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第33話 兄弟だから

 さらにその上で第二王子自身が存在感を高めようとすることを、第一王子が容認している。周囲にそう知らしめるためだ。このプランは兄弟が非常に良い関係性を保っているという点に立脚している。弟である第二王子を政争に利用させないため、そうしながらも同時に弟のプレゼンスを高めるため。

 弟はそのことに気付いていない?なら、どう説明すべきか?


「兄王子さまはあなたと二人協力して王国を盛り立てるため、あなたの名声を高めたいとお考えです。そちらに控えている家令補佐の方は第一王子の腹心で将来の宰相候補。それをあなたにつけたということはこの晩餐会を成功裡に終わらせ、さすが第二王子、王国は安泰と内外にアピールする格好の機会。なのに女の身体を揶揄して、王家の家名をお汚しなされては、兄王子さまもガッカリなさるでしょう」


「な、なに!それは困る。それだけは困るのだ!」

「それ、とは?」

「兄の失望を買うことは耐えられん」

「ほお。それはどうしてかしら?」

「あ、兄は余の希望……。王家にとって保守用部品に過ぎぬ余にとって、兄こそが光なのだ」

「そうね。兄王子さまは王宮に侵入してきたモンスターからあなたを身を挺してお庇いなされた。それは兄王子様にとっても弟君であるあなたが希望の光だったからです」

 第一王子アクシオスは脚が良くない。それは弟を庇って得た下半身の傷によるものだ。これはモルガナがウィステリアとして知る事実だ。なぜ、あの兄が弟を愛したか。


 第一王子にとって、父は父ではなく、王に過ぎない。王は息子を宮廷の部品の一部としてしか見ていない。そして母はずっと病床にあって会う事さえままならない。兄が唯一境遇だとか価値観だとかを共有できる相手。それが一人だけいる弟だ。ウィステリアが知るこの国の王子の兄弟像だ。

「余は、どうすればいい?」

「謝罪なさい。あなたが臣下に対し、人の心を知る者の態度をお示し為され、そしてその心を尊重なさることをお示しなさることが兄王子様が期待されることの一つで間違い御座いません」

「そうか。ヴェロニカ嬢。どうか余の迂闊な失言を許してくれ。お前の誇りを傷つけたことを心から詫びよう」


 兄のぎこちない歩様を思い出す。すべて自分のせいなのだ。それに比べればこの場で臣下に頭を下がることなど何ほどのこともない。

「王子、どうか頭をお上げください。私ごときにもったいない振る舞いで御座います」

 拍手はまばらにやがて会場を埋め尽くすほどに大きくなっていく。

 その様子に苦い顔の男たちが何人か。モルガナはさっと会場の隅にいる家令補佐の元に歩み寄った。


 ウィステリアとして僅かだが言葉を交わしたことのある相手だ。リーヴ・マクラカンという名だ。リーヴはモルガナが口を開く前に言った。

「ボルグ伯爵、アズネイル辺境伯。そしてリオン伯爵です」

「そうね。リーヴ、あなたは第二王子の手柄としてアクシオス様に報告するのよ」

「はい、心得て御座います。しかし、あなた様とは初対面のはずですが」

 伯爵家令嬢と共に来た子女だが、言葉づかいにその振る舞い、そして貫禄。伯爵家のただのコンパニオンではあろうはずがない。

「細かいことはいいのよ。アクシオス様の美談は王宮内に留まり広まっていない。これを機に広めておきましょ」

「かしこまりました。せめてお名前を」

「主人に聞いて」


 主人とはヴェロニカ・アルダンフォーク、またはアルダンフォーク伯爵かその夫人の事であろう。アルダンフォーク家はもともと注目していた相手だ。今回送り込んできた令嬢は、貴族出身のくせに冒険者の真似事をしている常軌を逸した相手だという。しかも腕が立つらしい。どれほどのモンスター紛いが来るものかと警戒していたが、身なりは美しく、礼儀作法は完璧。

 そしてなにより第二王子を前にあの毅然とした態度。夜の泉が人の姿をなしたようなあのコンパニオンはさらに見事だった。

 主人の誇りを守り、その上で第一王子のエピソードを持ち出し、この場にいない彼の株を上げた。これらの一連のことは第二王子の器の大きさも知らしめることになったし、兄弟の絆の強さもアピールできたのだ。

 結果として王家の誇りは守られ、二人の王子は度量ある優れた兄弟と認識されていくきっかけになる。


 ただモルガナに言わせれば、この二人はもとから善良でかつ度量もあるのだという。演出でそう見せたのではない。本性が善良だから、その善良な本性を暴いてやったに過ぎない。彼女はそう認識している。


 知っていなかったらビンタなんてできない。現実には王子の評判、王家の評判を大きく下げるからあり得ないケースにはなるのだが、合法的には不敬の罪で死刑も、可能か不可能かでいえば、可能だったのだ。ウィステリアが王子の本質を知っていたから上手くいった。


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