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第37話 下見は大事

「ばかもの!」

 上官に叱責を受けているのはアベルとカーターだ。ハンターフェスティバルの期間中、二人揃って休暇を取るなど、認めることはできないというのだ。人手も足りないのにふざけるな、といまさら言われてしまった。

 もちろん、現代でそのようなことを労働者に対して主張すれば、法律との整合の点で問題が生じる。つまり労基法に違反する。そしてこの時代にそのような概念はない。

「しかたねえ、お前が行け」


 カーターはアベルにそう言った。他の同僚たちがかばってくれたおかげでなんとか一人は休暇を貰えそうだ。

「頑張れ」

「応援してるぞ」


 カーターを含む7人の同僚たちがアベルを激励する茶番を上官は苦い顔で見せられ続けていた。

 アベルの奴はみんなありがとうと言いながら俯いて目のあたりを袖でゴソゴシとわざとらしい仕草をしている。そして時折上目使いにこっちをチラ見してきやがる。

 あっちでやれよ。

 そう言いたいのが本音だ。俺がいないところではやらないくせに。

 上官はむすっとしながら窓の方をみやる。遠くの山に暗雲が立ち込めていた。


「前衛なしかい」

 その話を聞いたモルガナに、エミリオは胸を張って答えたという。

「ボクがいるから心配ご無用」

「そうかな……」

 モルガナに話を聞いたエミリオが加入したいと言ってきたのだ。彼は王国唯一のS級であるマグダ・レガリナの正規メンバーだ。本来なら申し分なし。でもベリアスたちは2人パーティ。自分たちは3人パーティ。どっかで間違えた気がする。気がするが気にしても仕方ない。エミリオの焼いたかぼちゃのパイはそんなことどうでもよくなるくらいに美味しかった。


 翌日休みを取ったモルガナは一人、深い紺色のローブに身を包み、フェスの対象となる迷宮の下見に来ていた。下見とはいっても迷宮には入れない。準備期間として閉鎖されているので入り口付近の確認のみだ。

 ウィステリア時代に来たことがあるかといえば、それもない。全くの初だ。見れば兵士が頻繁に出入りしている。一応警備に兵士が配置されるのだが、期待は出来ない。どちらかといえば監視役。それに毎年死者を出している大会だ。

 出場者同士での獲得物の奪い合いはもちろん禁止。通常よりも重い罪が課される。それでもたまに出場者同士の小競り合いは発生する。一方で協力が必要な時もある。下見はいずれの状況にも対応できるよう、色々な角度から見てみたい。


 不思議なのは間違いなく初めての訪問なのに、どこか懐かしいのだ。

 そう考えると冷や汗が背中を伝う。若返った際に失った記憶の一つがこの迷宮に関する記憶なのではないかという懸念だ。この迷宮は火山の噴火口のように、地面に開いた大穴で、一度見れば忘れるような構造ではない。

 その垂直に下に延びた大穴の側面の壁にいくつも穴があり、その奥にアリの巣のような迷宮が伸びているのだ。ちなみに大穴には人間が組んだ螺旋階段が続いており、望むなら最下層にその階段だけで行くことが出来る。言わば巨大な吹き抜けのある迷宮といえる。

 入ってみたい。どこかに隙はないだろうか。


 螺旋階段には過剰なほどのランタンが置かれ、大穴自体は夜でも明るい。浮遊魔法と姿くらましを併用すれば、その明かりがあっても問題なく侵入できるが、宮廷所属の魔法使いたちが施したのであろう、魔力感知の結界が張られている。こんなものはモルガナに掛かれば解除は容易だし、モルガナにだけ反応しないよう書き換えることさえ可能だ。しかし、書き換えにしても結界は機能を一瞬失うし、解除した場合は結界が無くなる。つまりいずれの状況でも外部から干渉を受けた事実は運営に知れる。姿くらましをしてそれをやれば見つかることはないが、フェスティバルの中止を招くかもしれないのだ。それでは本末転倒だ。


 いっそ、宮廷の魔法使い本人に解除させるか。

 やりようは多分ある。脅迫とか魔法を利用した何らかの方法だ。具体的な方法まで今は思付いていないが、ちゃんと考えれば多くのやり方が思い浮かぶだろう。たとえば魔法で自由を奪って……。

 いや、もっと合法的な何かで……。

 そんなことを考えていると警備が近づいてきた。もちろん入り口付近を見て回るのは規則違反ではない。同じように下見に来ているのが他にもいる。

「お嬢ちゃんもフェスに出るの?」

「はい、出ます」


 モルガナは警備兵に堂々と答えた。

「パーティ名を聞いても?」

「はい。カフェリーゼです」

「カフェラッテか。覚えておくよ」

 もう忘れている、てか覚えてすらいねえし。


「あ、そうそう。この先の警備兵通用口は前日には塞いで期間中は使用不可だからあてにしないほうがいいぞ」

 ほお。警備兵の通用口とな。

 しばらくその場にとどまったモルガナは人の気配が絶えたのを待って再び行動を起こした。通用口の場所を探り当て、しばらく観察する。どうやら梯子を掛けた縦穴のようだ。人一人分の大きさの縦穴だ。慎重に周囲を探り、穴に内部から人が出てくる気配がないのを確かめて梯子を降りはじめた。


 暫く降りていくと地上から漏れる光が小さくなって行き、ただ真っ暗な闇だけになる。不安になって側面に触れると、ちゃんと土の壁がある。そんなものにでも僅かに安心感を覚えるのだ。真上をみれば地上の光が針の穴のように小さい。


 どこまで続くのかしら?今誰かが登ってきたら避けようがない。

 側面の土を少し落として様子を探ろうか。いや駄目だ。人がいたら頭に当たる。生死につながりかねない。

 浮遊魔法で降りてみるか。

 というのも手が疲れ握力が失われつつある。


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