第35話 パーティ再編成
「おーい、ベリアス」と呼びかけたものの、相手からは返事の気配がない。
それどころか舌打ちされたような気がしたが、気のせいだろう。
「あれが面白いパーティ?」
アガニケも男を見る。どこか中性的な雰囲気のあるイケメンだ。佇まいに品がある。ヴェロニカに声を掛けられ、舌打ちしたように見えたが多分気のせいだ。それでも男は呼びかけられた自覚はあるらしく、歩み寄ってきた。
「ペロニカだったか」
「ヴェロニカだよ。いい加減覚えろ」
「俺は今日、モルガナ様の依頼でシェフのバーモンドに食材を分けてもらいに来た。リゼが腰を痛めて仕入が十分ではなかったのだ。それでモルガナ様は値段を下げて少ない食材でなんとかやりくりして頑張っている。それを何だ、お前たちは。こんな時間から酒のみとは」
「待って下さる?私は一滴も飲んでないよ」
アガニケが言いかえす。険悪になりそうなのでヴェロニカはさっさと本題に張るべきと判断した。
「まあ、それはともかくだ、ベリアス。この子はS級パーティの正式なメンバー。一度だけそっちに加えるつもりはない?」
「それは真のリーダーであるモルガナ様が決めるべきことだ。ただ俺は、俺とモルガナ様の二人で構成するのがベストだと常々思っている。第一、こんな奴いるか?お前の所でもいらねえだろうが」
「へ?」
そう一言発したアガニケの瞳にみるみる涙が溢れ、ダラッダラと零れ落ちた。
「フフフ。メンタルまでゴミか」
「お、お前、笑うとこじゃねえだろ……」
二人のそのやり取りを聞き、ついにビエーッとアガニケが号泣する。さすがにヴェロニカが語気を強めた。
「ベリアスよ。このザマ、モルガナが見たらどう言うかな?あの子はこういうの許さねえぞ。何せ第二王子のほっぺたを引っ叩いたくらいだからな」
「言いすぎた。許せ。しかし、だ。そのメンタルは本当に大丈夫なのか?」
「いいからちゃんと謝れよ。モルガナに言いつけるぞ」
「待て。謝れば黙っていてくれるのだな?」
「ああ。胸にしまっておいてやる」
「すまなかった。許してくれ」
ようやくその言葉にアガニケが落ち着きを取り戻す。
「駄目よ。そんなんじゃ許さない。そうね。私とパーティを組んでフェスで優勝するのよ。それなら私はS級パーティの一員として、面子は丸立ち。それに王都所属の冒険者の沽券も守れる。これならいい。それが許す条件。分かった?」
「待て、お前はバカか?そうなると俺はモルガナ様の競争相手になる。あり得ない話だ」
バカとか言うな。また泣き出すだろうが。そう思ったヴェロニカが割って入る。
「ならモルガナ達も入れれば解決じゃない?」
最初の提案に戻った。状況的には全く最初の話し通りだが、今度はなぜかベリアスが納得した。
それならいいというのだ。
王都の誇るS級冒険者パーティは不参加。逃げた、といわれるだろう。そのそしりを免れんがため、アガニケは出場を決めたのだ。自分以外のメンバーはノービス。悪くない。初心者をS級パーティのメンバーが高みに引き上げた感が出る。だが人数はもっと少ない方がいい。
パーティの力に乗っかっただけとは言われたくないのだ。マグダ・レガリナのメンバーが活躍した。そう認識されたいのだ。
だがアガニケは知った。ノービスパーティ、カフェリーゼはデビュー戦で迷宮の新階層を発見した期待の新星だと。
まずい……。S級パーティのメンバーが、期待の新人に混じり、便乗したと思われてはマグダ・レガリナの名折れ……。
空を見詰めるアガニケの額からダラダラと滝の汗が流れ落ちた。
顔合わせはリゼの店で行われた。
仕掛ける……!
誰に?もちろんベリアスの言う真のリーダー、モルガナだ。リーダーのアベルはベリアスの話しだとただの飾りだという。
それも腑に落ちる。彼は王都の正規兵だと聞いたが、ならば一か月にわたるフェス期間中は警備の仕事が忙しいはずだ。なのに長期間仕事を休んで参加するようなものが、リーダーの資格を有するはずがない。将来の閑職ルートを約束された男に違いない。
さてと、どこから攻めようかしら……。
ネズミを前に、舌なめずりする猫のような表情でカフェリーゼのメンバーを見まわした。そして気づいた。
「あ」
「あ」
こいつだ。図書館でエミリオと一緒だった女。こいつがモルガナか。同様にモルガナも相手を図書館でエミリオに絡んできた女と知った。
「あなたがモルガナさんね?本はお好きなのですか?」
「ええ、でもあの日はエミリオが読みたい本があるというので……」
「へえ?エミリオの彼女さんなの?」
「ただのバイト仲間です」
「バイト?」
ということはエミリオもここに?
魔力感知発動……!だが気配が感じられない。やつに戻ってこられては面倒が増える。仕掛けるなら、いま!
「そう。あなたにはあれぐらいがお似合いに見えたけど?」
「はん?」
アガニケの言い方。何やら言い様が不穏だ。だが喧嘩を売られる理由が思いつかない。
いや、そうじゃない。嫉妬だ……。
思いついた。それしかない。この女はエミリオと二人でいた私に嫉妬している!
「た、確かに私程度じゃエミリオには釣り合わない。あなたくらいじゃないと、お似合いとは言えないね」
彼女の嫉妬を逆なでしないよう、モルガナは穏便に同調を示したつもりだが、アガニケとしては「あなた程度にはエミリオ程度がお似合いよ」というニュアンスで言っているのだから、それをそっくりそのまま返された形になる。少なくともアガニケはそう受け取った。
「ふ、ふふふ」
笑っていはいるものの、アガニケのこめかみがピクピクしている。
「へ、へへへ」
モルガナは意味も分からず仕方なく曖昧に笑って返した。
「何がおかしいの?」
「そっちこそ」
こっちから歩み寄ったのに反応が可笑しい。もしかして思いのほか嬉しかったのだろうか。モルガナはアガニケが何で笑っているのか分からないのでそう言ったに過ぎない。
「オーケー。飲み過ぎたみたい。ちょっと風に当たってから戻ってくるわ」
「一滴も飲んでないじゃん」
背後でモルガナの声が聞こえた。




