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第29話 図書館に行ってみよう

「モルガナ・ノクスヴァレイン……」

 ノクスヴァレイン家という貴族は存在しない。だがきっとヴェロニカ同様、高貴な身分を持っているのだ。

 なぜなら彼女はギルドの酒場を制圧した後、全員に食事を奢ったという。食事を全員に驕るだけの持ち合わせがあったのだ。そうでなくては小娘一人が荒くれ者どもを制圧できるはずがないのだ。だが金貨で屈服させたのだとしたら?

 それなら十分可能だ。なにしろ奴らは例外なく金が弱点だし。


 つまりモルガナは金持ちだ。それも破格の。だからこんな超高級スクロールを所持していたのだ。そもそもベリアスのモルガナに対する態度は貴族に対する騎士のそれ、主従のそれではないか。彼女の出自を物語る例なら枚挙にいとまがない。


「モルガナ、大丈夫?」

 歩いてきたモルガナにヴェロニカが声を掛けた。

「ええ。こんなの見つけました」

 凄まじいまでの宝石がはめ込まれた黄金のサークレットだ。

「それはあなたたちのものよ」

 こうしてカフェリーゼのデビュー戦は隠し地下層の発見と宝物ゲットという成功を収めたのだった。


 王都に戻り、賃貸住宅に帰る途中でモルガナはエミリオに会った。

「良かった。会いに行ったんだけど不在だったみたいで。新作の御菓子。食べてみて。じゃあ」

 エミリオはバスケットを渡してすぐに去って行った。部屋に戻り開けてみると中身はフルーツの入ったベイクドチーズケーキだ。複数のフルーツが使われているが、変わったフルーツが入っている。確かどこかの深い迷宮でしか取れたためしのない稀少なフルーツだ。

 そういえば、エミリオは自称食材ハンターだっけ。


 このケーキのためにいちいち迷宮に潜る手間を考えたら、よほどの高値にしないと元が取れない。だがどうやって入手したのか。

 食材ハンターを自称するくらいだから、まさか自分で?高難度の特定の迷宮で無ければ入手できないはずだが……

「商売にはならないね。美味しいけどね」

 不思議と一日の疲労が回復する、そんな味がした。


 一方、ヴェロニカはとぼとぼと重い足取りで帰路についていた。彼女は王都のギルドにおける名花だ。華やかな身分を捨てて冒険者となった強く美しい魔法剣士。男どもの憧憬の対象。その彼女が興奮しているのは、先ほどのカフェリーゼの前衛の活躍を思い返してのことだ。そしてその分だけ落胆した。ベリアスにあまり相手にされなかったからだ。


 ベリアスはゴーレムの拳を躱してその腕を駆けあがって胸を一突き。するとゴーレムは砂のように崩れて土に還ったのだ。

 恐るべき技量。自分たちのパーティのエース、ルカ以上だ。


 というより、この水準の技量の持ち主を、今まで見たことがない。なぜこれほどの男が今まで無名でいたのか。それは高貴な身分のモルガナの従者だったからだ。そうに違いない。強く興味を惹かれた。

 しかし、話しかけても彼はまともに答えようとはしなかった。一顧だにされなかった。

「ええと、お前は確か……、そう、ペロニカだったか」

「ヴェロニカですう」

「まあ、どっちでもいいが、俺がここにいるのはモルガナ様の護衛のためだ。それ以外にお前に答えることなど無い」

「は、はあ……はあ?」


 今思い出しても腹が立つ。男にこんな態度をとられたのは生まれて初めてだ。しかしそれも無理なからぬこと。ベリアスはベリアスで先ほどの状況整理に神経を集中させていたのだ。モルガナは古い魔法で制御されたゴーレムの制御を乗っ取った。あの魔法は現在では途絶えているとても古い魔法だ。


 ということは、事実の一つとして、モルガナは古い魔法に通じているという事。ここは理解できる。100年前に先代魔王にその実力を認められているからだ。そしてもう一つ分かったことがある。こっちの方が重要だ。すなわち他の魔法使いが施した魔法を解析して乗っ取ることは、自分で魔法を掛けることよりも難しいという事であり、この前提で言うと、モルガナはゴーレムを生み出すことが出来る。


 少なくとも、制御を乗っ取るよりはそっちの方が容易なはずだ。

 それをあの一瞬で事もなげに……。

 先代アルバスに魔王の地位を譲られたのは成り行きだけの問題では無かったのだ。本当に魔王に足る力を持っている。ベリアスはもう胸の鼓動を鎮めることが出来ないでいた。



 食材図鑑を閲覧したい。エミリオはそう言った。だが、そのためにはそれが所蔵されている王立メリオデス図書館に入る必要がある。

 そして図書館には入場許可証が必要だ。そしてさらに言うとモルガナは持っている。黒い魔女、ウィステリアが持っていた入場許可証だ。

 だからモルガナは言葉を返す。入れるよ、と。


「え、本当に入れるの?どうやって?」

「これだよ」

 店の休み時間に何気なくモルガナに言った、図書館に行きたいという願望が、思わぬ形で実現の道が開けた。


 基本的に王立図書館には貴族しか入れない。それもいつしか許可制になり、許可証が発行されるようになった。それさえ持っていれば身分を確認されることはないので平民でも入場が可能だ。

 とはいえ平民は大抵は一生手に入れることが出来ない。もっとも、高名な騎士に名を轟かせる魔法使いや、大勢の尊敬を受けるプリーストなど、王家に特段許された平民もいるという。ただそれはほんの数人だそうだ。

 エミリオはモルガナから手渡されたそれを見て驚愕した。王立メリオデス図書館の入場許可証ではないか。

「え、本物?どうしてモルガナが持ってるの?」

「ま、まあ、家族?の遺品から……」

 ギリ、ウソではない、と思いたい。

 正しくは本人の遺品から持ち出したものだ。持ち出したとはいえ、本人だからおそらく窃盗にならないだろう。(※違法です。所有権移転の手続きが正当に行われていないのだから。)


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