第27話 ああっ!メイジブラスター
「い、いえ」
ゼリオールの質問に、モルガナは会ったことがないと答えた。事実はどうあれそう言うしかない。
「そうですか。しかしあなたにはどこか懐かしい感じがする。それにあなたは私を見て目を潤ませた。あなたに何が見えたかは推測さえも困難ですが、気が向いたらいつかお教えください」
謙虚で静かな老人だ。それを聞いていたプリーステスのブラメーゼが会話に入ってきた。
「ゼリオールさんは冒険者なら誰もが憧れる存在よ。白い魔女と黒い魔女の二人を除けば、大陸最強の魔法使いと言われているわ。マグダ・レガリナの魔法使い、アガニケ以上だってね」
確かにゼリオールは聞いたことがあるが、というか会ったことがあるが、アガニケという名は初耳だ。
ゼリオールの名は前からよく知られている。例えばゼリオールは過去に地竜討伐に参加し、討伐して生き残った猛者だ。
「あれは王国騎士と冒険者の合計500人いたし、たまたま生き残っただけだよ」
この話をすると彼はいつも謙遜する。
しかし実際合同討伐だ。騎士の犠牲が多数出そうな場合。ギルドに王国からの依頼が入る。莫大な報酬が約束された特級ミッションだ。もちろん命の危険性も高い。
この時、冒険者は隊列の先頭を任され、いくつもの有名有力パーティが全滅している。結果的に冒険者としては参加者の半数以上がこのミッションで死んだ。そして地竜にとどめを刺したのがゼリオールだという。
事実は結果的にそうなったとはいえ味方ごと地竜を殺した。弱った敵に放った雷撃魔法はその周囲にいた味方まで巻き込んだのだ。
魔力の行使はことわりを乱す。乱せば不幸や災いを招く。黒い魔女ウィステリアの言ったのはこのことなのだろうか。あの時の自分がもっとうまく魔法を制御で来たとは思えないし、撃たなければあのタイミングで仕留めることは出来なかった。仕留めるのが遅くなっていたらどうなっただろうか。それはもう分からない。なぜならあの時、仕留めることに全力を注ぎ、それだけは為し得たのだから。
一般には迷宮にはランタンを持って入る。だが踏破済み迷宮の場合は光源となる魔光石がおかれることもある。この迷宮もそうだ。足元からぼんやりと周囲を照らしてくれる。迷宮の中で採取できるがその迷宮でしか光を発しないし。ランタンなどを持っていても光を発しない。
この魔光石は地表でも採取できる場合があるが、例えば月や星の夜道など、他に光源があると光らない。全くの暗闇でしか光を発しないうえ、採取された場所でしか光を発しないので、実生活ではあまり需要が無い。従って安く手に入る。一行はランタンなしでも進むことが出来た。
これは踏破済み、またはある程度踏破率が高く、その後に整備された迷宮だという証明になりうる。つまりこういった迷宮は大抵は初心者向けだ。
先を進んで、最初に遭遇したモンスターは四足歩行の魔獣のスケルトンだ。
「落ち着いて。動きは緩慢です。間合いを間違わなければあなた達なら簡単な相手です」
赤煌のプリーステス、ブラメーゼが鼓舞してくれる。仮に怪我してもすぐに治癒するから安心して、と頼もしいことこの上ない。
カーターが剣でスケルトンの額を打つと、スケルトンはバラバラになって地面に転がった。アベルも矢でモンスターを破壊する。
二人でモンスターの一群を全滅させた。モルガナの護衛が任務だと主張するベリアスは特に何もしていない。
「すごい。最初にしては抜群の出来よ」
ヴェロニカが喜んだ。初心者の成功体験を目の当たりにすることが、本当に彼女自身の喜びになっているのだ。
「だがこいつらはアンデットなんだろ?復活するんじゃ?」
「ええ。でも動けるようになるまで一月ほどかかるから今は心配の必要がないわ」
どうやらすぐに元通りというわけではないらしい。
「この迷宮で一番警戒の必要なモンスターはブラウンニュートよ。イノシシくらいの大きさがあるのに壁や天井に這りつくことが出来るモンスター。この先にいるから接近戦は避けて。赤煌も攻撃に参加する」
アベルの見せ場だ。それを邪魔しないよう、或いは見せ場をより華やかに演出する。
「ブラウンニュートか、苦手なモンスターだ。そんなのがここにいるとはな」
「意外だな。ゼリオールさんほどのベテランが知らなかったのか?」
「ああ、ここに入るのは初めてだ」
確かにここは王都からすぐに来れて上級者が入るような迷宮ではないという認識だ。これまでも初心者パーティの同行は何度もしたが、別の迷宮だった。
ブラウンニュートはそれらの迷宮には出ない。言うほどここは初心者向けではない。王都との位置関係、そして一層しかないという事実。これをもって初心者向けと誤認されているのだ。モンスター強度は低くない。
ゼリオールがちらっとヴェロニカを見た。ヴェロニカもゼリオールの言いたいことを察した。
「遠距離攻撃で事足りる場合はそれを積極的に狙うべき。優秀なアーチャーを擁するパーティにはその選択肢があるし、生存確率を大きく上げるわ。タジル、モンスターの位置は?」
シーフ兼アーチャーのタジルが正確にモンスターの場所を言い当てる。
「アベル、モンスターの処理をお願い」
「ああ、任しとけ」
武骨な三本の指が矢をギュンと引き絞る。その瞬間浮き上がる筋肉がまるで武器のようにも見えた。弦が張り詰め、振動が大気を通じて伝わって来るかのよう。そして矢は緊張の頂点に達した瞬間、放たれた。
ビッ……!
矢は見事ブラウンニュートに命中し、ドサッと地面に落下した。更に二体目。ブラウンニュートが俄かにざわつき始める。それを見てタジルがボーガンを発射。これも見事命中。
「近接戦闘は禁止よ。近づいてきたら距離をとって!」
ヴェロニカが指示を出す。指示を出しながら合間に詠唱も行い、レイピアの剣先より魔法で生成した魔弾を放ってブラウンニュートを仕留める。さらに撃ち漏らしたブラウンニュートをゼリオールが魔弾で処理して戦闘は終了した。
「なるほど。確かに初心者ほど近接戦闘は避けるべき。というより、常に先にモンスターを見つけ、遠距離で処理するべきだな」
ゼリオールがヴェロニカの意図を知って納得した。初心者パーティのリーダーはアーチャーだ。このパーティに向いた戦闘訓練が出来たのだ。
的確な指示に素早い詠唱。さすがは上級パーティと感心していたモルガナだが不意にゾワッとした感覚を覚えた。その方向を見やるとゼリオールがいた。
「ゼリオールさん、戻って!」
しまった。油断していた。地面に光の漏れ出す亀裂が入り、崩落が始まった。内臓がせり上がるような、嫌な浮遊感。ウィザードを感知し発動したピットフォール。
メイジブラスター!こんな初歩のトラップに……!




