表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/51

第38話 記憶に漂う

 浮遊魔法に揺れて、ふわっとモルガナの身体が宙に浮いた。魔法の灯りを点したいが下から気づかれる可能性がある。真っ暗だから目立つだろう。やむなく手で土の壁をなぞりながらゆっくり降下していく。いったいどうやってこんな長い梯子をかけたのだろう。この狭さだから相当苦労したはずだ。


 そう思いながらゆっくり降りて行き、ある時気付いた。

 壁がない……!

 壁の途切れた瞬間に気付かなかった。なぞる手を離した一瞬の間に状況が変わった気がした。手を伸ばして横に移動してみるが壁がない。左右前後どちらにも。つまり狭い縦穴ではない。

 そして真っ暗。空間失調を起こしそうな嫌な感じ。もう躊躇う場面ではない。

「闇を暴き、周囲を照らせ、コル・アルコウ!」

 灯りの魔法を詠唱すると同時にモルガナは魔力阻害を受け、そのせいで途切れた魔力によって浮遊を維持できずに落下した。

「ッ!」

 地面に激突死のイメージを連想。それは避けねばならない。

 まず魔力阻害解除、そして再び浮遊。プランが出来た。魔力阻害をさらに阻害できないモルガナではない。が――。


 地面は意外と近かったようで対応を終える前にモルガナは地面と激突した。その間わずか0.78秒。落下から地面に接するまで時間にして0.78秒、つまり距離にしておよそ3メートルの落下だ。頭は打っていない。大丈夫、死は免れた。けど全身が痛い。モルガナはそう思いながら気を失った。

 どれほど気を失っていたのだろうか。目を覚ましたモルガナ。周囲は魔鉱石の仄かな発光にぼんやりと照らされている。

「魔鉱石か……」

 モルガナは呪文を唱えた。魔鉱石の光を強くする範囲魔法だ。周囲の魔鉱石が一斉に光の強度を増す。

「ふう……」

 次に自分の左手の薬指を掌に包むように両手を握り、祈祷式魔法による治癒を行った。

「おお……」

 いつもより調子がいい。プリーステスの魔法である祈祷式魔法はあまり得意な方ではないモルガナだ。それがすこぶる調子がいい。


「ふむ……」

 周囲はドーム状の空間になっている。警備の気配も痕跡もない。というかドームのてっぺんにはあるべき縦穴も見当たらない。ならどこから落下してきたというのか?

 閉じ込められているね。

 窮地というか不可思議な状況に、魔力の介在の気配に、むしろモルガナの頭は冷たく冴えていく。


 でも宮廷の魔法使いにこんな地底の奥底に、地形の形まで変えるような魔法使いがいるか?いや宮廷に限った話ではないが、魔法は貴族がほぼ独占しているので、在野に目ぼしい魔法使いがいないのも常識となっている。

 そしてこれが仮にトラップだとして、これだけの大規模を施せる術者は存在しない。

 私なら出来るか。

 それをした記憶にはないが、出来るとすればモルガナ自身だ。つまり考えられるのは若返る前に自分が施したトラップに自分自身が引っ掛かったパターンだ。

 それともウィステリア以前の大魔法使いが施したトラップか。たとえば古のワルプルギス。


「ふふ。誰であっても手ごわそうだね。ウィステリアが一番面倒くさそうだけど」

 横穴を発見し、モルガナの瞳に力が戻る。それにしても不思議な場所だ。冷静さを取り戻すと古い魔力が溜まって溢れている。

「これは……」

 今になって気付いたが鎖のついたペンダント、そしてはめ込まれた魔石。祈祷式魔法の触媒だ。それが地中から僅かに顔を出している。


 手を伸ばしてギョッとした。その手が血まみれ、よく見れば白いローブが至るところ擦り切れ、血に汚れている。

「うぐ」

 不意にこみ上げて嘔吐した。血だ。血を吐いた。見えると腹部に重傷を負っている。

 いつこの傷を受けた?

 必死に祈祷式魔法で治癒を試みながら考えたが思い出せない。それにすでに魔力が尽きている。いくら長時間浮遊魔法を使用したはいえ、こんなに早く尽きるような魔力量ではないはずだ。

「ウソ……」

 目の前が暗くなっていく。自分は重傷、そして魔力が枯渇。絶体絶命だ。多分まもなく死ぬ。


 だってこのドームの外には強敵がいて逃げられないのだから。

 あれ?強敵ってなんだ?

 モルガナは気づいた。確かに強敵に追われてここに逃げ込んだ。だが冷静になるとそんなはずがない。ここには地上からゆっくり降りてきて、最後にほんの何メートルか落下したに過ぎない。そのダメージだって回復済みだ。今の状態には妙な違和感がある。痛い。出血している腹部にはウソではない痛みがある。しかしそれは自分の痛みではなく、誰かの痛みを体験している感じなのだ。


 そしてその誰かの頭の中を覗いているような感覚で映像とその誰かの記憶が見える。その誰かが手を伸ばし、魔石を手に取った。魔石を自分の手で取ったようにも見える。希少なマジックアイテムなのだろう。尽きていた魔力が回復し、祈祷式魔法が傷ついたからだを回復していく。魔法の詠唱は自分でしたのか、誰かのその場面を見ているだけなのか、妙に曖昧だ。だが傷は癒えた。五体に力が蘇る。


 白いローブを着た少女が立ち上がる。いつの間にか誰かと自分の視点は混じりあい、モルガナは、自分の来ているローブの色が白なのを知る。傷の回復と共に、絡み合う記憶のもつれが整理されていき、気付けばモルガナは白いローブの少女となっていた。


 そうだ、こうしてはいられない。相手は強敵だ。王都に襲来した雌の飛竜ゼキエル。少女はゼキエルに魔法を放ち、彼女の怒りを買うことに成功し、人気のないこの場所まで誘導したのだ。


 記憶が鮮明になっていく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ