ。その辺を書いた本があったはず。たしかこっちよ」

 200年ちかく前?そんな昔なのか……。あのゾンビ、まだ腐った肉を骨からぶら下げていたけど。


 アガニケは親切に本のある書棚まで案内してくれた。アガニケのさっきの説明と同じことが書いてある。

「ねえ、フェスティバルの迷宮、なんていう迷宮だっけ?」

 不意のモルガナの質問にも、アガニケは淀みなく答える。さすがはS級パーティの魔法使い。

「ラグニ彗星迷宮よ。星が落ちた場所。第七階層まである本格迷宮。古くから知られ。数えきれないほど多くの冒険者が挑んできたけど、未だ一部に見踏破区域があるというわ。螺旋階段を登ればすぐに地上に出れるので、大規模迷宮にしては危険度はそんなに高くない」


 落ちたのは星じゃなくてゼキエルだけどね。ま、でも階層は第七階層までの認識ね。というかやはりあの子が白い魔女か。白い魔女は突如牙をむいたゼキエルから王都を守った。そして敗れて死んだゼキルは迷宮の底で骨となって眠っている。それが真相だろう。文献でそれを正確に記したものはどうやらなさそうだ。


 ならば迷宮の真実は誰も知らないということになる。アベルを優勝させるにはこの真実の部分がカギになる。そして第七階層より下があることを知っている自分たちが圧倒的に有利だ。第七階層とやらの下にゼキエルの骸が眠っているはずだ。崩落を免れた部分も残っていよう。例えばあのドーム形状の空間。



 そして多分警備兵の通用口は別の場所だ。警備兵が使用した形跡など無かったのだから。という事は塞がれると聞いた迷宮の出入り口はあそこではない。つまりあの入口は当日も使用できる。


 勝った。確実な勝利だ。仮にアイテムを発見できなくても伝統的迷宮における新階層の発見は国家レベルの大きな功績であり、それだけで優勝を確実視しうる内容だ。フェスの期間中にアベルをそこまで誘導し、彼が発見したようにするのだ。

 派手な戦闘の必要がない探索勝利。アベル向きだ。しかも有名な巨大迷宮だから新階層発見のインパクトも十分。

 勝った。

 疑いようのない未来にモルガナの口元もニマニマ緩む。


 可哀そうだが、競争相手であるアガニケにこのことを教えることはできない。その代りベリアスとの時間を用意したのだから、別に友情を裏切ってはいないのだ。

 アベルには優勝の栄光を、アガニケには恋のトキメキを。

 触れえる全ての誠実を両立できる。それが元・黒い魔女のモルガナなのだ。


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